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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
一流シェフが絶賛! 手練りで生まれるブルターニュの有塩バター
 今、フランスの多くの三ツ星レストランや一流ホテルでフランス一と評判になっているバターがあります。ジャン=イヴ・ボルディエJean-Yves Bordier氏のブール・ドゥミ・セルBeurre demi-sel(有塩バター)です。今回はこのスペシャルな有塩バターについて紹介したいと思います。
 フランスでバターといえば、日本と違って無塩バターが主流ですが、フランスの西部ブルターニュ地方はバター消費量の9割が有塩です。有塩バターの消費量は全国平均値の1.5倍とフランスで一番高くなっています。レストランなどで添えるテーブルバターも有塩のものです。三方を海に囲まれ、海水から豊富に取れる塩の生産地としても知られ、日本でも話題のゲランドのフルール・ド・セルがとれるのもこのブルターニュ地方です。その昔、ここから何ヶ月も遠洋に出かける船乗りたちが、保存のためにバター壷に粗塩を入れたのが始まりと言われていますが、もともとふんだんに塩を使うことができた地域性が、塩入りバターの生産量とその評判を高めたようです。健康志向に押され気味だったバターですが、最近になって栄養的価値が見直され、伝統的製法に立ち返ってじっくりと熟成された高品質な味を求める声が広がっています

手練りで生まれる古き良き味
 有塩バターの製造方法は一般に、牛乳→遠心分離→クリーム→殺菌→熟成→攪拌→バター粒→水洗い→ワーキング→加塩→成形です。現在では産業化に伴い、従来の何十倍もの速さで、一気に成形まで仕上げる機械を使うメーカーが99%を占めています。そんな中で残り1%で続けられているのが「ブール・バラットbeurre baratte」です。工場製との違いは、攪拌作業の段階で熟成時間をじっくりかけて作ることです。最近では、パッケージにこの文字を見ることも増えてきました。

マラクサージュを行うボルディエ氏
マラクサージュを行うボルディエ氏
マラクサージュの機械
マラクサージュの機械
塩を加えるところ
塩を加えるところ
 ボルディエ氏のバターもこのブール・バラットのものが元になっていますが、これからさらにワーキングの段階で「マラクサージュMalaxage」という伝統的な手練り製法を行うことにより、他のものとは違う風味豊かなバターを作り上げています。

 作業場の練り機は、今ではごく稀な木製の半世紀前の年代物です。バターを練る内側表面とローラー部分が木製の特注品。木の表面のつやからもその伝統が感じられます。木製ですがきちんと衛生管理も行い、昔ながらの手作業で少量ずつ練り上げていきます。
 練り作業は、ローラーで伸ばした生地を手でかき集めてはまた伸ばす、という作業を約20分続け、その間に海塩を練り合わせていきます。その塩の細かさは60ミクロンと非常に細かいもので、塩の分量も各レストランやホテルの注文にあわせて調整しています。バターの甘い匂いが漂い、塩を入れるたびにバターの表面が湿気をおび、「涙」と呼ばれる余分な水分が外に滲み出てきます。この「マラクサージュ」(手練り作業)でバターがより滑らかになり、独特の柔らかな質感と風味が生まれていくのです。これがボルディエバターのおいしさの秘密なのです。
 仕上げは木製のへらで一つ一つ職人の手によって丁寧に成形し、包装しています。ホテルやレストランからの注文が多く、小さなテーブルバター用のサイズに成形して届けていることにも驚かされました。手作業の多い仕事を逆手に取った、きめ細やかな対応も一流客から厚く信望されている理由に違いありません。
できたてのブール・ドゥミ・セル 小さなものも一つずつ手作業で成型する
できたてのブール・ドゥミ・セル 小さなものも一つずつ手作業で成型する
Fromagée Jean-Yves Bordier
フロマジェ・ジャン=イヴ・ボルディエ

