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【独逸見聞録】ハチミツの定義と分類 ~ハチミツ(其の壱)~

13<海外>独逸見聞録

2016.11.04

<【独逸見聞録】ってどんなコラム?>


ハチミツは、ミツバチ(Bieneビーネ)によって作られる天然の甘味料である。
ジャムやマーマレードなどと共に、「ブロートアウフシュトリッヒ(Brotaufstrich)」としてパンに塗ったり、ヨーグルト(Joghurt)やクヴァルク(Quark)などの乳製品、ミュースリ(Müsli)に甘みを添えたりと、朝食のテーブルに欠かせない存在である。
今回は「ハチミツ(Honig:ホーニッヒ)」の定義と、その分類について紹介する。

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様々な種類の蜜源、状態や外観、容量、原産地を持っているハチミツ(Honig:ホーニッヒ)。

スーパーマーケットの食品売り場だけでなく、週に何度か開かれる青空市場でも、ハチミツは販売されている。野菜や果物の横に、ジャムやゼリー、蒸留酒のビンなどと一緒に並べられることもあるが、養蜂家(Imker:イムカー)や養蜂所(Imkerei:イムカライ)が直売している、ハチミツ専門のスタンドや移動販売車もある。

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オッフェンブルクの青空市場でも、週に2回ハチミツが販売されている。
これは養蜂家直売スタンドのひとつ。

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500g、250gのガラス容器入りの様々なハチミツと共に、
ハチの蜜巣(Wabe:ヴァーベ)や花粉(Blütenpollen:ブリューテンポレン)も販売されている。

★ハチミツの定義
ハチミツは、ミツバチによって作られる天然の甘味料で、植物の花蜜、または植物の篩管液を吸う昆虫の分泌物、及び植物の分泌物をミツバチが採集し、自身の持つ物質と混ぜ合わせることによって変化させ、巣に運び入れ、水分を飛ばして濃縮し、ハチの巣箱の蜜房中に貯蔵して熟成させたものである。

*ミツバチの唾液に含まれる酵素(インベルターゼ:転化酵素)によって、蜜源中のスクロース(ショ糖)が、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)に分解される。

原則として、ハチミツからその成分を除去することも、何かを添加することも認められていない。
目の細かなフィルターによって漉されたハチミツは、異物と共に、天然のハチミツ中に存在する花粉も大部分除去されてしまうことから、「ホーニッヒ」ではなく、「ゲフィルターター・ホーニッヒ(gefilterter Honig)」が流通名となる。
もうひとつの例外は、加工品に使用される「バックホーニッヒ(Backhonig)」である。

「ホーニッヒフェァオルドヌング(Honigverordnung)」という法令の中で、ハチミツの品質、特徴、規格、表示についての要求を定めている。個々の製品は法規の中で定義され、その名称はそれぞれの条件を満たしている場合にのみ使用が認められている。
2004年1月16日版のホーニッヒフェァオルドヌングは、2015年6月30日に最終改正されている。

「ドイツ食品便覧(Deutsches Lebensmittelbuch:ドイチェス・レーベンスミッテルブッフ)」に収録されている、「ハチミツの指導原則(Leitsätze für Honig:ライトゼッツェ・フュァ・ホーニッヒ)」で、取り上げられている基準や指導要綱を中心に、ハチミツの種類や名称について紹介する。

★ハチミツの分類
「蜜源の種類」、「生産方法」、「提供される形状」または「目的や用途」の規定によって、以下のハチミツの種類に区別される。

1.ブリューテンホーニッヒ(Blütenhonig) またはネクターホーニッヒ(Nektarhonig)
全て、または大部分が、植物の花蜜に由来するハチミツである。
色が薄く、風味や香りも比較的穏やかなものが多い。

2.ホーニッヒタウホーニッヒ(Honigtauhonig)
全て、または大部分が、生きている植物の篩管液を吸う昆虫の分泌物、または生きている植物の分泌物からなるハチミツである。
日本では甘露蜜、甘露ハチミツと呼ばれる。
一般に色が濃く、風味や香りが強い。ミネラル分を多く含み、結晶化し難い。

