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食のコラム&レシピ

【とっておきのヨーロッパだより】これがおいしい!バルセロナ ~魚介類編~

12<海外>とっておきのヨーロッパだより

2013.05.24

<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

「これがおいしい!バルセロナ」シリーズ
第1回 ドリンク編①第2回 ドリンク編②第3回 米編第4回 市場&野菜編|第5回 魚介類編



スペインでありながら独自のアイデンティティを守り続けるカタルーニャ地方。この「これが美味しい!バルセロナ」シリーズでは、そんなカタルーニャの中心都市バルセロナをクローズアップし、私自身がカタルーニャ人との交流のなかで知ったバルセロナならではの食文化の魅力と、おいしくて少し珍しいお店を紹介しています。本シリーズは今回の第5弾「魚介類編」で、ひとまず一区切りとなります。ぜひ最後までお楽しみください!

古くから地中海の港町として栄えてきたバルセロナでは、今も毎日とれたての新鮮な魚介類を楽しむことができます。
市場の魚売り場の定番は、なんといっても、ラップ Rap(アンコウ)とユッス Lluç(メルルーサ)。どの鮮魚店に行っても必ず並んでいます。またこれらの魚と一緒に、たいていヒラメやカレイが並んでいるのを目にします。アンコウはお頭つきで3ユーロほど。十数年前までは、アンコウは肝がはずされ、ほとんどの場合捨てられていたので、朝の市場で魚屋のおじさんにおねだりするとタダでもらえたものですが、あん肝を好んで食べる日本人の影響からか、最近はバルセロナでも肝は商品として扱われているそうです。

魚売り場のプレゼンテーションも豪快 カラダの長いメルルーサはいつもきちんと整列している
(左)魚売り場のプレゼンテーションも豪快
(右)カラダの長いメルルーサはいつもきちんと整列している

そのほかの定番はオラダ Orada(タイ)や、ソンソ Sonso(イカナゴ)、セイト Seitó(カタクチイワシ)、ソレイ Sorell(アジ)など背の青い魚。それらが所狭しと大量に並べられている姿はとても印象的です。特に、アンチョビとしても頻繁に食されるイワシの仲間は、安価で調理も簡単なのでバルセロナの人にとって最も身近な魚のひとつかもしれません。

一番手前がよく見かけるタイ 小さいのがイカナゴ、その隣はイワシ
(左)一番手前がよく見かけるタイ
(右)小さいのがイカナゴ、その隣はイワシ

また、バルセロナではヨーロッパでは珍しく、イカだけでなくタコも大量に消費されています。海老はもちろん、貝も好んで食べます。パエリアに入れる定番のムール貝に加えて、塩ゆでにしただけでおつまみのように食べる「カルゴル Cargol(カタツムリの意)」と呼ばれるトゲトゲした突起のある巻貝や、ワイン蒸しにしたりする二枚貝類、「ペウ・ダ・カブラ Peu de Cabra(羊の足の意)」という見た目の奇妙な貝まで、本当にいろいろな貝が魚売り場をさらに賑わせています。

海老だけでも目移りするほどの種類が並ぶ 一番手前がカルゴル。大きいものと小さいものがある
(左)海老だけでも目移りするほどの種類が並ぶ
(右)一番手前がカルゴル。大きいものと小さいものがある

これらの海産物のなかには、アンチョビのように加工品として消費されるものもありますが、やはり、バルセロナに来たなら、水揚げされたばかりの新鮮な食材を調理していただきたいもの。一番ポピュラーな調理法はその日の魚をオリーブオイルで揚げるだけのシンプルなフライかもしれません。レストランの一品料理としてはもちろん、タパスとしても人気の「カラマルス・ア・ラ・ロマナ Caramals a la Romana(イカリングフライ)」や「ポップス・フレジッツ Pops fregits(一口タコのフライ)」、また様々な小魚のフリッターを、テラスで海風に吹かれながら食べるのはバルセロナの休日の醍醐味と言えます。

カタルーニャ北西部レスカラL'Escala産のアンチョビ 定番タパス「カラマルス・ア・ラ・ロマナ(イカリングフライ)」
(左)カタルーニャ北西部レスカラ L'Escala産のアンチョビ
(右)定番タパス「カラマルス・ア・ラ・ロマナ(イカリングフライ)」


■専門店まであるバカヤッ Bacallà(タラ)
さて、これまでは市場の鮮魚について触れてきましたが、バルセロナの食事処で必ずと言っていいほど出てくるのがバカヤッ Bacallà(タラ)です。タラは鮮魚として買うことはほとんどなく、一般に塩漬けにされた切り身で売られているものを購入します。塩漬けのタラは高級食材として扱われており、タラが食卓にあがるときは祭日等の特別な日であることが多いそうです。レストランのメニューでもほとんどの場合、タラ料理が魚料理の目玉となっています。
市場には必ずタラ専門のコーナーがあります。塩ダラの各部位がきれいに並べられているほか、仕切りのある水槽に、まるで日本の豆腐屋のようにタラの切り身が水に沈んで並んでいるのを見かけます。この水に浸かっているものは、塩抜きしたタラです。
タラを調理するうえで一番大事なのが塩抜きなのだそうですが、これが簡単なようで失敗しやすく、料理によって塩の抜き加減もちがって難しいそうです。それで一般家庭では、調理時間も短縮され、失敗も無いということで、専門店の塩抜きされたものを買うことが多いようです。

