1. 総合情報サイトTOP
  2. 食のコラム&レシピ
  3. 12<海外>とっておきのヨーロッパだより
  4. 【とっておきのヨーロッパだより】フランス・オーヴェルニュ地方の家庭料理~突撃!隣の家ご飯INフランス~

【とっておきのヨーロッパだより】フランス・オーヴェルニュ地方の家庭料理~突撃!隣の家ご飯INフランス~
2011年08月05日

  • mixiチェック

【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム??

昔からオーヴェルニュ地方に住んでいらっしゃる家庭を訪れ、家庭料理を教えていただく機会に恵まれました。シンプルですが、とても温かい気持ちになる、そんなテーブルへご案内します。
写真1

 

今回お世話になったのは、フランス校のあるリヨン近郊より車で2時間南に下ったところにあるモニストロール=シュル=ロワールMONISTROL-SUR-LOIREにお住まいの、クロードさんご夫妻です。

写真2クロードさんご夫妻。奥様のマリーさんとご主人のジャンさん

 

  この町のあるオーヴェルニュ地方はフランスの中南部、中央山塊に位置します。山脈や休火山を持ち、肥沃な土地に湖や牧草地帯が広がっています。豊富に良質な地下水を産出する事で有名で、日本でもおなじみのミネラルウォーターであるヴォルヴィックはこの地方(ピュイ・ド・ドーム山)で採水されます。

私がこの町のある製菓店で研修をしていた時にご夫妻のお宅にホームステイさせていただいたのですが、奥様のマリーさんは料理がお得意で、滞在中は毎日のように美味しい夕食をご馳走になりました。特にこの地方産のランティーユ(レンズ豆)を使ったサラダや煮込み料理は今思い出しても、頬が落ちるくらいの美味しさでした。

お料理以外にも、カシス(黒すぐり)やベルベンヌ(ハーブの一種)を使った手作りのリキュールの作り方を教えていただいたり、味見をさせていただきました。オーヴェルニュ地方ではカシスの他フランボワーズやブルーベリーといった果物の栽培も盛んで、それらが市場に出回ると家庭でお酒に漬けてリキュールにすることも多いようです(日本でいう自家製梅酒のようなものですね)。

食事中にはフランスの食文化についても色々と教えて下さり、これまでに知らなかった日常的な食文化の豊かさに触れ、もっと色々知りたいという気持ちが深まりました。

 

マリーさんに「小さい時から食べていたようなオーヴェルニュ地方ならではの家庭料理を教えてください」とお願いしたところ、
「もちろんよ!」と、待っていましたと言わんばかりに快く引き受けて下さいました。

向かった先は、モニストロール=シュル=ロワールから車で40分ほど南に下った所にあるイッサンジョーYSSINGEAUXという村。ご夫妻の生まれ育ったこの村には今でもマリーさんの実家があり、マリーさんのお祖母さんの代から続くお宅だそうです。こちらで本格的にオーヴェルニュ地方の家庭料理を教えていただくことになりました。
写真3今は息子さん家族が住んでいます

 

家屋は現在このように改装されていますが、20年前までは一階が納屋になっており、豚や牛、羊などの家畜を飼っていたそうです。

「その頃には、その家畜を家で食べるために処理をしたのよ。そして豚というのは、全て食べられるのよ、目以外はね!私のお祖母さんは、内臓も、耳も、血も捨てることなく全て料理に使っていたわ。ブーダン(豚の血の腸詰め)やアンデュイエット(内臓の腸詰め)は知っている?今はレストランで食べられる料理だけど、そのころはすべて家庭で作っていたのよ」と話してくれました。

この村一帯の家はマリーさんの家も含めてかつて全部農家だったそうで、豚などの家畜の飼育も盛んだったため、伝統料理も豚や羊などの家畜を使った料理が多いということです。そして、山に囲まれた土地で日光の照射が少なくても、肥沃な土壌で比較的簡単に育つジャガイモが多く栽培されていたこともあり、ジャガイモだけは食べるのに困らない位いつでも手に入ったそうです。ジャガイモを使った料理や付け合せも多いのもこの地方の特徴です。

現在フランスでは日本同様、家畜の個人屠畜は禁止されています。そのため、マリーさんのように実際に家庭で豚などを殺して食べるという経験をしている方はもう若い世代にはいないようです。自分たちで家畜の命を奪う行為は少々残酷に聞こえますが、人が生きていくというためには、切っても切れないことだと思います。

 

台所のオーブンは、こんな昔ながらの作りです。
薪がこのオーブンの熱源で、上に鍋を置けばそこでも加熱調理が出来る様になっています。
写真4 写真5

 

かつて農家をしていたころは農作業や、家畜の飼育に追われて料理をする時間がなく、作る料理は時間短縮のために鍋ごとオーブンに入れて煮込むものがほとんどだったそうです。おいしく煮込んだ料理はオーブンの上で保温しておき、家族それぞれが食べられる時間に食べるという習慣だったそうです。

もっと昔は、窯やキッチン、家屋全てが石でできていたそうです。近辺で採石された石で家屋が建てられ、現在でも石造りの家屋は近隣に多く残っています。驚いたことに、このキッチンに合わせて家の屋根の形が決まっているそうです。