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タンネンホーニッヒ(Tannenhonig:モミのハチミツ)とヴァルトホーニッヒ(Waldhonig:森のハチミツ)は、
ホーニッヒタウホーニッヒを代表するハチミツである。

3.ヴァーベンホーニッヒ(Wabenhonig)またはシャイベンホーニッヒ(Scheibenhonig)
ミツバチによって新しく作られた、卵の入っていない蜜巣は、蜜で満たされ、蜜蝋の蓋で覆われている。
完全なまま、または分割された蜜巣。

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ハチの蜜巣(Wabe:ヴァーベ)。

4.ホーニッヒ・ミット・ヴァーベンタイレン(Honig mit Wabenteilen)
  またはヴァーベンシュテュッケ・イン・ホーニッヒ(Wabenstücke in Honig)
ひとつまたは複数のヴァーベンホーニッヒの欠片(かけら)を含むハチミツ。

5.トロップフホーニッヒ(Tropfhonig)
蜜蝋の蓋を取り除き、卵の入っていない蜜巣から、滴り落とすことによって取り出されたハチミツ。

6.シュロイダーホーニッヒ(Schleuderhonig)
蜜蝋の蓋を取り除き、卵の入っていない蜜巣から、遠心分離機によって取り出されたハチミツ。
現在では、この方法が一般的である。

7.プレスホーニッヒ(Presshonig)
卵の入っていないハチの巣から、押し潰したり、突き砕いたりすることによって取り出されたハチミツ。
温める場合は最高でも45℃まで。

8.ゲフィルターター・ホーニッヒ(gefilterter Honig)
無機または有機の異物を取り除くことによって、花粉が相当な量取り去られたハチミツ。
EUの規格では「ハチミツ」に該当するが、ドイツでは「ゲフィルターター・ホーニッヒ」に分類される。
このハチミツは流動的で、結晶し難い。そのために下の写真の様な、口の狭いチューブ状の容器に入れて使用するのに向いている。

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流動性の高いタイプのハチミツに向いている、チューブ状の容器に入った2種類のハチミツ。
アカーツィエンホーニッヒ(Akazienhonig)とヴァルトホーニッヒ(Waldhonig)。

9.バックホーニッヒ(Backhonig)
工業的な目的または別の食品の材料として、加工されるのに適したハチミツ。
主に、菓子やパンなどのバックヴァーレン(Backwaren)に使用される。
ハチミツを加えると焦げ色が付き易くなる。高い保水性を利用して、焼き菓子をしっとりと柔らかく仕上げることができる。
バックホーニッヒを使用した加工製品には、表記義務がある。

★ゾルテンホーニッヒ(Sortenhonig)
「ゾルテンホーニッヒ」は、日本の「単花蜜」に該当する。
ミツバチの「訪花の一定性」という性質によって、原則として、1種類の蜜源植物の花から採取された花蜜によるハチミツのことである。蜜源が大部分を占める場合にも、草花、樹木や果樹などの植物の名前を冠することが認められている。
蜜源となる植物の種類によって、色調や粘度、透光性などの外観、芳香や風味などに、それぞれの特徴が顕著に現れる。

ゾルテンホーニッヒには、「ラプスホーニッヒ(Rapshonig:セイヨウアブラナのハチミツ)」や「リンデンホーニッヒ(Lindenhonig:セイヨウシナノキのハチミツ)」、「アカーツィエンホーニッヒ(Akazienhonig:アカシアのハチミツ)」などがある。
因みに、アカーツィエンホーニッヒの実際の蜜源は、アカシアではなくてロビーニエ(Robinie:ハリエンジュ、別名ニセアカシア)である。ただの通称という訳ではなく、ホーニッヒフェァオルドヌングの中でも、この「アカーツィエンホーニッヒ」という名称の使用が認められている。

