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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
ジロンドで生まれた「フランス産のキャビア」
   キャビアとはチョウザメの卵を塩漬けにした保存食の一つです。現在、世界には26種類のチョウザメが生息していると言われています。名前にサメとついていますが、サメの仲間ではありません。サメと異なり体内環境調節に尿素を使わないことからチョウザメの身は臭みがなく、キャビアを取った後も食材としての利用価値が高いです。もう1つ、サメには浮き袋はありませんが、チョウザメにはあります。また、名前に「チョウ(蝶)」とついていますが、これは体についている堅い鱗が蝶の形に似ていることから来ています。口の下には4本のひげ(触覚)があり、それで餌を探し、口を前に伸ばして食べます。餌は、海底では二枚貝、甲殻類や小魚、河川域では昆虫の幼虫やザリガニ、巻貝を食べます。チョウザメのほとんどは河川で生まれ、海や湖沼で成長します。成熟すると生まれた河川に戻って産卵し、また海に戻る習性を持っています。
   フランスでは1920年代から、特にボルドー地方のジロンド川、ガロンヌ川、ドルーニュ川に生息していたヨーロッパチョウザメを、高価なキャビアをとるために漁が行われていました。しかし、生産量の増大のため乱獲や密漁が増え、チョウザメの数は次第に減少していきました。フランスでチョウザメが見られるのはジロンド河口だけとなってしまいました。
   次に、キャビアの代表的な種類を紹介します。
   「ベルーガ」。キャビアの中で最上といわれるオオチョウザメHuso huso の卵。体長は4m弱、体重は100〜200kg。採取できるキャビアの量は体重の約15%、つまり1匹から15〜30kg位しか取れません。また、近年は漁獲量も減少してきて、価格も高く希少価値が高まっています。
   2つ目は「オシェートラ」。ロシアチョウザメAcipenser gueldenstaedtii の卵。体は2m程で、体重は40〜80kg。粒はベルーガより小さくなりますが、色は鮮明な灰色をしています。
   3つ目は「セブルーガ」。ホシチョウザメAcipenser stellatus の卵。上記2種のチョウザメに比べ、一番小さく、体長は最大で1.5m、体重も25kgを超えることがあまりありません。キャビアの粒も小さく、色も暗い灰色をしています。ブルガリア、中国、イスラエルでも養殖が行われています。
   上記3種のチョウザメはいずれもカスピ海沿岸地域に生息しています。この地域で世界のキャビア生産量の約90%をまかなっています。しかしながら、この地域でも石油・石油ガスの生産、都市化、ダム建設などが原因で自然環境が乱され、漁獲量の急減、種類によっては絶滅の危機に瀕しているものまであります。このような原因から、漁獲量の制限強化や稀少動物の保護の面からも、ヨーロッパではチョウザメの養殖を進めるようになりました。フランスでの養殖は1980年代から始まりました。今回は、チョウザメの養殖とキャビアの製造に初めて成功した、ジロンド県のチョウザメの養殖場に見学に向かいました。
   場所はボルドーから約35km離れた所にある
ル・ムーラン・ドゥ・ラ・カサドットの看板

ル・ムーラン・ドゥ・ラ・
カサドットの看板

「ル・ムーラン・ドゥ・ラ・カサドットLe Moulin de la Cassadotte」を訪ねました。まずは、案内人からこの会社の概要とジロンド県でのチョウザメ養殖の歴史について説明を受けました。
   1968年、この会社の創設者でもある養魚家のキャレ氏はマスとニジマスの養殖を始めるために、近くに森と泉水がある土地を買い求め、コンクリートや木材を使って貯水槽を作り、翌年、養殖を開始します。
   1973年頃からジロンド県でキャビアの売買が盛んになり、キャビアを多く生産しようと原料のチョウザメが乱獲にあいました。チョウザメは絶滅の危機に瀕し、これを危惧した閣僚はチョウザメ漁の禁止を決定し、チョウザメの繁殖の研究を考え始めました。国はチョウザメに関する国立研究所を設置し、ロシアから200匹のシベリアチョウザメAcipenser baerii の稚魚を導入し、この地方に生息しているヨーロッパチョウザメAcipenser sturio と2種類のチョウザメの繁殖の研究を始めます。


