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【とっておきのヨーロッパだより】もっと×2身近な存在!!イタリアの「オリーブオイル」紀行

12<海外>とっておきのヨーロッパだより

2010.02.10

<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

紀元1世紀、すでにオリーブオイルといえばイタリア、でした。オリーブの品質、生産量の世界一はイタリアであると記述した記録がとても多く残っています。昔からイタリアとオリーブオイルは切っても切れない関係なんですね。それにイタリアに何千年という年月を人々と歩んできたオリーブがあると聞いて、居ても立ってもいられなくなり、リヨンから車を飛ばすこと約5時間。イタリアはリグーリア州のキウザーニコCHIUSANICO村にオリーブレポートに行ってきました。



海と山に挟まれた自然が作り出したオリーブ栽培に最高の環境

今回のお目当ては「ライネリRAINERI社」というオリーブ商品を扱っている会社です。ここは1784年からオリーブオイル作りをしており、オイルの味や香りが非常によいことから、リグーリア州では最も知られているブランドです。オリーブオイルとともに人生を楽しむ2人のスペシャリスト、リナーリ氏とラウラさんにオリーブの魅力についてとことん伺った話を中心に進めていきたいと思います。

経営者のお二人。リナーリ氏とラウラさん


ライネリ社は博物館としてオリーブの歴史も紹介

まず大前提として頭に入れておいてほしいことは、イタリアではオリーブオイルをもちろん料理の中で「焼く・揚げる」の作業にも用いますが、オイルといいつつ単なる『油』としては考えられていません。オリーブオイルは、料理に風味や味を加える大切な調味料の役割をしています。この地域では多くの家庭やレストランで料理の仕上げにたっぷりのオリーブオイルを調味料代わりに使います。そう、日本でいうところの「醤油」に近い感覚ですね。だから本来、オリーブオイルは良質で風味の高い、新鮮なものが理想です。黄色いオリーブオイルがイメージとしてありがちですが、上質で新鮮なものは緑っ!まさに「オリーブ色」をしています。オリーブジュースですね。それもそのはず、ほかの植物油は種子が原料になるのに対して、オリーブは果実を丸ごと絞ります。食卓にはいつでもオリーブオイル。といった具合でしょうか。茹でただけのパスタに良質なオリーブオイルをかけるだけで、そりゃあもうウマいのナンの。日本の卵かけごはんとでも言いましょうか。シンプルながら素材の味を存分に味わえます。そしてこの地域でよく目にするもののひとつに「ジェノヴァペースト」があります。リグーリア州のジェノヴァから名前をとっていますが、この地域の特産品が材料です。バジリコ、松の実、味の決め手はたっぷりのオリーブオイル。これらを混ぜ合わせた香り高いソース。代表的な前菜「サラミの盛り合わせ」や魚料理、肉料理にもよく合う万能ソースです。これも味の決め手は新鮮なオリーブオイルです。


食卓の中心にはいつもオリーブオイル


 おなじみバジリコとオイルで作った「ジェノヴァペースト」

みなさんが普段使われているオリーブオイルはどんな香りや味をもっていますか? 油っこいと感じるオリーブオイルは新鮮で良質なオリーブオイルではないのかもしれませんね。本当のオリーブオイルを知れば、料理もおいしく、身体にもよく、きっと幸せ一直線かも。その昔、オリーブオイルは王になる人に即位式で注がれたり、生まれたての赤ん坊の目と口に洗礼としてオイルをつけたり、と一口にオイルでは片付けられないくらい聖なるものでした。
オリーブの起源には諸説あり、真実と伝説が混ざり合っています。それもそのはず、紀元前5000年のオリーブオイル圧搾機が発見されているんです。だからはっきりとした起源は未だなお解明されていないのが現状。ギリシャ神話の面白いエピソードとしてこんなのがあります。『ゼウスが審判となり、最も役に立つものを生み出したものには、広大な土地をやると宣言しました。アテネとポセイドンとの技比べが始まりました。海の神ポセイドンは森から目を奪われるような新しく美しい動物、馬を誕生させた。一方アテネは大地に一本の木を生み出させる。そう、オリーブの木です。ゼウスは躊躇することなくアテネに勝利を宣言した。馬は戦争のためのもの。オリーブは平和のためのもの』なーんか深いい話ですね。オリーブは今も昔も『平和・豊穣・力・浄化』のシンボルなんですね。今ではオリンピックなどで出てくる冠は月桂樹ですが、その昔はオリーブの小枝で編んだものだったらしいですよ。

歴史を少しひも解いたところでオリーブの木についてまずは触れていくことにします。ライネリ社のリナーリ氏によれば、ここキウザーニコあたりでオリーブの木を植える優れた条件は、まず標高400~500mのところ。そして海がチラッとみえる内陸部。近すぎるのは土壌がよくないのだとか。科学的根拠よりも、歴史的事実が重要ということでしょうか。とにかく海がチラッが最高らしい。そして気象条件も大切です。日照時間や降水量も大切ですが、それ以上に大切なのが気温。5~7℃を下回るとだめで、しばれる寒さの年は出来としてはよくないそうです。オリーブにとって寒さは大敵なんです。