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左側のアカーツィエンホーニッヒは、透明感のある明るい黄色で、粘度が低く、結晶し難い。
右側のラプスホーニッヒは、白濁した固めのクリーム状である。

★ミッシュホーニッヒ(Mischhonig)
「ミッシュホーニッヒ」は、複数の植物に由来するハチミツで、日本の「百花蜜」に該当する。
幾つかの植物の花蜜に由来する場合は、単に「ブリューテンホーニッヒ(Blütenhonig)」、果樹の花蜜が主体となる場合は、「オプストブリューテンホーニッヒ(Obstblütenhonig)」という総称で呼ばれる。

ドイツ南部では、春に果物の花々と同時に咲くセイヨウタンポポ(Löwenzahn:レーヴェンツァーン)を蜜源とするハチミツがある。この様な場合には、同じ地域で同時期に開花することが重要で、全体に占める割合の高い蜜源植物の名称が先に記される。

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どちらも「キルシュホーニッヒ・ミット・レーヴェンツァーン(Kirschhonig mit Löwenzahn)」という名前の
タンポポ入りサクラのハチミツである。
左側は採取後そのままの状態、右側は容器に充填する前に、攪拌して固めのクリーム状にしたもの。

ミツバチが蜜を集める季節によって、春の時期(4月、5月)のものを「フリュートラハト(Frühtracht)」と呼び、このハチミツの蜜源は花蜜が中心である。
夏の時期(6月と7月、8月まで)のものは、「ゾマートラハト(Sommertracht)」または「ゾマーホーニッヒ(Sommerhonig)」と呼ばれる。密源として、花蜜と共に甘露蜜も集められるが、気候や地域にも左右されるので、その比率は一定ではない。

この他に、蜜源の植物名ではなくて、地形や地域の名を掲げたハチミツもある。
ホーニッヒタウホーニッヒの代表でもある「ヴァルトホーニッヒ」は、その名の通り、「森の中」の樹木(主に針葉樹)と、それに寄生する昆虫の分泌物が蜜源となる。
山岳地帯や高原の花蜜を集めた「ゲビクスブリューテンホーニッヒ(Gebirgsblütenhonig)」や「ベルクブリューテンホーニッヒ(Bergblütenhonig)」もある。

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ヴィーゼンホーニッヒ(Wiesenhonig:草原のハチミツ)とヴァルトホーニッヒ(森のハチミツ)。

「ヴィルトブリューテンホーニッヒ(Wildblütenhonig)」は、人工的に栽培されている植物(Kulturpflanze:クルトゥーァプランツェ)や有用植物(Nutzpflanze:ヌッツプランツェ)ではなく、野生植物の花々を密源とするハチミツである。

★原産国の表示義務
原産国の表示が義務付けられているが、複数になる場合には、以下の様な記述も認められている。
・「EU加盟国からのハチミツを混合」
 (Mischung von Honig aus EU-Ländern)
・「EU加盟国以外からのハチミツを混合」
 (Mischung von Honig aus Nicht-EU-Ländern)
・「EU加盟国とEU加盟国以外からのハチミツを混合」
 (Mischung von Honig aus EU-Ländern und Nicht-EU-Ländern)

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容量の小さな3種類のハチミツのセットに記載された表示(下線部分)は、
「Mischung von Honig aus EU-Ländern(EU加盟国からのハチミツを混合)」。

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左のハチミツに記載された表示を拡大すると、
「Mischung von Honig aus EU-Ländern und Nicht-EU-Ländern
(EU加盟国とEU加盟国以外からのハチミツを混合)」の文字が読み取れる。

また、その直ぐ下の文は、
「天然のままなので、ハチミツは12ヶ月未満の乳児には適さない。」と注意を促している。

ハチミツの中には、芽胞を形成して活動を休止したボツリヌス菌が含まれている可能性がある。
通常は摂取してもそのまま体外に排出されるが、乳児が摂取すると(発芽を妨げる腸内細菌叢が備わっていないため)体内で発芽して毒素を出し、中毒症状を引き起こすことがあるために、注意を要する。

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Kimiko Kochs

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