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【とっておきのヨーロッパだより】自然からの甘い贈り物
2010年07月01日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

まだ夜の明けていない朝4時に、フランス校のあるリエルグLiergues村から、ムーアン=サルトゥーMouans-Sartouxという小さな村に向かって、南に車を走らせました。
ムーアン=サルトゥーと聞いても、「あーあの村か」とピンとくる人は少ないと思いますが、カンヌCannes、グラースGrasseと聞けば、「あっ!カンヌの映画祭!」「香水!」と知っている人も多いでしょう。
この村は、フランス校のある村から約480km、カンヌの町から12km、グラースの町から12kmとちょうど2つの有名な町の間にある小さな村です。
さて、なぜ朝早くからこの村に出かけたのかというと、この日4月25日(日)に、この村で、蜂蜜祭りFête du Mielというお祭りが行われたのです。朝の10時開催ということで、この時間に間に合うように出発しました。
今回、私が訪れた村ムーアン=サルトゥーでは、毎年4月の末にこのお祭りを催していて、今年で16回目になります。伝統的なお祭りというわけではありませんが、現在では、毎年数千人の人が訪れるお祭りとなっています。
ちょうど16年前といえば、ヨーロッパ各地で蜂が減少し、フランスでも多くの蜂が突然死んでしまった時期と重なりますので、販売促進などの目的で開始されたのでしょうか。蜂蜜に関係するお祭りは7月、8月にプロバンスでは、いろいろな町で開催されています。


祭りの案内図

ここプロバンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏といえば、春、夏には沢山の花が咲き乱れます。グラース近郊では、香水を作るための花も多く栽培されていますので、当然蜂蜜を作る養蜂家達にとっては、最適な場所なのです。
この辺りは、フランスで一番蜂蜜作りが盛んで、約4500の養蜂家達がいて、全部で165000群を飼育しています(巣箱1箱が1群)。そのうちの3500という大多数の養蜂家達が70群を飼育し、そのほか約300の養蜂家達は150~300群、700の養蜂家達は70~150群を飼育しています。
春から夏にかけては、巣箱の移動や蜂蜜の採取など、養蜂家達は大忙しです。
生産量は、何と!年間に2000トン、これは国内生産量の約8%を占めます。ラベンダーの蜂蜜に関しては、生産量の約半分以上が、この地域で作られているのです。
今回いろいろなことを教えて頂いたジャン=ルイ・ロタールJean-Louis LAUTARD氏の所では、約800群を飼育し、この地域でも非常に品質のよい蜂蜜を生産しています。パリ農業コンクールConcours Général Agricole de Parisでは、数々の賞を受賞しています。
フランスでは、本当に沢山の種類の蜂蜜が作られ、食べられています。このお祭りに行き、私が始めてフランスに来た時、ごく普通のスーパーの棚に数多くの種類の蜂蜜が並べられている光景を見てビックリさせられたのを思い出しました。


店で売られていた蜂蜜

蜂蜜には特定の花の蜜から作られるものと、数種類の花の蜜から作られるものとの2種類に分かれます。

特定の花の蜜から作られるポピュラーな蜂蜜
主なものは、アカシアAccaciaやラベンダーLavande、ティユールTilleul、タイムThym、ローズマリーromarin、エリカbruyère erica、栗marronなど。作られる量の少ない珍しいものでは、サクランボcerisier、クレマンティーヌclémentinier、フランボワーズframboisierなどの果樹の花、アザミchardon、ムラサキウマゴヤシluzerne、イブキジャコウソウserpolet、クローバーtrèfleなどの牧草地に多い植物の花やソバsarrasinなど。
花の数だけ蜂蜜は作ることが出来るのでしょうが、花によって花蜜の量が違い、主立って作られている蜂蜜は30数種類に及びます。プロバンスでは、菜の花、ヒマワリは作られていないそうです。

 
タイムの花                     クレマンティーヌの花

さて、なぜこのように単一の花から採った花蜜から蜂蜜が出来るかというと、養蜂家が特別に蜂の行動をコントロールするのではなく、巣箱を置く場所と時期でコントロールしています。なぜなら、蜂が餌である花蜜を探してまわる範囲が半径3km~3.5kmの間だからです。つまり、巣箱を置く場所の半径3km~3.5kmに、同時期に別の花が大量に咲いていなければよいわけです。蜜蜂は巣箱の近くに大量に花蜜の採れる場所があれば、当然その場所より遠くに探しに行くようなことはしません。人も同じで、近くで手に入る物は当然近くですませてしまいますよね。この中には、少量のほかの花の花蜜も含まれますが、そこまでは管理しないそうです。