工場内には多数の水槽があります   この会社で養殖を始めた種類のチョウザメ 上がシベリアチョウザメ(baerii)下がヨーロッパチョウザメ(sturio)

工場内には多数の水槽があります

 

この会社で養殖を始めた種類のチョウザメ
上がシベリアチョウザメ(baerii)
下がヨーロッパチョウザメ(sturio)


   1985年、キャレ氏はレベルの高いマス養殖技術を国立研究所より買われ、今まで行っていたマスの養殖を打ち切り、専門的にチョウザメの養殖を開始する決断をしました。1988年、最初のチョウザメ(10000匹のシベリアチョウザメ)の繁殖に成功します。1990年、キャレ氏は卵のふ化に必要な水源を得るために202mの井戸を掘り、17℃の水が湧き出る水源を確保しました。1992年、チョウザメの繁殖は50000匹にのぼりました。
   チョウザメの人工ふ化と養殖に成功した会社は、1993年、初めてフランスでのキャビアの生産に成功します。1996年、この会社のキャビアは粒がきれいで臭いもなく、余分な水分もないという評価を受けました。今日、この会社はこれまでのノウハウを活かし、絶え間ない努力を続け、品質の良いキャビアをお客様に提供し続けているとのことでした
    その後、見学者用の水槽の前でチョウザメの生態と飼育方法について説明を受けました。水槽には3匹のチョウザメがいて、水槽から出しての説明もあり、途中でさわることも出来ました。チョウザメには普通の魚のように体全体が鱗で覆われていないで、体全体がぬめりに覆われていました。水につけながら取り出すと、チョウザメは落ち着いて手の中に収まっていました。
   チョウザメの稚魚はメスが2に対してオスが1の割合で生まれてくるそうです。しかし、4〜5年たたないと雌雄の識別が出来ません。稚魚の飼育は魚のすり身を90%に、10%のミネラル分を混ぜ合わせた餌を与えます。稚魚の体重を1kg増やすのに10kgの魚のすり身が必要です。1匹のチョウザメから取れるキャビアの量は、体重の約10%。キャビアの粒の大きさは直径2.8mmほどのものが取れます。野生のチョウザメは寿命が100年と長く、メスは2年のサイクルで卵を産み続けるそうですが、乱獲の影響により近年では見ることは難しくなりました。


紹介用の水槽には数匹のチョウザメがいます   実際に手に取ってチョウザメを観察

紹介用の水槽には
数匹のチョウザメがいます

 

実際に手に取ってチョウザメを観察


    その後、パネルを使いながらチョウザメ飼育・キャビア製造工程の説明を受けました。
    第1工程は「雌雄鑑別」。生まれてから4〜5年、体重が3kg程に育ったチョウザメ
1匹ずつ超音波をあて、卵を産むメスを選別します。
    第2工程は「成熟度確認」。第1工程で選ばれたあとのチョウザメ(生後8年に成長したメス)から試験的に魚卵を取り出し、色と大きさからそのチョウザメの成熟度を5段階で見極めます。
    第3工程は「洗浄」。キャビアをチョウザメから取り出す15日前に、不純物を取り除いたきれいな水の入った水槽にチョウザメを移します。これは、チョウザメから泥臭さを抜くのと、余計なストレスを取り除くのを目的に行われます。
   最後の工程は「製造」。
キャビアの製造工程
チョウザメの腹を切り開く→取り出した卵をほぐす→不純物を洗い流す→塩漬けにする→水切りをする→缶に詰める

キャビアの製造工程
チョウザメの腹を切り開く→
取り出した卵をほぐす→
不純物を洗い流す→
塩漬けにする→水切りをする→
缶に詰める

キャビアを製造するために必要な衛生条件を満たした工房で、チョウザメからキャビアを取り出し、加工を施します。この工程は5工程に分かれています。
   製造の第1工程は「ふるい分け」。まず、チョウザメの腹を切って袋状になっているキャビアを取り出します。取り出したキャビアをステンレス製のふるいの上にのせ、優しく押しながらキャビアをばらつかせていきます。
   製造の第2工程は「不純物の除去」。ばらばらになったキャビアを水ですすぎながら、不純物を取り除きます。
   製造の第3工程は「塩漬け」。不純物が取り除かれたキャビアに均一に塩をします。
   製造の第4工程は「水切り」。塩をしたキャビアをステンレス製の網の上に乗せ、余分な水分をのぞきます。
   製造の第5工程は「詰め込み」。キャビアを瓶または金属の缶に機械を使って詰めていきます。これでキャビアの完成です。
   キャビアは−2℃〜+2℃で保存されます。この工場では年間1トンのキャビアを製造しています。1トンという生産量は決して多くないのですが、この厳格な製造方法を守り、自然環境の法則を乱さないように適度な量のキャビア製造が行われています。
   最後に、
キャビアはボルドーの白ワインと試食

