トーニの店の大きなパン   ＜【ひとくちのエピソード】ってどんなコラム？＞   鎧戸の蝶番が鳴く。 かろうじて通れるくらい窓が開くと、ウゲットはすき間にするりと身をすべり込ませた。 薄曇りの空に滲む月の光、犬が吠える。 芝生の上にしっかりと両足をつける間もなく、庭を一気に駆け抜けて、屋敷を取り囲む闇に沈んだ塀にへばりつく。 犬はもう吠えていない。乱れた息のかすかな音だけ。 どの

オリーブの夢うつつ   ＜【ひとくちのエピソード】ってどんなコラム？＞     方舟をつくって大洪水を逃れたノアが放った一羽の鳩。 夕方、くちばしにその木の小枝を加えて戻り、ノアは地上から水がひいたことを知る。 《創世記》 ＊ 〈人間により役立つもの贈ったほうに、この地を与えよう〉 海神ポセイドンと争った女神アテナはその木を贈って勝利。町はアテナイと名づけられる。 《

アルバの犬とダイヤモンド   ＜【ひとくちのエピソード】ってどんなコラム？＞   すっかり収穫の終わった葡萄畑では、役目を終えた葉が赤に黄色に染まり、最後の輝きをはなって秋の深まりを知らせています。 まるでパッチワークキルトのごとく彩られたランゲ（*）の小高い丘の上に、ロッディRoddiの町があります。 塔を備えた小さなお城のそばにある大学。 学生が今日も元気に学んでいることで

夏が近づけば思い出す、たわわに実る野菜で作りたい甘酸っぱいカポナータ。ピッツァ・マルゲリータの背後に浮かぶベスビオ山と弧を描く海岸線に、碧い海。   レストランで出合ったひと皿に思い浮かべるイタリアの情景や、お菓子にまつわる小さな物語をとりとめなく書きつけます。   そのひと品の隠し味にささやかなファンタジーを！

１．アルバの犬とダイヤモンド ２．オリーブの夢うつつ ３．トーニの店の大きなパン ４．橘の乱 ５．海の怪物たち ６．彼岸にかかる橋 ７．だんごのはなし