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【とっておきのヨーロッパだより】憧れのライヨールナイフ ~そこに込められた人々の想い~
2011年01月06日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

 

 

 最近日本のレストランでもよく見られるライヨールナイフCouteau de Laguiole。蜜蜂の装飾がついていることが有名で、一度は目にしたことのある方も多いのではないでしょうか?ソムリエナイフも有名ですよね。もちろん私もその美しさに憧れた一人で、何度買おうと迷ったことかわかりません。フランスでは星つきのレストランはもちろん、ビストロやブラッスリーでもこのライヨールナイフを使用しているお店がほとんどです。なぜ他のナイフと比べてこんなにもライヨールナイフが愛されているのか不思議に思い、ライヨールナイフの生まれ故郷であるライヨールLaguioleへ車を走らせました。フランス校のあるリエルグLierguesから南西へ約300km、車で約4時間の山奥にあり、まさにそこは秘境の地...。ライヨールナイフ、ライヨールという名のチーズ、オーブラック牛、そして3ツ星レストラン『ブラスBras』があることで有名な小さな村です。


ナイフの村ライヨールの看板

 

 私が今回このライヨールナイフに興味を持った最初のきっかけは、ライヨール村にあるレストラン『ブラス』で使用されているライヨールナイフについての話を聞いたことでした。このレストランでは、最初にセッティングされているナイフをパンで拭きながら最後まで使用します。通常他のレストランでは、お皿ごとに使用するカトラリーを替えるのが当たり前なのですが、ここでは違います。というのも、ライヨール村の人々は幼少の頃から年老いるまで、ずっと1本のナイフを使い続けるという習慣があるそうなのですが、その精神を大切にして、『ブラス』ではこのスタイルにしているとのことです。そこまで大切に愛されるライヨールナイフに魅力を感じた私はこのナイフについてもっと詳しく知りたくなりました。


無数のライヨールナイフ

 

 ライヨール村に入るとすぐ目に入ってくるのがオーブラック牛の大きな銅像がある広場。その周りに何軒ものクトゥルリーCoutellerie(刃物店)があります。まさにライヨールナイフの村です。数多くあるお店の中の一軒に入ってみると、そこには無数のライヨールナイフが置いてありました。職業柄、今まで相当数のライヨールナイフを見てきたつもりでしたが、その数を遥か超える様々な種類のものがありました。そこのマダムに話を聞くと、「近くにこのお店のアトリエがあるから行ってみるといいわよ。」と言われ、さっそく車で3分くらいの場所にあるアトリエ『フォルジュ・ドゥ・ライヨールForge de Laguiole』へ向かいました。


『フォルジュ・ドゥ・ライヨール』の外観

 

  ライヨール村のはずれに位置するアトリエ『フォルジュ・ドゥ・ライヨール』。その建物の佇まいは巨大なナイフが建物に突き刺さっっている奇妙な形で、宇宙船のよう...。それもそのはず、デザインはあの有名なフィリップ・スタルクPhilippe Starck氏(浅草のアサヒビールスーパードライホールを設計したことでも有名なフランス人デザイナー)が手掛けているそうです。


アトリエが見えるブティック  

 

 中に入るとまずブティックがあり、その奥にアトリエがあります。ブティックにいる女性フレデリックFrédériqueさんに見学をしたいと声をかけたところ、見学用のデモンストレーション等は団体客向けにしか行ってないそうで残念ながら見ることができませんでしたが、通常の作業であれば見学可能とのことでした。フレデリックさんに案内され、アトリエに入るとまずライヨールナイフについての歴史が書かれてありました。


カピュチャドゥ

 

ライヨールナイフの歴史

 その歴史は18世紀に遡ります。 18世紀に当時オーブラック地方で多く使用されていたナイフは"カピュチャドゥCapuchadou"というものでした。このナイフは鋭利な刃と、ブナの木や黄楊(ツゲ)で作られた柄から出来たものでした。


