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【とっておきのヨーロッパだより】フランスの米どころ カマルグの稲作
2014年06月13日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

フランス校赴任9年目突入の私は、フランスならではの美味しいものがたくさん食べられるここでの生活に満足していますが、このところ「やっぱり和食って美味しいよなあ」と思うことも増えてきました。フランスでも醤油や味噌といった日本の調味料を見つけることは可能で、「自分なりの和食」を作って凌いだり(?)しています。フランスでは日本米も頻繁には入手できないので日本産以外のお米をいただくことが多いですが、満足の行くものが手に入ることは少なく、お米に関してはやはり日本の物が最高!と思います。

フランスで作られている米の中では、カマルグ Camargue米が有名です。カマルグとは、フランス校のあるリヨン近郊から南へ300km程下ったあたりの自然保護地域の名称で、「フランスの米どころと言えばカマルグ」と言われる程です。カマルグは塩でも有名で、そちらの知名度の方が高いかもしれませんが、フランスにいるとカマルグ米はよく見ますし、日本人としては「フランスでも米を作っているのであればぜひ見てみたい」と思い、現地を見学してきました。

神秘的な白い馬、カマルグ種
神秘的な白い馬、カマルグ種。
雄牛の群れの管理などの労役にも従事しますが、 群れ集う光景自体がカマルグ観光の目玉の一つにもなっています

中国中南部が原産地とされる米は、すでに13世紀頃にはフランスに伝わっていたようですが、特にカマルグで稲作が発展したのは16世紀末~17世紀初頭のフランス王アンリ4世の治世といわれています。国家経済の再建、農業の促進を担当していたアンリ4世の側近シュリー公マクシミリアンの助言により、カマルグでの稲作が国家政策として進められていったそうです。しかし、小麦文化がすでに発達していたフランスでは米の普及は難しく、加えてマラリアが蔓延して労働力が衰退したこともあり、稲作は一度廃れてしまいます。

19世紀に入り、稲田を作ることによって近くにあるローヌ川の河口の水を吸収した土地が潤い、更に海の近くに位置するために塩分の強いカマルグの土地の塩分を薄める作用もあるということが解明されると、カマルグの稲作は再び盛んになりました。稲作によって塩分の薄まった土地ではワイン用のブドウなども栽培されるようになります。
ただ、この頃の米は食用ではなく、豚の餌などに使われていました。 食用よりも土地を潤し、塩分を減らすことが第一の目的でした。現在は食用の米の生産、もしくは麦や菜の花の二毛作が行われているそうです。食用の米の生産が必要になってから、土地の塩分は安定しているようです。

第二次世界大戦中の食糧難により、カマルグの稲作は、豚の飼料用から人が食べるための米に切り替えられようになりました。当時のフランス植民地であるフランス領インドシナからカマルグへ技術者が送られ、東洋のより発展した稲作技術が伝えられたことで生産される米の質が向上し、食用の米作りが盛んになります。

1960年代には、あまり主要な作物ではなかった米の生産費削減令が国から出たり、イタリアの安値な米に市場を奪われたため再びマルグの稲作は衰退しますが、水田が減ることでカマルグの自然環境のバランスが乱れ、特に今まで減ってきていた地の塩分が再び増えたことから1990年に稲作業はまた復活し、一時期4400ヘクタールまで減っていた水田は1994年には14000ヘクタールにまで増えました。
以来現在に至るまで、米はカマルグの主要な産物として名を馳せています。


さて、お天気のよい5月の連休に、車でカマルグまで下りました。
カマルグに到着すると、早速水田がたくさん見られます。4月下旬が播種期ですので、青々と茂った稲を見ることはできませんでしたが、水田を覗くと播かれた種籾がたくさん見えました。「お米が播かれている?」稲作といえば日本の田植えのように、種籾を発芽させてその苗を田んぼに植えるのが普通と思っていましたが、カマルグではその方式は取られていないようです。米を水田に播く、発芽する、それがそのまま稲になり収穫できる分を収穫する、といった感じで少々アバウトな感じがしてしまいますが、国による稲作文化の違いなのでしょうか。