キャビアはボルドーの白ワインと試食

この会社で作られているキャビアの試食をしました。保存料不使用、チョウザメの卵と塩のみで作られたものを食べました。味の説明は、バター、ノワゼットの味を感じさせ、口当たりはとてもなめらかだということです。実際に食べた感想は、日本のたらこを連想させるような味でした。とても繊細な塩味とさらっとした食感でした。相性のいいワインは、ソーヴィニョン・ブラン、ボルドーの白ワイン。繊細なキャビアの味を最大限に生かすにはあまり個性が強くないワインが合います。キャビアにはウォッカと共に食べることもありますが、この繊細な味のキャビアには合わないそうです。
   キャビアを取り出したチョウザメはさまざまな方法で利用されます。身は料理に使われ、ここではリエットが販売されていました。他に、皮からは財布、油脂からは化粧品が作られます。


チョウザメの身で作ったリエット   キャビアを置くスタンドと専用のスプーン(牛の角製)

チョウザメの身で作ったリエット

 

キャビアを置くスタンドと
専用のスプーン(牛の角製)


    そして、キャビアを使った料理を知るために、レストランでキャビアとチョウザメ料理を試食しました。メニューにはキャビアのオードブル3品とチョウザメの身の料理1品が用意されていました。

缶にびっしりと詰まったキャビア・ド・ジロンド   レストランのキャビアの説明とメニュー 「フランスのキャビアの味は、ボルドーの風土に密接に結びついています。アキテーヌのキャビアはヨーロッパチョウザメの卵。キャビアを添えると料理に華やかさが加わります。」

缶にびっしりと詰まった
キャビア・ド・ジロンド

 

レストランのキャビアの説明とメニュー
「フランスのキャビアの味は、ボルドーの風土に密接に結びついています。アキテーヌのキャビアはヨーロッパチョウザメの卵。キャビアを添えると料理に華やかさが加わります。」


   まずはレ・ポム・ドゥ・テール・オ・キャビアLes pommes de terre au Caviar(じゃがいものキャビア添え)。皮付きのじゃがいもの上に、生クリームを泡立てたものとキャビアがのっていました。生クリームはキャビアの塩味をまろやかにし、じゃがいものホックリした食感とよく合っていました。もう1品注文したのはウ・ブルイエ・オ・キャビアŒufs bouillés au Caviar(スクランブルエッグのキャビア添え)。半熟のスクランブルエッグにキャビアを添えたとてもシンプルな料理。卵の濃厚なうま味とキャビアのねっとりとした食感がよく合っていました。レ・トラント・グラムLes 30 grammes(30gのキャビア)というキャビアそのものを味わう1品も用意されていて、アルマニャックを飲みながら食べるそうです。

じゃがいものキャビア添え   スクランブルエッグのキャビア添え

じゃがいものキャビア添え

 

スクランブルエッグのキャビア添え


   メインにはフィレ・デステュルジョン・ア・ラ・ボルドレーズFilet d’esturgeon à la Bordelaise(チョウザメのボルドー風)を食べました。
チョウザメのボルドー風

チョウザメのボルドー風

バターで焼かれたチョウザメの身にポロネギが入った赤いワインソースが添えられていました。身はふっくらとして淡白な味でしたが、少し泥臭いように感じました。身だけを食べるとうなぎの白焼きの味に似ていました。くせのある魚だけに、赤ワインを使ったインパクトのあるソースがよく合っていました。

   今回見学した「ル・ムーラン・ドゥ・ラ・カサドット」はフランスで初めて国産の養殖キャビアを生み出した会社です。ここでは、きれいな自然の中でチョウザメが育ち、とても品質が高いキャビアが生み出されていることが間近で確認することが出来ます。


 

コラム担当

西洋料理担当
人物 吉田 貴
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