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【とっておきのヨーロッパだより】フランスの鹿肉食文化に触れて
2017年10月06日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

みなさん、「鹿」と聞くとどんな鹿を思い浮かべますか?
私が思い出すのは奈良の鹿です。というのも私は奈良県出身で、奈良公園で優雅に暮らしている鹿が私の中での鹿、だったためです。そんな環境で育ったので、進学した辻調理師専門学校の学生時代、ジビエ gibier(注1)の授業を受けて初めて、「そうか、鹿も食材か!」と気づきました。鹿の新たな一面との出会いです。

もちろん日本でも昔から鹿肉を食べる文化はあります。"もみじ肉"というとピンと来る方もいるかもしれません。ですが、鹿が獲れる地域でない限り、販売されている鹿肉を目にする機会はそうないでしょうし、あまり一般的な食材とは言いがたいものです。何より奈良で育った私には、生き物としての鹿のイメージが強く、また鹿肉を食べたことのある友人が「固く、あまり好みではなかった」など語るのを聞いたこともあって、鹿を"食べるもの"として考えることが中々できずにいました。

食材としての鹿に馴染めないままフランスに来ましたが、フランス校のコアール先生が実習のために作った鹿肉の料理がとても美味しく、鹿肉に対する印象が大きく変わりました。

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フランス校で食べた一品「鹿肉の背肉、胡椒と粒マスタード風味」
※この料理には養殖鹿肉を使用しています。野生の鹿肉の場合は火通しが異なります。

鹿肉の味は牛肉に似ていますが、牛肉よりもやや野性味のある独特の香りが特徴です。また牛肉に比べると脂肪分が少ないので、想像よりもあっさりと食べられました。
この料理は鹿肉を処理したあとに残った骨を利用してソースを作り、マスタードの粒を加えているので、鹿の香りや味がマスタードの香りと合わさってソースに深みが出て、より一層美味しく頂くことが出来ました。

美味しい鹿肉をもっと知りたい!ということで鹿の養殖を行う会社へ見学に行くことにしました。
今回訪問したのは『ラ・フェルム・ドゥ・コロンジュ La Ferme de Collonge』という会社。エスコフィエ校から北へ車で20分ほどのフランシュルアン Francheleinsという村にあります。

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『ラ・フェルム・ドゥ・コロンジュ』の外観

お話を伺ったのは、社長のパスカル・バウアー氏M.Pascal Bauer。
『ラ・フェルム・ド・コロンジュ』には7つの牧場があり、鹿以外にも牛、鶏、豚など様々な家畜養殖を手掛け、さらにはそれらの肉の加工、販売まで幅広く行っています。

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パスカル・バウアー氏

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牧場で飼育している動物が紹介されています

7つの牧場のうちの一つ、パルク・ダヴナ Parc d' Avenas(アヴナ牧場)に伺いました。

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放牧の様子

この牧場で養殖しているのはノロジカ、アカシカ、ダマシカです。
フランス語でノロジカの雄をシュヴルイユ chevreuil、雌をシュヴレット chevrette。アカシカの雄はセール cerf、雌はビッシュ biche。ダマシカの雄をダン daim、雌はデーヌ daineと言います。
ひとくちに鹿、と言ってもたくさんの種類がいることにびっくりしました。

私がフランス校の実習で食べたのはアカシカです。この牧場ではそのアカシカを見ることができました。
奈良で見慣れていた鹿は二ホンジカという種類です。成獣すると60kgから100kgぐらいに成長します。対してアカシカは成獣すると250kgぐらいに成長するそうで、二ホンジカに比べて体が1.5倍ほど大きかったです。
なにより目を惹かれたのがとても大きく立派で美しい角です。

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(左)天に向かって生えている角が美しい雄鹿
(右)見学していると興味津々な様子で雌鹿が近づいてきました

鹿の角は、フランスでは狩猟で仕留めた際の記念に、壁に飾る家もあるようです。またアンティークショップでも室内装飾物として高値で販売されていることもあります。
こちらの会社では特に角の販売はしていませんが、美しいものを店先に飾ることもあるそうです。

