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【とっておきのヨーロッパだより】南西フランス カスレ食べ歩き
2012年04月18日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

2011年の11月から2ヶ月間、レストラン研修のため、フランス南西部の町カルカッソンヌCarcassonneに滞在しました。この町の代表的な郷土料理にカスレCassouletというものがあります。
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カルカッソンヌ風カスレ

これは、フランス南西部のラングドッグLanguedocおよびミディ=ピレネーMidi=Pyrénéesと呼ばれる地域を中心とした伝統料理です。主材料は白インゲン豆。30分ほど下茹でをしてあくを抜いた後、カソールCassoleといわれる独特の土鍋に移し、豚肉や羊肉の塩漬け、ガチョウや鴨など家禽のコンフィ(注1)と一緒に香味野菜を加えてオーブンに入れ、火を通します。白インゲン豆が肉から出てくる旨味と脂をたっぷり吸いこんで崩れるくらい柔らかくなり、表面の層にこんがりと焼き色がついたころが食べごろです。

カスレの元となる料理が生まれたのは、フランスの百年戦争(注2)の頃と言われています。
戦火にあえぐカステルノダリーCastelnaudary(カルカッソンヌの北西約40kmに位置する小さな田舎町)の村人達が、村に残っていたあるだけの食材(豆、豚肉、鶏肉など)を底の深い土鍋に入れて水と油脂で長時間煮込み、疲弊した兵士たちにふるまったのが始まりとか。この土鍋がカソールと呼ばれるもので、伝統的に陶器生産が盛んなこの地域独特のもの。“カソール”を使い作られた料理だから“カスレ”という名前がつけられた、という説が有力とのことです。
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カソール

それならばカスレ発祥の地はカステルノダリーなのか、と結論付けてしまいそうになりますが、この地域には他にもいくつかカスレを名物とする町があり、中でも主だった3つの町はカステルノダリーの他、トゥールーズToulouse、カルカッソンヌと言われています。


文献によると、カスレはベースとなるインゲン豆は同じでも、中に具として入れる肉類や調理方法などはそれぞれの町によって様々な特色があるとされます。まずは、カステルノダリーから北西に約60kmに位置する大きな町で、フランス南西部の中心的存在であるトゥールーズ。この町のカスレの具材は豚バラ肉、香辛料の効いたソーシス・ド・トゥールーズSaucisse de Toulouse(トゥールーズ風ソーセージ)、羊肉、鴨のコンフィです。続いてカルカッソンヌ風。材料は豚肉に塩漬け羊肉、猟の時期にはヤマウズラをコンフィにして加えることもあるそうです。そして先述のカステルノダリー風カスレには豚肉(背肉、モモ肉、スネ肉、ソーセージ、背脂つき豚の皮)、ガチョウのコンフィ。伝統的にはそれぞれの町のカスレの特徴は具材の違いとされますが、これらすべての肉類を一度に入れるとは限らず、またその種類や数はゆるやかに変動することもあるようです。

 

いつの頃からか、これら3つの都市がそれぞれに
「自分の町のカスレが一番おいしいカスレだ」
「カスレは、わが町のものが本家本元」
と主張しあっているのですが、結論はまだ出ていません。

という訳で、研修で滞在したカルカッソンヌを中心に、本物のカスレとは何なのか、どこの町のカスレが一番おいしいのかを見極めるべく、食べ比べに出かけました。
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トゥールーズのブラッスリー

まずはトゥールーズへ。町の中心であるキャピトル広場に隣接しているオシャレなブラッスリーに入り、カスレを注文。カスレを楽しみにワインを飲んで待っていると、間もなく登場。
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トゥールーズ風カスレ 表面のたっぷりのパン粉が香ばしい

直径約15cmのカソールに入ったカスレは表面にパン粉が振られた後オーブンで焼き目がつけてあり、香ばしい香り。一人前とは思えないボリュームです。スプーンで中身を調べて食べると、具は鴨のコンフィとトゥールーズ風ソーセージ。その脂を吸って柔らかくなった白インゲン豆はしつこくなく、鴨のコンフィと共に器の中で混ぜて食べると格別の味でした。

次はカルカッソンヌへ移動し、ビストロで再びカスレを注文します。
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カルカッソンヌで入ったビストロ                         カルカッソンヌ風カスレ。たっぷり入った鴨のコンフィとソーセージ

中身は塩漬けの豚バラ肉に鴨のコンフィ、トゥールーズ風ソーセージ(手に入りやすく、何より良い味が出るという理由で、現在ではカルカッソンヌやカステルノダリーのカスレにもトゥールーズ風ソーセージは多く使われているようです)にゼラチン質たっぷりの豚の皮。ここのカスレもおいしかったですが、前回食べたトゥールーズのカスレに比べ、豚肉がよりたくさん入っていてボリュームが多かったです。豚肉から出た脂が味を引き立てていますが、食べ進めるうちに少し重たく感じました。

カルカッソンヌにある城塞「シテ」(注3)には多くのレストランがあり、どこのレストランもカスレを売り出していました。
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カルカッソンヌ「シテ」

最後にもう1つの有名なカスレを食べようと、意気込んでカステルノダリーの町へ。食事前に町の散策をしている最中、惣菜屋へ入ると、たくさんのお惣菜の真ん中に山盛りになったカスレが。更にカソールに入ったカスレも売られていて豪快!店頭にはカソールも売っていたので購入しました。1人前用のカソールは13ユーロ2人前用は18ユーロでした。

