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【とっておきのヨーロッパだより】 Jura地方 黄色いワインの憂鬱
2010年10月21日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

 フランスの食文化といえばワインなしには語れない。このとっておきのヨーロッパだよりのなかでも度々紹介されているように語って尽きることのないその魅力。味・香り・色。しかし、我々が強く引きつけられるのは何といってもその多様性。ということで今回は日本ではあまりなじみのないジュラ地方、そしてこの地で生産されるヴァン・ジョーヌ(黄ワイン)、その中でも最高級とされるシャトー・シャロンをご紹介します。
さあ、知れば知るほどうまくなるワイン編、ジュラ山脈に向け出発!!

    
  エスコフィエ校から車で約2時間半                     ジュラ地方区域分け地図

ジュラはブルゴーニュ地方の東、スイス国境に隣接するフランシュ・コンテ地方におけるワイン醸造の中心地。フランス最古のブドウ畑の一つに数えられる。フランスとスイスにまたがるジュラ山脈に沿ってその西側にブドウ畑が広がる。かつて2万hrあったブドウ畑は19世紀初頭のフィロキセラ禍(ブドウネアブラムシによる虫害)で壊滅的打撃を受け、現在は約1800hr、縦80km、横20kmと規模としては小さめで生産者数は約500軒。よって生産されるワインの量も限られ、国内で消費されるため日本などではあまり見かけられない。北からアルボア(Arbois)、シャトー・シャロン(Chateau-Chalon),レトワール(L'Etoile)という3つの自治体の名を呼称するものと ,コート・ド・ジュラ(Cote de Jura)という地方名をつけたものの4つに分けられる。
さて、ここで今回紹介するヴァン・ジョーヌ(Vin Jaune)の製法について。
ブドウ品種はサヴァニャンを使用し、通常のワインと同じように発酵させた後、木樽に移す。樽貯蔵時に蒸発によって目減りする分を補充せずにゆっくりと熟成させ、産膜酵母と呼ばれる微生物の働きにより表面が酵母で覆われたまま最低6年間熟成させる。この工程を経ることで木樽からのシェリー香、酵母により引き出される複雑な(タイム、ローリエなどの香辛料のような)香りが合わさりヴァン・ジョーヌという特別な個性が誕生する。熟成後からすぐに飲み始めることができ50年以上経過しても品質は劣化しないという。このヴァン・ジョーヌの最高級品とされるのがシャトー・シャロンである。
 使用されるサヴァニャンというブドウ品種はジュラ地方特有のもので皮が厚く、果皮はほんのりピンク色、実は歯ごたえがありしっかりとしている。名前の由来は野生という意味の「ソヴァージュ」からきており、アルザス地方のゲヴェルツトラミネール種と近縁にあたるとされている。
今回訪れたのは、シャトー・シャロンの畑と生産者のドメーヌ・ド・ラエDOMAINE DE LAHAYE。そしてガイドにこの土地のワインに通じている専門家のクリストフ・メノッツィChristophe Menozzi氏。メノッツィ氏は元ソムリエで現在はワインのコンサルタントの仕事をされているジュラワインのスペシャリスト。さっそくシャトー・シャロンのブドウ畑を案内してもらう。(取材・写真は8/14のもの)

      
    シャトー・シャロンの畑                                              熱を蓄える役目の壁面

   メノッツィ氏に説明を受けながらシャトー・シャロンの特長の分かりやすい何軒かのブドウ畑を巡る。遠くに見える崖の下が一等地、この崖の壁面が昼間のうちに熱を蓄えてそれを放出するのでブドウの成長によりよい結果をもたらす。シャトー・シャロンという名はかつてこの丘の上にあった修道院にちなむ。1936年に定められたワイン法により道を挟んだ反対側の畑はシャトー・シャロンは名乗れないなど管理がしっかりとなされている。      
この土地で栽培されているのは現在5品種。赤ワイン用のピノ・ノワール、トゥルソー、プールサール。白ワイン用のシャルドネ、サヴァニャン。
畑の立地はかなりの急斜面。斜面の角度により日照時間が違うのでブドウの収穫もそれぞれの畑の状態に合わせて3回に分けて行うとのこと。上に行くほど斜面がきつくなっており、一番高い畑ではただ歩いているだけでも息が切れるほどのちょっとした登山感覚。もちろん機械は入れずすべての作業を手で行わなければならない。山に囲まれ夏も冷涼な気候のため例年収穫はほかの産地より遅めのことが多い。今年(2010年)は一番早く収穫されるもので9月14日からクレマン・ドュ・ジュラ用、9月20日からヴァン・デュ・パイユ用、そして9月29日から10月10日くらいを目安にシャトー・シャロンの予定。統計を見てみると昔に比べやや収穫時期が早くなってきているのが分かる。生産者によってはよりしっかり完熟させるためヴァンダンジュ・タルディヴ(vendanges tardives)と呼ばれる遅摘みを選択することもある。
中には雑草が茂っている畑もあり、これはビオ農法(無農薬で生産される)のもの、隣の畑と比べるとついているブドウの房は半分以下。当然それだけ値段も上がるはずだが、メノッツィ氏曰く「ここがボルドーやブルゴーニュであれば値段を上げても問題ない。しかしジュラというブランドでは限度がある。」と。これが現在ジュラの抱える問題の一つ。そしてまた頭を悩ます別の問題が。「ところどころ枯れた木があるのが分かりますか?」と言われ注意深く見てみると確かに葉が茶色の木が。これはレスカと呼ばれる病気で、ここ10年位で広がってきたもの。葉のほうから枯れ始めて最後には木が死んでしまうもので原因が分からず今のところ有効な対策はない。
     
