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【とっておきのヨーロッパだより】食卓に温もりを添える...フランス生まれの鍋~ル・クルーゼ~
2011年02月10日

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【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?

ここ数年、日本で「鋳物琺瑯(ホーロー)鍋」が流行っています。雑誌や広告などで見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれません。難しい漢字を見ると??という感じですが、商品名で言うと「ル・クルーゼLe Creuset」や「ストウブStaub」などなど、聞いたことがあるのではないでしょうか。この鍋が流行る前は、軽量で安価なアルミやステンレスの鍋が一般的でした。特にアルミの鍋は熱伝導のよさという利点もあり、一般の家庭はもちろんプロの料理界でもよく使われてきました。しかし、アルミ鍋やステンレス鍋にはない温かみのある色や形、そして優れた機能性を持つのが、今回紹介する「鋳物ホーロー鍋」です。
プロの、特にオープンキッチンなどのお店で使われ始めた頃から注目を浴びるようになりました。


写真左:デパートの中にあるル・クルーゼ売り場  写真右:ル・クルーゼの鋳物ホーロー製品の定番、ココット・ロンド

私も数年前、近所のデパートでカラフルな色合いと可愛らしいフォルムにまずひかれ、次いで仕事でル・クルーゼのココットを使った時からその魅力に引き込まれ、鋳物ホーロー鍋の愛用者になりました。見た目のよさもさることながら、なんと言っても料理、特に煮込み料理に持って来い!なのです。普通に火にかけるほか、フタをしてオーブンに入れても素晴らしい仕上がりになります。 例えば、パン生地でフタと鍋の間をおおってオーブンでじっくり加熱する、アルザス名物の煮込み料理「ベッコフ」なども楽々できてしまいます。


写真左:ココット・オーバルは細長い形が特徴。大きな食材も丸ごと入ります
写真右:心も体も温まるベッコフの完成

他にもいろいろな料理を作りました。カレーや肉じゃがなどの煮込み料理はもちろん、ご飯を炊いても最高の出来です。
この鍋を使うと鍋底が厚いので熱周りがよく、少ない水分と弱火でじっくりと調理することができますし、重いフタなので吹きこぼれる心配もありません。ですから、食材さえ鍋に入れてしまえばあとは本当に鍋が料理をしてくれるという感じでした。そして言葉では説明できない料理の美味しさ。この美味しさの秘密はなんなのでしょう。
 鋳物とは、鉄などの金属を溶かして成型したもの。アウトドアで使われるダッチ・オーブンと呼ばれる鋳物鍋などがよく知られていますが、それにさらにホーロー加工(ガラス吹き付け塗装)をしたものを鋳物ホーロー鍋と言います。鍋本体は鉄なので熱伝導に優れ、重さのあるフタによって気密性は上がり、吹きこぼれを防ぎ、少ない水分で調理が出来ます。またホーロー加工によって鍋の内外にガラスの膜が貼られることにより、錆びを防ぎ、鍋に食材の臭いや色移りすることを防ぐなど、通常の鋳物鍋よりも優れた点を持っています。ただ強火や空だきには弱いので、それらを避けて弱火でじっくり調理をすれば、素材の旨味を引き出し優れた効果を発揮します。 鋳物ホーロー鍋の特徴はなんといっても重さにあります。この鍋を一度持ったことのある方はご存知かもしれませんが、とても重い!こんなの普段家庭では扱いづらい…と思うかもしれませんが、まさにこの重たさがこの鍋の最大の特徴。鍋本体もフタも、鋳物の上にホーロー加工しているので厚みが出て重くなっています。しかし、その厚みが熱を逃がさず温度を下げにくくしますし、熱が蓄えられるので柔らかい熱が鍋全体にいきわたり、鍋の中の食材全体にじっくりと熱が行き渡るのです。 せっかく鋳物ホーロー鍋の世界的名品であるル・クルーゼの本場フランスにいるのだからと思い、ル・クルーゼの本社を訪ねて見ることにしました。広報担当のディアンヌ・ルソーDiane Roussotさん案内の下、鍋を作る工程を見せていただきながら、色々な質問にお答えいただきました。
フランスの北部、パリから約180km北にある街、フレノワ=ル=グランFresnoy-le -Grandの郊外にル・クルーゼの会社はあります。 ここ、フレノワ=ル=グランはもともと鉄鉱石の資源が豊富で、また地理的にベルギー、イギリスやドイツなどに近いことから、物流に好条件な土地でした。この土地では200年以上前から鋳物が作られてきたそうです。 この工場で働いている人は約500人。ここで世界中のル・クルーゼの鋳物ホーロー製品を作っていると聞いて驚きました。この工場で生産される鋳物製品は1日に約45トンだそうです。残念ながら数は非公開ということで明確に数では表せませんが、45トンと聞くと相当な数だということは想像がつきます。 ル・クルーゼの歴史は1924年、2人のベルギー人が出会った時から始まります。 鋳物のスペシャリストのアルマン・デサエArmand Desaegherとホーロー加工のスペシャリストのオクターブ・オベックOctave Aubecqがその2人です。


