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【独逸見聞録】ヘーフェタイク ~ファイネ・バックヴァーレン(其の壱)~

13<海外>独逸見聞録

2013.07.12

<【独逸見聞録】ってどんなコラム?>


以前に紹介したブロート(Brot:大型パン)やクラインゲベック(Kleingebäck:小型パン)よりも、配合中の砂糖や油脂、卵の割合の多い製品は、「ファイネ・バックヴァーレン(Feine Backwaren)」という項目に分類されている。
今回は、「ファイネ・バックヴァーレン」の定義と、それに属する「ヘーフェタイク(Hefeteig)」について紹介する。

大小各種のファイネ・バックヴァーレン 大小各種のファイネ・バックヴァーレン
大小各種のファイネ・バックヴァーレン。

★ファイネ・バックヴァーレンの定義
「ファイネ・バックヴァーレン(Feine Backwaren)」は、タイク(Teig)またはマッセ(Masse)からなり、焼成、ロースト、乾燥またはその他の方法によって製造される。
このタイクやマッセは、穀物や穀物製品、デンプン、油脂、砂糖類の使用により作られる。
また、重量の90%の穀物または穀物製品に対して、含まれる油脂や砂糖類が、重量の10%以上であることによって、ブロートやクラインゲベックとは区別されている。
ファインバックヴァーレン(Feinbackwaren)またはファインゲベック(Feingebäck)とも呼ばれる。

*「タイク(Teig)」と「マッセ(Masse)」の相違
タイクは、「粉を主体とし、混捏により形作られた粘性の強い混合物」で、マッセは、「攪拌や泡立てにより作られた流動的な混合物」であるが、この2つに厳密な境界線はない。

「ファイネ・バックヴァーレンの指導原則(Leitsätze für Feine Backwaren:ライトゼッツェ・フュァ・ファイネ・バックヴァーレン)」は、「ドイツ食品便覧(Deutsches Lebensmittelbuch:ドイチェス・レーベンスミッテルブッフ)」に収録されている。
その中で取り上げられている基準や指導要綱の中から、ヘーフェタイク(Hefeteig:発酵生地)を使用する製品を幾つか紹介する。


★ヘーフェタイク
へーフェタイクは、膨張剤としてヘーフェ(Hefe:イースト)を使用した発酵生地である。
場合によっては「ヘーフェファインタイク(Hefefeinteig)」とも呼ばれる。
基本材料は、小麦粉、牛乳、イースト、砂糖、バターまたはマーガリン、卵(場合によっては卵黄)、塩とヴァニラやレモンなどの香料である。

★ヘーフェタイクの分類
ヘーフェタイクは、油脂の含有量、または製造方法によって大別されている。
油脂(Fett:フェット)の配合率によって、『軽い』、『中間の重さ』、そして『重い』ヘーフェタイクに分類される。1000g の粉に対しての油脂量が、軽いヘーフェタイクの場合100~150g、中間の重さのヘーフェタイクでは150~250g、重いヘーフェタイクの場合は250~500gである。
『軽い』または『重い』の概念は、ヘーフェタイクから作られる製品の性質と、その消化の良し悪しに由来する。軽いヘーフェタイクの製品は、良く膨らみ、脂肪分が少ないので胃腸への負担が軽い。それに対して、重いヘーフェタイクの製品は、脂肪分が多く、胃腸への負担が比較的大きくて重い。
この油脂の割合は、実践からの経験値に基づいていて、指導原則の中では規制されていない。

製造方法による分類では、軽いヘーフェタイクに、油脂を何層にも折り込んだ「プルンダータイク(Plunderteig)」や、卵の配合が多くて柔らかいために、捏ねるのではなく混ぜる、重いヘーフェタイクの「ゲリューァター・ヘーフェタイク(Gerührter Hefeteig)」に分けられる。

左は、フィリングやクリーム類、果物を組み合わせたプルンダー(Plunder)各種 右は、ゲリューァター・ヘーフェタイクの代表、グーゲルフップフ(Gugelhupf)
左は、フィリングやクリーム類、果物を組み合わせたプルンダー(Plunder)各種。
右は、ゲリューァター・ヘーフェタイクの代表、グーゲルフップフ(Gugelhupf)。