    レスカにかかって枯れた木                                急な斜面のため梯子が

さらに一番急な斜面へ。ここには地面が崩れないようにするためと作業がしやすいようにということで梯子が備え付けられている。端のほうに植えられたばかりの苗木、植えてから最初の収穫までは3年間かかるそう。そしてこのあたりの畑の脇の道には粘土質の土の層が。そうこれがジュラの特徴の一つ。ジュラの土壌は主に「泥炭質」(湿原植物などが枯死、堆積し、部分的に分解、炭化作用が行われた土塊)、「粘土質」(ほとんどが岩石や鉱物の科学的風化の二次鉱物粒子のことで、水を含めば粘性を持つ土の総称)、「石灰質」(堆積岩の一種で、酸化カルシウムからなるアンモナイト、有孔虫、サンゴ、貝類などの動物の殻や骨格などが水底に積もって生じ、それらが化石として見られることもある)の3種で構成されている。この土壌の性質がブドウに引き継がれ個性的なワイン(ミネラル感があると評される)へと進化を遂げる。かつて修道院の尼僧がハンガリーのトカイから持ち込んだブドウの苗木が改良されてこの地方独特のサヴァニャン種になったといわれているが一般的な白ワイン用の品種であるシャルドネもこの土壌で育つことでジュラのシャルドネといった顔つきになる。
*地質学における地質時代名の一つである「ジュラ紀」の「ジュラ」はジュラ山脈の名を語源としており、石灰岩を主とするこの地の堆積層を研究したことによる*
     
   粘土質の層、触ると非常にもろい                       発掘された化石(貝類)

畑の見学を終えた後はお待ちかねの試飲へと。ドメーヌ・ド・ラエDOMAINE DE LAHAYEを訪ねる。お目当てはもちろんヴァン・ジョーヌだがその他のワインも非常に興味深いものがあり勧められるままとにかくまずは飲んでみることに。

  
①Cotes du Juraコート・デュ・ジュラ 2007(白:シャルドネ)
酸味がしっかり効いていて脂っこい料理にあう。シャルドネは一般的な品種だがミネラル分の多い土壌で育ったためどっしりとした酸味に仕上がる。魚のパテとの相性が抜群。色は一般的な白ワインと同様。

 
②Cotes du Juraコート・デュ・ジュラ 2009(赤:プールサール)
当初ワインの色が薄く人気がなかったため他の品種(トゥルソー)を混ぜるという議論も交わされたが、それぞれの品種の味がはっきり分かるように単一種で、収穫量を減らして完熟させることで色を濃く仕上げることに成功。タンニンが少ないので15~16℃に冷やして飲むのがお勧め。透明感がありフレッシュな感じの赤色。

 
③Cotes du Juraコート・デュ・ジュラ 2006(白:サヴァニャン)
こちらはヴァン・ジョーヌと同じ品種サヴァニャンを使用。シャルドネはステンレスタンクを使用するがこちらは木樽を使用するためシェリー香がある。こちらも酵母に覆われたまま発酵させることでサヴァニャンの持つ個性を引き出す。ヴァン・ジョーヌとは熟成年数の違いがあるが性格は良く似ている。個人的には少し紹興酒を思い出す香りと味。やや黄色がかった色。


④Chateau-Chalonシャトー・シャロン 2003(黄:サヴァニャン)
この2003年は例年より1ヵ月以上早い8月18日から28日にかけて収穫。これは1822年以来の早さとのこと。この年は早く熟したため糖度は高いが酸味が足りず、どうやって創るか頭を悩ませたが、結果としては満足のいく出来となった。ミネラルがあるので6年熟成しても重くならずにフレッシュ感がある。ヴァン・ジョーヌの中でもシャロンは特に飲み口、後味がすっきりしている。他の場所のものは後味が重く、キレ味に欠けるという。
さらに写真では分かりにくいがボトルの形が少しずんぐりとしたものになっている。これはクラヴラン(Clavelin)と呼ばれる容量620mlのボトルで6年間の熟成で1Lのワインが蒸発により目減りした残りの量だといわれる。これを使用するのもヴァン・ジョーヌの特徴の一つ。色はやや深みのある黄色。


