1. 総合情報サイトTOP
  2. 食のコラム&レシピ
  3. 12<海外>とっておきのヨーロッパだより
  4. 【とっておきのヨーロッパだより】南仏の力が結集した美食の祭典『レ・ゼトワール・ド・ムージャン』

【とっておきのヨーロッパだより】南仏の力が結集した美食の祭典『レ・ゼトワール・ド・ムージャン』
2016年10月26日

  • mixiチェック

<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

南フランス、コート・ダジュール(注1)の丘の上にある小さな町ムージャン Mougins。映画祭で有名な海沿いの町カンヌから、車で30分程山道を登ったところにあるこの村は、かたつむりのような渦巻き状の小さな路地が入り組む、静かで可愛らしい町です。

photo1 photo2
(左)小高い山の上にあります
(右)入り組んだ小さな路地がたくさん

美しい町並みと南仏の太陽を求め、数々の著名人が移り住んだと言われています。

photo3
町の中心広場には晩年をこの町で過ごした著名人の一人、パブロ・ピカソの大きな写真が

この町は『ル・ムーラン・ド・ムージャン Le Moulin de Mougins』というレストランがあることでも有名です。
この店の初代シェフであるロジェ・ヴェルジェ氏の料理は、高級料理の中に南フランスならではの食材、料理法を取り入れることで、それまでは素朴な地方料理とみなされていた南仏料理の概念を大きく変えたと言われています。1974年にはミシュランガイドの3つ星を獲得し、アラン・デュカスやジャック・マキシマムなど名だたる有名シェフも働いたとされるフランスきっての名店です。

この店が出来て以来ムージャンはガストロノミー(美食)の町として一躍有名となりましたが、近年この町でひときわ知られるようになったのが『レ・ゼトワール・ド・ムージャンLes Etoiles de Moujins』というお祭りです。
このお祭りは2006年、町の発展と南仏の興隆のため、そしてロジェ・ヴェルジェ氏の功績を称えるためにムージャンをはじめ南仏のシェフたちが集まって始められました。毎年スペシャルゲストとして現在最も活躍しているシェフを招聘し、功績を称える事をメインイベントとしながら、有名シェフによる講習会や体験実習、試食、出展、講演、技術コンクール...等々、食に関する様々なイベントが行われる『美食の祭典』です。
11回目の開催となる今年のゲストはティエリー・マルクス氏。マルクス氏は『キュイジーヌ・モレキュレール(分子料理)』(注2)の第一人者とも言われ、科学的な試みと伝統を融合させた独創的な料理で知られています。現在はパリの5つ星ホテル『マンダリンオリエンタル・パリ』のエグゼクティブシェフを務めており、その中でもメインダイニングの『シュール・ムジュール・パール・ティエリー・マルクス』はミシュランガイドで2つ星を獲得するなど、今最も活躍している料理人の一人です。

毎回総合テーマが設けられる『レ・ゼトワール・ド・ムージャン』ですが、今年のテーマは『五感』。この期間特別に発行された「レ・ゼトワール・ド・ムージャン新聞」によると、触れる、味わう、感じる、見る、聴く...この五感と身体の全てを使っていかに食べるかを学び、または学び直し、食に関する様々な分野のプロ達と実際に触れ合うことで素材、調理法、食べる場面、健康に良いかどうかなど食の本質を振り返る機会としてほしいそうです。

当日、ムージャンの町の中心部は交通規制が行われています。まず町外れの駐車場に車を停め、そこからは無料送迎バスで会場へ。

photo4
ここから会場がスタート。ちなみに、会場への入場料は無料です

町の中心部に足を踏み入れると、早くも大変な人出。生産者による販売ブースがずらりと並びます。地元の南仏だけでなくフランス全土からの特産品、さらには外国からの出店も多数あり、珍しいものばかりで目移りしてしまいます。

photo5 photo6
(左)こちらはトリュフ専門店。生のサマートリュフや、様々なトリュフ加工品が並んでいます
(右)マルセイユにあるブイヤベースの名店『フォンフォン』のテントもあります

photo7 photo8
(左)ハンガリーの伝統菓子。バームクーヘンの様な見た目ですが生地はブリオッシュに近いそう
(右)イタリア、ピエモンテ地方からの出店。名産のお米などを売っています

