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【とっておきのヨーロッパだより】人・食・文化、すべてがうるわしのブルターニュ!~ソバ粉編(2)~
2016年03月25日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>


「人・食・文化、すべてがうるわしのブルターニュ!」シリーズ

※前回のお話はこちらから 第1回 ソバ粉編(1)



フランスでありながら独自の文化を保ちつづけるブルターニュ。このシリーズでは、私自身がブルトン人との交流のなかで知ったブルターニュの魅力を、食文化を踏まえながら少しずつ紹介していきたいと思います。
前回のコラム~ソバ粉編(1)~では、ブルターニュにおけるソバ粉の歴史やソバ粉にまつわる料理についてお話ししましたが、今回はその続編です。

■まるで博物館のような製粉所「ムーラン・ド・ラ・ファティーグ Moulin de la Fatigue」
ソバ粉には昔から親しみのある日本人でも、ソバ粉が作られる現場を見たことのある人はどのくらいいるでしょうか?近代化とともに最新の技術を取り入れた製粉所がほとんどとなった現代において、ブルターニュにはいまだ昔ながらの設備と製法を守り続けている非常に興味深い製粉所があります。それがブルターニュの東部、イル・エ・ヴィレーヌ県 Ille-et-Vilaineのヴィトレ Vitréという町にある、「ムーラン・ド・ラ・ファティーグ Moulin de la Fatigue」です。

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(左)工場の雰囲気が一切感じられない正面玄関。思わず通りすぎそうになります
(右)看板には工場内の様子の写真が。「職人による伝統製法の製粉所」と書かれています

「疲労の製粉所」というこの不思議な名前の製粉所のオーナーは、カトリーヌ・ドゥロメル Catherine Delhommelさんという女性の方。かつてブルターニュ産伝統ソバ粉振興組合「ブレ・ノワール・トラディシオン・ブルターニュ(注1)」の会長を6年間務めた人物で、もちろん現在も団体に加盟しています。このソバ粉専門の製粉所の創設は1870年。その後、元夫のご両親が1950年に所有したものを1989年に夫婦で引継ぎ、2002年に自らが代表となって独立したそうです。
従業員は彼女の秘書と2人の製粉職人、そして配達員が1名の全部で4人だけというから驚きです。しかし、彼女がオーナーになってから事業は順調に拡大し、現在ではスペイン、ドイツ、スイス、デンマーク、ノルウェーなどのヨーロッパ諸国のほか、日本、オーストラリア、コスタリカ、レユニオン、モロッコ、南アフリカにまで出荷しているそうです。

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2014年イル・エ・ヴィレーヌ県の女性職人コンクールで表彰されたというドゥロメルさん

製粉所の名前の由来を聞いたところ、笑いながらこう答えてくれました。
「昔は製粉の作業はヴィトレの町の外で行われていたみたいなの。そこから道具や機械をこの場所に移して工場にしたと聞いているんだけど、私の義理の両親がオーナーになったときにはすでにこの場所で、この名前だったの。昔は製粉の仕事はいまよりももっと過酷だったはず。職人たちはきっとみんなすごく疲れていたんでしょうね」

ドゥロメルさんが昔ながらの製法にこだわっているのは、ブルターニュ産のソバの繊細な風味や香りをより引き出すため。しかし、残念ながらブルターニュ原産のソバの生産量では供給が間に合わず、この製粉所の年間総生産量350トンのうち、10パーセントは中国原産のソバ粉なのだとか。それでも、20年前は100パーセント中国産だったと言いますから、ドゥロメルさんたちのひたむきな活動は着実に根付いていっていると言えるでしょう。
ブルターニュ原産のラ・アルプ種と中国産のソバを比較してみると、ブルターニュ産のほうが小粒で、色も淡く銀色がかっていました。見た目からも繊細な感じが伝わってきます。

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(左)左のバケツが中国産の輸入ソバ。右がブルターニュ原産
(右)近くで並べてみると色だけでなく粒の大きさにも違いがあることが分かります

さっそくドゥロメルさんに製粉所を案内してもらいました。正面の大通りに面している入口は、実は配達のための搬出口。実際の製粉所は建物の裏側にありました。
その古い石造りの建物に足を一歩踏み入れた瞬間、一瞬タイムスリップしたかのような錯覚にとらわれます。大きな木製の機械や歯車が回る様はまるで中世の民族博物館!機械が刻むリズミカルな音と、香ばしいソバの香りが雰囲気を一層高めてくれます。

