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【とっておきのヨーロッパだより】秋冬の味覚~栗を求めて~
2017年02月10日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

栗のことを「マロン marron」と呼びますが、これはフランス語です。フランス語でマロンというと、「マロニエ marronier という木になる実」、もしくは「シャテニエ châtaignierという木になる実」のどちらかを指します。
マロニエはパリのシャンゼリゼ通りの街路樹として知られています。その実は1粒が大きく美味しそうですが、じつは食用ではありません。私たちが普段から親しんでいるマロンは、シャテニエの実の方なのです。
ちなみにこの食用のシャテニエの実の中でも、呼称が異なります。殻の中に大きい実が1つ入っているものを「マロン」と呼び、小さい実が3つ入っているものは「シャテーニュ châtaighe」と呼ばれます。
少しややこしいようですが、フランスで栗の事を知る上では大切な知識と言えるでしょう。

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(左)マロニエの実
(右)シャテニエの実

フランスでは秋から冬にかけ、路上やマルシェ(市場)などで焼き栗が売られている光景をよく見かけます。寒い季節のフランスの風物詩と言えるかもしれません。
フランス全土で生産される栗ですが、中でも品質の良い栗の生産地はフランス中部のオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏にあるアルデッシュ県と言われています。

このアルデッシュ県のオブナという街には、フランスを代表する栗の加工会社が2社あります。『サバトン社 Sabaton』と『アンベール社 Imbert』です。
サバトン社は創業1907年、3世代100年以上続く老舗で、栗やフルーツの加工材料を製造しています。一方、アンベール社の方は1920年創業で、こちらも4世代100年近くの伝統をもつ栗の加工製造会社です。

栗を加工した製品というと、一般的にはマロン・グラッセのように単体で栗の風味を楽しむようなものがイメージしやすいかもしれませんが、菓子や料理に適するよう様々な状態に加工された製品があります。今回見学させていただいたアンベール社の栗加工製品から、主なものをいくつかご紹介しましょう。

パート・ド・マロン pâte de marron: 栗62%、砂糖38%で調整した製品。マダガスカル産ヴァニラを使用しています。ペースト状なので焼き菓子やムースなどに幅広く使うことが出来ます。
クレーム・ド・マロン crème de marron: 栗と砂糖を半々の比率で調整した製品。滑らかでソフトな質感が特徴です。バターや生クリームなどと非常に混ざりやすく、アイスクリーム、ロールケーキなど多用途に使用できます。風味付けにはパート・ド・マロン同様、マダガスカル産ヴァニラが使われています。
ピューレ・ド・マロン purée de marron: 栗のみで作る製品。砂糖不使用ですので、栗そのものの味が楽しめます。
マロン・オ・シロ marron au sirop: 無傷の栗を少量のヴァニラを加えたシロップで炊いたものです。栗に含まれる苦味成分タンニンを極力取り除き、栗本来の風味を引き出しています。マロン・グラッセや飾りに使用できます。

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左からクレーム・ド・マロン、パート・ド・マロン、ピューレ・ド・マロン、マロン・オ・シロ(小、大)

これら製品は、作り手の自由な発想で様々に組みあわせて用いる事ができます。

アンベール社では、パート・ド・マロンの製造工程を見学させていただく事が出来ました。日本ではなかなかない機会ですので、大変興味深く見学しました。残念ながら工場内の写真撮影の許可は下りなかったため、以下文章だけですが、簡単に製造工程を説明いたします。

工程1:栗の皮剥き作業
皮剥きの工程には"ブリス"と呼ばれる専用の機械が用いられます。機械に内蔵されている金ブラシが振動し、栗に負担のかからないようにやさしく鬼皮を剥いていきます。
その後、ベルトコンベアーで運ばれた栗は湿らせた後に冷やされ、最後は人の手で渋皮が剥がされます。
工程2:栗と砂糖の混合
工程3:粉砕
工程4:加熱
ガスを熱源にして発生させた蒸気のみで加熱しています。
工程5:不純物の除去
不純物は家畜の飼料として使用されるそうです。
工程6:缶詰
缶に詰め、ラベルを貼られて完成です。

栗の加工にあたっては、例えばサバトン社が水あめを用いるのに対してアンベール社では水あめでなくクリスタルシュガーを使用すること、また製品に風味をつけるヴァニラについても、アンベール社の方が使用量が少なめであるなど、会社それぞれで独自のこだわりがあるようです。その事が製品にどのような特徴となって表れているのか、水あめとクリスタルシュガーの違いも気になりましたので、両社のマロン・オ・シロを食べ比べ、それぞれの特徴を比較検証してみました。