さらに進むとコンクール会場。ここでは35歳以下の若手を対象とした技術コンクールが行われます。コンクールは「パティシエ」「料理人」「ソムリエ」「バーテンダー」の4部門に分かれており、審査員は世界各国のベテランシェフ。

photo9
フランスだけでなくイタリアなど各国の有名シェフが総勢8名並んだ審査員席

料理人部門をのぞいてみると、書類審査を勝ち抜いた4名の出場者が「まとう鯛と季節の野菜」を主材料とした料理に取り組んでいました。約5時間の制限時間内に一皿の料理を仕上げます。日本人の方も出場され、フランスの食材を使って寿司に見立てた料理を披露されていました。米にビーツ(西洋赤カブ)を使うことでいかに色鮮やかに仕上げるか試作を重ねたと話されていました。

photo10
出場者の一人カジワラさん。現在はルクセンブルグで働かれているそうです

こちらは"アトリエ"といわれる、体験実習ができるブース。有名シェフやパティシエから直接料理やお菓子を学ぶことができる貴重な機会です。

photo11
各ブースの入り口には、実施されるイベントのタイムテーブルが表示されています

料金は1レッスンにつき20ユーロですが、人気のレッスンは早くから予約で一杯のものも多くありました。

photo12
子供から大人まで少人数のため直接シェフから教えてもらえます

photo13
筆者が学生時代研修でお世話になった、ミシュラン2つ星店『ラ・ヴィラ・アルカンジュ』のシェフ、ブルノー・オジェ氏。今年のイベント主催者の一人でもあります

食事処は"ライブビストロ Live Bistrot"のコーナー。朝の10時から夜11時半までノンストップで音楽のライブが行われるなか、青空の下飲んで食べて休憩できる、気持ちの良いスペースです。

photo14
快晴のなか所狭しと並ぶテント。お昼時は人で溢れかえります

8台のフードトラックでは手軽なホットドックやハンバーガーからお寿司風な屋台、レユニオン島(注3)料理(サモサという揚げ物や、スパイシーな肉の煮込み)など、バラエティに富んだ食が提供されています。

photo15
ひよこ豆を原料とした珍しいソッカビールの屋台も。すっきりとしていて、日本のビールと近い印象。まだ創業3ヶ月と新しい会社で、週3000本の限定生産だそうです

奥にあるステージでは生バンド演奏もあり、イベント気分が盛り上がります。

photo16
ビール片手に大迫力のライブを楽しむ人達

町中の5か所ほどに点在している講習会場では、様々な講習を受ける事ができます。有料のものもありますが、このメイン会場の講習は無料でした。

photo17
このメイン会場は150席あるそうです

無料とはいえ、4人の著名なM.O.F.(注4)のパティシエによる、まず他ではなかなか体験できない豪華な講習です。

photo18
左からヤン・ブレイ氏、フランク・ミッシェル氏、フランク・フレッソン氏、クリストフ・ルノー氏

最近注目の若手パティシエからフランス製菓界の重鎮までが横一列に並んでお菓子を作り上げる様に、思わず見入ってしまいました。

photo19 photo20
(左)レモン風味のクリームにしっとりとした生地のロールケーキ。(試食用に準備されたもの)
(右)たっぷりとお酒を浸み込ませたプティ・サバランを色とりどりのフルーツとクリームで仕上げ

こちらはサーヴィスの実演コーナー。リヨンの『ポール・ボキューズ』や、モナコの『ルイ・キャーンズ』といった一流レストランでサーヴィス職に携わる方々が、ナプキンの折り方やカクテルの作り方、お客様の目の前で作るデザートなど実際のレストランで行われるサーヴィスを披露して教えて下さいます。

photo21 photo22
(左)生ハムのスライスやワインのテイスティングをデモンストレーションしています
(右)カクテルの作り方を、子供にも丁寧に教えてくれます

このマカロンでできたタワーは、なんと総勢200名くらいの子供達が作り上げたもの。全部で24台もあり壮観です。

photo23
3000個のマカロンと50kgの粉砂糖でできているそうです

来たる『ユーロ2016』(注5)に向け、参加予定の24か国それぞれをイメージし、プロのパティシエの指導のもとに作られたものだそうです。こういったイベントを機に、子供たちの中から未来のスターシェフやスターパティシエが現れるかもしれません。

臨時に設けられた書籍販売スペースには有名シェフの料理本やお菓子本の販売がされており、店頭では販売されている本とは関係なくこの祭典に講師として参加しているシェフ達のサイン会も行われていました。

photo24 photo25
(左)日頃は町の休憩所なのだそうです
(右)サインや写真に応じるティエリー・マルクス氏

日頃テレビや雑誌で見かける有名シェフ達が普段着で町中を歩き、気さくに対応してくれる様子も、このお祭りならではの光景です。

会場内で講習会の講師として参加している日本人の方と知り合う機会があり、色々お話を伺いました。
神谷隆幸さんといい、カンヌからほど近いニースの旧市街でフランス料理レストラン『ハングー』のオーナーシェフをされています。

