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【半歩プロの西洋料理】 BOUCHONS 街角にある茶の間
2011年07月27日

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<【半歩プロの西洋料理】ってどんなコラム?>

 

 

Bouchon LYONNAIS 伝統的なスタイルの食堂であることを主張するトレードマーク

世界中で最も名高いガイドブックのひとつMICHELINのレッドガイド。フランス版を手にとって何気なく開くと、真ん中あたりにLYONの頁がある。パリ、マルセイユに次ぐフランス第三の商業都市であり、経済の中心の1つともいえる「都会」である。
LYONの頁にも他の街と同じく宿泊施設に続いて食堂の紹介が並ぶが、他の街と違うところがひとつだけある。Restaurantsが一通り紹介された後にLES BOUCHONS(レ・ブション)という見慣れない食堂のカテゴリーがあり、数件の食堂が紹介されている。以前BISTROTという食堂のカテゴリーを紹介したが、それらとは「似て非なるもの」とリヨンの人々が主張するもので、MICHELINですらその存在や主張を無視できないものの1つである。


CHEZ HUGON 家族で営まれる田舎町の食堂・・・・・・働き者のお母さんのお店

ブションとはビストロよりももっとくだけた食堂で、家庭的、伝統的なリヨン料理を提供するお店である。これらのお店の多くは元々メール・ブラジエやメール・ギー、メール・ブラン(フランス料理に詳しい方はその名前にお気付きだろうが、あの店のシェフのお母さんやおばあさん達である)といった多くの女性料理人が腕をふるっていたといわれる。現代のフランス料理の隆盛を築いたといえる料理界の巨人ポール・ボキューズも最初は彼女たちの元でその料理人生活を始めたことが知られている。メールとはお母さんをあらわす言葉だが、ここではおかみさんやおばさんなどの意味もひっくるめてしまってもいいだろう。当時は「食堂へ行って食事をする」のではなく「ブラジエおばさんのところでお昼を食べる」という感覚だったのかも知れない。


LA MEUNIERE  テーブルに並んだ料理を給仕が取り分けてくれる昔ながらのスタイルがうれしい、フランス版「おばんざいの店」

ブションだからといって決まったスタイルがあるわけでは無く、様々なタイプの店が存在している。家族だけで経営されていて、お母さんの作る伝統的なリヨン家庭料理を息子夫婦が仕上げてお父さんがサービスする店。お母さんは料理を作る傍ら客席を飛び回り、オーダー、調理、サービス、お勘定と一人で大活躍しているお店があると思えば、料理人が料理を作り、給仕がサービスするという普通のレストランだが、料理が伝統的なリヨン料理であるというお店もある。中には入り口脇のテーブルに数々の料理(Saladiers lyonnais:あえて日本語に訳すとすれば、「おかず」だろうか?)が並んでいて、食事の最初のオードブルをその中から選ぶと何種類ものおかずを盛り込んでくれるという大昔の食堂のスタイルを取り入れているお店もある。まるで京都に見られるおばんざいの店や庶民感覚の大皿料理の並ぶ居酒屋のようなのりである。


saladiers lyonnais を中央のテーブルで取り分ける給仕



oeufs farcis どれだけ卵が好きなんだ・・・テーブルには卵の詰め物が数種類並ぶ


tarte à la tomate ピッツァ?いえいえ生地が違います・・・ということで、様々なタルトも並びます


oeufs à la tripe またもゆで卵・・・牛胃の煮込みにゆで卵をのせてグラタンにしたもの

ただ1つ言えることは伝統的なリヨンの料理に何も加えない、何も引かないのが、保守的な「リヨネ」の心をつかみ続ける条件のように思える。アレンジや手抜きが伺えただけで客足が落ちる(子供だから量を減らすとか味付けを変えるなどといった気遣いすらもしてはいけない雰囲気がある)。


pommes lyonnaises 私が始めて見た「リヨン」という言葉の入った料理、あめ色に炒めた玉ねぎとじゃがいもの取り合わせが最高


omelette lyonnaise 調理師学校時代に初めて作った「リヨン料理」、じゃがいものソテーの入ったオムレツ・・・こぼれているのは失敗ではなく、食堂で注文してもこんな感じで出てくる


cervelle de canut 脳みそという料理名が付いていますが、フレッシュチーズとハーブのサラダ、私の定番前菜

伝統的なリヨン料理とは何かというと、最初にあげられるのは「内臓料理」である。副生物といわれる家畜の内臓類をよく食べるフランス人の中でもこの地域では特に昔から様々な形で食べられてきた。あるいは蓄肉を加工したソーセージや塩付け肉を使った料理もよく食べられる。