サンタ・カタリナ市場にあるタラ専門店 サン・ジュゼップ市場(『ブカリア』)にあるタラコーナー
(左)サンタ・カタリナ市場にあるタラ専門店
(右)サン・ジュゼップ市場(『ブカリア』)にあるタラコーナー

また、バルセロナには市場以外にもタラだけを扱う専門店「バカヤナリア Bacallaneria」が存在します。それがこの『ラ・カサ・デル・バカラオ La Casa del Bacalao』です。昔からあったタラ専門店を現在のオーナーが買い取り、このお店をスタートさせたのが1979年。以来この店では代々、専門の職人さんが今も変わらずタラを解体し続けているそうです。ここにくれば他の店では手に入らない貴重な部位も手に入ると評判で、長くバルセロナの人々に愛されています。また、このお店では塩ダラの切り身のほかに、コロッケやフライ、ブランダードといったタラのお惣菜も販売しています。

街の中心部にある老舗専門店『ラ・カサ・デル・バカラオ』
街の中心部にある老舗専門店『ラ・カサ・デル・バカラオ』

タラを使った特徴的なカタルーニャの郷土料理としては、「エスケシャダ Esqueixada」が挙げられます。
これは、小さくほぐれた塩ダラを適度に塩抜きし、新鮮な野菜やその他の好みの食材でサラダ風に和えた、特に夏に食べられる料理です。先に述べたように、バルセロナで塩ダラは基本的に高級食材なので、大きな切り身を使うような料理は結果的に材料費がかかることになります。ですが、この「エスケシャダ」に使用するタラは、その名「Esqueixada=ほぐれた」が示す通り、カットの際にでる半端部分や崩れてしまった部位をほぐして販売されているもの。そのため、タラ料理としては比較的安価で楽しめる一品だといえます。また、冷製のタラ料理はスペイン全土でも珍しいので、夏のバルセロナでぜひお試しください。

切り身の部位と身の厚み、小骨の有無で値段が変わる 『バル・ベロドロモBar Velódromo』のエスケシャダ
(左)切り身の部位と身の厚み、小骨の有無で値段が変わる
(右)『バル・ベロドロモ Bar Velódromo』のエスケシャダ


■渋かわいいイワシ専門店『ラ・プラタ La Plata』
そして、タラと並んでバルセロナの人々にとって非常に身近な魚がサルディナ Sardina(イワシ)です。
バルセロナには、なんとイワシのフライを専門にしている珍しいバルが存在するのです。港にほど近い住宅街の路地の一角に、控えめにたたずむバル、それが『ラ・プラタ La Plata』です。店内のカウンターを始め、壁の下半分はタイルばりで、タイルのブルーと壁の黄色が、どこかポルトガルのお店を連想させます。
客層はというと、ほとんどが地元のおじさんたち。午前中からずっとカウンターにもたれかかり、ビールを片手に店の主人と談笑している姿がなんともほほえましいお店。ただ、このおじさんたち、ふらりと店に入った観光客には特に笑顔も見せないので、一見無愛想な印象を受けるかも知れません。ですが、一度こちらから話かければ、空気は一転。バルセロナっ子特有のジョークを交えてどんどん話しかけてくれます。バルセロナの人は少しシャイですが、根は人懐こく、いったん打ち解ければとても気さくな人ばかり。どんどん笑顔をふりまいて話しかけてみてください。

いつも常連客でいっぱいだが午前中は比較的静か 周りにはほかにお店もなく、隠れ家的なたたずまい
(左)いつも常連客でいっぱいだが午前中は比較的静か
(右)周りにはほかにお店もなく、隠れ家的なたたずまい

この店では創業以来ずっとイワシのフライだけを看板料理として出しているそうで、もちろんメニューなどはありません。常連客の間では、フライとともにトマトとタマネギのサラダをオーダーするのが定番のようで、勧められるままに、イワシが揚がるのを待ちながらそのサラダを爪楊枝でつっついたのですが、トマトとタマネギとオリーブにただオリーブオイルをかけただけのこのサラダが、なぜかすごくおいしく感じるから不思議です。
そしてアツアツの揚げたてのイワシがテーブルに運ばれると、フライの香ばしい香りが店中にたちこめ、一気に食欲がかきたてられます。ドリンクにはお店のカウンターの奥に置かれた樽から注がれる、ラベルも銘柄もわからないワインを注文。味の薄い安物のワインなんですが、これがまた合うんです!赤・白と交代でいただきながら、つまむイワシの美味しいこと!

ワインは1杯なんと1ユーロ アツアツのイワシがたっぷりのって3ユーロほど
(左)ワインは1杯なんと1ユーロ
(右)アツアツのイワシがたっぷりのって3ユーロほど

ところで、イワシが不漁の際はどうしているのかと主人に聞いてみたところ、「他の小魚で代用しているよ。でも殆どそういうことはないけどね。」ということでした。バルセロナに来たら、こんな渋くもかわいいお店で、カタルーニャ語の談笑をききながら、至福のひとときを過ごしてみてはどうでしょうか?きっと、幸せな気持ちになれること間違いなしです。

スペインに関するコラム「風土Foodエスパーニャ」
https://www.tsujicho.com/oishii/recipe/w_food/espana/index.html

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取材店1:
 Bar Velódromo
 Muntaner, 213, Barcelona 08036, Spain

取材店2:
 LA PLATA
 Mercè, 28, Barcelona 08002, Spain

担当者情報

このコラムの担当者

佐藤重文

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