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【とっておきのヨーロッパだより】夏の北イタリア
2011年10月07日

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【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?


今年の夏のヴァカンスは、イタリア北西部リグーリア州を訪れました。リグーリア州は海岸線が長く、美しいリゾート地の多いところですが、中でもひときわ名高いチンクエ・テッレCinque Terreと呼ばれる地域を中心に訪れてみました。
チンクエ・テッレとはイタリア語で『5つの地』という意味を表し、州都ジェノヴァの東に位置する5つの村一帯を指します。山と海に囲まれた天然の要塞都市として発展した歴史を持ち、現在もその名残を留める入り組んだ岩場と、傾斜地に立つ美しい建築物の融合した独特の景観が特徴です。注1
平坦な土地がほぼ皆無のため酪農はあまり盛んではなく、料理は乳製品や肉よりも、地の利を活かして豊富に捕れる魚介を使ったものが多いそうです。魚介類大好きな自分はその点に特に魅力を感じ、行く前から期待がたかまりました。

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チンクエ・テッレの地図。5つの村が並んでいます


現在、勤務しているフランス校から車で国境を越え、ジェノヴァを過ぎた辺りからその数を増すオリーブの木々を眺めながら、山道をひたすら走り続けて約7時間。やっとの思いで到着したのはモンテロッソ・アル・マーレMonterosso al Mare、チンクエ・テッレの一番西に位置する村です。まず目に入るのが青い海!!これだけで疲れが吹っ飛びます。すぐに荷物を置いて村の中心地へ出掛けると、ビーチでは日光浴をする人々、レストランのテラス席ではテーブルいっぱいに並ぶ美味しそうな魚介料理。リゾート感と田舎の素朴さの絶妙に混じりあう素敵な雰囲気に、一気に心惹かれました。

その後数日をかけ、チンクエ・テッレの5つの村を、地元の料理を味わいながら巡ってみました。

 

モンテロッソ・アル・マーレMonterosso al Mare
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海岸線にはレストランやホテルが

ヴェルナッツァVernazza
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高台から見た村の全景

コルニーリャCorniglia

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断崖に存在するコルニーリャ

マナローラManarola

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日光浴を楽しむ観光客

リオマッジョーレRiomaggiore
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山の斜面に建つ家の数々 


マナローラからリオマッジョーレの二村の間には、「愛の小道Via dell’Amore」と呼ばれる、きれいに舗装された小道があります。元々は1920年代、鉄道工事に必要な流通経路として作られた道ですが、やがて恋人達がよく訪れる場所となり、誰かが道の両端の入り口に石灰でVia dell’Amoreと書いたのが名前の由来になったそうです。
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(左)愛の小道                         
(右)道の途中にある恋人達の像。写真を撮ったり名前を書いた南京錠を手すりにはめ、愛を誓うカップルが多いそうです

 

チンクエ・テッレを含むリグーリア州ならではの味と言って、一番に挙げられるのは有名なペストPesto。バジリコの葉をベースに、上質なタジャスカ種オリーブ2から作られたオリーブオイル、松の実、にんにく、すりおろした硬質チーズを合わせたソースです。バジリコ自体はインドが原産とされていますが、古くから海路が開けていたジェノヴァへ貿易によってもたらされ、またリグーリアの気候や土壌がバジリコの栽培にあっていたために栽培が盛んになったと言われています。ペストの材料は、地域によっては松の実がクルミになったり、使う硬質チーズも羊乳製か牛乳製かなどヴァリエーションがあるようですが、その土地で手軽に手に入る材料で作られるソース、という点は共通しているようです。
トローフィエTrofie3というもちもちした食感のパスタをペストに合わせますと、ペストから立ち上がるバジリコのさわやかな香りとよくマッチします。
他にも特殊な器具を使ってメダル状に模様を付けたコルツェッティCorzettiというパスタなど、この地域の手打ちパスタには色々な種類がありますが、中でも一風変わったテスタローリTestaroliというパスタがあります。
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コルツェッティ                            真空の状態で売っていたテスタローリ


