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連載コラム 独逸見聞録
これから度々話の舞台となるのはオッフェンブルク(Offenburg)。ドイツの西南部のバーデン・ヴュルテンベルク州でも西の端、ライン河とシュヴァルツヴァルト(黒い森)の中間に位置する街です。この街に在住している辻調グループ校の卒業生(そして元職員)が、独断と偏見(?)を時に交えながら、食文化を中心とした情報をお届けします。
蒸留酒の製法 〜蒸留酒(其の弐)〜
   シュヴァルツヴァルト地方など、ドイツ南部の果物の生産地では、果物の蒸留酒(Obstbrand:オプストブラント)造りが、盛んに行われている。我が街オッフェンブルク周辺にも、大小様々な規模の蒸留酒製造所(Brennerei:ブレネライ)がある。
   今回は、このオプストブラントを中心に、蒸留酒(Branntwein:ブラントヴァイン)の主な製法について紹介する。

蒸留とは・・・
   「蒸留(Destillation:デスティラツィオーン)」とは、混合物を一度蒸発させた後、再び凝縮させることで、沸点の異なる成分を分離・濃縮する操作のことである。
   エタノール(飲用アルコール)の沸点は約78,3℃、水の沸点は約100℃であるため、酒を加熱するとエタノールの方が先に蒸発を始める。この蒸気を集めて冷却し、液体に戻すと、元の酒よりもアルコール度数の高い酒(蒸留酒)を作り出すことができる。エタノールを得たい場合は、78〜82℃でゆっくりと蒸留すると良い。
   沸点が低くて、揮発性の高い物質が、先ず抽出される(通常70℃以下で蒸発)。一般的にそれらの物質はアセトン、メタノールや様々のエステルで、分離して破棄しなければならないものである(メタノールは失明の原因となる)。
   82℃以上の温度で、エタノールを取り出した後に出てくる抽出液は、高級アルコールやフーゼル油など様々な複合物を多量に含む。
アルコール発酵過程で生産される成分とその沸点
発酵過程で生産される成分 沸点
アセトアルデヒド Acetaldehyd 20.2℃
青酸 Blausäure 26.0℃
エーテル Ether 35.0℃
アクロレイン Acrolein 52.8℃
アセトン Aceton 56.6℃
メタノール(メチルアルコール) Methanol(Methylalkohol) 64.6℃
エチルアセテート Ethylacetat 77.1℃
エタノール(エチルアルコール) Ethanol (Ethylalkohol) 78.3℃
Wasser 100℃
フーゼル油 Fuselöle 80〜160℃
★オプストブラントの製法

◆原汁の仕込み(Einmaischen:アインマイシェン)

   アルコール発酵のための原汁の仕込みには、完熟していて、香りの良い、新鮮で健康な果物を選別して用いる。可能であれば、品種を統一することが望ましい。
   黴、腐敗、破損部分がある果物は全て取り除く。未熟な果物も、香りが乏しく、糖分が少ないのでアルコール発酵に向いていない。
   この果物は、葉や茎などの異物を取り去り、しっかりと洗浄し、マイシェ(Maische:原汁)に加工する直前まで、清潔な場所で保管する。
   果物の種類に応じて、細かく刻むか押し潰す。果肉と果汁だけでは濃度が濃過ぎる場合には、多少の水分を補うこともあるが、果物の重量の3分の1までが目安である。

*ケルンオプスト(Kernobst)

   リンゴ(Apfel:アプフェル)や洋ナシ(Birne:ビルネ)などの「ケルンオプスト(仁果類)」は、他の果物よりも細かめに刻むか、押し潰す。苦味が出るので、軸の部分は取り去る。
   発酵終了後はなるべく早く蒸留しなければならない。洋ナシは比較的低温の12〜16℃で発酵させる。

*シュタインオプスト(Steinobst)

   サクランボ(Kirsche:キルシェ)やミラベル(Mirabelle:ミラベッレ)、アプリコット(Aprikose:アプリコーゼ)、プラム(Pflaume:プフラウメ)などが、この「シュタインオプスト(核果類)」に属する。サクランボの場合は軸の混入にも注意が必要である。
   蒸留液中の青酸(Blausäure:ブラウゾイレ)を増やさないため、果実の中央に一つずつ入っている硬い種を傷付けないように注意する。
   基本的な発酵温度は15〜20℃である。

*ベーァレンオプスト(Beerenobst)