⑤Vin du Paille  ヴァン・デュ・パイユ2005(サヴァニャン、プールサール) 
収穫したブドウを干し、糖度を上げて作る甘口のワイン。ブドウを藁の上に広げて干したことからこの名がついたが、現在は屋根から吊るすかカゲット(cagettes)という箱に入れて通気性のよい場所で乾燥させる。原料には菌類による腐れに強いサヴァニャンとプールサールを使用する。アルコール度数14.5%と少し高め。甘いけれど重たくならないのは酸味のせい。干してもブドウの持つ特性は残りワインに反映される。100kgのブドウから18~22Lのワインが生産される。ボトルは375mlのものを使用する。色は薄い茶色。


⑥Macvin de Jura  マクヴァン・ド・ジュラ
ブドウの搾りかすを原料にしてつくる蒸留酒eau-de-vie de marc(オ=ド=ヴィ・ド・マール)とブドウジュースを2:1の割合で合わせたものをさらに樽で熟成させたもの。アペリティフにお勧め。ヴァン・ド・リキュールvin de liqueurとも呼ばれる。色は一般的な白ワインと同様。

この他にもクレマン・デュ・ジュラ(Cremant du Jura)と呼ばれる発泡性のワインもある。
これだけ飲めば「ジュラだけが食前酒から食後酒までを完全に提供できる産地である。」というメノッツィ氏の言葉にも納得だ。試飲のつまみはもちろんこの地方のチーズ、コンテ。そのコクのあるミルキーな味わいと酸味のしっかり効いたヴァン・ジョーヌをひたすら交互に口に運ぶ。ワインがなくなるまで...。これだけでも隙はないが特に古いワインに合わせるならチーズだけより香辛料を好みでプラスするとよいそうだ。実際にこの後メノッツィ氏の自宅で昼食を御馳走になったときヴァン・ジョーヌの1967年(さらに複雑な香りクルミやナッツのような香りも感じるが驚いたことにまだフレッシュ感も残っている。メノッツィ氏曰くこれでもまだ子供のようなものだそう)とコンテにサフランをほんの少し乗せたものをいただいた。そのほかにもやはりこの地方のチーズでモルビエ Morbier(コンテを作る際にあまったカードを型に入れ、虫除けのために煤をまいておき、翌日あまったカードを上に足して2層で作られたため筋が出来る。現在では時間差はつかないが伝統的な形状にするために炭粉を使用している。セミハードタイプでまろやかな味)やカクヤールCacouyard (この地方で昔作られていたがなくなってしまった。現在1軒のチーズ生産者が復活させて生産している。白カビタイプで穏やかで癖のない味)。

 アルボワ1967(黄:サヴァニャン)        


チーズ3種(左:コンテ、上:モルビエ、右:カクヤール)

もう一つ、「近代細菌学の開祖」と呼ばれるルイ・パストゥール(Louis Pasteur 1822~1895)は変質したワインの研究から、発酵に必要な酵母と病変を引き起こす微生物を区別し、変質を防ぐための低温殺菌法(パストゥリザシオン)を生み出しワインの病変を克服した。彼は故郷の  ジュラ地方のアルボアでこの研究を行ったそうだ。
ワインの説明と共にメノッツィ氏は「特に品評会などでジュラのワインはその特徴である酸味を酸化によるものだととらえられることもある。だが、もしも本当に酸化しているのならばビン詰した後も劣化するはずだ。古くなっても劣化のない(むしろ熟成する)ことが証明している。」と不当に評価されている点を指摘。その他にもボルドーやブルゴーニュでは説明は必要ないがここではお客様にたいしての説明が重要なのだと。例えば料理と一緒に味わうことにおいてのジュラワインの守備範囲の広さやシャトー・シャロンの値段(一本30ユーロ位はする)と内容とのバランスについて。メジャーではないことのきつさがジュラにはある。シャトー・シャロンの作り手も本業でブドウ作りからワインまで手掛けているのは現在5名のみだという。後継者問題もある。
午後からも別の生産者を訪ねて試飲を行う。残念ながら時間の関係で郷土料理の鶏のヴァン・ジョーヌ煮込みは食べられなかったが。帰る前に丘の上からブドウ畑を見下ろす。下のブドウ畑に夕日が当たると黄色く輝いて見えるのだという。その様子を想像しながら今日出会った人達みんなに感謝してジュラを後にした。皆さんも機会があれば是非このヴァン・ジョーヌで新たなワインの魅力を発見してみてください。そのシェリーの香りと複雑な味わいの中にどこか憂いを含んだ大人の味です。



<コラムの担当者>
喜多村貴光


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