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【独逸見聞録】ハチミツの種類と特徴 ~ハチミツ(其の弐)~

13<海外>独逸見聞録

2017.04.12

<【独逸見聞録】ってどんなコラム?>


複数の植物に由来するハチミツは、「ミッシュホーニッヒ(Mischhonig)」と呼ばれ、日本の「百花蜜」に該当する。これに対して、「単花蜜」は原則として1種類の蜜源植物から採取されたハチミツで、「ゾルテンホーニッヒ(Sortenhonig)」と呼ばれる。蜜源となる植物の種類によって、色調や粘度、透光性などの外観、芳香や風味などに、それぞれの特徴が顕著に現れる。
今回は、「ハチミツの指導原則」の中で取り上げられている、蜜源植物によるハチミツの種類と、その特徴について紹介する。

ミツバチには、同じ種類の花だけに繰り返し通って蜜を採集する「訪花の一定性」という性質がある。
巣箱の近くに、蜜源植物の群生地がある場合は勿論であるが、一斉に咲く多種多様な花々の中から、特定の花の蜜だけを集める能力を持っている。
単一の植物が蜜源となり、ハチミツの大部分を占める場合に、草花、樹木や果樹などの植物の名前を冠する「ゾルテンホーニッヒ(単花蜜)」となる。

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蜜源の異なる、様々な単花蜜(Sortenhonig: ゾルテンホーニッヒ)。

「ハチミツの指導原則の改訂版(Neufassung der Leitsätze für Honig: ノイファッスング・デァ・ライトゼッツェ・フュァ・ホーニッヒ)」の中で、ゾルテンホーニッヒは3種類に大別されている。
1つ目は「ブリューテンホーニッヒ(Blütenhonig)」または「ネクターホーニッヒ(Nektarhonig)」と呼ばれる、全て、または大部分が、植物の花蜜に由来するハチミツである。
2つ目は「ホーニッヒタウホーニッヒ(Honigtauhonig)」と呼ばれる、全て、または大部分が、生きている植物の篩管液を吸う昆虫の分泌物、または生きている植物の分泌物からなるハチミツ。日本では、甘露蜜、甘露ハチミツと呼ばれる。
そして3つ目は、「ホーニッヒ・アウス・ネクター・ウント・ホーニッヒタウ(Honig aus Nektar und Honigtau)」と呼ばれる、同じ植物の花蜜と甘露蜜から、ほぼ同時期に採取されたハチミツである。

ハチミツは、『ミツバチによって作られる天然の甘味料で、植物の花蜜、または植物の篩管液を吸う昆虫の分泌物、及び植物の分泌物をミツバチが採集し、自身の持つ物質と混ぜ合わせることによって変化させ、巣に運び入れ、水分を飛ばして濃縮し、ハチの巣箱の蜜房中に貯蔵して熟成させたもの』と、定義されている。
ミツバチの唾液に含まれる酵素(インベルターゼ:転化酵素)によって、蜜源中のスクロース(ショ糖)が、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)に分解される。草花や樹木などの、蜜源となる植物の種類によって、ハチミツ中のブドウ糖と果糖の割合は異なり、ハチミツの形状にも影響を与えている。一般的に、果糖の割合が高い場合は結晶化し難く、液状または粘性の低い状態が長く保たれる。ブドウ糖の割合が高い場合には結晶化が進み易く、低温では固まってしまうことも多い。

★ゾルテンホーニッヒ(Sortenhonig)の種類
1.ブリューテンホーニッヒ(Blütenhonig) またはネクターホーニッヒ(Nektarhonig)
全て、または大部分が、植物の花蜜に由来するハチミツである。色が薄く、風味や香りも比較的穏やかなものが多い。

☆アカーツィエンホーニッヒ(Akazienhonig)
アカーツィエンブリューテンホーニッヒ(Akazienblütenhonig)、アカーツィエンホーニッヒ、ロビーニエンブリューテンホーニッヒ(Robinienblütenhonig)、ロビーニエンホーニッヒ(Robinienhonig)は、ハリエンジュ属の落葉高木「ニセアカシア(別名:ハリエンジュ)」の花蜜からなるハチミツである。

アカーツィエンホーニッヒの実際の蜜源は、「アカシア(Akazie:アカーツィエ)」ではなくて「ニセアカシア(Robinie:ロビーニエ)」であるが、ただの通称という訳ではなく、「ホーニッヒフェァオルドヌング(Honigverordnung)」という法令の中でも、この「アカーツィエンホーニッヒ」という名称の使用が認められている。