Gratton 背脂を溶かしてラードを作る際に残った部分を冷まして塩を振って食べる・・・ いわば、フランス版「脂かす」大阪人には郷愁をそそるものがある リエルグ村のお惣菜屋さんでは毎週木曜日の11:00に売り出されていた


salade de cervelas 軽くソテーした玉ねぎとリヨン風のセルヴラの和え物、日本でいえば丼一杯が1人前


gras double à la lyonnaise あめ色に炒めた玉ねぎとゆでた牛胃の細切りのソテ、お酒のすすむ品


tablier de sapeur ゆでた牛の第二胃のパン粉焼き、肉厚で噛み応えがあるけど柔らかい・・・臭みもなくて、内臓料理を食べたことのない方でも大丈夫、ワインとマスタードの風味が加わり、病み付きになる味・・・この大きさのものが手に入りにくい日本の食肉事情が恨めしい

さらには近くで取れる淡水魚や家禽の料理がことに有名である。以前紹介した料理もそういったものを日本の家庭で比較的簡単に再現できるようにアレンジしたものである(私はリヨネーじゃないので、アレンジしてもOKでしょう?)。


quenelles de brochet 近くの河でとれた淡水魚で作ったクネル(魚のすり身団子)のグラタン、すり身にパナード(混ぜ物)が入っているので、ふんわり柔らか・・・イメージ的にははんぺんのもっと柔らかい感じ、ざりがにで取った濃厚なクリームソースが癖になる味


carpe de la Dombes 鯉の白ワイン蒸し、ドンブは沼地や湿地も多く、蛙の産地として有名。蛙を筆頭にざりがにや鯉、鱒の養殖が盛んな土地でもある 


Blanc de volaille, sauce suprême 鶏胸肉のきのこソース、きのことバターのシンプルなソースで飽きのこない料理

食事の際のメニュー選びは、まずENTREES(最初のお皿)を選び、PLATS(メインディッシュ)を選ぶ、その際に必要に応じてGARNITURE(付け合わせ)を別に注文する。メインディッシュの皿の中に付け合わせが盛り込まれている料理は数少ないのである。勿論、パンが欲しい場合はパンを別に注文する必要がある。メインディッシュを食べ終わると、デザートを食べるかどうか聞きにくるので、お腹の状況に合わせて注文することになる。注意したいのは一皿一皿のボリュームである。日本人の感覚で言えば、アントレは「軽い前菜」であるが、パンと一緒に食べればそれだけでも十分にお腹一杯になる店もあるので、初めてのお店では、さりげなく周囲の客の食べている料理のボリュームを見て注文するほうがよいかも知れない。


poulet au vinaigre ヴィネガー風味の鶏の煮込み、ハーブの香りと強すぎないトマトの味が特徴


macaroni au gratin マカロニグラタン、どう見ても4~5人分のグラタン皿がやって来た。「一人で食べるのか」と、言葉に詰まってしまう・・・明らかにメインディッシュより巨大な一皿を隣ではスリムなマダムがたいらげていた

私の先輩がかつてこんな話をしてくれた。あるお店に一人で入り、料理を待っていると、ふらりと入ってきた常連客の一人が、空席があるにも関わらずに、目の前に座っていきなり話しかけてきて、そのまま食事をしながら時間をすごすことになった。
日本では学生食堂でも見られなくなってきた光景が当たり前のように日々積み重なってゆく。まさに「街角にある誰かの家の茶の間」といえるかもしれない。


Monsieur、寝てるの?起きてるの?・・・でも、食べ続けて、飲み続けて、話し続ける・・・

保守的、頑固、意地っ張りと様々にいわれるリヨン気質が現代に残した「かつてのフランス」。料理だけで無く、リヨン独特の雰囲気や人との交わり方など全てがブションには今もあふれているように思える。フランスへ行ったら是非リヨンへ、そしてブションに足を運んでみてはいかがだろうか?


chèque du guingan 赤いギンガムチェックのクロス、これをトレードマークにしているお店も少なくない

このコラムの担当者

リヨネのように頑固に、伸びやかに暮らしたい・・・老人ライダー候補生
此上 潤

このコラムのレシピ

牛胃のマスタードフライ

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