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【とっておきのヨーロッパだより】フランス最北端、ノール=パ=ド=カレ地方の料理を食べに
2015年03月13日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

フランス校では12月から1月にかけて、冬のヴァカンスがあります。学生だけでなく職員も、フランスの様々な地方や近隣諸国へ旅行に出かけます。パリ、アルザス、ノルマンディー、ブルターニュ、南フランス...色々魅力的なところはあるけれど...。どこに行こうか考えた結果、これまで行ったことがないところにしよう! と、言うわけで今回は、フランス最北端の地域であるノール=パ=ド=カレ Nord-Pas-de-Calaisに行くことにしました。

フランス人職員達とヴァカンスの話題になった際、ノール=パ=ド=カレに行く予定であることを話すと、ほとんどの職員が、「行ったことない」「車で通り過ぎたことがあるだけ」という返答でした。多くのフランス人にとっても、結構未知の地域なのかもしれない・・・と、増々興味が湧いてきました。

ノール=パ=ド=カレは、ノール県(県庁所在地:リール Lille)、パ=ド=カレ県(県庁所在地:アラス Arras)の2つの県からなります。北緯は約50度に位置し、日本最北端の宗谷岬が北緯45度なので、それよりもっと北ということになります。
この辺りはベルギーと国境を接していて、ベルギー西部、オランダ南部と共に国境を越えて共通する文化を持った"フランドル地方"の名前でも知られています。フランドル地方は自動車や機械系などの産業が栄える都市部の多い土地でありながら、海洋性気候(注1)の恩恵を受けて、アンディーヴ、じゃがいも、キャベツ、カリフラワー、根セロリ、ポロねぎなど多くの野菜も栽培されているそうです。

リヨンからノール=パ=ド=カレの中心都市リールまでは約700kmですが、フランスの新幹線T.G.V.を利用すると、なんと3時間足らずでリール到着です。緯度からしてさぞかし寒い土地なのだろうと覚悟して行ったのですが、前述の海洋性気候の影響なのか、さほど寒さは感じませんでした。
早速、昼食を取りに、地元の人に人気だという店の『エスタミネ・シェ・ラ・ヴィエイユ Estaminet Chez la Vieille』に向かいました。エスタミネとは初めて聞く言葉でしたが、フランス北部で居酒屋やカフェの事を指すのだそうです。
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外観と店内

13時過ぎの入店でしたが満席で、多くのテーブルは2回転目で、噂通り人気店でした。まずは地元のビールで乾杯!
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左)ラ・ミティック・サン・ランドラン: アルコール度数8.5、コクがあり甘みもあるがすっきりしている
(右)ブロンド・サン・ランドラン: アルコール度数5.9、フルーティーな味わい

リヨンであれば、リヨン風サラダ、セルヴェル・ド・カニュ(フロマージュブランにハーブ、酢、油などを加えて調味したもの)、川かますのクネル、タブリエ・ド・サプール(牛胃のパン粉焼き)、グラ・ドゥーブル・ア・ラ・リヨネーズ(牛胃のソテー、リヨン風)などなど、たくさんの郷土料理が頭に浮かんできますが、この地方の料理で思い浮かぶのは、カルボナード・フラマンド Carbonnades Flamandes(牛肉のビール煮)くらいです。
この地方はワインの原料であるブドウ栽培の北限を超えているので、ワインが生産できず、その代わりにホップや麦を栽培しビールを製造しています。そのため、日頃飲むお酒として、また料理に使うお酒としてよくビールが使われていると言われています。
あ、メニューにカルボナード・フラマンドがありました!早速注文してみると...
【写真4】

この料理は牛肉をビールで煮込んでいますが、カソナードというサトウキビが原料の赤褐色の風味豊かな砂糖や、はちみつ、スパイスを加えて作ったパン・デピス Pain d'épice(注2)という名前の甘味や香りの強い、パンを加えて仕上げているので、ビールの苦味はほとんど感じられず、甘味の効いたコクのある煮込みといった感じです。山盛りのフリッツ Frites(フライドポテト)が添えられています。牛肉とじゃがいもの量に圧倒されましたが、美味しくてあっという間に食べてしまいました。この旅行の間、カルボナード・フラマンドを3回別々の店で食べ比べてみましたが、店によって使用する肉の部位や、甘味の強さなどが様々だったのが印象的でした。ただ、どこの店でもパン・デピスは共通して使っていたようです。


他にも、地元の料理を注文してみました。スープ・ド・シコン Soupe de chicons(アンディーヴのスープ)。この地域ではアンディーヴの事を「シコン」ともいうそうです。アンディーヴの苦味をやわらげるために、人参と片栗粉が入っているそうです。さらっとした濃度で、苦味が程よく効いた大人の味のスープでした。
【写真5】
ふた付きの熱々で供されます