遠くにチラッとのぞいているのがリグーリア海。手前の山は一面のオリーブの木

もうひとつの面白いポイントとして、老舗のオリーブ会社が所有する土地は近くに川が流れているところが多いんです。これは昔、石臼挽きのころ、川の水力を使って臼を動かしていたからです。
オリーブの木は植えてから実がなるまでに25年の歳月を必要とします。一番最近植えたのは1920年ということですから、本当に代々の仕事なんでしょうね。オリーブの木について2人が声をそろえて言うことは『オリーブの木は絶対に死なない』でした。土壌環境が整っていれば折れた枝をその辺にポイっと投げ捨てても長い時間をかけて木になるんだそうです。ほんま!?信じがたい事実ですが、本当らしいです。計り知れない生命力をもっているんですね。ただしこれはあくまでも土壌環境が整っている時の話で、異常気象の寒さによって全滅する土地も少なくはありません。小ぶりのオリーブの木でもなんと100年前のもの、立派なものになると1000年、それ以上の時を重ねているというのだから驚きです。根は浅く広く伸びるタイプで地中に埋まっている幹は直径3mから8mほどまであります。全てのスケールのデカさにただただ驚くばかり。


1000年前のオリーブの木

オリーブ栽培をする条件としては、まず広い土地があること。これは農薬が流れやすく、周辺からの苦情を避けるため。そして実がデリケートなため、自動車の排気ガスも避けたいもののひとつで、木々で囲まれていることも大切な要素です。イタリアでみれば、南に位置するカラーブリアとプーリアがもっとも広大な土地を保有しており、10ヘクタールに約4000本のオリーブの木が目安となります。
<主な州による土地の所有面積>
リグーリア州 20ヘクタール/10農家
プーリア州 200ヘクタール/10農家
カラーブリア州 1500ヘクタール/10農家

昔からオリーブ栽培においては複数の農家が協力して木々の管理、収穫を行っています。オリーブの木を植えてある場所が斜面なため、自由に広大な土地を行き来しづらいのも要素のひとつ。そうして集められたオリーブは一つの搾油所に集められます。このため、10農家での所有面積で記しています。地域の人々がおいしいオリーブオイルを作るために協力してるんですね。

次は実について。イタリア全土でオリーブの品種は715種。その内、公式にオリーブ栽培分類書というものに登録されているのは472種(2008年現在)。さらにその中で実際に生産に使われているのは約300種です。イタリア全土でそれぞれの風土に合わせたオリーブが栽培されオイルや食用オリーブに姿を変えるってわけです。今回取材したところは日本でも多少は馴染みのある『タッジャスカ種』、リグーリアを代表する品種で、オリーブオイルにしては辛みもまろやかで、甘みを持ち合わせていると言われています。この品種は非常にデリケートで他に比べて賞味期限も短め。食用にも用いられるため、見た目も大事で、規格に沿った丁寧な選別がされています。


収穫を控える『タッジャスカ種』のオリーブ 

次はいよいよ収穫についてです。リグーリア州の場合、収穫は11月から3月まで行われます。土地の高低差の気温によって、徐々に沿岸部から色づき、それが高地のほうへと移行します。勝手な思い込みで11月と12月ぐらいが収穫時期なんじゃないの!?と思い込んでいた自分が恥ずかしい…。春、夏、秋と一年を経験させたオリーブはうま味が凝縮しています。そうして熟してきた実を丁寧に手摘みしていきます。枝からしごくようにするとポロポロと落ちてきます。そのため、畑は一面ネットだらけ。単に集めやすくするだけではなく、直接地面に落下するのを防ぐ役割があります。そうして集まった実はプラスティック製のカゴに移されます。このカゴも規定があり、大きさ、形状が法律で定められています。オリーブが重みで潰れないギリギリの容量に計算されているんです。詰め込まれたオリーブ同志の摩擦で発生する熱やオリーブが蒸れないようにまで考えられています。


一面白いネットでおおわれた山


収穫した実を入れるための規定のカゴ

ここからようやくオイルに姿を変えていきます。ここでの大事なポイントは収穫してから出来るだけ早く粉砕すること。そうしなければ風味や質が劣化してしまいます。そのため、なるべく畑から近い所に搾油所があるのがベストなんです。
搾油所についたオリーブは今は機械で粉砕されます。昔はもちろん水力や牛、馬を使って石臼挽きでした。えー今はもう石臼じゃないんだー。これも時代の流れか…。と考えていると色々と面白い答えが。まずよく言われる石臼の利点。熱が加わらず本来の風味や成分が損なわれることがない。しかーし、これだけ技術が進歩した現在、昔ながらの石臼がベストというのは少し疑問があるそう。まず衛生面。やはり機械に比べて完璧な環境は整えづらい。それから人件費と時間がかかる。最後に気温、湿度による条件の変化に対応しづらく、一定の品質での出荷が難しい。この欠点を機械はさらりとやってのける性能があるのだとか。なんとなく「昔ながらの製法」とか、「石臼挽き」とかいうフレーズに弱い日本人ですが、しっかりとした見極めが大事ですね。


