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【とっておきのヨーロッパだより】鴨のちょっぴり美味しい話・・・かも!?
2013年02月15日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>


フランス北西部に位置するルーアン Rouen。現在の人口は12万人ほどですが、10世紀頃にノルマンディ公国の首都として栄えた歴史を持ち、往時の栄華を今に伝える壮麗なゴシック建築が立ち並ぶ古都としてもよく知られています。ジャンヌ・ダルク(注1)が火刑に処せられた街としても有名で、彼女の名を冠した教会や博物館等も観光名所となっています。
ジャンヌ・ダルク教会内のジャンヌ・ダルク像 教会の内部
左: ジャンヌ・ダルク教会内のジャンヌ・ダルク像
右: 教会の内部


この街の名を冠した名産物で有名なものに、ルーアン産の鴨があります。鴨は日本では一般的にはなじみの浅い食材のひとつですが、ここフランスでは、鶏よりは高級食材という位置づけにありながらもスーパーマーケットなどでも1年中手に入る比較的おなじみの食材です。


フランスには鴨の名産地はいくつかありますが、中でもここルーアンの鴨は生産量の少なさと特徴的な風味の良さで、フランス国内外で大変珍重されています。ルーアン産の鴨は「カナール・ドメスティック」(注2)で、バルバリー種の鴨(注3)と他の品種を肉質の向上を求めて人工的に交配させていった品種です。そのため、「カナール・ソヴァージュ」の代表種である青首鴨が大きくても1kgほどの重さなのに対し、ルーアン産の鴨は大きいもので2.5kg~3kgにもなるという特徴があります。
もう一つの特徴は、屠鳥の方法。普通の鴨は首に切り傷を入れて屠鳥し血抜きをしますが、ルーアン産の鴨の屠鳥には切り傷をつけず窒息死させる「エトフェ」という方法を用います。外に流さないことによって血液が体内に留まりうっ血するため、肉の色合いが他の鴨肉に比べて鮮やかな色合いになり、肉質も柔らかくなります。何よりも、肉に鴨特有の鉄分を含んだ風味が強くなり、これがルーアン産鴨の特徴ある風味を作り上げます。


ルーアンには世界中の美食家たちを惹きつけてやまない伝統的な料理「Caneton à la rouennaise(仔鴨のルーアン風)」があります。カヌトン Canetonというのは仔鴨のことを意味し、料理においては若いものが使われることが多いため、そのように呼ぶそうです。この仔鴨のルーアン風は、ローストしたルーアン産仔鴨をさばいて肉と骨(ガラ)に分け、ガラの部分を専用のプレス機でつぶして血液や旨味を絞り出し、濃厚なソースに仕上げて供する料理です。エトフェした鴨の独特の風味を最大限に生かす伝統料理と言えるでしょう。


伝統的な仔鴨のルーアン風を食べてみたい!という事で今回訪れたのは、ルーアンの駅前にあるホテル「オテル・ドゥ・ディエップ Hotel de Dieppe」の中に併設されているレストラン「ル・キャトル・セゾン Le Quatre Saisons」です。ここルーアンでも今現在、この伝統的な仔鴨のルーアン風のレシピを忠実に守って提供しているところは、この「ル・キャトル・セゾン」を含めてわずか5軒ほどだとか。
Hotel de Dieppeの前にて
Hotel de Dieppeの前にて


店内に入ると入り口に現れたのは鴨専用のオーブン。鴨を焼くのに特化されていて、1度に3羽まで焼けます。このオーブンで吊るして焼き、程よく焼きます。下味となる味付けは塩コショウのみです。
鴨専用のオーブン
鴨専用のオーブン


このレストランには「メートル・カナルディエ maître canardier」(注4)がいます。メートル・カナルディエとは、レストランのフロアサービスの中でも鴨料理に特化された特殊な専門職です。お客の目の前で調理した鴨を丸ごとさばき、ソースの仕上げから盛り付けまでをすべて担当します。


テーブルの脇に舞台がセットされます。この時にソースの仕上げに使うお酒類などがそこに置かれます。さぁ!ショーの開催です。メニューにも鴨のイラストが描かれていて、とってもキュートです。
写真5


今回の仔鴨です。もちろんルーアン産のものです。これ1羽で2人分です。
全体的に赤味がかかっています
全体的に赤味がかかっています。

メートル・カナルディエが手際よく仔鴨をさばいていきながら、ルーアン仔鴨の歴史や、料理としての仔鴨のルーアン風の定義などを説明してくれます。
今回我々のテーブルを担当してくれたのは女性のメートル・カナルディエでした
今回我々のテーブルを担当してくれたのは女性のメートル・カナルディエでした。