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4階建ての建物の1階に動力となるモーターが設置されており、2階から4階までがそれぞれ異なった工程を行う製造工場になっています。驚くべきことは、たった一つの動力で、ソバの実がパイプをつたって各階を行ったり来たりしながら、複数の工程を経て粉になるということ。いわば全自動システムなのです。

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(左)この電気式モーターは2代目。こんなに小さなモーター1つで全てが動いています
(右)布製のベルトが1階のモーターと各階の機械をつなぎ、各階に動力を送っています

この製粉所では1870年からずっと同じ機械で同じ製法を続けているそうですから、いまから約150年も前にこのシステムを開発した人間の英知には感動さえ覚えます。創設当時と唯一変わった点といえば、1920年ごろに動力が蒸気式からがガソリン式を経て、電気式のモーターに代わった点のみだとか。
「機械の大部分は木製、動力と歯車をつなぐベルトも動物の皮。鉄のマシンじゃないからメンテナンスもとってもわかりやすいし、金属音じゃないこの躍動感のある音が大好きなの。生命力がみなぎるみたいな感じで。夕方すべての作業が終わってこの音が止まったときは、いつもすごく寂しい気持ちになるわ」とドゥロメルさん。

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昔のムニエ(製粉職人)が壁に直接書いたメモやイラストも、製粉所の歴史としてそのままにしてあります


それでは、見学させていただいたソバ粉製造の主な流れをご紹介します。

【1】ソバ粉の洗浄・選定
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日本では「石抜き」や「磨き」と呼ばれている作業です。様々な機能を持つ機械によって、収穫されたソバの実に交じった小石やほこりなどを取り除きます。きれいになったソバの実は、まずは最上階の4階に送られます。日本では先に殻を外す作業を行うことがありますが、ここではそのまま粉砕します。

【2】粉砕(1回目)
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4階から2階へと降りてきたソバの実が最初の石臼で挽かれます。日本では2つの回転するロールで挟んで粉砕する「ロール式」も多く見られますが、ここは石臼のみ。創設時から手入れを続け、大事に使用しているこの石臼は工場の誇りだそうです。内側はより柔らかく、外側は堅い、2つ異なる質の石英を使用しています。

【3】篩別(しべつ)(1回目)
粉砕されたソバの実は3階に送られ、篩別機でふるいにかけられます。ポンプの風圧による遠心力と重力だけでフィルターを通過したソバの実は、粒子のサイズや重さごとに3つに区切られたそれぞれのタンクに納まっていきます。殻も自然に除去されていきます。
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ここで、もっとも粒子が細かく色も淡い「レ・ブラン les blancs("白いもの" の意)」と呼ばれる最初のソバ粉が抽出され、袋詰めされます。
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【4】粉砕(2回目)
「レ・ブラン」以外の部分は、再び2階に送られ、もう一つの石臼にかけられます。
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(写真右)パイプが2つ見えますが、左から出て来ているのが1回目の粉砕を経て送られてきたソバ粉。右からは2回目の粉砕と篩別で再びはじかれたまだ粒の粗い粉がもう一度送られてくる仕組みです

【5】篩別(2回目)
2度目の粉砕を経たソバ粉は同じフロアのもう一つの篩別機にかけられ、同様に分別されます。ここまでの作業で十分細かくなったものは2番挽きのソバ粉として袋詰めします。
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2度目の粉砕でも十分な粒子にならなかったものは、再度2つ目の石臼に送られ、この作業を何度も繰り返します。最終的には、複数の質の違うソバ粉の袋ができあがります。

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段階ごとにできるソバ粉はそれぞれ、色、粒子のサイズ、含まれる成分、風味などすべてが異なります