これらの蜂蜜は全て採取したときは、結晶化はしていない液状です。が、天然の蜂蜜は全て次第に結晶化していきます。これは気温にもよりますが、採取される花の花蜜によって異なり、例えば、ヒースの蜂蜜は巣箱から採取してから3~7日、ラベンダーの蜂蜜は約2ヶ月、アカシアの蜂蜜は数年間結晶化せずに保ちます。この結晶化は気温、糖度、ブドウ糖の量、花粉などの不純物の量などによります。気温は低い方が、糖度は高い方が、ブドウ糖や不純物は多い方が結晶化は早く、粗い結晶になりやすくなります。逆にゆっくりと結晶化していくものは、細かい結晶になりやすいのです。

Miel d'accacia
花の種類:アカシア(ニセアカシア)
花の咲く時期:春先
蜂蜜の収穫時期:5月末~6月 北風や夕立の影響で収穫量の差が激しい
色:透明感のある薄い黄金色 明るい色調
味:あっさりとした癖のない味

アカシアの蜂蜜

Miel de lavande
花の種類:ラベンダー
花の咲く時期:6月下旬から8月上旬 
蜂蜜の収穫時期:7月末から開始 乾燥が激しく、ミストラルが強い時に、まれに全く収穫できないことがある。
色:明るい色調(写真のものは細かい結晶があり、そのために乳白色になっている)
味:ラベンダー特有の香りが少なく、蜂蜜の香りとのバランスの取れた味

ラベンダーの蜂蜜

Miel de Tilleu
花の種類:ティユール(セイヨウシナノキ)
花の咲く時期:6月、7月
蜂蜜の収穫時期:7月上旬 花の咲いている時期が短く、収穫率が悪いため、天候によって収穫量に大きく影響する
色:ベージュ色 明るい色調(写真のものは細かく結晶)
味:セイヨウシナノキ独特の香りがある。豊かな香りに滑らかな酸味あり

ティユールの蜂蜜

Miel de Thym
花の種類:タイム
花の咲く時期:5月 花の咲く時期が非常に短い
蜂蜜の収穫時期:5月 気候により、非常に収穫量が変わる。寒い年、乾燥が激しい年、雨の多い年など。
色:暗めの色調(写真のものは細かく結晶しているため薄いキャラメル色で完全に固形)
味:爽やかな風味で甘みも少ない。 

タイムの蜂蜜

数種類の花の蜜から作られる蜂蜜
日本でいうところの百花蜜。ミエル・ミル・フルールMiel mille fleurs(千の花の蜂蜜)や、ミエル・トゥット・フルールMiel toutes fleurs(いろいろな花の蜂蜜)などといい、どちらも同じ物をさします。


菜の花

フランスでお菓子を作る際、メニューに蜂蜜としか記載されていない場合は、癖がなく安価なこの蜂蜜かアカシアの蜂蜜が使用されることが多いです。逆に特定のお菓子と深く結びついているのはラベンダーの蜂蜜で、その蜂蜜を使ったヌガー・ド・モンテリマールNougat de Montelimarは、日本でも有名なお菓子の1つですね。
その他、春の蜂蜜miel de printemps、山の蜂蜜miel de montagneなどと季節や場所を限定したものもあります。
春の蜂蜜は、4月末から5月にかけて、まるで一面黄色いじゅうたんを敷いたように、黄色一色に染めてしまう菜の花を多く使用しています。その他、リンゴpommier、サクランボ、クローバー、タンポポpissanlit、カシス cassisなどの花の蜜が使われています。
もう一方の山の蜂蜜は春の終わりから夏の初めにかけ山間で咲く花の蜜で作られていて、タンポポ、ブラックベリーronce、イブキジャコウソウ、クローバー、ヤナギランepilobe、エリカ、フランボワーズなどの花の蜜が使われています。

Miel de montagne
花の種類:タンポポ、ブラックベリー、イブキジャコウソウ、クローバー、ヤナギラン、フランボワーズなど
花の咲く時期:春先から、夏の初めにかけて
蜂蜜の収穫時期:溜まってくれば継続的に採取
色:明るい色調(写真のものはどちらも結晶している。透明感のある方は完全に結晶していないが、クリーム色の方は完全に結晶していて固形)
味:爽やかな風味で甘みも少なく、癖があまりない。同じ養蜂家が作った同種の物でも、結晶状態によって味わいが変化する。
 
完全に結晶していない山の蜂蜜         完全に結晶している山の蜂蜜

集めてくる花の花蜜によって、これだけの色の違いと、味の違いが出てくるのは不思議ですね。
さて、この蜂蜜を我々に運んでくれる蜂ですが、「1つの巣に1匹の女王蜂がいる」ということは皆さんご存知だと思いますが、この女王蜂と働き蜂は同じ雌の蜂だということはご存知でしたか?