お話によると仔鴨のルーアン風を名乗るには、以下の5つの条件が必要とのことです。
【1】 ルーアン産のエトフェ鴨を使うこと。
【2】 仔鴨の火通しはオーブンに17分~20分入れ、「セニャン saignant」つまりレアにすること。
通常鴨の火通しは「ロゼ rosé」といって中心をピンク色に仕上げるのが鉄則ですが、ここでは最後にソースの中で温めなおす為、わざとそれより手前のレアの状態であげるのです。
【3】 プレス機を使って、しっかりと鴨の血を絞ること。
【4】 「エギュイエット aiguillettes」と呼ばれる薄いそぎ切りにすること。
【5】 ソースは鴨の血を使って、濃度をつけること。
以上の事柄を守り、作り上げたものだけが、「Caneton à la rouennaise(仔鴨のルーアン風)」と名乗れるそうです。


お話を聞いている間にも胸肉、もも肉が丁寧に外されていき、ガラ(骨)だけが残ります。もも肉は付け合せやその他の料理に、胸肉はお客の目の前でエギュイエットに切られていきます。ガラは専用のプレス機で粉砕しつつ、中に含まれている血や鴨のジュースを残す事なく絞り取ります。
かなり力がいるのか男性のサーヴィスマンがやっていました
かなり力がいるのか男性のサーヴィスマンがやっていました。


そして絞り取ったうまみたっぷりのジュースを、ソースにつないでいきます。このソースは鴨の骨や香味野菜、そしてフォン・ド・ヴォ(子牛の骨からとっただし汁)をベースにとっているそうです。ソースの仕上げにはポルト酒という酒精強化ワインで香りと風味をプラスし、ソースが仕上げられます。出来上がったソースの色はまるでチョコレートのように濃く、パワフルで濃厚さが見て取れます。
写真9


そのソースをさばいた鴨肉に絡めていきます。この時にソースを沸かしすぎないのがポイントで、ボコボコと沸騰させてしまうと、血の成分が凝固し、ソースが分離してしまうのです。
できあがったソースを鴨肉に絡めていきます
できあがったソースを鴨肉に絡めていきます。


メートル・カナルディエによる一連の作業は、本当にショーを見ているかのよう。味わいもさることながら、このエンターテイメントを見たいがために、世界中からここルーアンに鴨料理を求めてお客さんが集まってくるのでしょう。


付け合わせはりんごのコンポートに根セロリのフラン(洋風茶碗蒸し)、先ほど切り分けた鴨もも肉のブロシェット(串揚げ)です。
「仔鴨のルーアン風」の出来上がりです
「仔鴨のルーアン風」の出来上がりです。


鴨肉は非常に柔らかく、濃厚なソースとよく合います。りんごの程よい酸味が、またいいアクセントです。ボルドーの力強い赤ワインにも負けません。今まで自分自身、それほど多くの鴨肉を食べ歩いてきたわけではありませんが、他の鴨と比べると、やはり肉質の柔らかさ、鉄分をたっぷり含んだような風味が断然違うように思いました。


食事が終わると、客にはこのようなタグが渡されます。これには仔鴨のルーアン風のレシピのほかに、鴨のシリアルナンバーが書かれています。このナンバーは、このレストランで1880年の創業以来調理されてきた仔鴨の数で、このタグがいわば伝統的なカナール・ア・ルーアネーズを食べたという証拠になるのです。
ちなみに僕は205624番目でした
ちなみに僕は205624番目でした。


ここのレストランには、鴨料理を伝統とするルーアンらしく、仔鴨のルーアン風以外にも鴨肉のタルタルやテリーヌ、コンフィなど魅力的なメニューがたくさんあります。が、やはりルーアンを訪れた際はぜひ「仔鴨のルーアン風」を食べてみてください。ちょっぴり鴨が好きになるカモ!?(笑)



注1: Jeanne d’Arc(1412年~1431年)フランスの国民的英雄。百年戦争でイングランド軍に占領されていたオルレアン開放の先頭にたつなど活躍したが、その後イングランド側捕虜となり、異端者として宗教裁判にかけられ、19歳でルーアンにて火刑に処された。1920年にカトリック教会で列聖された。


注2:
フランスの食用鴨には野生のものと人工飼育のもの2種類があり、前者を「カナール・ソヴァージュ」、後者を「カナール・ドメスティック」と呼称して分類される。


注3:
南半球の亜熱帯から熱帯に生息する野鴨を家禽化したもの。皮下脂肪が薄く、赤味の濃い肉質が特徴。フランスにおける食用鴨肉市場のおよそ8割を占めるといわれる。


注4:
1986年に創設者ミシェル・ゲレ Michel Gueret氏によってルーアンに設立された協会でルーアンの伝統料理「仔鴨のルーアン風」を世界に普及させることを目的とする。メートル・カナルディエを名乗るにはこの協会の承認が必要であり、その大会は2年に1度開かれている。大会の参加者は制限時間内にお客役の審査員の前で鴨をさばき、ソースを作り、仕上げる必要があるが、審査員からは作業中も次々と質問が飛び交い、会話力や接客態度も審査対象となるなど、メートル・カナルディエとしての高度な資質が求められる。カナルディエ協会支部はフランス国内のみで4支部(ルーアン、リヨン、パリ、ピカルディ)、その他日本を含め、世界に17支部ある。

このコラムの担当者

糸川 将貴

このコラムのレシピ

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