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【半歩プロの西洋料理】卵を割らずにオムレツを作ることはできない

01<西洋>半歩プロの西洋料理

2017.05.31

【半歩プロの西洋料理】ってどんなコラム?


On ne fait pas d'omelette sans casser des œufs.


フランスのことわざである。


直訳すると、「人々は卵を壊すことなくして、オムレツを作ることはしない」

となる。


単純に言えば「卵を割らないとゆで卵以外の卵料理はできない」のだから、当たり前のことではある。もちろん、ゆで卵の火通しや加熱方法は様々で、フランスでも様々な半熟状態のゆで卵を食べるし、日本には温泉卵や温度卵などというものもあるので、ある意味料理は無限大にあるのだが・・・。


このことわざは、とても意味深だと思う。


そこには「危険を恐れずに取り組まなければ結果を得ることはできない」とか、「何かを壊さなければ新しいものは生み出せない」いうことが込められているのだろうが、聞く人や口にする人によって様々な意味にとれる言葉でもある。


本校には毎年多くの学生が入学してくるのであるが、ここ数年は卵を割るという行為すらできないという学生が増えてきている。卵をどこにぶつけるのか?力の入れ具合は?指はどこに当てるのか?どのような力の入れ具合で殻のひび割れを広げて中身を取り出すのか?どんな高さから落とせば卵黄をつぶさないのか?「卵を割って中身を取り出す」そんな単純なことも彼らにとっては、初めての挑戦であったり、新しい取り組みであったりするもので、知識、理論、技術の集合として身につけてゆくことなのかもしれない。


と、まぁ前置きはここまでにして・・・


今回は「オムレツ」を取り上げてみたい。


「オムレツ」というとどのようなものを思い浮かべるだろうか?


洋食屋さんで見かける黄色くきれいな木の葉形で中身がトロトロのものを思い浮かべるだろうか?スペインバルで見かけるじゃがいもと玉ねぎがきっしりと詰まった固く分厚く焼き上げたものや、イタリア料理店の前菜で色取り取りの野菜が混ざった丸い平焼きのオムレツを思い浮かべるだろうか?


私の家のオムレツは母親の作ってくれたもので、粗みじんに切った玉ねぎと牛ミンチを炒めたものに卵を加えてよく混ぜてから、フライパンで片面を焼いて2つ折りか3つ折りにして、更にしっかりと焼き上げて火を通したものであった。



我が家のオムレツ
 我が家のオムレツ
 幼いころの私は、こんな小さな肉の塊も嫌だったのだろうか?


私の母親は鶏肉も牛肉も食べない、豚肉もお好み焼きや焼きそばに入っている程度のものしか口にしないという偏食で、我が家の食卓には肉好きであった父親の食事を除くと「肉」というものが上ることは稀であった。そのおかげで私も中学に入学するまでの間は、脂身が少しもない牛肉をカツにしたものと肉としての形が見えないひき肉を使った料理ぐらいしか食べたことが無く、カレーやシチューの肉もすべて父親にお任せという状態であった。そのためか、子供の好きな卵焼きに牛ミンチを紛れ込ませたオムレツが食卓にのぼることが多かった。しかし、私は卵の中から牛ミンチの大きな塊をはじき出しながら食べていたように記憶している。今にして思えば「ウインナーは何の肉が入っているかわからない」と言って自分でも食べないし、子供にも食べさせなかった母はひき肉も店頭に並んでいるものを買うのではなく、自分の目で見た肉の塊をその場でひき肉にしてもらっていたので、「贅沢でわがままな子供であったなぁ」と、思い返すことがある。


当時、食べていた卵料理で最も好きだったのはバターがたっぷりと入ったトロトロのスクランブルエッグで、いつもはいり卵が皿にのって出てくるのだが、極たまに小さな深皿で半熟状のトロリとしたものが出された時にはうれしかった。母は「マーガリンは臭い」と言っていつもバターを使っていて、バターが古くなって傷む前にスクランブルエッグを作ってくれていたのであろうと思う。理屈からいえば、半熟状のスクランブルエッグの表面だけを焼き固めたものがプレーンオムレツであり、母にその技術があるか、便利なテフロンのフライパンがあるかすれば、子供のころからプレーンオムレツが食べられたのかもしれない。


オムレツというと卵を割って、卵白と卵黄をよく混ぜて火を通すのが一般的である。


「一般的」といったのは卵をほぐさないのに「オムレツ」という名を持つ卵料理が北アフリカのモロッコにあるからである。「ベルベル人のオムレツ」というタジンを使った郷土料理である。


ベルベル人のオムレツ
 ベルベル人のオムレツ
 本来は落とした卵が完全に固まっているらしい


溶き卵にしてから加えてタジンの中でフワフワのオムレツ状になるように仕上げるものもあり、洋風の卵とじといった感じでパンはもちろんご飯にもよく合うので、是非お試しいただきたい。

担当者情報

このコラムの担当者

此上潤

このコラムのレシピ

ベルベル・オムレット

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