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抜け落ちた角。枝分かれが多いほど美しいとされるそうです

この角は、繁殖期の9月から10月にある縄張り争いを戦い抜くために生えてきます。
繁殖期を終え、春先に役目を終えると抜け落ち、また繁殖期に向けてすぐに生えてきます。

雄同士の縄張り争いを避けるため、この会社では雄1頭と雌14頭から15頭を一つの敷地内で管理しています。敷地は5頭に対し、約1ヘクタールあるそうです。
数字を聞いただけではあまりピンと来ませんでしたが、実際敷地内を見学させていただくとその広大さが実感できました。とても広く、草も茂っていて自然に近い環境で育てられている印象を受けました。

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緑が生い茂る環境でのびのびと過ごしています

毎年、雌1頭が子供を1頭生み、生まれた雄が食肉として18カ月間飼育され、販売されます。
雌は子供を産むために育てられ、産まなくなれば食肉として販売します。
雄と雌は食肉として違いがあるわけではないので、区別して売ることはないそうです。
出荷時期は9月初めから3月初めまで、出荷量は毎年約10tだそうです。

『ラ・フェルム・ド・コロンジュ』で手掛けている養殖動物のうち、年間を通じての主力商品は、一般的な牛・豚・鶏といったものです。
鹿肉はそれらとは異なり、ジビエの季節である秋から冬にかけての期間限定販売商品。フランス人にとって鹿肉はジビエの季節に食べる特別な食材であるため、その季節の需要にあわせての販売となるようです。ただ、ジビエとは本来狩猟をして仕留める自然の恵みのはず。同じ時期にあわせて養殖の鹿肉を販売しても、売れ行きなどに差は出ないのかな?...と気になったのですが、意外にもバウアー氏によれば、売れ行きには何ら問題はないのだそうです。野生の鹿肉は養殖に比べると若干筋肉質で脂肪が少なめ、といった違いはあるものの、肉としての品質は、養殖のものも何ら引けを取ることはないとのお話でした。

鹿肉は季節になればバウアー氏の販売所から取引のあるレストランへ卸されたり、敷地内にあるショップで一般向けに販売されたりもします。
フランス校のコアール先生に聞いたところ、フランスにおける鹿肉の一般的なイメージは「ジビエの季節にレストランでご馳走として食べるもの」とのことでしたが、自宅で調理して季節の味を楽しむ方も一定数いるようです。脂肪の少ない鹿肉は、煮込みやロティなどゆっくり時間をかけて柔らかくする料理法で食べることが多いそうです。

自分にとって、フランスへ来るまで食材としてあまり身近ではなかった鹿肉を「美味しい」と感じたことをきっかけに始めた今回の取材ですが、この体験を通してより多く鹿について知ることが出来ました。
またバウアー氏が鹿や他のたくさんの動物に寄り添って飼育している様子を目の当たりにし、料理人として、大切に育てられた食材をより一層大切に扱わねばと身が引き締る思いを新たにした取材でした。

現在、日本ではフランスの鹿肉の輸入がなく残念ですが(注2)、もし今後フランスにいらっしゃる機会があれば、ぜひフランスの鹿を味わってみてください。



取材協力
La Ferme de Collonge
住所 Collonge 01090 Francheleins
TEL:+33 (0)4.74.69.41.76
http://lafermedecollonge.fr/

(注1)ジビエとは猟鳥獣、猟鳥獣肉。狩猟の対象になる野生動物の総称、およびその肉を指す言葉。猟獣は二つに分けられ、大型には鹿、猪、子猪、小型には野兎、穴兎。
猟鳥は山や野で狩りの獲物となる鳥全体を指す。ヤマシギ、キジ、ヤマウズラなど
(『新ラルース料理大辞典Ⅱ』552ページより)

(注2)
日本における畜産物の輸出入は、厳格な「家畜衛生条件」を満たすものだけが認められている。フランスとの間では「シカに由来する畜産物」の家畜衛生条件が取り決められておらず、2017年7月現在、輸入することはできない。
『農林水産省動物検疫所』より
http://www.maff.go.jp/aqs/hou/require/sub2.html

このコラムの担当者

伊藤 佑子

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