フリカデル(フリカンデルとも言う)はこの地方の名物で、細かいパン粉を付けて揚げたソーセージ。これもまたフライドポテトがどっさり添えられています。材料の肉は主に豚肉、鶏肉、子牛など白い肉(赤い肉は牛肉、羊肉、鴨、鳩など)と呼ばれているものを使うことが多いようです。右の写真からもお分かりいただけますが、ミンチはかなり細かく挽かれており、まるですり身といった感じの食感でした。ナツメグの香りもほのかに香っていました。
【写真6】 【写真7】
フリカデル(左)とその断面(右)

ル・クー・デ・フランドル Le Cœur des Flandresは、豚のひき肉をねぎ、りんご、豚バラの塩漬け肉の燻製と共に火を通し、パイ生地にはさんで焼き上げたものです。見た目はパッとしないなと感じてしまいましたが、りんごの甘味がほどよく効いていてとても美味しい1品でした。
この地方ではりんごの木が多く植えられて、りんごを料理に使うこともあるようです。昔貧しかった時代、豚のくず肉や筋なども無駄にしないで美味しく食べようと、出来た料理だそうです。この料理はル・クー・キャッスロワ Le cœur casseloisという名前でも呼ばれているそうです。ビールとの相性抜群でした。
【写真8】

料理の後は締めのデザートで!と、いきたいところでしたが、どの料理もボリューム満点過ぎてお腹に余裕がなく、食後は飲み物だけにしました。
この地方の特産でもある杜松(ねず)の実で香りづけした蒸留酒ジン Ginを加えたコーヒーのビストゥイユ Bistouilleや、コーヒーにジンを加えてホイップクリームをたっぷり浮かべたル・ヴラムス・コーヒー Le Vlams coffeeなどがありました。
【写真9】
食後の飲み物のお品書き

食後酒としてジンをそのまま飲んでいるお客さんもいました。この地方ではジンのことを、杜松の実を指すフランス語ジュニエーヴル genièvreと呼んでいます。
【写真10】
地元で作られているジン「ウル Houlle」


今回はカフェ・シコレを注文しました。これはシコレ chicorét(日本名キクニガナ)という植物の根が原料の、コーヒー風味の飲み物です。カフェインが含まれないため、カフェインが苦手な人がコーヒー代わりに飲みます。
シコレコーヒー
シコレコーヒーはコーヒー風味の優しい味

飲み物の品揃えはこの地方ならではの珍しいものが見られ、フランスの他の地方と異なる独自性を感じる事が出来ました。

その後、フランス最北端の街ダンケルク Dunkerque(ベルギー国境まで10km) や、カレ Calaisからほど近い岬の観光名所カップ・ブラン・ネ Cap Blanc-Nez、カップ・グリ・ネ Cap Gris-Nez、大聖堂で有名なアミアン Amiens、パ=ド=カレ県の県庁所在地アラス Arrasなどを周り、それぞれの街のビストロで郷土料理を色々食べました。

ダンケルクで食べた料理の中では、以下の4品が印象に残りました。
タルティーヌ・フラマンドはトーストしたパンにハム、マロワールチーズ(注3)をのせ、さらに焼いたもの。クロック・ムシューを地元のマロワールチーズで作ったといった感じでした。
【写真12】

ウェルシュ・ロワイヤルはイギリス、ウェールズ地方のチェダーチーズをフォンデュにし目玉焼きをのせたもの。とても濃厚。メイン料理としていただくそうです。イギリスにも同名の料理がありますが、それもそのはず、この辺りからイギリスへは、英仏海峡を挟んで車で2時間足らずでイギリスに行ける距離。このためイギリスの影響を受けた料理もあるようです。
【写真13】

ポッチュヴレエシュは肉(豚、鶏、うさぎ、子牛など)をテリーヌ型に入れ、香味野菜の玉ねぎ、人参の薄切りをのせ、ワインと酢を加え、タイム、ローリエも加えて蓋をして3~4時間オーブンで火を通し、さらに酢を加えて軽く煮込み、型ごと冷やし固めたもの。肉から出たゼラチン質で煮こごりになり、冷たいまま提供。付け合わせの定番は揚げたて熱々のフライドポテト。冷たい料理ですが冬でも食べる定番料理だそうです。酸味が効いていてさっぱりしています。
下の写真はどちらも同じポッチュヴレエシュですが、右はリールのビストロを訪れた時に食べたポッチュヴレエシュで、火通しした後、豚の背脂のスライスを敷きつめたテリーヌ型に入れて冷やし、カットしてサラダとピクルスを添え、肉のテリーヌのように提供した1品です。提供の仕方の違いでまるで違う料理に見えました。
【写真14】 【写真15】
ダンケルク(左)とリール(右)のポッチュヴレエシュ

以下2品はアラスで食べた料理です。
アンディーヴ・ア・ラ・フラマンド Endive à la Flamandeは蒸し煮にしたアンディーヴと豚バラ肉の塩漬けの燻製に、ホワイトソースをたっぷりかけ、チーズをふってオーブンで焼き上げた、アンディーヴのグラタン。下の右の写真からも分かるように、アンディーヴは切らずにそのままの形で調理され出てきました。苦味が少し残り、それが後をひく美味しさでした。
【写真16】 【写真17】
フォークを入れてみると、アンディーヴがごろりと顔を出します