現在は写真のように煙突が直接屋根の外につながっているのですが、石のオーブンの頃は煙突がなく、その代りキッチンの上の屋根だけが他よりも高くなっていて、三角になっています。そして、ぽっかりと穴が開いていたといいます。煙が家に充満しないようにこのような作りになっていたのだそうです。
写真6 

 

古い家屋にそのキッチンの屋根が残っているということで、見せていただきました。
分かりにくいのですが、全て石作りで一か所穴が開いています。
こちらの家の台所にも、素敵な歴史が息づいていました。
写真7

 

今回教えていただいたのは「ジゴ・ダニョー・ブレゼGigot d’agneau braisé」(子羊のもも肉の蒸し煮)というお料理です。
ここからすべてのお料理はご主人のジャンさんが作ります。いつもの夕食はマリーさんがされていたのに、今回は何故?とうかがうと、「当然よ、お肉をさばくお料理は男の仕事。女はお客さんを楽しませるのが仕事!」とのこと。「昔は男手が家畜を屠畜して切り分け、料理まですることが多く、その習慣から、お祝いのお料理や特別なお料理は男の人がするのよ。」とおっしゃっていました。

 

まずは新聞紙を広げてニンニク処理。皮をむき、芽を取って小さく切ります。
写真8

 

① ナイフで肉に小さな穴を開け、ニンニクを押し込んでいきます。
写真9ジャンさんの手つきがとても手慣れています

 

② 肉を深い厚手の鍋に入れてオーブンの上のプラック(天板)にのせ、ふたをして蒸し焼きにしていきます。
写真10

 

③ 肉を焼いている間に付け合せの野菜の処理。今回はジャガイモのグラタンです。
写真11昼食用のグラタンと一緒に、今晩のスープに入れるニンジンも手際よく下ごしらえ

 

ジャガイモを薄くスライスしてベーコンと一緒に別鍋に入れます。
牛乳をひたひたに入れて、オーブンで焼いていきます。

写真14

 

火が通ればオーブンの上で保温しておきます。
写真13

 

④ オーブンの上で蒸し焼きにした肉を良い大きさにざっくり切って、水を足しさらに煮込んでいきます。
写真15 写真16

 

テーブルのセッティングも終らせて・・・。
写真17

 

⑤ 最後に塩、コショウで味付けをして、お料理がテーブルに並びます。

 

今回はこのほかに、これもオーヴェルニュ地方の郷土料理という「ソーシス・デルブSaucisse d’herbes」、サラダ、パンも並び、良い香りが食堂中に立ち込めてきました。

写真18
ソーシス・デルブ。焼いているうちに一本はじけてしまったのですが、野菜たっぷりの中身が良く分かります

 

ソーシス・デルブは豚肉と野菜を混ぜて腸詰めにしたお料理で、かつてこのあたり一帯の家庭で家畜として豚を飼っていた頃からの家庭料理の一つだそうです。一緒に混ぜ込む野菜は特に決まっておらず、その時にある季節のものということで今回はハーブとキャベツ入りでしたが、ニンジンなど加えたり、逆に豚肉だけのこともあるようです。今回いただいたキャベツ入りはとてもジューシーで柔らかく、優しい味に仕上がっていました。

 

サーヴィスもジャンさんの仕事です。
お皿に盛りつけながら、食べ方も説明してくれました。

「まずはそのまま食べてもいいけれど、ここで昔からするのは、この羊肉の汁をジャガイモにかけて食べるんだよ!この汁がさらにジャガイモを旨くしてくれるんだ。」

 

皆さんに味をお伝えできないのが残念です!これが、本当に、ジャガイモの味をさらっとしたものに変えてくれ、重くなくずっと食べていられるような味になるのです。
写真20

またこうして肉汁と一緒に食べることで、少しのお肉でも肉汁をかけた野菜をたっぷりと食べることができ、満足度がアップします。
決して高級ではない料理ですが、温かさと歴史や地方性を感じることができました。

 

食事をいただきながらオーヴェルニュの様々な食文化のお話をうかがっていた際、豚や羊を家で飼い、それらを食料とする事に触れ、マリーさんがこんな事をおっしゃいました。
「それ(屠畜)をかわいそうと思うのは、当たり前のこと。でも、その食べ物を残すことは私にとってはもっとかわいそうなこと。食べられる物を捨ててはいけないのよ。みんなが泣くからね。」

私にわかりやすいフランス語で伝えて下さったためもあると思いますが、その言葉はとても重く、私の心に残りました。

 

今回、縁あって教えていただいたのはオーヴェルニュ地方のごくシンプルな家庭料理でしたが、食材や作り方、どれをとっても様々な歴史が詰まっていることを知り、味わい深くいただくことができました。

いわゆる“星”で評価される高級料理の世界もフランス料理の一面ですが、それらの高級料理の原点ともいえる普通のフランスの郷土料理を知ることで、フランスの食や人を今までよりも理解することができたような気がします。

このコラムの担当者

伊藤 典子

バックナンバー

2009年8月まではこちら

2009年9月からはこちら

カテゴリ

最近の投稿

過去の記事

ページの上部へ戻る