   「ベーァレンオプスト」は、イチゴ(Erdbeere:エァトベーァレ)、キイチゴ(Himbeere:ヒムベーァレ)、クロイチゴ(Brombeere:ブロムベーァレ)、コケモモ(Heidelbeere:ハイデルベーァレ)などである。果実中の糖分が極端に少ない、黴が生えやすいなどの理由で、マイシェの仕込みに向かないものもある。
   葉や軸を丁寧に取り去り、果肉を押し潰す。比較的低温の12〜15℃で発酵。

ゲーァシュプント 発酵前(左)と発酵途中(右)水色の部分には、水が入っている。


ゲーァシュプント
発酵前(左)と発酵途中(右)
水色の部分には、水が入っている。

   果物の下準備が終わったら、細かく刻んだり潰したりした材料を、洗浄済みの清潔な容器に移し入れる。
   純粋培養の酵母(Reinzuchthefe:ラインツフトへーフェ)や酵素、酸などの添加物は、果物の破砕時、またはこの段階で混ぜ込む。
   添加物が均等に混ざったら、それ以降は必要以上に混ぜなくても良い。空気中の細菌の進入を防ぐ目的もあるので、蓋はしっかりと閉める。内部で発生した二酸化炭酸のみを随時排出できるように、ゲーァシュプント(Gärspund)と呼ばれる特殊な蓋を取り付ける。

◆発酵(Gärung:ゲァルング)

   発酵期間(Gärdauer:ゲーァダウァー)は、早ければ2週間、場合によっては6週間かそれ以上必要である。果物の種類や発酵温度によっても変わる。
   発酵の終了時期を見極めるには、マイシェの中に残っている糖分(Restzucker:レストツッカー)を調べる。その値が基準値以下であれば、発酵終了と見なすことができる。

◆蒸留(Brennen:ブレネン)

   蒸留装置(Brenngerät:ブレンゲレート)は、「単式蒸留装置」と「連続式蒸留装置」に大別できる。
   単式蒸留装置は、「蒸留釜(Brennblase:ブレンブラーゼ)」と「兜状の蓋(Helm:ヘルム)」、「(Steigrohr:シュタイクローァ)または(Geistrohr:ガイストローァ)」と呼ばれる管状の凝縮器」「冷却器(Kühler:キューラー)」で構成されている。
   連続式蒸留装置は、「ヘルム」に当たる部分が、縦列の複雑な棚構造を持つ「蒸留塔(Kolonne:コロンネ)」になっている。


単式蒸留装置(左)と連続式蒸留装置(右)の簡略図

単式蒸留装置(左)と連続式蒸留装置(右)の簡略図


   「単式蒸留装置」を利用する場合には、二度の蒸留が必要不可欠である。
最初の蒸留は、「エーァスター・ブラント(Erster Brand:一番目の蒸留)」または「ラウブラント(Raubrand:粗い蒸留)」と呼ばれる。
   この工程で取り出された液体部分が、ラウヴァッサー(Rauwasser)と呼ばれる粗酒精。
100年以上前の蒸留装置

100年以上前の蒸留装置

ローブラント(Rohbrand)やルッター(Lutter)などの別名もある。この際に釜の中に残されるのがSchlempe(シュレムペ)と呼ばれる残滓で、肥料や家畜の飼料などに再利用される。
   その後、ラウヴァッサーのみを再度蒸留する。これが「ツヴァイター・ブラント(Zweiter Brand:二番目の蒸留)」または「ファインブラント(Feinbrand:細かな・繊細な蒸留)」と呼ばれる工程である。この再蒸留の際に、フォァラウフ(Vorlauf:前留液)ミッテルラウフ(Mittellauf:中留液)ナッハラウフ(Nachlauf:後留液)の3段階に分けられる。
  • Vorlauf ・・・飲用には不適合。
  • Mittellauf・・・飲用アルコール(エタノール)と良質な味と香りの成分。
  • Nachlauf・・・沸点の高いアルコール成分が多く、エタノールの割合は低い。味・香り共に質が低い。飲用には不適合。
   「連続式蒸留装置」を使用する場合には、一回の蒸留だけで、初留・中留・後留に分けることが可能である。

◆蒸留後の熟成(Reifung:ライフング)

   蒸留直後のミッテルラウフ(中留液)は、粗くて調和が取れていない。希釈の作業に取り掛かるまでに、最低6〜8週間、15〜20℃の暗い場所で寝かせておく。熟成には、多少の酸素が必要なので、熟成用の容器の口近くまで注ぎ入れず、蓋は被せるが完全には閉じない(密閉しない)。
   熟成用容器としてオーク(Eichenholz:アイヒェンホルツ)などの樽を使用するのは、それに合う製品のみ(木材の香りや琥珀色が付加されるため)。繊細な味や香りのタイプの蒸留酒には向かない。