9 rue de l'Orme 35400 St Malo
Tel:02 99 40 88 79
営業時間:8時〜19時
定休日:日曜日

フロマジェ・ジャン=イヴ・ボルディエ
 ジャン・イヴ・ボルディエ氏が、ブルターニュの観光地サン・マロの城壁内の古い乳製品店を買い取り、新装オープンしたのは20年前です。この「フロマジェ・ジャン=イヴ・ボルディエFromagée Jean-Yves Bordier」で3種類のバターを買うことができます。ブール・ドゥミ=セルBeurre demi-sel(有塩)、ブール・ドゥBeurre doux(無塩)、ブール・ダルグBeurre d’algue(海草入り)。好みの量を注文すると、大きなかたまりからバターを切り分けて、木のへらでたたき、成形して包装してくれます。
 ボルディエ氏はまたメートル・フロマジエMaitre Fromagierでもあります。チーズのソムリエのような方です。専用のカーブをもっていて、各地から彼自身が選んだチーズを保管し、よい熟成のものを出していくそうです。そのほかヨーグルトや生クリームなどの乳製品も扱っています。ほかに、バターの成形用の木製型も売っています。今は見ることの少なくなったバターやチーズを作る古い器具などもディスプレイされていて、まるで小さな博物館のようです。
かたまりで並ぶバター お店に並ぶフロマージュ 昔のバター作りの器具
かたまりで並ぶバター お店に並ぶフロマージュ 昔のバター作りの器具

こだわりの有塩バターで菓子作り
 無塩バターが基本と言われるお菓子作りにも、ものによっては、きめ細かい塩分をじっくりとなじませた有塩バターのほうが、風味も使い勝手もよい、と私に教えてくれたのはカンカルにある「グラン・ド・ヴァニーユGrain de Vanille」のシェフ、ヤニック・ゴティエ氏です。ここは2006年ミシュラン3つ星に輝いた「メゾン・ド・ブリクールMaison de Bricour」のオーナーシェフ、オリビエ・ロランジェ氏と共同経営するパティスリー&サロン・ド・テです。素材の質にこだわり、伝統的製法を重んじる両氏が推薦するのがこのバターです。実は私はこのお店で研修をし、このボルディエバターに出会いました。有塩バターがたっぷりと入ったブルターニュの地方菓子、ガレットやポメをはじめとする素朴な焼き菓子を最高級の素材でレベルアップして作っています。このお店のスペシャリテ、キャラメル・ブール・サレCaramel beurre saleやガレット・カンカレーズGalette Cancalaise作りには、その風味の決め手となるボルディエ氏のバターなしでは考えられないとゴティエ氏はいいます。他にもブリオッシュのような発酵生地を作る場合、塩の接触が間接的な有塩バターは、イースト菌の活動を妨げないそうです。
ガレット・カンカレーズ ブリオシュ キャラメル・ブール・サレ
ボルディエのバターで作る「グラン・ド・ヴァニーユ」の
ガレット・カンカレーズ、ブリオシュ、キャラメル・ブール・サレ
 フランスで有塩バターを使ったお菓子は数多くありますが、このボルディエ氏のバターで作るお菓子に出会えるのはここ「グラン・ド・ヴァニーユ」だけです。時間をかけ、あくまで手作業にこだわり、このブルターニュの土地で生み出していく姿勢を崩さない、職人やシェフの作るブルターニュの「食」に会いに一度出かけてみてはいかがでしょうか。
キャラメル・ブール・サレを作るゴティエ氏 Grain de vanille
グラン・ド・ヴァニーユ

12, place de la Victoire, 35260 Cancale
Tel:02 23 15 12 70
営業時間:10時〜12時30分/14時半〜16時30分
定休日:火・水曜日(7月、8月は火曜日のみ)

キャラメル・ブール・サレを作る
ゴティエ氏



コラム担当

辻調グループ校 製菓部
人物 浅丘 真優美
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