巣箱

生まれた時に、巣のどこに卵を産み付けられたかによって、女王蜂として一生を過ごすのか、働き蜂として一生を過ごすのかが決まってしまいます。悲しい現実ですね・・・。女王蜂として育てられる蜂は、王台と呼ばれる特別な部屋で大切に育てられます。
女王蜂として育てられる蜂には、非常に豊富な栄養素を持つローヤルゼリーを与えられ、通常の働き蜂となるその他の蜂の幼虫には、花粉や蜂蜜が餌として与えられます。
ローヤルゼリーには、三大栄養素であるたんぱく質、糖質、脂質の他、ビタミン各種、ミネラル等の栄養素が含まれており、これを与えられて育った女王蜂は、通常の働き蜂の約3倍の大きさに成長します。寿命は通常の働き蜂が約1ヶ月に対して、女王蜂は長いもので6年生きるそうです。
ローヤルゼリーは人間の体にも非常によいようですので、興味のある方は調べてみてください。
さて、そうして育てられた女王蜂の仕事はというと、多くの子供を作ることで、1日に1000個以上の卵を巣に産み付けます。そして育った蜂達は、この女王蜂のためにせっせと働くのです。
一見、何不自由なく過ごしているように見える女王蜂も、繁殖の能力を失った瞬間、巣の外に出されてしまいます。自分で餌を取ったことのない女王蜂は、餌の取り方を知らないので、巣から出されれば直ぐに餓死してしまいます。
女王蜂を失った巣は、直ぐに次の女王蜂を育て始めます。

巣箱の蜂達

働き蜂達は、仕事の分担がきっちりと分かれており、次のような役割分担になっています。
内勤の蜂は、巣内の清掃係、育児係、巣内の温度を保つために、羽を動かして風を送る係り、外敵から巣を守る番兵に分かれています。外勤の蜂は、花から蜜を集めてきます。この集めて来た花の蜜が蜂蜜になるわけです。
蜜蜂は、蜜嚢に集めてきた花の蜜を貯めて巣箱まで持ち帰ります。そこで巣で待っていた別の蜜蜂に口移しで花の蜜をわたします。その時、蜜蜂の体内にある分解酵素が作用して、ショ糖(花蜜)をブドウ糖と果糖に分解します。そしてそれを貯蔵庫に運んで、別の蜜蜂が羽を動かして風を送り、水分を蒸発させることによって蜂蜜を作るのです。そして本来この蜂蜜は、蜜蜂の幼虫達の餌となるのです。

では「雄の蜂は?」というと、巣の中での役割は全くなく、ただ子孫を残すためだけに存在し、春の交尾のシーズンになると女王蜂をめぐって、雄同士戦います。その中の数匹だけが女王蜂と交尾をし、死んで行くのです。
戦いに負けた雄蜂は、巣を追い出されます。自然の厳しさですね。

近年では、殺虫剤が多く散布されるようになった影響(特定のきつい殺虫剤が原因とされている)や気候の変化などで蜜蜂が激減し、地方の養蜂者達を困らせています。
2009年の発表では、前年度ヨーロッパ全体で30%もの蜜蜂が減少したとされています。ここ5~10年で蜜蜂の数は激減していて、この分だとヨーロッパの養蜂家は後8年~10年しか生き残れないと大変問題になっています。
養蜂家達だけでなく、蜜蜂がいなくなれば、蜜蜂によって受粉して実をつける果物や野菜農家達も大変困っています。もちろん食べ物が取れなくなると、我々人間も食料がなくなってしまいますので、多くの養蜂家団体は、農家の人達や国に問題を呼びかけています。
こうした地方の蜂蜜が問題視される中、今注目を集めているのは、パリ近郊で行われている養蜂家達だそうです。変わった所で作られている蜂蜜で、オペラ座の屋根に置かれた巣箱から蜂蜜を集め、オペラ座で売っているジャン・ポクトン氏。味もさることながら、やはり話題性でしょうか・・・?

いつも何気なく、お菓子に大量に使っている蜂蜜ですが、蜜蜂1匹が死ぬまでに集めてくる蜜蜂は、たったのスプーン1杯分だそうです。蜂や養蜂家の人達が一所懸命に集めた蜂蜜を我々は
大切に使って、おいしい料理やお菓子に変えてあげないと駄目ですね。

*ヌガー・ド・モンテリマールは「モンテリマールのヌガー」を、ラベンダーは「南フランスの初夏の香り」をご参照下さい。

<コラムの担当者>
筒井一夫

<バックナンバー>
2009年8月まではこちら 
2009年9月からはこちら

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