photo26
笑顔で迎えて下さった神谷さん

神谷さんと『レ・ゼトワール・ド・ムージャン』とのつながりは、昨年度初めてお客として訪れた事で始まったそうです。通常大規模な食のイベントと言えば飲食業界のプロ向けのものが多い中、一般の人々が楽しめるこのイベントに感銘を受け、ぜひ自分も参加したいと思われたのだとか。
「一般のお客さんや子供たちが、食の第一線で活躍するプロ達と、直接触れ合い、質問でき、教えてもらえる。こんなイベントはあまりないと思います」
「自らが提供するものに対してお客さんに喜んでもらえる喜びはレストランの仕事でも得られるものですが、『レ・ゼトワール・ド・ムージャン』に参加する事によって普段出会えない人達と触れ合う機会が持て、とても良い経験になりました」(神谷さん)

フランス各地で働いた結果、海にも山にも川にも近く、かつ美味しい食材の魅力から、南仏に店を構える決意をした神谷さんは、いつも賑やかで雰囲気があり、毎日市場がやっていて自分ですぐに新鮮な野菜や魚、肉を探しに行けるニースがとても気に入っているとのこと。今年からはコート・ダジュールのシェフ団体『トック・ブリュレ』の一員となった神谷シェフ、ますますこの土地に根付いてご活躍されていく事でしょう。

近年フランスで活躍されている日本人料理人が増えてきていますが、名の知れたフランス人のシェフ達と実際に肩を並べ、仲間として受け入れられている神谷さんの姿を見ると、同じ日本人として、また食の仕事に携わる者として誇らしく思いました。

photo27
神谷さんと『トック・ブリュレ』の皆さん。前年この祭典で実施した『トック・ブリュレ』のシェフによる講習の評判が良く、今年も依頼を受けたそうです

美食の国フランスならではの食の祭典『レ・ゼトワール・ド・ムージャン』、今年はヴァカンスシーズンの始まりである6月の週末に開催されましたが、金、土、日の3日間で100人を超えるシェフが世界各国から参加し、来客数は2万5千人にものぼるなど、大盛況だったようです。

フランスで開かれる大規模な食のイベントとしては、他にも2年に一度リヨンで開催される世界規模の料理コンクール「ボキューズ・ドール」や製菓コンクール「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・パティスリー」が行われる『シラ国際外食産業見本市』などが有名ですがそういったプロ向けの大規模な食の祭典とはまた違い、この『レ・ゼトワール・ド・ムージャン』は一般の人が誰でも訪れることができ、普段接する機会のないシェフ達と交流し、「食事や料理を楽しむ」という根本的なことを思い出させてくれるような気がします。
一般の人々にとっても食に興味を持つ良い機会ですが、シェフ達にとっても新たな出会いの場であり、一年に一度の再会の場として大切な機会のようです。地元を愛し、南仏を盛り上げようと活動している南仏のシェフ達がたくさんいます。
溢れんばかりの太陽の下で、南仏の料理人達のパワーを感じたお祭りでした!



注1 フランス南部に位置する地中海沿岸の一帯を指す。マルセイユの東からイタリアとの境界まで続く海岸線がコート・ダジュール(紺碧海岸)と呼ばれる。碧い空と碧い海、内陸も美しい街が点在する冬でも温暖なこの土地は、芸術家を始め数々の著名人も愛するリゾート地として有名。

注2 調理の過程を科学的に解析し、食材の最適な調理技術を生み出したり、驚きや芸術性を高めたりした最新の調理法。

注3 フランスの海外県の一つで、アラビア海西部、マダガスカル島の東に位置する島。移民の多いこの島の料理はフランス、インド、東アフリカ、中国料理など多彩な国の影響を受けており、スパイスを使ったものや米料理も多く見られる。

注4 M.O.F.はMeilleur Ouvrier de France(フランス国家最優秀職人章)の略称。フランス文化の各部門において最高度の技術を持つと認められた職人に授与される、国家認定の称号。

注5  UEFA EURO2016は、UEFA(欧州サッカー連盟)が主催するサッカー欧州選手権の第15回大会。
今大会には予選を勝ち抜いた24か国が出場。

<参考文献>
『現代フランス料理宝典Les Grandes Cuisines』
辻静雄 監修、アンリ・ゴー 編集顧問、辻調グループ各校 編纂協力
学習研究社刊

<参考サイト>
LES ETOILE DE MOUJINS 2016 http://lesetoilesdemougins.com/

このコラムの担当者

尾崎 久美子

バックナンバー

2009年8月まではこちら
2009年9月からはこちら

カテゴリ

最近の投稿

過去の記事

ページの上部へ戻る