粉を練って成形後にゆでる一般的なパスタと違い、まず生地をクレープのように薄く焼くのが特徴です。4

本来はチンクエ・テッレに沿岸部沿いに隣接したトスカーナ州のルニジャーナ地方で古くから食べられていたものが伝わったようですが、今はここチンクエ・テッレやリグーリア州の東端ラ・スペツィアLaSpeziaの辺りでも食べられている郷土料理です。
生地をひし形にカットしてゆで、ペストと和えるというとてもシンプルな食べ方なのですが、ニョッキと手打ちパスタを合わせた様なもちっとした歯ごたえに小麦の香ばしさ、独特の食感と味わいがあり、非常に美味しかったです。見かけることがあれば、是非食べていただきたいです。

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ペストで和えたテスタローリ


やはり海に面した土地柄か、どこの店のメニューも肉より魚を使った料理が断然多く、魚介料理の多彩さに嬉しくなります。シンプルな魚介のフリット・ミストFritto Misto(ミックスフライ)を始めとして、チュッピンCiuppin(地元で採れた新鮮な魚介をふんだんに使ったスープ)、やモスカルディーニ・イン・ウーミドMoscardini in Umido(小だこのトマト煮込み)など、日本人の好むシンプルな味付けの料理も多かったです。

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(左)チュッピン。伝統的には具の魚を裏ごしして仕上げますが、こちらには魚のムースが入っていました
(右)モスカルディーニ・イン・ウーミド

この地の魚介料理の中でもひときわゴージャスな料理が、カッポン・マーグロCappon Magro。まぐろを使った料理と言うわけではなく、本来は沢山の野菜や魚介類5とガレッタ(乾燥パンの一種)を何層にも組み上げ、一晩味をなじませてから翌日に食べる“贅沢なサラダ”とも言うべき料理。何とも手間と時間のかかるもので、特別な祝い事の日などに食べるご馳走だったそうです。
伝統的な作り方のものを食べてみたかったのですが、準備が大掛かりのため要予約とのことで、今回は食べる事が出来ませんでした。別のレストランで食べたカッポン・マーグロは現代風に軽くアレンジしたもので、注文を受けてから組み上げていくものでした。皿の一番下にはガレッタ、その上にムッシャーメMusciame6がふんだんに使われており、一皿で様々な食材を味わえて非常に満足感がありました。次回はぜひ伝統的なカッポン・マーグロを食べて、今回食べたものとの味の違いなどを見ていきたいです。

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(左)伝統的なカッポン・マーグロ
(右)現代的なカッポン・マーグロ使われている魚介はスズキ、タイ、カキ、アサリ、ムール貝、エビ、イワシ。野菜はジャガイモ、ニンジン、セロリ、さやいんげん、カリフラワー、ズッキーニなど


食後にチンクエ・テッレの村々を散策しつつ、地元の人々にこの辺りの特産物は何かと聞いてみると、ワインとの答え。こんな山と海に囲まれた土地にワインの原料のブドウが実るのか不思議に思い山を見てみると、あるのはオリーブの木、レモン、それとブドウもある?よく見ると山の斜面のあちこちにブドウが実っています。元は要塞都市として生まれたため他の村との陸路はなく船しか交通の手段がありませんでした。平地もなく土地が痩せているこの土地で人々が栽培可能な作物を模索し、急斜面の固い岩盤を砕いてできた石垣に苦労をして畑を作り何とか根付いた作物の一つがブドウだったと言われているそうです。

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山の斜面にあるブドウ畑                   ブドウ収穫・運搬用のトロッコ。険しい斜面での苦労を軽減するための知恵か

そんな厳しい環境の中で作られてきたチンクエ・テッレのワインの中にもD.O.C. (Denominazione di Origine Controllata)
統制原産地呼称注7を獲得した高品質の銘柄が2つあります。

