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【独逸見聞録】ブロートの定義 ~大型パン(其の壱)~

13<海外>独逸見聞録

2011.06.15

【独逸見聞録】ってどんなコラム?

パンは、伝統的な主要食品として、ヨーロッパの国々で、昔から重要な位置を占めてきた。中でも、ドイツ語圏のパンの種類は非常に多く、特出している。
これは、製パンに向く小麦やライ麦だけでなく、大麦やカラスムギなど、他の穀物も使用すること、そしてその穀物製品も、普通の粉だけでなく、全粒粉、細挽き、中挽きや粗挽きなど、種類が豊富なこととも関係している。また、ライ麦粉の割合の高いパンに、酵母と併用して、サワー種を使用することもその特徴として上げられる。
今回は、「ブロート(Brot)」の定義と、その種類や名称について紹介する。


左は、ブロート(大型パン)の集合写真。 右は、クラインゲベック(小型パン)各種。

★ブロートとクラインゲベックの定義
ブロート(Brot:大型パン)は、穀物や穀物製品に、液体やその他の食品を加えて、混捏、成形、発酵、焼成という工程を経ることによって製造される。
重量の90%の穀物または穀物製品に対して、含まれる油脂や、砂糖などの糖分は、重量の10%以下でなければならない。
ブロートの最低重量は、250gと決められている。特に規定がある訳ではないが、多くの場合、500g、750g、1000g、1500gなどの単位で販売される。

クラインゲベック(Kleingebäck:小型パン)は、特例を除いて、ブロートへの要求がそのまま適用される。その個々の重量は、250gを超えてはならない。

★ブロートの種類
「ドイツ食品便覧(Deutsches Lebensmittelbuch:ドイチェス・レーベンスミッテルブッフ)」に収録されている、「大型と小型パンの指導原則(Leitsätze für Brot und Kleingebäck:ライトゼッツェ・フュァ・ブロート・ウント・クラインゲベック)」で、取り上げられている基準や指導要綱を中心に、大型パンの種類や名称について紹介する。

◆ヴァイツェンブロートまたはヴァイスブロート(Weizenbrot oder Weißbrot)
ヴァイツェンブロート、またはヴァイスブロートは、最低でも90%の小麦粉から製造されている。

◆ヴァイツェンミッシュブロート(Weizenmischbrot)
ヴァイツェンミッシュブロートは、51~89%の小麦粉から製造されている。


左は、ヴァイツェンミッシュブロート、重量は1kgと500g。
右は、バウアーンブロート(Bauernbrot)500g。

◆ロッゲンブロート(Roggenbrot)
ロッゲンブロートは、最低でも90%のライ麦粉から製造されている。

◆ロッゲンミッシュブロート(Roggenmischbrot)
ロッゲンミッシュブロートは、51~89%のライ麦粉から製造されている。


左は、角型のコミスブロート(Kommissbrot)、重量は1kgと500g。
右は、ロッゲンミッシュブロート500g。

◆ヴァイツェンフォルコルンブロート(Weizenvollkornbrot)
ヴァイツェンフォルコルンブロートは、最低でも90%の小麦全粒製品から製造されている。

◆ロッゲンフォルコルンブロート(Roggenvollkornbrot)
ロッゲンフォルコルンブロートは、最低でも90%のライ麦全粒製品から製造されている。
添加される酸の量は、最低でも2/3サワー種(Sauerteig:ザウアータイク)に由来すること。

◆フォルコルンブロート(Vollkornbrot)
フォルコルンブロートは、ライ麦全粒製品と小麦全粒製品を任意の比率で合わせたものを、最低でも90%使用している。添加される酸の量は、最低でも2/3サワー種に由来すること。
ヴァイツェンロッゲンフォルコルンブロート(Weizenroggenvollkornbrot)は、50%以上の小麦全粒製品から、ロッゲンヴァイツェンフォルコルンブロート(Roggenweizenvollkornbrot)は、50%以上のライ麦全粒製品から製造されている。


左は、丸く成形して、プレートにのせて焼成したウァブロート(Urbrot)1kgと500g。
右は、角型に成形したフォルコルンブロート(Vollkornbrot)1kgと500g。

◆ハーファーフォルコルンブロート(Hafervollkornbrot)
ハーファーフォルコルンブロートは、最低でも20%のカラス麦全粒製品、合計で最低90%の全粒製品から製造されている。大麦(Gersten:ゲァステン)など、他の穀物の名称を用いたフォルコルンブロートにも該当する。