☆ツォップフ(Zopf)
ツォップフとは、編み込んだ髪のことを指している。
複数の棒状に伸ばしたパン生地を編むことによって形作られた編みパンで、フレヒテ(Flechte)とも呼ばれる。これを長く編んで、その両端を繋げると、クランツ(Kranz:環)になる。
編み方によって、同じ本数の生地を使っても、平らになったり、立体的になったりと外観が異なる。
焼成前に、表面に卵を塗って、アーモンドの縦割りや薄切り、あられ糖(Hagelzucker:ハーゲルツッカー)、または砂糖、油脂と粉を1:1:2の割合で合わせたそぼろ状のシュトロイゼル(Streusel)などを振り掛ける。

レーズン入りの2本編みと、シュトロイゼルを振った3本編み 砂糖、油脂と粉を1:1:2の割合で合わせたシュトロイゼル
左は、レーズン入りの2本編みと、シュトロイゼルを振った3本編み。
右は、砂糖、油脂と粉を1:1:2の割合で合わせたシュトロイゼル。


☆ヘーフェタイルヒェン(Hefeteilchen)
砂糖と油脂、卵などが多く配合された発酵生地、ヘーフェファインタイクから作られる小型の菓子パンの総称で、ヘーフェシュトュック(Hefestück)とも呼ばれる。
レーズンやナッツ類、チョコレートなどを、ヘーフェタイクに混ぜ込んだり、様々なクリームやフィリングを塗ったり、詰めたりする。

ブッターブレートヒェン(Butterbrötchen) レーズン入りのロジーネンブレートヒェン(Rosinenbrötchen)
左は、ブッターブレートヒェン(Butterbrötchen)。
右は、レーズン入りのロジーネンブレートヒェン(Rosinenbrötchen)。

☆シュネッケ(Schnecke)
シュネッケは、渦巻き状の小型の菓子パンで、その名は、カタツムリの殻に似ていることに由来している。バーデン、シュヴァーベン、ザールラントやプファルツ(何れもドイツ南西部の地方名)では、「シュネッケンヌーデル(Schneckennudel)」とも呼ばれる。
薄いシート状に伸ばしたヘーフェタイクに、様々なフィリングを塗って端から巻き込み、軸に垂直に切って、平らな面を上にしてオーブンプレートにのせて焼く。
大抵の場合、焼成後にアプリコットジャム(Aprikosenkonfitüre:アプリコーゼンコンフィテューレ)と糖衣(Fondant:フォンダン)を表面に塗って仕上げる。

砂糖とレーズンを巻き込んだロジーネンシュネッケ ナッツのフィリングを巻いたヌスシュネッケ 黒ケシのフィリングを巻いたモーンシュネッケ
左は、砂糖とレーズンを巻き込んだロジーネンシュネッケ(Rosinenschnecke)。
中は、ナッツのフィリングを巻いたヌスシュネッケ(Nussschnecke)。
右は、黒ケシのフィリングを巻いたモーンシュネッケ(Mohnschnecke)。

☆ブレッヒクーヘン(Blechkuchen)
ブレッヒクーヘンは、基本的には焼き型を使用せず、直接オーブンプレート(Brech:ブレッヒ)の上で焼かれた平らな菓子の総称である。
その土台部分は、ヘーフェタイク(発酵生地)の他にも、ザントマッセ(バター生地)やミュルベタイク(練り込みパイ生地)などがあり、薄く伸ばし広げた生地の上に、様々な具がのせられる。
使用されるトッピングは、シュトロイゼルやナッツ類、季節の果物やクリーム、フィリングで、単品またはその幾つかを組み合わせる。
焼成後、長方形または正方形に切り分けられる。
伝統的、典型的なブレッヒクーヘンは、ブッタークーヘン(Butterkuchen)やシュトロイゼルクーヘン(Streuselkuchen)、ビーネンシュティッヒ(Bienenstich)などである。


◆ブッタークーヘン(Butterkuchen)
ブッタークーヘンは、ヘーフェタイクの上にバター(Butter:ブッター)と砂糖(Zucker:ツッカー)、アーモンド(Mandel:マンデル)をトッピングしたブレッヒクーヘンである。
ブッタークーヘンでは、発酵生地やトッピング中の油脂として、バターのみの使用が許されている。そのバターの割合は、100kgの穀物製品と/またはデンプンに対して最低でも30kg、またはそれに相当する量のブッターラインフェットと/またはブッターフェットを含まなければならない。ただし、型やプレート用の油脂は、この規則には当てはまらない。