ル・クルーゼの設立者の1人、アルマン・デサエ

翌1925年、彼らはフレノワ=ル=グランにル・クルーゼの会社を立ち上げます。 もともと、フランスの家庭では鋳物の鍋を使って煮込み料理がよく作られてきました。そう言った煮込み料理に適した鍋として古くからフランスで親しまれてきた厚手のフタ付き両手鍋を『ココットCocotte』と言います。ココットのように家庭向けで、代々母から娘へと受け継がれていくような上質な鍋を、2人の技術を生かして作り上げていこう、ということからル・クルーゼの鍋は作られ始めたそうです。 日本で買うなら直径22cmの鍋でだいたい30000円はするでしょうか。この値段だけを見ると即座に購入!というわけにはなかなかいきません。しかしル・クルーゼの鍋を作る過程を調べていくうち、その値段は高いどころか、値段以上の価値があるのではないかと思えてきました。 私が一番驚いたというか、興味をもったのは現在でも鍋を作る過程でチェックをするのは人間の目だということ。
ル・クルーゼではそのチェック箇所が1つの鍋に対して33箇所!!もあります。


写真左:チェックしているところ    写真右:鍋を作る時の型。この2つの型で1つの鍋を作る

なんと、鍋を作る前の鉄で型を作るところからチェックは始まっているそうです。鉄の型をきれいになめらかにするところ、ホーローのかけ具合、最終的なチェック…チェックに通らなかった鍋はもう一度溶かされ、最初からやり直しとなるそうです。 写真(上右) の型を使って鍋を作ります。銑鉄、鋼鉄、再生鉄の三つを1400℃以上の高熱で溶かしてこの型を重ね合わせたところに出来るすき間に注ぎ入れ、継ぎ目のない一体型の鋳物を作りあげます。この作業が、鋳物を作る過程で一番重要な部分だそうです。
1925年の創立年にはすでに、現在でも同社の定番商品である『ココット・ロンド』の初代モデルも製造されています。それから約10年間にわたり『ココット・ロンド』だけではなく、電気ホットプレートなど、家庭用キッチン用品の開発、製造を行っていきます。 世界大戦が始まると、ル・クルーゼの工場はいったん武器や戦争に必要なものを作る軍需工場に変わってしまいます。しかし戦争が終結を迎えた1945年以降、ル・クルーゼは本来の事業を再開し、単なる家庭用品にとどまらず、使いやすさ・デザイン・機能性の3つを軸にした家庭用品の製造をすることに取り組み始めます。有名デザイナーによるシリーズを発表したり、鋳物ホーロー以外の製品の開発(シリコンやステンレス、セラミックなど)、また鍋のみならず「台所から食卓まで」を大きなテーマに、様々なキッチンツールの開発、製造を行っています。


写真左:シリコン製のスパチュール(へら) 写真右:ハート型が可愛いラムカン(スフレ型)

1952年からはフランス以外のヨーロッパとアメリカで販売を開始、1974年にはフランス国外初となる会社をアメリカに、それに続いて1988年にはイギリス、1991年に日本、1994年にはドイツに会社を設立。今ではアジア、南アフリカ、南米と世界各国に会社を設立し、海外展開をしています。 色々な製品を見ている間にふと、わいた疑問が1つ。日本で見かけたことのない製品がある…ということは、それぞれの国独自の製品があるのでしょうか?
「はい。日本独自の開発品でいえば、『ココット・ジャポネーズ』や『スチーマー』、小さいサイズの『ココット・ロンド(円形)』や『ココット・オーバル(楕円形)』など多数あります。」


ココット・ジャポネーズ
鍋の深さが浅いので鍋物などに使いやすい。

 「今、日本を初め多くの国でブームになっている『タジン』も、元はフランス向けの製品でした。
フランスに縁の深い北アフリカのマグレブ諸国の伝統料理に使われていた土鍋であるタジンを、鋳物ホーローを用いて開発したものです。またフランスでは他にもクレープパンや、タルトタタン専用のお鍋『プレート・タタン』などが開発されています。アメリカではオーブン文化のためオーブンウェアが人気ですし、イギリスではインド料理をはじめ外国の食文化への関心が高く、『タワー』というチャパティを焼くためのお鍋や中華鍋にヒントを得たお鍋など、オリエンタルスタイルのお鍋があったりします。」

写真左:プレート・タタン        写真右:タジン。フランスで開発され、今では世界進出!