まず甘味、糖度を比べるとサバトン社72%アンベール社56%で、アンベール社製品の方が糖度が低いことが分かります。糖度自体が違うため、サバトン社製水あめのシロップに比べてアンベール社のクリスタルシュガーのシロップの方があっさりと感じられるのは当然かもしれませんが、サバトン社製シロップはやはり濃厚に感じられました。

次に食感(保形性)はどうか。サバトン社製品の方が糖度が多い分だけ実は締まったように感じます。そして、同じように缶から取り出しても1粒1粒が崩れにくいのもサバトン社のものでした。

ヴァニラの香りの強さについては、両社製品の間にそこまでの差はないと感じられました。

パティシエとしての個人的な意見ですが、お菓子の飾りとして使用しやすいのは形が保たれやすいサバトン社の製品。一方、栗本来の風味や柔らかい食感を味わうのであれば、アンベール社の方が適しているように思えました。どちらの社の製品にもそれぞれ良い点があり、個人の好みや用途によって様々に使い分けることができます。

ちなみに2016年のアルデッシュでの栗の収穫量は例年以上だったそうですが、アンベール社で使用されている栗の30%がアルデッシュ産、残りはイタリア産。栗の収穫期は10月ですが、収穫後良い状態のものを急速冷凍して年中生産できるように保存しています。

世界的には栗の加工品の需要は1年中あるため、年間を通じて製造できるようにしているという訳ですね。アンベール社での年間の栗の加工量は、約7000トンにもなるそうです。
例えば栗を使った菓子として有名なものの一つであるモンブラン mont-blancは日本の洋菓子店では通年購入できますが、それにはアンベール社のような会社の存在があってこそといえます。(同社製品の消費量は、フランスの次に日本が多いのだそうです)
ただ意外にも、フランスでは栗を使ったお菓子は秋から冬にかけての限定の味であり、モンブランも1年中おいているのは後述の『アンジェリーナ・パリ Angelina Paris』のような、限られた店だけなのです。
フランスでは、栗を日本以上に"季節の味"として大切にする傾向があるのかもしれません。

世界規模で製品を販売するような大きな会社では広報活動が不可欠ですが、アンベール社には、そのための「デモンストレーター」と呼ばれる職務があります。
アンベール社のデモンストレーターにはパティシエを本職とし、自身の店を持つ方もいます。彼らは定期的に栗加工品を使った新しいメニューを考案し、アンベール社のホームページ上でレシピを公開しています。また、各種のイベントや製菓講習会などでの実演、自身のパティスリーでの製品販売などを通じて、同社の製品普及やイメージ向上に大きく貢献しています。

今回、ホームページ上で紹介されていたアンベール社のデモンストレーターの店をたずね、栗加工品を使用した様々な製品を試食してきました。

以下、4名のデモンストレーターの方々とそのお店、そしてお菓子を紹介します。

1.セバスチャン・ボーエル氏
モンブランを看板メニューに抱えるパリの名店『アンジェリーナ・パリ』のシェフ・パティシエです。この店は、年間通じてモンブランを提供する、フランスで数少ない店の一つです。

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『アンジェリーナ・パリ』店内の様子

『アンジェリーナ・パリ』では一時期モンブランにサバトン社製品を使用していましたが、2007年にアルザス地方出身のセバスチャン・ボーエル氏がシェフ・パティシエに就任して以降、同氏の親しみのある味がアンベール製品だったということからアンベール社の製品を選択し使用しているそうです。

店の看板メニューであるモンブランには、現在4種類のバリエーションがあります。
最もベーシックなモンブラン・クラシック Mont-blanc classique、チョコレート風味のモンブラン・ショコラ Mont-blanc chocolat。そして、フランボワーズ風味のものと、ココナッツとパッションフルーツ風味のものがあるそうです。

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(左)モンブラン・クラシック
(右)モンブラン・ショコラ

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店頭には、アントルメ(大きなケーキ)サイズのモンブランも

店内にはイートインスペースがあり、メニューの中に「テ・ド・モンブラン Thé de Mont-blanc」という名の紅茶もありました。モンブランと一緒に楽しむために調合されたそうです。

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すっきりとしていて、甘い香りがひろがる風味でした


2.ジャン=ジャック・ボルヌ氏
ボルヌ氏はサン=テティエンヌにあるパティスリー『ブティック・香 Boutique Kaori』のオーナーシェフで、M.O.F.(注1)の所持者でもある優れたパティシエです。
辻調グループフランス校にも、アンベール社のデモンストレーターとして毎期授業に来ていただき、栗を使った様々なお菓子や材料を紹介してくださっています。大の親日家で、講習会のために日本へもたびたびいらしています。
『ブティック・香』にも栗を使用した様々な製品が並びます。