*貯蔵・熟成用の容器(Lagergefäß:ラガーゲフェース)

   熟成や貯蔵に使用する容器は、耐アルコール性で、無味無臭でなければならない。グラスバローン(Glasballon)は、20、30、50リットルなど様々な大きさがあり、割れる心配以外はパーフェクトな容器。内部がグラス加工された陶器も適合する。
   大きな容器が必要な場合には、ステンレス製タンク(Edelstahltank:エーデルシュタールタンク)も手入れが簡単で便利である。


ステンレス製の容器 グラス製の容器

ステンレス製の容器

 

グラス製の容器


◆希釈(Einstellen der Trinkstärke:
   アインシュテレン・デェァ・トリンクシュテァケ)


   ミッテルラウフ(中留液)の殆どが、60〜70%vol.のアルコールを含有している。このアルコール度数を飲用に希釈・調整しなければならない(オプストブレンデの場合は37.5%以上)。
   希釈には、カルシウムやマグネシウムなどを含まない無味無臭の軟水を使用する。硬水は濁りを導くことになるので避ける。
   混ぜ合わせる際には、水と蒸留酒は同じ温度に調整しておく。数日間、同じ室内に置いておくと良い。先ずゆっくりと掻き混ぜながら、蒸留水に水を注ぎ足す(必ず蒸留酒に水を加える)方法で、55%vol.まで落とし、残りは水の雫を蒸留水に垂ら方法に切り替える。この方法を用いれば、43%vol.までは殆ど混濁させずに済む。
   混合の後、アルコール度数を計り、再度調整し直す。

◆濾過(Filtrieren:フィルトリーァレン)

   希釈によってアルコール度数を下げることにより、混濁の危険性が高まる。蒸留酒の原酒の中では、絶えず長所と短所を持つ様々な化学反応が発生している。アルコール度数を45%vol.以下に薄めると、それまでの作業工程にミスが全く無くても、混濁することがある。高濃度のアルコールに溶け込んでいた成分(フーゼル油、エステル、テルペン、カルシウムやマグネシウムなど)が分離浮遊し易くなるからである。この他、冷蔵庫での貯蔵も、混濁を引き起こす一因となる。
   フィルターにかけて混濁を除去する濾過処理自体は簡単であるが、同時に香りや味の成分の一部も失ってしまう。浮遊物質と一緒に、味覚物質の一部も分離せざるを得ないため、品質低下に繋がる。

◆熟成(Lagern:ラーガーン)

   アルコール度数を飲用に調整した後の蒸留酒は、最低でも数週間、暗くて暖かな場所で更に熟成されなければならない。
   アルコール分子と水素分子を結び付けるためには、ある一定の期間が必要だからである。良く熟成させた蒸留酒は円やかで調和が取れている。辛さと強さが口内や喉を焼く蒸留酒は、高品質だとは言えない。
   低温での貯蔵も可能であるが、その場合には、熟成期間を長めに取らなくてはならない。

◆瓶詰(Flaschenfüllung:フラッシェンフュルング)

土産やプレゼントにも向く「様々な形状・容量の瓶

土産やプレゼントにも向く
「様々な形状・容量の瓶」

   アルコールは温まると容積が増え、冷えると収縮する性質があるため、アルコール度数や分量を計測する際の基準となる温度は20℃と決まっている。勿論、瓶詰の際にも、これを守らなくてはならない。
   ラベル上に記されたアルコール度数との誤差が、上下0.3%vol.以内しか認められていないため、特に厳密な計測が必要である。
   販売用の瓶に詰めたアルコールが、その後の温度上昇によって溢れ出すことが無い様に、瓶詰の際に(瓶の口まで多少の余裕を持たせる)配慮しなければならない。

◆ラベル(Etikett:エティケット)

   ラベルに必ず記載しなければならない事項が何点かある。
  • 製品名(販売上で通常使用されている名前)
  • 製造者の名前と住所
  • 製品のアルコール度数
  • 内容量(体積)
  • 仕込み番号(Chargennummer:シャールジェンヌマー)。
    必ず「Los」の頭文字の「L」を番号の前に記載。
 

コラム担当

Kimiko Kochs
人物 キミコ・コッホス
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