 「色についても各国の好みは非常に異なります。イギリスはグレーなど暗い色、フランスはベージュや定番のオレンジなどナチュラルな色、アメリカはブルーやチェリーレッドのような強い色、日本ではオレンジ、チェリーレッドはもちろんですがアンティークローズのようなエレガントな色が人気です。世界の国によって食文化や住環境、キッチンウェアに求めるもの非常に異なるので、その国のニーズに合わせて商品をお届けするというのが私達のポリシーです。」
ル・クルーゼ以外にも鋳物ホーローと呼ばれる鍋を作っている会社は今では多数あります。そんな中、ル・クルーゼが鋳物ホーロー製品を作る上でこだわっているポイント、また強みとする点は何でしょうか?
「色々ありますが、例えば仕上がりの色味にグラデーションをつけるホーロー加工技術はル・クルーゼ社だけのものです。またわれわれの何よりの強みは、普遍的なデザインと85年の歴史で培った技術。このフランスの工場では親子3代にわたって働いている人もいて、職人の技術がきちんと次の世代に継承されていること。これは我々の誇りです。」


耐久性と保温性を高めるためのホーロー加工

ルソーさんは最後に「今後は世界中のそれぞれの食文化に合わせて、ニーズに沿ったお鍋を提供していきたいと思っています。カラフルなデザインに加え、製品の機能やブランドの歴史などをもっと伝えていけたらと思っています。」とおっしゃっていました。
パリにル・クルーゼを使っているビストロがあると聞いて訪ねてみました。


パリにあるビストロ「ラシエットL’Assiette」
このビストロのシェフ、ダヴィド・ラスジュベールDavid Rathgeber氏は
ル・クルーゼのココットを使った料理本も出しているル・クルーゼ愛好家。


ビストロのシェフ、ダヴィッド・ラスジュベール氏 メニューを見ていると『ココット』と書かれてあるメニューがあります。サービスの人に「どの料理がココットを使っている料理ですか?」と訪ねると、メニューの中から説明してくれました。季節の野菜をココットでブレゼ(蒸し煮)したもの、カッスーレ(フランス南西部の伝統料理で豆や肉を煮込んだもの)などなど…。その中から、今回はココットを使ってブレゼしたモリバトの料理を頼んでみました。 よく店内を見ると鍋以外にも鍋敷き、グラタン皿もル・クルーゼのものが使われていました。 シェフにル・クルーゼの鍋の魅力について尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。 「まずは、食材に火を通す時にフタをすれば食材の水分も香りも逃がさず、しっとりと仕上がること。そして見た目の美しさ。普通に料理をしているとお客様は盛り付けられて出来上がった料理しか見られないけれど、そのまま客席にお出しできる美しいココットならば、お客様自身も仕上がったばかりの料理の香りや見た目を楽しむことが出来るのです。」 なるほど、確かに…そんな話を聞いている間に私の注文した料理が運ばれてきました。お皿に盛ってもらっている間、料理についてもシェフはいろいろとお話してくださいました。



モリバトのブレゼ。
下に盛ってあるキャベツの旨味と肉の旨味が 見事に一体となっている。
「この料理は鳩とキャベツを一緒にココットに入れて料理しています。だから、キャベツ、鳩それぞれにお互いの味が染みています。さぁ、早く食べてみて下さい。」
と、言われるがままにとりあえず料理をひと口…熱っ!!
「そうなんです。この熱さもココット調理の魅力の一つです。」 とにっこりするシェフ。
シェフがおっしゃる通り、鳩にキャベツの味がしっかりと染みていて、鳩もしっとりと仕上がっています。鍋に材料を入れ、フタをしてそのままオーブンへ。決して手の込んだ料理ではありませんがフタをすることによって水分を逃がさず、それぞれの味を引き出します。そしてオーブンから出してそのまま客席に持って来られることによって料理も冷めず、むしろ熱々で食べられるのです。 今回の取材で感じたことは、鋳物ホーローの製品を作っている職人さん達の思い、努力、技術。そしてそれを支えるル・クルーゼに関わる全ての人の努力と進化、軌跡。そんな魔法が料理を美味しくしている一つのスパイスになっているんじゃないかと思いました。 たくさんの人の思いが詰まって今、私たちの手に届けられている鍋。少し重たいけどこの鍋には単なる調理器具としての鍋以上の魅力がたくさんあります。 みなさんの食卓にもぜひ、温もりを添えてみてください。

<コラムの担当者>

金子 歩



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