3.フィリップ・リゴロ氏
アヌシーにあるパティスリー『フィリップ・リゴロ Philippe Rigollot』のオーナーシェフ。
2005年のクープ・デュ・モンド・デュ・ラ・パティスリー(注2)で優勝後、2007年M.O.F.パティシエとなり、2010年に自身の店をオープンされました。辻調フランス校の製菓研修生を受け入れていただいているお店の一つでもあります。

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パティスリー『フィリップ・リゴロ』外観

店頭に並んでいた秋の新作、マロン・リッチ Marron litchiをいただいてみました。

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栗のシャンティクリームの中心にライチの口どけの良いクリーム、栗の味がしっかりとするビスキュイ生地、それを栗の上掛けで覆い、塩味が感じられるサクサクのサブレ生地に乗っています。栗の濃厚な甘味とライチの爽やかさ、そしてサブレの塩味と食感がバランスよく合わさっていました。

4.クリストフ・ミシャラク氏
ホテル『プラザ・アテネ・パリ』のシェフ・パティシエを努める氏は2005年クープ・デュ・モンド・デュ・ラ・パティスリー優勝の経験を持ち、現在フランスのみならず世界中で注目を集めているパティシエの一人。
ご自身の名を冠するパティスリー『パティスリー・ミシャラク Pâtisserie Michalak』は、現在パリに3店舗展開しています。その中でも2015年にオープンしたばかりのマレ地区にあるお店に伺いました。

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『パティスリー・ミシャラク』パリ店の外観

ケック・マロン Cake marron
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ベースの栗のパウンドケーキに栗のガナッシュ、栗のコンフィとキャラメル掛けしたアーモンドを、溶けるようなミルクチョコレートのグラサージュでコーティングしています。
しっとりとした食感と目を引くグラサージュの銀色が印象的な、モダンなお菓子です。

モンブラン Mont-blanc
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ミシャラク氏のお菓子の特徴の一つに、テイクアウトがしやすいように容器の中で仕上げるものがあります。これもその一つで、ビスキュイ生地、ウィスキー風味のバニラクリーム、メレンゲ、栗のクリームで構成されたシンプルなお菓子でした。

マロン・グラッセ Marron glacé
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飲むことのできる、液体のデセールです。クレーム・ド・マロンを牛乳で溶きのばした液体とタピオカが入ったものです。

各店では、デモンストレーターそれぞれの名を冠した様々な栗の製品も販売されています。チューブに入ったクレーム・ド・マロンなどは少量なので家庭でも使いやすく、お土産に人気があるそうです。

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今回取材に協力していただいたアンベール社の広報担当バンジャマンさんは、自社の歴史や栗の加工、製品に対して誇りをもって熱く語ってくださいました。
フランスで伝統的に食されてきた食材で、また菓子としても長い歴史を持つ栗が現代の製菓技術によって、より洗練された形のお菓子を生み出していることに製菓材料としての魅力を感じました。誠実で手間と時間をかけて栗を優しく加工する姿が私には子どもを育てる親のようにみえました。
新たな時代のパティシエ達は、素朴な素材である栗を、新たな技法や意外な食材と組み合わせて味の追求をしています。




注1: M.O.F.(Meilleur Ouvrier de France、フランス国家最優秀職人章) フランス文化の各部門において最高度の技術を持つと認められた職人に授与される、国家認定の称号。
注2: Coupe du monde de la pâtisserie 2年に一度フランスで開催される、製菓職人の世界コンクール。
※「とっておきのヨーロッパだより」2016年1月15日 http://www.tsujicho.com/column/cat/post-512.html
も参照ください。

<取材協力>
『Imbert』
住所:Chemin du lac 07200 Aubenas Ardèche
会社詳細については下記ホームページを参照ください。
http://imbert.co.jp/process

『Boutique Kaori』
住所:8 rue Eugène Joly 42100 Saint Etienne

『Angelina Paris』
住所:226 rue de Rivoli, 75001 Paris, France

『Pâtisserie Philippe Rigollot 』
住所:1, place Georges Volland - 74000 Annecy

『Pâtisserie Michalak』
住所:16 rue de la Verrerie, 75004 Paris

『Hotel Plaza Athénée Paris』
住所:25Avenue Montaigne,75008Paris

『SABATON』
住所:42 rue Paul Sabaton,Z.A. La Plaine,07200 AUBENAS

このコラムの担当者

花屋 佑太郎

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