ちなみに惣菜屋で売られているカスレは、白インゲン豆の部分と豚肉や鴨のコンフィなど肉の部分は別で計量して売られます。肉汁と脂を吸った白インゲン豆だけだと1kgあたり13ユーロ。上に盛られている豚肉と鴨のコンフィは肉1kgあたり28ユーロでした。買いに来た人たちは「インゲン豆1kgと豚肉500g、鴨のコンフィを1本」というように注文し、それぞれを計量してもらったものを買っていきます。

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カステルノダリーで買ったカソール。茶色と白を購入。この他に緑色とオレンジ色もありました。

土産物屋には沢山の種類の缶詰。フランス校近くのスーパーマーケットにもカスレの缶詰はありラベルには『カステルノダリー』や『トゥールーズ』など、どこの町風のカスレかが書いてあり好みで選べるようになっていますが、ここに置いてあるものは有無を言わさずカステルノダリーのものだけ!ここにも地元愛を感じました。
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缶詰のラベルには必ずどこの町のものか記されています。これはカステルノダリーのもの

この町で入ったビストロのお店のマダムの話では「カスレは単品での注文だと700gで、コースメニューだと500gだよ」とのこと。なるほど!いままで単品で注文していたから完食するのに苦労したわけだ、と思い、今度はコースメニューからカスレを注文。

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カステルノダリーで立ち寄ったビストロ                     カステルノダリー風カスレ。トマトの量が味の決め手

鴨のコンフィと豚肉、ソーセージ、トマトが入っていました。カステルノダリー風のカスレではトマトが白インゲン豆と一緒に煮込まれていることが多くあるようです。ビストロらしく、前菜もテリーヌと生ハムの盛り合わせなどでかなりの量が出てきましたが、カスレは味付けに使われていたトマトの酸味のおかげか、ボリュームが少な目だったからか、これまで食べたカスレの中で一番食べやすかったです。

これまで出会ったカスレで一番迫力があったのは、研修先のレストランでパーティーのお客様にふるまうため、普段のメニューには無いカスレをシェフが仕上げたものです。直径45cmの大きなカソールに入ったカスレは、25人前はあろうかという量。それが3台も並んだ光景は、すごい迫力でした。白インゲン豆に、たっぷりの豚肉加工品と鴨のコンフィ(レストランで仕込んだもの)とトゥールーズ風ソーセージの総重量は器と合わせて約12~15kgはあったでしょう。
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出来上がったカスレの出来ばえに大満足のシェフ

3つの都市で計8食のカスレを食べましたが、どの店にもそれぞれの味があり、またどの店も口を揃えて「うちのカスレは伝統的でおいしいよ」と言いました。食べた店以外でも、レストランの黒板に書かれているオススメの欄には必ずと言っていいほど『カスレ』の文字。同じ町のレストラン同士でも味を競い合い、どこの町も「我々のカスレが本家本元」と一歩も譲らない様子はとても印象的でした。

今回は一般家庭で作られるカスレを味わう機会は持てませんでしたが、カスレの地元カルカッソンヌ出身である研修先のスタッフにレストランで食べられるカスレと家庭で作られるカスレの違いについて聞いてみたところ、レストランのほうが具の種類が多いなど材料に多少の差はあるものの、元々素朴な家庭料理ということもあり、味に大きな違いは無いということ。家庭ごとに異なる秘伝のレシピがあり、代々その味が引き継がれて行くのだということです。
かつては冬に備えての保存食として家庭で豚肉の塩漬けやコンフィを作り、冬の間にカスレを作って食べていたため、カスレは寒い時期ならではの風物詩であったそうですが、現在では家庭でカスレを作る場合も市販のコンフィや塩漬けにされた豚肉を買ってきて作ることが多くなっているため、夏の時期に食べることもあるようです。カスレは親しみのある伝統の味ではあるものの、油脂をたくさん使った高カロリーの料理ということもあり、近年は若い人、特に女性にはあまり喜ばれるメニューではないとのことです。これも時代の流れで致し方ない部分もあるのかもしれませんね。

後日、カステルノダリーで購入したカスレの缶詰を食べてみることにしました。具は『鴨のコンフィ、ソーセージ、豚肉の赤身と背脂』と記載されています。
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買った缶詰を開けてみました。これで2人前、総重量1kg!

中身をこれもお土産に購入したカソールに移し、オーブンで焼いて食べました。これまで味や品質に対する先入観から缶詰は少し敬遠していましたが、レストランのものと同じように具がたくさん入っているし、これまでに食べたカスレよりも脂っぽくなくて食べやすく、缶詰のカスレもなかなかのものでした。

最初は一番おいしいカスレはどこの町のものなのか決めようとカスレを食べてまわりましたが、どこの町のどのレストランのカスレもおいしかったし、やっぱり料理を作っている人々は自分のレシピがおいしいと思って、その味を守り続けているんだろうと思いました。また、それぞれの町のカスレに伝統的な独自の具などの定義はあるものの、最終的にはそれぞれの作り手の、自分の家庭に伝えられてきたレシピの差が違いを生むのかもしれません。地方料理、家庭料理と呼ばれている料理は様々なレシピが出回っていますが、それらの違いを調べてみたり、また食べ比べてみることの面白さを感じました。

 

注1:コンフィ
塩漬けした肉を、低温の油脂でゆっくり火を通した保存食。

注2:百年戦争(1337-1453年)
現在のフランスとイギリスの国境線を決定した戦争。実際は途中、休戦が宣言された時期もあったが、116年の間続いたことからこの名前が付いた。

注3:カルカッソンヌ「シテ」
カルカッソンヌの丘の上にある城砦の部分(シテ)は12世紀ごろに完成した。1997年にはこのシテが「歴史的城塞都市カルカッソンヌ」の名前で世界遺産に登録された。シテ内は現在観光名所となっており、城の見学やお土産を買う人で賑わっている。

このコラムの担当者

岡田 直也

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