*「ブッター(Butter)」、「ブッターフェット(Butterfett)」「ブッターラインフェット(Butterreinfett)」の相違
通常、バター(Butter)は82%以上の脂肪分と、16%以下の水分を含んでいる。それに対してブッターフェット(Butterfett)は96%、ブッターラインフェット(Butterreinfett)は99.8%と、脂肪分の割合が非常に高い。またブッターラインフェットは、ブッターシュマルツ(Butterschmalz)の異名を持つ。
この中で風味が一番良いのは、普通のバターである。

四角に切り分けたブッタークーヘン アルミ製の型を使用したブッタークーヘン
左は、四角に切り分けたブッタークーヘン。
右は、アルミ製の型を使用したブッタークーヘン。

◆シュトロイゼルクーヘン(Streuselkuchen)
シュトロイゼルクーヘンは、ヘーフェタイクの上にそぼろ状のシュトロイゼル(Streusel)をトッピングしたブレッヒクーヘンである。
ブッターシュトロイゼルクーヘン(Butterstreuselkuchen)では、発酵生地やシュトロイゼル中の油脂として、バターのみの使用が許されている。そのバターの割合は、100kgの穀物製品と/またはデンプンに対して最低でも30kg、またはそれに相当する量のブッターラインフェットと/またはブッターフェットを含まなければならない。 ただし、型やプレート用の油脂は、この規則には当てはまらない。

四角に切り分けたシュトロイゼルクーヘン カスタードクリーム入りのシュトロイゼルクーヘン・ミット・プディングクレーム
左は、四角に切り分けたシュトロイゼルクーヘン。
右は、カスタードクリーム入りのシュトロイゼルクーヘン・ミット・プディングクレーム(mit Puddingcreme)。

◆ビーネンシュティッヒ(Bienenstich)
ビーネンシュティッヒは、直訳すると「ミツバチの刺し傷」で、焼成の際にカラメル状になる上掛け生地(油脂+砂糖+ナッツ類)を、ヘーフェタイクの上にトッピングしたブレッヒクーヘンである。
多くの場合には、焼成、冷却後に水平に分割され、ヴァニラ風味のクリームが詰められる。トルテの形(円形)に仕上げられることもある。
上掛け生地は、ビーネンシュティッヒマッセ(Bienenstichmasse)と呼ばれ、生地重量の20%以上、使用されるナッツ類及びエールザーメン(Ölsamen:含油率の高い植物の種子)は、そのトッピングの30%以上でなければならない。
マンデル=ビーネンシュティッヒでは、アーモンドのみの使用が許されている。

クリームを詰められ、円形に仕上げられたビーネンシュティッヒ クリームを詰められ、円形に仕上げられたビーネンシュティッヒ
クリームを詰められ、円形に仕上げられたビーネンシュティッヒ。

 

米大統領とビーネンシュティッヒ

『2013年6月19日、オバマ米大統領がベルリンのブランデンブルク門で演説を行った。
その後、メルケル独首相が主催した晩餐会で、ビーネンシュティッヒのアプリコットシャーベット添え(Bienenstich mit Aprikosensorbet)が、4品のコース料理を締めくくった・・。』
という内容の記事を地元の新聞で見て、興味を抱いた。
料理を担当したのは、ベルリンにある2つ星レストランのシェフTim Raue(ティム・ラウエ氏)。旬のアスパラガス(Spargel)をはじめ、ドイツらしい素材や伝統料理を現代風にアレンジしているという印象の4皿が紹介されていた。

Bienenstich Obama in Berlin

Foto: Amin Akhtar

デザートの「ビーネンシュティッヒ」は、小さめの円形に仕上げられている。
ヘーフェタイクの土台部分にシロップを塗り、その上にヴァニラ風味のクリーム、ヴァニラとハチミツの泡、アプリコットとサフランのシャーベットが重ねられ、一番上にアーモンドのクロカント(カラメル状のアーモンド)がのせられている。
そして、写真では確認が困難だが、皿の上の少し離れた場所に、小さな「ミツバチ(Biene)」を模した菓子が添えられている。

*Restaurant Tim RaueのFacebook、2013年6月20日付けの「staatsbankett USA」にて、 晩餐会の料理の写真が紹介されている。

https://www.facebook.com/media/set/?set=a.578129462209892.1073741830.119829808039862&type=1

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Kimiko Kochs

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