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【独逸見聞録】リキュールの定義と製法 ~リキュール(其の壱)~

13<海外>独逸見聞録

2009.10.28

<【独逸見聞録】ってどんなコラム?>

高濃度のアルコールを含むアルコール飲料の総称は、「酒精飲料(Spirituosen:シュピリトゥォーゼン)」で、俗語では「シュナップス(Schnaps)」とも呼ばれている。例外も存在するが、基本的にアルコール度数15%vol.以上と定められている。前回紹介した「蒸留酒(Branntwein:ブラントヴァイン)」や、「リキュール(Likör:リキューァ)」など、この酒精飲料の一種である。
今回は、リキュールの定義と、その製法について紹介する。

★リキュールの定義
リキュールは、酒精飲料(Spirituosen:シュピリトゥォーゼン)の一種で、製品1リットル当たり最低100gの糖分と、香味成分を含むアルコール飲料である。添加する糖の種類は砂糖に限らず、その値に相当する場合には、蜂蜜や他の糖類の使用も可能である。

この基本定義には当てはまらないが、特例として認められているリキュールもある。
例えば、リンドウの根のリキュール(Enzianlikör:エンツィーアンリキューァ)では、製品1リットル中の糖分の最低基準が80g、サクランボの蒸留酒から造られたチェリーリキュール(Kirschlikör aus Kirschbrand:キルシュリキューァ・アウス・キルシュブラント)では70gと定められている。

イチゴのリキュール(左)とチェリーのリキュール(右)

クレーム・ド・カシス

「クレーム(Crème/Creme)」の呼称を用いる場合には、製品1リットル中250gの糖分が最低基準である。

その中でも特に、クロスグリから造られる「クレーム・ド・カシス(Crème de Cassis)」については、糖分400g以上と定められている。
但し、牛乳(Milch:ミルヒ)や乳製品(Milchprodukt:ミルヒプロドゥクト)を基本原料とするリキュールに、「クレーム」の名を使用する場合には、糖分についての最低基準量は無効となる。

「クレーム」の名称を持つリキュール3種


カップッチーノのリキュール

卵のリキュール(Eierlikör:アイァーリキューァ)は、栄養価の高い卵と、砂糖または蜂蜜から造られている。乾燥卵黄や保存性を高めるために化学処理された卵黄の使用は、許可されておらず、低温殺菌、または冷凍された卵黄を使用しなければならない。
製品1リットル中の糖分は150g、卵黄の含有量は140gが最低基準である。
このリキュールの最低アルコール度数は14%vol.で、リキュールの一般基準値(15%vol.)よりも低い。


かなりの濃度を持つ、クリーム状の卵のリキュール

リキュールには、天然香料または天然素材に基づいた合成香料の添加のみが認められていて、化学的、人工的な芳香を付けることを禁じている。
その中でも、パイナップル(Ananas:アナナス)やクロフサスグリ(Schwarze Johannisbeeren:シュヴァルツェ・ヨハニスベーァレン)、サクランボ(Kirsche:キルシェ)、多くのベリー類(Beeren:ベーァレン)、柑橘類(Zitrusfrüchte:ツィトルスフリュヒテ)などの定められた種類の果物や、ミント(Minze:ミンツェ)やリンドウ(Enzian:エンツィーアン)、アニス(Anis:アニス)などのリキュールでは、「天然の香料」以外の使用は、一切禁じられている。

以上の基準は、ドイツに国内だけでなく、EU諸国間で共通する定義となっている。

★リキュールの製法
リキュールには様々な製法があるが、一般的には、香味原料からの成分の抽出、配合、ブレンド、熟成、仕上げなどの各段階を経て造られる。
この際に、ベースとして使用するアルコールは、癖の少ない高濃度の蒸留酒を選択することが多い。水分の多い原材料から香味成分を抽出する場合には、アルコール度数を高めに見積もると良い。

1)香味抽出(Extraktion:エクストラクツィオン)
様々な香味原料の性質に合わせて、「蒸留法」、「冷浸漬法」や「温浸漬法」、「パーコレーション法」などの中から香味成分の抽出方法を選択する。単独で行う場合もあるが、この中の幾つかを効果的に組み合わせることもある。

◆蒸留法(Destillieren:デスティリーァレン)
「蒸留法(Destillation:デスティラツィオーン)」は、ベースになる蒸留酒と香味原料を混合し、それを蒸留釜で蒸留して、アルコール分と一緒に揮発性の香味成分を抽出させる製法である。
芳香油(ätherische Öle:エテーリッシェ・エール)など、揮発成分を多く含む原料向きなので、加熱によって変質してしまう香味原料を使用する場合には、他の製法を用いた方が良い。蒸留後の液体は、常に無色である。

◆冷浸漬法(Mazerieren:マツェリーァレン)
「冷浸漬法(Mazeration:マツェラツィオーン)」は、室温で行われる製法で、原材料を動かさない「不動方式(Standverfahren:シュタントフェァファーレン)」。ベースになる蒸留酒に、原料を浸漬し、その香味成分を浸出させる。この製法からは、揮発成分だけでなく、非揮発成分も得られる。他の製法と比べて、果物本来の繊細な色や香りを生かし易いという利点がある。
浸漬期間は、香味原料の状態によって変化する。硬い樹皮、植物の根などは長期間を要し、花、挽いた種子または葉の場合は、短期間で充分である。
香味原料を軟化させ、溶解し易くするために、蒸留法の予備段階としても使用される。

◆温浸漬法(Digerieren:ディゲリーァレン)
「温浸漬法(Digestion:ディゲスティン)」は、冷浸漬法と同様、原材料を動かさない「不動方式」で、ベースになる蒸留酒に香味原料を浸漬し、その成分と香味を浸出させる。但し、その抽出時の温度は50~60℃と高く、冷浸漬法と比較すると浸漬期間は短い。この際、アルコール分と芳香成分の損失を回避するために、容器の蓋を密閉しなければならない。
蒸留法の予備段階としても使用される。

◆パーコレーション法(Perkolieren:ペーァコリーァレン)
「パーコレーション法(Perkolation:ペーァコラツィオン)」では、ベースの蒸留酒を循環させながら、香味原料から香りや味を抽出する方法で、基本的に室温で行われる。
上記の2つの浸漬法が静止の状態で成分を抽出する「不動方式」なのに対して、パーコレーション法はある程度の速度で液体を流動させる「可動方式(Bewegungsverfahren:ベヴェーグングスフェァファーレン)」で、香味原料からの成分回収量が多い。

2)香味配合(Aromatisierung und :アロマティジーァルング)
香味抽出によって得られた香味液を、各リキュールの個性に合わせて調合する作業工程。

3)ブレンド(Verschneiden, Abschmecken:フェアシュナイデン、アプシュメッケン)
調合した香味液に、糖類や水などを加えて、リキュールに仕上げていく。希釈には、カルシウムやマグネシウムなどを含まない無味無臭の軟水を使用する。硬水は濁りを導くことになるので避ける。

4)熟成(Lagerung:ラーガルング)
通常の熟成期間は3ヶ月以上。この期間中に、香味がまとまって安定化すると同時に、澱の沈降が進む。熟成用として、グラスやステンレス、プラスティック製の容器を使用する。
リキュールの種類に合わせて、オーク(Eichenholz:アイヒェンホルツ)などの樽を使用する場合もある(木材の香りや琥珀色が付加される)。

5)仕上げ(Klären , Filtrieren:クレーァレン、フィルトリーァレン)
充分に熟成させた後、フィルターを通して澱を取り除き、瓶詰する。

<コラムの担当者>
Kimiko Kochs

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