カマルグの水田 水田に蒔かれた種籾
(左)カマルグの水田
(右)水田に蒔かれた種籾

少し発芽しています 精米所。安全上の問題で中には入れてもらえませんでした
(左)少し発芽しています
(右)精米所。安全上の問題で中には入れてもらえませんでした

カマルグにある「ミュゼ・デュ・リ Musée du riz(米博物館)」にてお話を聞いてみようと訪ねてみました。この日は休館日だったのですがご主人がいらして、私達が「カマルグの稲作について調べたいんです」という話をすると、「そういうことなら」と中に入れてくれ、お話もしてくれました。


博物館のご主人ロベール・ボン氏はカマルグ米を保護する活動を長くされており、カマルグ米の過去と現在をよくご存知の方です。現在、カマルグはフランスの米生産の98%を担っており、作られている種類は主にジャポニカ米と呼ばれる円粒種と主にインディカ米と呼ばれる長粒種で、生産量はおよそ50%ずつだそうです。カマルグで生産されている米は品種が違ってもカマルグ米と呼ばれることになります。
「個人的には、日本米のような粒が丸く、粘りのあるジャポニカ米の方が、水分も料理の味も吸収するので美味しいと思うんだよね。カマルグの気候ではこっちのタイプの方が作りやすいし。でもフランス人は日本人に比べて、そんなにお米の風味にこだわりないでしょ? スーパーにはインディカ米の方がたくさん並んでいるから馴染みがあるし、簡単に調理できるインディカ米の方が人気があるようだけどね。」
確かに、袋に入っていて茹でるだけのインディカ米は便利でよく使われていて、料理によく登場するのに対し、ジャポニカ米はデザート用に使われることが主で、料理にはあまり使われない傾向があるようです。これは粘り気と甘みが活かされる米であることが理由で、牛乳と煮込んで作るリ・オ・レRiz  au laitなどは、代表的な米のデザートです。
「インディカ米も料理によっては美味しいんだけど、やっぱりジャポニカ米の方が“米の美味しさ”が分かるお米だよなあ」と、話しぶりから米 に対する深い理解と熱い思いが感じられました。

カマルグ米への情熱を語るボン氏 工場の壁にかかれた文字。「ル・リ・セ・ラ・ヴィ」と読めます
(左)カマルグ米への情熱を語るボン氏
(右)工場の壁にかかれた文字。「ル・リ・セ・ラ・ヴィ」と読めます。
 VIZという仏語はありませんが、同じくヴィと発音するVIE(命)とRIZ(米)の綴りを引っ掛けたしゃれっ気でしょうか。
 「米、それは命」という意味になります

博物館内の展示。当時の収穫スタイル
博物館内の展示。当時の収穫スタイル


先ほど水田を見学した際、水田に種籾が直接播かれていたことを思い出し、苗から植える日本との差異を感じたことをボン氏に伝えると、
「昔は日本のように田植え用の苗を育てていたんです。田植機も日本製のものがありましたよ。」との答えが返ってきました。
―なぜ今のように種籾を播くだけ、に変わってしまったのでしょうか?
「単純に労働量の削減や経済的な理由です。1960年代から直播しかやっていません。本来であれば良い米を作るためには苗を植えるシステムの方が圧倒的に優れていますよ。種籾を直接播くとね、この辺にたくさんいるフラミンゴが食べちゃうんですよ。でも苗だったらフラミンゴは食べないんです。フラミンゴを追い払うためには大きな音を出して驚かす、という方法しかなくて、近隣に迷惑なのですが。それに、種籾を水田に直接播くと病気にもなりやすいんです。種籾から生えてきた小さい芽はまだ弱いですからね。すでに苗になっている方が絶対的に病気への耐性が強いです。それでも苗を植える、という方向に戻ることはもうなさそうです。」とボン氏はお話されていました。
「水田近辺に鴨をたくさん飼う、という方法もあるんだけどね。鴨は種籾は食べないけど雑草は食べてくれるし、水の上で動くから水の中に酸素を送り込むことにもなるし、糞は肥料になるし。でもこの方法も手間がかかるからね、残念ながら取り入れているところはないです。」とも話されていました。
稲作業は色々と手間がかかるので、なるべく手間を省きたい、というのは理解できる気がしますが、良い方法があるのに実行できないのは残念ですね。手間を省くためにはやはり農薬の使用が欠かせないようで、そのことに関してもボン氏は嘆いておられました。