上が最初のライヨールナイフ、ブルボネ風のライヨール・ドルワ

 

 そんな中、ライヨールで最初のライヨールナイフが作られたのが、1840年でした。その年に"ライヨール・ドルワLagouiole droit"という柄に装飾がない折り畳み用のばねがついたナイフが作られました。刃先が刃の先端の中央にあるブルボネ風(ブルボネはフランスの昔の地方の名前、今のアリエAllier県にあたる)で、柄は動物の骨や象牙から出来ていました。このモデルが主流となり、その後ライヨールで1900年代まで製造されることになります。 1850年頃から、ライヨールナイフの現在の形が現れ始め、徐々に洗練されていきました。このナイフの創始者がピエール・ジャン・カルメルPierre-Jean Calmelsだとされています。そのナイフは全体がゆるやかなS字型で、刃がトルコ剣のような形で、柄は洗練された曲線を取り入れたものでした。彼の名を継ぐお店は現在もライヨール村にあります。


入り口に1829年創業と記された、カルメルの名を継ぐお店  

 

 1880年にはナイフの柄のばねに花の模様が装飾されたものが作られ、1909年に現在の主流となっている蜜蜂の装飾が初めて作られました。 順調に職人やアトリエの数も増え、ナイフも洗練されていった中、1914年からの世界大戦でライヨールの職人達の多くが戦争で死を遂げてしまいました。この戦争後、ライヨールナイフの大部分がライヨールから北東へ150kmの場所にあるティエールThiersという村で生産されることになったのです(このような理由で、ライヨールナイフはティエール村が本場だという誤解を招いているそうです)。 しかし1985年頃から、再びライヨールで職人達がナイフを製造し始め、新たなアトリエを作り、次第にライヨールナイフが復活していきました。その中の人々の手によって、1987年『フォルジュ・ドゥ・ライヨール』が生まれ、現在に至っています。


蜜蜂をはじめ、いろいろなモチーフ

 

蜜蜂L'abeille

 1909年に初めて作られたこの装飾ですが、様々な説がある中、最も有力なのが、その起源はライヨールの人々に戦における武勇を称えた皇帝ナポレオン1世からの褒章として与えられた刻印に、皇帝の象徴としての蜜蜂の装飾が使われていたことに由来すると言われているものです。蜜蜂の装飾は職人によって手作業で彫られているために、それぞれのナイフが唯一無二のものになっています(もちろん、安価な工場製品のものは違います)。また蜜蜂以外に他のモチーフも存在し、例えばその昔結婚式で若いカップルのお守りとして四葉のクローバーを冠したものを作ったという逸話もあるそうです。現在では蜜蜂に限らず、モチーフの種類は無数にあります。


さくらんぼ色まで熱された鋼鉄

 

【製造工程】 製鉄La forge

 よく切れると評判のライヨールナイフの刃。その刃は、鋼鉄を"ルージュ・スリーズrouge cerise(さくらんぼの赤)"という色になる900~1000℃まで熱し、300tの圧力をかけ、刻印を入れ、綺麗な形に型抜きします。それを再び1000℃で1時間熱することで金属の組織を収縮させ、より堅固なものにします。その後、油の中で冷やし、ライヨールナイフの刃が完成します。


T12とダマスク鋼(右端)

 

 昔はカーボン鋼から製造していたのですが、現在ではT12という鋼鉄が主流になっているそうです。この新素材は、耐久性に優れ、変質したりせず、研磨も簡易に出来るそうです。同様に、ばねの部分もこの素材で作られています。その他にも装飾美術向きのダマスク鋼やカーボンセラミックも使用されています。

 
左:柄の素材。右側は主に果樹(下から3番目はオーク、2番目はワイン樽に使ったオーク)、中央は黒檀や紫檀など、左は着色集成材
右:柄の素材。右側はアクリル樹脂、右から2列目の上は皮革、下はアルミニウム、左2列は角(白いのは牛の骨)、上部の板は紫檀