1つは『チンクエ・テッレCinque Terre』。ボスコ種(白ブドウで独特のハーブのような芳香が特徴)というブドウ品種をベースにアルバローラ種、ヴェルメンティーノ種を合わせて作るのですが実際飲んでみると、フルーティでブドウの味が強く残っているもの、酸味が強いものなど、作られる各村によって様々な味わいがあり、それぞれの作り手の個性がはっきりと感じられます。

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モンテロッソ・アル・マーレで作られたチンクエ・テッレ。ブドウのフレッシュさが残り、すっきりとした味わい


もう一つは『チンクエ・テッレ・シャッケトラCinque Terre Sciacchetrà』です。貴腐ワイン8の一種なのですが、中々手に入らない貴重なワインです。 

手摘みのブドウを時間をかけて選別・陰干しし、熟成にはたるに入れて2年あまりを要するなど、非常に時間と労力を必要とするためもありますが、その上ハーフボトル(375ml)を作るために必要なブドウの量は一説では10kgとも言われ、さらにその原料の白ブドウの果皮が数年に一度太陽によって赤く色づいた年にのみ作ることもあって、生産量が非常に限られるためでもあります。

ほとんどがチンクエ・テッレをはじめリグーリア州一帯で消費されてしまうため、イタリアの他の土地では“幻のワイン”とも呼ばれているそうです。が、さすが地元。チンクエ・テッレの各村のエノテカ(酒屋)でごく普通に売られていました。価格は100ユーロ台のものもありますが、20ユーロ台から求められるものも多く、貴重なワインにも関わらず良心的な価格帯であることも驚きでした。

買い求めた『チンクエ・テッレ・シャッケトラ』は、琥珀色でコニャックのような芳醇な香りがあり、口の中に甘みと香りがいつまでも続く、非常に上品な味わいを持った逸品でした。 

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モンテロッソ・アル・マーレで作られたチンクエ・テッレ・シャッケトラ

 

全土のあちこちに、大観光地ではないけれどもちょっとした魅力のある町がたくさんあるイタリア。チンクエ・テッレでのヴァカンスは、美しい景観とともに新しい味、美味しい味の発見の旅でもありました。これからも、自分だけの宝物のような町を発見していきたいと思います。

 

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注1.1997年にはユネスコ世界遺産に登録された。
注2.リグーリア特産のオリーブの1品種。小粒な実が特長で、オイルを取るほか食用にもする。
注3.トローフィエについては、半歩プロの西洋料理2005年11月4日「日本人は麺が好き」を参照してください。
注4.なぜ焼かれるようになったのか理由は定かではないが、栗の栽培農家が収穫した栗を乾燥させる小屋のおき火を利用して作る副産物だったというのが一説。また、テストTesto(浅鍋の一種)を使って焼いたのが名前の由来といわれている。
注5.カッポン・マーグロに使われる主な材料には、野菜:カリフラワー、アスパラガス、アーティチョーク、じゃがいも、にんじん、セロリ、さやいんげん、オリーブ、キノコのオイル漬け。魚介類:地元で捕れたカサゴやスズキ、海老、ムール貝などがある。
注6.モッシャーメMosciameともいい、乾したイルカ、またはマグロの肉。カッポン・マーグロには欠かせない材料の一つと言われる。現在流通しているものはマグロで作ったもの。
注7.D.O.C.については、とっておきのヨーロッパだより2011年3月11日「日本一「高い」ワインを作る村々―ヴァッレ・ダオスタ」を参照してください。
注8.貴腐ブドウで作られる甘口のワイン。貴腐ブドウは、カビの一種であるボトリシス・シネレアが過熟したブドウの果皮上に繁殖し、果皮のろう質を溶かして水分が蒸発することで糖分が凝縮されたブドウのこと。

このコラムの担当者

伊藤 雄大

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