昔は苗を育てていました(展示されていた写真) 日本製の耕耘機
(左)昔は苗を育てていました(展示されていた写真)
(右)日本製の耕耘機

フラミンゴをおどかすための音を出す装置
フラミンゴをおどかすための音を出す装置

経済的事情や人手不足などによる難しい状況の中、カマルグの米農家の中には有機農業を行っているところも増えています。種籾を播いた後に農薬を使わずにうまく成長した部分のみを収穫する、となると収穫量はかなり少なくなってしまいますが、体に良い美味しいお米を、と頑張っている農家が増えているのは嬉しいことです。

有機栽培マークのついた米1 有機栽培マークのついた米2
有機栽培マークのついた米

精米されていない米、いわゆる玄米です
精米されていない米、いわゆる玄米です


以前からカマルグでどのようにして米が作られているのか、ということに興味があったので大変充実した訪問となりました。ボン氏のお話はインターネット検索等では見つけることができなかった内容ばかりで、本当に面白かったです。
カマルグ米自体はフランス校近郊のスーパーマーケットでも見つけることができますので、これまでも食べる機会はあったのですが、実際に現地に赴き話を聞くことで、「フランスの稲作」に関する興味が満たされて嬉しいです。そうは言ってもやはりどのように食べるか、にも興味はあります。カマルグの人達がどのようにこのお米を食べているか、を少しご紹介します。

カマルグの名物、と言うと米だったり塩だったり色々とありますが、「トロ taureau(雄牛)」もその1つです。柔らかく煮て食べる調理法が主流で、ここにこのカマルグ米が添えられることが多いです。2つのレストランでトロの煮込み料理を食べてみましたが、両方に円粒種のカマルグ米が添えられていました。シンプルに塩を入れて茹でてあるようです。お米と言えば甘み、と思ってしまう私には塩味のついたお米は少々違和感を感じてしまいますが、日本の米とは違った軽い味わいで、味のしっかりした肉料理をよく引き立てています。また、フランスでは米はほぼ野菜扱いですので、塩で茹でることは不思議ではないようです。

トロの集団 レストランで食べたトロの煮込みカマルグ米添え
(左)トロの集団
(右)レストランで食べたトロの煮込みカマルグ米添え

トロの料理の他、今回宿泊したカマルグの宿のご主人に教えていただいた米料理を帰宅後に試してみたところ、我が家の定番メニューにしようと思うほどとても美味しかったのでご紹介します。本当に簡単です。単純にラタトゥイユと茹でたカマルグの玄米を混ぜてオリーブオイルをしいたフライパンで熱し、少し焦げ目をつけるだけです。
お米はご主人がくださったカマルグ長粒種の玄米を使いました。玄米ですので元々かためですが、カリカリに焼けた部分が美味しく、お米とラタトゥイユの味がよく混ざっていて美味しいお料理でした。

ラタトゥイユとカマルグ米での一品
ラタトゥイユとカマルグ米での一品

フランスでの稲作のことが分かり、フランスに住む日本人としては嬉しい旅となりました。フランスではイタリアやタイなどのお米もたくさん売られていますが、今回の訪問で愛着の涌いたカマルグ米を、これからは積極的に選んでしまいそうな気がします。


参考にしたサイト
http://www.parc-camargue.fr

参考文献
『A la découverte du riz en Camargue』( Edition du Parc naturle régional de Camargue)

このコラムの担当者

松本 美希

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