 

鋸挽きLe sciage

 柄は様々な素材で加工されます。より伝統的なものでは、動物の骨、角、木などです。珍しいものになると、真珠貝、珊瑚、象牙などもあります。その素材のより良い部分を活かすために、職人達がその目で実際に確認しながら、手作業で柄を切り出し、加工していきます。

 
左:ばねの製造工程。プレートから切り出され、焼入れ、彫刻される
右:手彫りで彫刻されるばねの装飾

 

彫刻Le ciselage

 柄の中央の部分に刃の開閉を可能にするばねressortがあります。ばねといってもスプリング状のものではなく、1枚のプレートです。それぞれのばねは非常に精巧に曲線がつけられ、焼入れをされています。 その後の組み立ての段階で、職人達が手作業で刃の開閉がスムースに行くように、ばねと刃の止め具が均一に調整なるようにしていきます。ばねの部分に装飾されてある蜜蜂は職人達の手彫りです。

 
柄にティール・ブッションtire-bouchon(コルク栓抜き)を取り付けている作業

 

組み立てLe montage

 この工程で、職人達がナイフを最終的な形に仕上げていきます。それぞれのナイフが職人の目と手でバランスを調整しながら、寸分の狂いもなく組み立てられていきます。


亜麻で出来たディスクでナイフのそれぞれの部分を磨く

 

研磨Le polissage

 ナイフのそれぞれの部分は、亜麻で出来たディスクで磨かれます。この作業で刃を輝かせ、柄の素材の美しさをより際立たせます。

 

検査と発送Le controle et l'expédition

  職人の目で1つ1つ丁寧に検査し、ライヨールナイフの品質を保証します。実際に見ることが出来なかった工程も一部ありましたが、職人達が手作業で1つずつ丁寧に愛情を込めて作っているその姿に、ライヨールナイフがこれだけ多くの人々に愛されている理由を垣間見たような気がします。


MOFの称号をもつヴィルジリオ・ムニョス・カヴァイエロさん

 

 見学後、ブティックから見える個室のアトリエのガラスに貼ってあったのが、何とMOFのマークでした。MOFとは、フランス最優秀職人章という"職人"に与えられる最高の称号のことです。傍にいたフレデリックさんに尋ねてみると、そこで作業しているヴィルジリオ・ムニョス・カヴァイエロVirgilio Munoz Caballeroさんは1986年にMOFの称号を手にしているとのことでした。この特別なアトリエには、ムニョスさんを含め『フォルジュ・ドゥ・ライヨール』でも特に技術の高い3人の職人が作業をしていて、特別な注文のものやそれぞれの職人独自の作品を作っているそうです。

 
左:ヴィルジリオ・ムニョス・カヴァイエロ作
右:ステファン・ランボーStephane Rambaud作

 

 「1本1本、このナイフを使ってもらう人のことを想いながら、職人として心を込めて作っているんだよ。」と笑顔で話して下さったムニョスさんの無骨で真っ黒な手に、ライヨールナイフの美しさと誇りの源を感じました。日本にいる頃は、「ナイフ1本でこんなに高いなんて...。」と思い買うことが出来ずにいた私ですが、このライヨールに来てアトリエで職人達の手で1本ずつ作られていく工程を見て、その価値の高さを実感し、迷わず1本買って帰りました。ライヨール村の人々と同じようにずっと使い続けていこうと心に決め、ライヨールナイフの生まれ故郷をあとにしました。

 


MOFのムニョスさんと案内をして下さったフレデリックさん

 

 もし今後みなさんにライヨールナイフを目にする機会があった時、職人達のナイフへの想いを感じながら手にしてみて下さい。その見た目の美しさや気高さだけではなく、きっと何か感じるものがあるはずですから...。

 

 

<コラム担当者>
洋菓子 厚東 宣洋

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