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食のコラム&レシピ

【半歩プロの西洋料理】見た目は一緒、何が違う?~バターの魅力いろいろ~

01<西洋>半歩プロの西洋料理

2016.11.11

【半歩プロの西洋料理】ってどんなコラム?



みなさん、こんにちは。
今回の題材はバター。生乳の中の脂肪分から作るお馴染みの食材で、フランス語では「ブール(beurre)」と言います。
無塩バターをパクパク食べてしまうほど、バター好きの私が紹介いたします。

とはいえまだ辻調の学生になったばかりの頃は、実はあまりバターのことが好きではありませんでした。口に入れると鼻先に広がるバター独特の臭みが気になり、ストレートに美味しいとは感じられなかったのです。
そんな私がバターの良さに気付き始めたのは、授業で「ブール・ノワゼットbeurre noisette」に出会った時からでしょう。これはバターを茶色く色づくまで熱した、いわゆる"焦がしバター"の事です。

「ノワゼット」はフランス語で"ヘーゼルナッツ"の事ですが、バターに熱を加えていくうちにだんだん香りが変わっていき、本当にナッツのような香りがし、風味も香ばしく変わったのには驚きました。
調理の仕方によって違う香り、違う風味へと変化するバターを、「何これ?おもしろい!」と思ったことを今でも覚えています。
近年は料理をより軽く仕上げる事が一般化し使用量はどんどん減ってはいるものの、やはり伝統的なフランス料理にはバターをふんだんに使うものも多く、美味しいフランス料理には欠かせない食材です。

そんなフランス料理とバターが大好きな私ですが、その性質や味わいについてあまり突き詰めて考えたことがなかった事に気づき、日本で手に入る数種類のバターを比較し、どんな違いがあるのか調べてみました。


では実験スタート!5種類のバターを比較してみましょう。

(左から)フランス産無塩バター、国産有塩バター、国産発酵バター、国産無塩バター、フランス産有塩バター※ちなみに発酵バターとは、クリームに乳酸菌を加え発酵させ作ったものです。



整列!!うーん、見た目ではあまり変化がありません。
色合いではほんの少し無塩バターが薄いように思えますが、使用乳の違いもあるのでほぼ変わりはないですね。
では、食べてみましょう。
有塩バターのほうがミルクの味わいが無塩バターに比べよりはっきりしていてそのままでパンなどに塗って食べるといいですね。
発酵バターは発酵している分少し酸味を感じ、味もコクを感じました。
少し好き嫌いは別れるかもしれないですね。


バターは溶かしてみると3層に分離します。上から白い泡(空気)、黄色い液体(乳脂肪分)、白い沈殿物(タンパク質などの成分)に分かれます。

分離している様子

フランス産無塩バター


国産有塩バター


国産発酵バター


国産無塩バター


フランス産有塩バター

フランス無塩

泡が多く、濁っていて、澄ましバターの部分が色濃い

有塩

澄んでいる、沈殿物が多く、ぼそぼそしてるようにみえる

発酵

澄んでいる、澄ましバターの部分の色が濃い

無塩

澄んでいる、澄ましバターの部分の色が薄い

フランス有塩

泡が多い、濁っている、沈殿物の量が少なく見える


おっ!!そのままの見た目ではあまり違いがわかりませんでしたが、溶かしてみると一見同じように見えていたバターも少しずつ違いが見えてきました。


分離した部分の味はどうでしょうか?
液体の部分と沈殿物を食べてみました。

種類           澄ましバター                 沈殿物

フランス無塩

酸っぱく少し塩味

すごく酸っぱい(ヨーグルトの上澄みに近い感じ)

どろっとしている、少し黄色い

有塩

塩味

とても塩辛い

とろとろ

発酵

あぶらっぽい、重たく感じる

マーガリンのような風味

フランス無塩よりは少し濃度が薄い

無塩

味、風味が薄い

油っぽくなくさらっとしている(薄めた牛乳のよう)

さらさら見た目牛乳、白っぽい

フランス有塩

酸っぱく味が濃い

酸っぱく一番塩辛い

しゃばしゃば水っぽい、色薄め


比べてみると結果が黄色い液体の部分は油なのであまり味もないだろうと思っていたのですが、予想とは違い意外にもしっかりと味がついていました。

一番違いが分かりやすかったのは沈殿物です。
一口ずつ食べるだけて味の違いがはっきりとわかりました。
正直、フランス産の有塩バターはスプーンに軽く一杯口に含んだだけで吐き出してしまいそうになる程酸っぱく、海の水以上とも思える塩辛さ。

バターの味や風味などが一番強く関係しているのは沈殿物の部分で、見た目からは想像できないほど、それぞれの風味に違いがあることが分かりました。

状態を変えてみるだけでも、さまざまな違いが出るバター。
それぞれのバターの性質によって使い分けると様々な料理が引き立そうですね。
発酵バターは熱を加えて溶かすだけでも酸味がさらに引き立ち独特のコクと香りが立つので、料理に多く使用するとしつこくなってしまうかもしれないと思いました。発酵バターは料理のアクセントのように使用するのがいいのかもしれませんね。

無塩バターは万能選手であまりクセもないので料理への使用に適していると思います。
有塩バターは大量に使用すると塩分が濃いので少量の場合やトーストに塗るなどが一番楽しめるのではないでしょうか。

今回紹介するレシピは、今回題材に挙げたバターをふんだんに使ったソースを使用したもので、ソースの名前は「ソース・ブール・ブランsauce beurre blanc」。
名前にブール(バター)と入っているだけあり、300mlのソースを作るのに使用するバターは200g!!驚きの量ですが、食べてみるとバターの濃厚なミルクっぽい味とビネガーや白ワインなどの酸味があいまっておいしいのです!魚介料理全般に広く使われるソースで、私も大好きなソースの一つです。

ちなみに今回の実験をしてみることでバターによって異なる風味を改めて確認し、それぞれの特徴にあわせた使い方があることを実感しました。
ソース・ブール・ブランを作るには塩分の多い有塩バターや、一緒に用いる白ワインやビネガーによって元々の酸味が強調されてしまう発酵バターでなく、無塩バターが一番適しています。

ちょっと贅沢で本格的なソースですが、手順を守ればご家庭でも美味しく作れます。ぜひお試しください。



<参考サイト> 明治 食べよう!乳製品 乳のうまみのかたまり バターラボ研究編 
http://www.meiji.co.jp/meiji-shokuiku/know/dairiesworld/butter/labo.html