牛や馬の力で動かしていた石臼


こちらは水力を利用したもの

粉砕が終わると次はオイルを出しやすくするため、一旦ペースト状に練りあげ、その後、圧搾します。これも今ではオートメーション化で機械が行います。昔はココヤシで編んだフィスコリと呼ばれるディスクにのせられ、それを何十枚と重ねたものを圧搾していました。その後圧搾小型機械が開発され、品質の均質化に大きく貢献しました。今は巨大タンクへ入れれば全てがオートマティックですが。


昔の圧搾機。下にあるマット状のものはココヤシの実の繊維で作られたディスク


ココヤシのディスクにとって代わったろ過機


今はオートメーション化されている

そうしてにじみ出てきたオイルが純粋なオリーブオイルなんです。ここではわかりやすく大きく分けて4つに分類することにします。
<ヨーロッパ共同体の規定を参考にした大まかな分類>
エクストラヴァージンオリーブオイル 未精製。味、香りともに最高級品
ヴァージンオリーブオイル 未精製。エクストラには劣るが、高級品
精製オリーブオイル又は混合オリーブオイル 味、香りともに劣る。加熱調理用
サンサ(搾りカス)オリーブオイル 工業用。主に燃料として使用

もちろん値段相応ですが、一番分かりやすい選び方としては、「D.O.P.」表記のあるもの。日本語でいうと「原産地保護呼称」。原材料から作業工程に至るまでを明確に管理し、国の検査も受けているもの。地域性や伝統にも深く結び付いた原材料と作業工程で作られているので、消費者としては安心できる商品を手にすることができます。しかし、イタリアの面白いところは、そのような規格の枠にははまらずに、作り手独自の考えのもとで製品化する作り手も少なくないところです。ということは自分の好みのオリーブオイルに出会うために、少し遠回りして色々な味に出会うこともまたオリーブオイルの楽しみ方の一つかもしれませんね。
絞り終わったオイルは温度、湿度が一定に保たれた巨大貯蔵タンクに入れられて保存され、出荷の時を静かに待ちます。出荷は年間通じてコンスタントに行うため、1年を目安にサイクルが組まれ、翌年の秋から冬にかけてビン詰めしていきます。タンクの性能も上がっていて貯蔵中は劣化がほとんどと言っていいくらい生じません。貯蔵オイルはエクストラヴァージンオイルとヴァージンオイル、そしてビオロジックのオイルの3種。ビオロジック(有機栽培)については品質が高いというわけは一切なく、手間がかかる分価格も上がり、それもあってかイタリアではほとんど需要がありません。スウェーデンなど北欧での消費が9割を占めるので、国内での関心もまだまだってとこです。


1年分の貯蔵タンク

そして、ビン詰めの前にはフィルターを通して最終ろ過をします。フィルターは必ず自然界のものを使うらしく、一昔前は小麦粉や土を使ってろ過していたそうです。こうして多くの時間と人の手が上質なオリーブオイルを作り出していくんですね。オリーブは収穫が多かった年の方が味がよいそうです。ちなみに2009年はスーパー当たり年!と自信満々に言ってました。

取材後にラウラさんが自宅に案内してくれました。驚くことにその家は、昔から代々使っていたオリーブオイル製造所を住めるように改装した、とても趣のあるお家です。実際に石臼や圧搾機が当時のまま残されており、目を閉じれば、オリーブの爽やかな香りまでしてきます。「オリーブオイルに興味を持ってくれる人は皆、私たちの仲間」と言われた言葉がとても印象的なイタリアへのオリーブオイル紀行でした。
「ラウラ・マルヴァルディLAURA MARVALDI」とラウラさんの名前をつけたオイルはとりわけ条件の良い畑で栽培されているオリーブを使っており、生産量が少なく、ほとんどが地元で消費されていて、イタリアでもほかの州では入手困難。彼女の名前がラベルに刻まれた特別なもので、その爽やかな味に魅せられて箱買いしてしまいました。残念ながら日本では入手困難ですが、その爽やかな味わいとコクはまさに彼女の人柄を表したオリーブジュースそのものです。リグーリアに訪れる機会があれば是非、足を伸ばしてみて下さい。


ラウラさんのお宅。石臼や圧搾機が当時のまま残されている

<コラムの担当者>
菊富友一

<バックナンバー(2003年8月~2009年8月)>