【6】調合と乾燥
取引先の要望に合わせて、これらの質の違うソバ粉をブレンドし保存します。袋詰めされたソバ粉は、実際は十分乾燥させてから出荷することになるそうです。雨が多く、湿気のあるブルターニュでは乾燥の工程が非常に重要。ガス式の乾燥室でゆっくりと乾燥させます。
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各工程でI.G.P.(注2)の基準を満たすためのコントロールがあるそうで、ドゥロメルさんは「だからこそ自分たちのようなプロの職人が必要なのだ」と話していました。
また、ソバ栽培は非常に環境に優しい農業だということも強調されていました。かつては大量の肥料や農薬を使用していましたが、ブルターニュ産のソバ粉が2010年にI.G.P.を取得するにあたり、昔ながらの製法にこだわる「ブレ・ノワール・トラディシオン・ブルターニュ」は自らのソバ栽培に「肥料は与えず、除草剤・除虫剤などのいかなる化学物質由来のケアも施さない」という規定を課しました。
また、品種も1960年代に開発された「ラ・アルプ La Harpe」に限定し、品種保護にも努めています。この品種はブルターニュの気温や土に敏感に適応し、非常に香り高いソバを実らせると言われています。実際、その土地に合った品種を育てることで肥料自体を必要としなくなり、土は自然と浄化され、結果さらに良いソバができるようになったそうです。ブルターニュ産ソバ粉は後に、有機農産物としての認証「アー・べー AB」(注3)も取得しています。
また余談ですが、製粉の過程で取り除かれたソバ殻は、庭や畑に被せて雑草や乾燥から土を守る「パイヤージュ Paillage」という用途に活用しているそうです。ソバの周りはいいことづくめですね。

こうしてできたブルターニュのソバ粉。地元はもちろん、フランス中に出荷されています。ガレットをスペシャリテにしているクレープリー(クレープ専門店)なら、やっぱりブルターニュ産のソバ粉にこだわる店で食べたいものです。
今回の旅の途中、この製粉所のソバ粉をアピールする数々のクレープリーに出会いました。いずれも誇らしげに「『ムーラン・ド・ラ・ファティーグ』製のそば粉使用」である旨を店頭に掲示していました。

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(右)サン・マロのクレープリー『ラ・ブリガンティン La Brigantine』ののぼり
(左)ヴィトレのクレープリー『ラ・クレ・デ・シャン La Clé des Champs』の看板

このほか全国のブルターニュ産ソバ粉のガレットが食べられるお店は「ブレ・ノワール・トラディシオン・ブルターニュ」の公式サイトで検索できます(注4)。フランスに来たら、ぜひ近くのお店を調べて、こだわりのソバ粉でつくったガレットを食べてみてください!



取材協力:
Association Blé Noir Tradition Bretagne
http://www.blenoir-bretagne.com/ble-noir-bretagne.html

Moulin de la Fatigue
19 Rue 70ème R.I. 35500 Vitré
http://moulin-fatigue.com/

La BRIGANTINE
13, rue de Dinan 35400 Saint Malo

Crêperie La Clé des Champs
1 boulevard de Laval 35500 Vitré

注1: ブルターニュ産のソバ粉の保護と品質の向上を目的に、1987年に結成された非営利団体。
詳しくは『人・食・文化、すべてがうるわしのブルターニュ!~ソバ粉編(1)~』を参照ください。

注2: 原産地特有の産品であることを示すEUの保護認証「イー・ジェー・ぺーIGP = Indication Géographique Protegée(地理的保護表示)」

注3: ABは「アグリクルトゥール・ビオロジックAgricultre Biologique(有機農業)」の頭文字。

注4: こちらから検索できます http://creperie.blenoir-bretagne.com/

以下のブルターニュに関する『とっておきのヨーロッパだより』コラムもご覧ください。
ガレットについて https://www.tsujicho.com/oishii/recipe/letter/totteoki/galette.html
カンカルの牡蠣について https://www.tsujicho.com/oishii/recipe/letter/totteoki/oyster.html
有塩バターについて https://www.tsujicho.com/oishii/recipe/letter/totteoki/butter.html
カンペール焼きについて https://www.tsujicho.com/column/cat/post-392.html



⇒人・食・文化、すべてがうるわしのブルターニュ!
続編を読むには、以下のタイトルをクリックしてください!
第3回 お祭り編(1)第4回 お祭り編(2)


※前回のシリーズ:
【とっておきのヨーロッパだより】これがおいしい!バルセロナ
第1回 ドリンク編①第2回 ドリンク編②第3回 米編第4回 市場&野菜編第5回 魚介類編

このコラムの担当者

佐藤 重文

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