色:   澄んで、水の様な透明から淡い黄色まで
香り:  穏やかな、微かな香り
風味:  微かな花の様な、穏やかな風味
形状:  液状で、結晶化しない

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アカーツィエンホーニッヒは、極めて透明度が高く、流動的である。
ドイツで広く親しまれている一般的なハチミツ。

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結晶化し難いので、時間が経過しても粘度が低く、さらりとして固まらない。

☆ハイデホーニッヒ(Heidehonig)
ハイデブリューテンホーニッヒ(Heideblütenhonig)、ハイデホーニッヒは、ツツジ科カルーナ属、またはエリカ属の常緑低木の花蜜からなるハチミツである。

◆カルーナ属
ベーゼンハイデホーニッヒ(Besenheidehonig)

色:   淡褐色、赤みを帯びた茶色
香り:  力強い香り
風味:  力強い、渋みと酸味のある風味で、時折苦みを持つ
形状:  ゼリー状、個々の霰粒の様な結晶になる可能性がある

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ベーゼンハイデホーニッヒの産地は、ドイツ北部に広がる荒地、リューネブルガー・ハイデ(Lüneburger Heide)である。

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このハチミツの最大の特徴は、細かな粒入りゼリーの様な状態である。


◆エリカ属
 グロッケンハイデホーニッヒ(Glockenheidehonig)

色:   淡褐色から暗褐色まで
香り:  スパイシーな芳香
風味:  スパイシーな、渋みと酸味のある風味
状態:  結晶状、または液状

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グロッケンハイデホーニッヒは、フランス南部やスペインなどの、地中海沿岸地域産のものが多い。

☆クレーホーニッヒ(Kleehonig)
クレーブリューテンホーニッヒ(Kleeblütenhonig)、クレーホーニッヒは、シャジクソウ属の多年草「クローバー(別名:シロツメクサ)」の花蜜からなるハチミツである。

色:   白から淡黄色まで
香り:  微かな香り
風味:  花の様な、穏やかな風味
状態:  結晶状

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クレーホーニッヒは、ブドウ糖の割合が高いために、結晶化し易い。
世界で最も生産量の多いハチミツである。

☆オランジェンホーニッヒ(Orangenhonig)
オランジェンブリューテンホーニッヒ(Orangenblütenhonig)、オランジェンホーニッヒは、ミカン属「オレンジ」の花蜜からなるハチミツである。

色:   白から濃いオレンジ色まで
香り:  オレンジの花々の様な香り
風味:  濃密な芳香の、花の様な風味
状態:  液状、または結晶状

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オランジェンホーニッヒの産地は、気候の温暖な地域なので、ヨーロッパでは南部で採取される。
このハチミツはイタリア産である。

☆ラプスホーニッヒ(Rapshonig)
ラプスブリューテンホーニッヒ(Rapsblütenhonig)、ラプスホーニッヒは、食用油の原料として栽培されている、アブラナ属の二年生植物「セイヨウアブラナ」の花蜜からなるハチミツである。

色:   白から明るい象牙色まで
香り:  穏やかで、微かなキャベツ類から花の様な香り
風味:  微かな花の様な、穏やかな風味。口内で少し冷たく感じる
状態:  固い、または、通常は加工により細かな結晶状、クリーム状

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ラプスホーニッヒは、ブドウ糖の割合が高いために、結晶化し易い。
攪拌して固めのクリーム状に加工されることが多い。

☆ゾンネンブルーメンホーニッヒ(Sonnenblumenhonig)
ゾンネンブルーメンブリューテンホーニッヒ(Sonnenblumenblütenhonig)、ゾンネンブルーメンホーニッヒは、キク科の一年草「ヒマワリ」の花蜜からなるハチミツである。

色:   卵黄色
香り:  フルーティーな、穏やかな香り
風味:  フルーティーな風味
状態:  結晶状、分解し易い傾向にある

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ゾンネンブルーメンホーニッヒの結晶は、分解し易い傾向にある。

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長期間保存すると2層に分かれ、表面部分が液状になる。


2.ホーニッヒ・アウス・ネクター・ウント・ホーニッヒタウ(Honig aus Nektar und Honigtau)
同種の植物由来の花蜜と甘露蜜を含んでいるハチミツ。その割合は一定ではないために、ほぼ完全に花蜜、またはほぼ完全に甘露蜜で構成される可能性もある。

☆オイカリィプトゥスホーニッヒ(Eukalyptushonig)
オイカリュプトゥスホーニッヒは、オーストラリア原産のユーカリ属の常緑高木「ユーカリ」の花蜜と甘露蜜からなるハチミツである。