そしてもう1品がアンデュイエット・ダラス・グリエ・ア・ラ・シュミネ Anduillette d'Arras grille à la cheminéeです。アンデュイエットとは豚の腸に腸や胃を詰めたソーセージの一種で、フランス各地に様々な作り方のものがありますが、アラスのアンドゥイエットは細かめにカットされた豚の腸が詰められています。腸と一緒に詰められたマスタードの風味が効いていて臭みもなく、美味しくいただきました。
このアラスのアンドゥイエット、以前は子牛の腸で作っていたそうですが、狂牛病の影響で現在子牛の腸は使用できない為、2000年頃より豚の腸を材料に作っているそうです。
【写真18】 【写真19】
料理名の通り「シュミネ(暖炉)」で焼いたものが提供されていました

こちらはリールで食べた料理です。
サラッド・リロワーズ Salade Lilloiseはアンディーヴやハム、ミモレットチーズ(リール原産のチーズ)などが入ったリール風サラダ。地元産の具材がたくさん入っていて、食べ応えのある1品で、お酒にも合うサラダでした。
【写真20】

ラ・パテ・ア・ラ・ビエール La paté à la bièreはビールで漬け込んだ肉で作ったテリーヌ。味わいは少しビールの風味が感じられました。
【写真21】

フラミッシュ・オ・マロワール Flamiche au maroillesはマロワールチーズのフラミッシュ(フラミッシュとはフランス北部の言葉でタルト)。マロワールチーズの味がしっかりした料理でした。
【写真22】

ワテソイ Waterzoiとはポロ葱や人参をたっぷり使ったクリーム煮のことで、主材料は鶏肉、白身魚、サーモンなどを使います。下の写真は鶏胸肉のワテソイ。クリーム煮ですが、煮込み過ぎていないことと、野菜がたっぷり入っていることでさっぱりとした仕上がりになっていました。
【写真23】

デザートはタルト・ア・ラ・ビエール Tarte à la bière(ビールのタルト)。アパレイユ(中の生地)にビールが使われていて、苦味が少し残っています。苦味と甘味がバランスのいいデザートでした。
【写真24】

この地方では、フランス料理によく使われるワインではなく、ビールを使った料理ばかりかと想像していましたが、ワインを使う料理もありました。訪れたビストロのご主人に聞いてみると、ビールも使うけど、ワインを使う料理の方が多いとのことです。なぜかというと、ビールよりワインの方が値段が安いからだそうです。とは言え、食事中の飲物は半数以上の人がビールを飲み、煮込み料理だけでなくその他の料理やデザートにもビールを使っていて、フランスの他の地方とは異なる食文化を感じました。

ちなみにノール=パ=ド=カレの旅の後、ベルギーのブリュッセルにも足を延ばしてみたのですが、ビールを飲むことが盛んな点や、ワテソイ、カルボナードなど、ノール=パ=ド=カレと同じ料理が郷土料理として食べられているなど、フランドル地方との共通点が多く見られ、国で線引きできない食文化を改めて実感しました。知らないことに関しては、色々な情報に振り回されず、出来る限り行って確かめないと本当のことはわからないなと感じました。「百聞は一見にしかず」ですね。

初めてのフランス最北端ノール=パ=ド=カレでしたが、魅力的な街並み、建造物、美味しい料理、美味しい香り豊かなビール、優しい人々、また訪れたい場所になりました。もし皆さんがフランスに旅行する時、パリやリヨン、南仏などの有名な観光地も素敵ですが、もし機会があれば、ぜひノール=パ=ド=カレを訪れてみて下さい。

注1: 海からの風の影響で年間を通して寒くならない気候
注2: パン・デピスについては、こちらも参照ください。
https://www.tsujicho.com/column/cat/post-325.html
https://www.tsujicho.com/oishii/recipe/navi?CID=TJONCS0001&RECIPE_CD=k05004
注3: ベルギー国境に近いマロワール村で作られる、牛乳が原料のチーズ。形は四角で、表面を塩水で洗うウォッシュタイプのチーズなのでにおいは強烈。味はにおいほどきつくなくまろやかな味わい。

取材協力店
『Estaminet Chez la Vieille』
住所:60 rue de Gand 59800 Lille France
Tel:+33 3 28 36 40 06

『T'Rijsel』
住所:25 rue de Gand 59800 Lille France
Tel:+33 3 20 15 01 59

『Bistrot Lillois』
住所:40 rue de Gand 59800 Lille France Tel:+33 3 20 14 04 15

『Le Tormore』
住所:11 Place Charles Valentin 59140 Dunkerque France
Tel:+33 03 28 63 15 95

参考文献
la cuisine du Nprd Pas-de-Calais et de la Picardie(Editions OUEST-FRANCE)

このコラムの担当者

大滝 絵美

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