色:   淡い琥珀色から濃い色まで
香り:  カラメルの様な香り、時折スパイシー
風味:  カラメルの様な麦芽風味、時折スパイシー
状態:  液状から結晶状まで

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オイカリュプトゥスホーニッヒの産地は、気候の温暖な地域なので、ヨーロッパでは南部で採取される。
このハチミツはイタリア産である。


☆カスターニエンホーニッヒ(Kastanienhonig)
カスターニエンホーニッヒ、エーデルカスターニエンホーニッヒ(Edelkastanienhonig)は、クリ属の落葉高木「ヨーロッパグリ(別名:セイヨウグリ)」の花蜜と甘露蜜からなるハチミツである。

色:   淡褐色から濃褐色
香り:  渋みと酸味のある、力強い、鼻をつく様な香り
風味:  力強い、渋みと酸味のある風味、はっきりとした苦み
状態:  液状から粘状まで

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カスターニエンホーニッヒは、花蜜よりも、甘露蜜の占める割合が高く、結晶化し難い。
ドイツ国内では、プファルツの森(Pfälzerwald:プフェルツァーヴァルト)が産地として有名である。

☆リンデンホーニッヒ(Lindenhonig)
リンデンホーニッヒは、シナノキ属の落葉高木「セイヨウシナノキ」の花蜜と甘露蜜からなるハチミツである。

色:   象牙色、緑色を帯びた黄色、甘露蜜の割合によって色が濃くなる
香り:  濃厚なミントの様な香り
風味:  濃厚なミントの様な風味と軽い苦み
状態:  液状、または結晶状

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リンデンホーニッヒの色は、花蜜と甘露蜜の割合に応じて異なり、緑色を帯びた白から黄色、褐色まで幅広い。


3.ホーニッヒタウホーニッヒ(Honigtauhonig)
全て、または大部分が、生きている植物の篩管液を吸う昆虫の分泌物、または生きている植物の分泌物からなるハチミツである。日本では甘露蜜、甘露ハチミツと呼ばれる。
一般に色が濃く、風味や香りが強い。ミネラル分を多く含み、結晶化し難い。

☆フィヒテンホーニッヒ(Fichtenhonig)
フィヒテンホーニッヒタウホーニッヒ(Fichtenhonigtauhonig)、フィヒテンホーニッヒ、ロートタンネンホーニッヒタウホーニッヒ(Rottannenhonigtauhonig)、ロートタンネンホーニッヒ(Rottannenhonig)は、トウヒ属の常緑針葉高木「ヨーロッパトウヒ(別名:ドイツトウヒ)」の甘露蜜である。

色:   赤褐色
香り:  スパイシーな麦芽の香り
風味:  酸味のある成分を持ち、スパイシーな麦芽風味
状態:  粘状から結晶状まで

☆ピーニエンホーニッヒ(Pinienhonig)
ピーニエンホーニッヒタウホーニッヒ(Pinienhonigtauhonig)、ピーニエンホーニッヒは、マツ属の常緑高木「イタリアカサマツ」からなる甘露蜜である。

色:   明褐色から暗褐色まで
香り:  スパイシーな、樹脂の様な香り
風味:  濃密でスパイシーな麦芽風味・、樹脂の様な風味
状態:  粘状

☆タンネンホーニッヒ(Tannenhonig)
タンネンホーニッヒタウホーニッヒ(Tannenhonigtauhonig)、タンネンホーニッヒ、ヴァイスタンネンホーニッヒタウホーニッヒ(Weißtannenhonigtauhonig,)、ヴァイスタンネンホーニッヒ(Weißtannenhonig)は、モミ属の常緑針葉樹「ヨーロッパモミ」の甘露蜜である。

色:   緑色を帯びた茶色、赤褐色、深褐色
香り:  樹脂や麦芽の様な香り
風味:   濃厚な、樹脂と麦芽風味、乾燥プラムを思い出させる様な味
状態:  粘状

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タンネンホーニッヒの産地として有名なのは、黒い森((Schwarzwald:シュヴァルツヴァルト)やバイエルンの森(Bayerischer Wald:バイエリッシャ-・ヴァルト)など、ドイツ南部の森林地帯である。

以上が、「ハチミツの指導原則の改訂版」の中で取り上げられている「ゾルテンホーニッヒ」であるが、この中には、ドイツでは一般的でないハチミツも含まれている。温暖な気候を好む蜜源植物は、寒冷なドイツ国内では育たないので、ヨーロッパ南部などからの輸入品である場合が多い。

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このコラムの担当者

Kimiko Kochs

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