◆ヴァイツェンシュロートブロート(Weizenschrotbrot)
ヴァイツェンシュロートブロートは、最低でも90%の粗挽き小麦から製造されている。

◆ロッゲンシュロートブロート(Roggenschrotbrot)
ロッゲンシュロートブロートは、最低でも90%の粗挽きライ麦から製造されている。

◆シュロートブロート(Schrotbrot)
シュロートブロートは、粗挽きライ麦と粗挽き小麦を任意の比率で合わせたものを、最低でも90%使用している。
ヴァイツェンロッゲンシュロートブロート(Weizenroggenschrotbrot)は、50%以上の粗挽き小麦から、ロッゲンヴァイツェンシュロートブロート(Roggenweizenschrotbrot)は、50%以上の粗挽きライ麦から製造されている。

◆プンパーニッケル(Pumpernickel)
プンパーニッケルは、粗挽きライ麦とライ麦全粒の粗挽きを90%以上使用し、最低16時間の焼成時間を掛けて製造されている。また、添加される酸の量は、最低でも2/3サワー種に由来する。

◆トーストブロート(Toastbrot)
トーストブロート(Toastbrot)は、最低でも90%の小麦粉から製造されている。


包装されたブッタートーストブロート(Buttertoastbrot)250gと500g。

ヴァイツェンフォルコルントーストブロート(Weizenvollkorntoastbrot)は、最低でも90%の小麦全粒製品から製造されている。最低でも2/3はサワー種に由来する酸が添加される。
ヴァイツェンミッシュトーストブロート(Weizenmischtoastbrot)は、51~89%の小麦粉から、ロッゲンミッシュトーストブロート(Roggenmischtoastbrot)は、51~89%のライ麦粉から製造されている。
フォルコルントーストブロート(Vollkorntoastbrot)は、小麦全粒製品とライ麦全粒製品を任意の比率で合わせたものを、最低でも90%使用している。添加される酸の量は、最低でも2/3サワー種に由来すること。

◆クネッケブロート(Knäckebrot)
クネッケブロートは、トロッケンフラッハブロート(Trockenflachbrot)の一種で、粗挽き全粒、全粒粉または、ライ麦、小麦などの穀物粉を使用する。酵母やサワー種を使用して発酵させたり、物理的方法で空気を混ぜ込んだりして膨張させる。完成品の水分含有量は、最高でも10%である。


左は、ヒマワリ、亜麻、ゴマなど数種の種子を使用したクネッケブロート。
右は、カボチャの種とチーズを使用。

◆ディンケルブロート、トリティカーレブロート(Dinkelbrot, Triticalebrot)
ディンケルブロート、トリティカーレブロートは、最低90%のディンケル(スペルト小麦・古代穀物)、またはトリティカーレ(ライ小麦・ライ麦と小麦の交配種)製品から製造されている。

◆その他の穀物を用いた特殊なパン(Spezialbrote mit anderen Getreidearten)
小麦、ライ麦、ディンケル(スペルト小麦)などの製パン用穀物(Brotgetreide:ブロートゲトライデ)以外の穀物を使用したパン。名前の由来となる穀物は、最低でも20%含まれなければならない。
ハーファー(Hafer:カラスムギ)、ゲァステ(Gerste:大麦)、マイス(Mais:トウモロコシ)、ヒルゼ(Hirse:キビ)、ライス(Reis:ライス)またはブッフヴァイツェン(Buchweizen:ソバ)など。

◆メーァコルンブロート、ドライコルンブロート、フィーァコルンブロートなど
(Mehrkornbrot, Dreikornbrot, Vierkornbrot usw.)
メーァコルンブロートは、最低でも1種類の製パン用穀物と、もう1種類の別の穀物、合わせて3種類か、それ以上に相当する種類の穀物から製造される。それぞれの穀物を最低でも5%含まなければならない。この際、ヒマワリの種やゴマやなど、植物の種子類は、当然ながら「穀物数」には含まれない。

◆特別な材料を用いた特殊なパン(Spezialbrote mit besonderen Zutaten)
通常の製パン材料に、植物性または動物性の材料を添加したパンである。これらの材料をパンの名称に用いる場合には、必要最低量が定められている。

・植物の種子など、植物性の材料を用いたパン
ラインザーメン(Leinsamen:亜麻の種子)、ゾネンブルーメンケァン(Sonnenblumenkern:ヒマワリの種)、キュルビスケァン(Kürbiskern:カボチャの種)やゼーザム(Sesam:ゴマ)などの植物の種子、ヴァルヌス(Walnuss:クルミ)、ハーゼルヌス(Haselnuss:ヘーゼルナッツ)などのナッツ類をパンの名称に用いる場合には、100kgの穀物粉に対して8kg以上使用する。

左は、750gのラインザーメンブロート。表面についているのはハーファーフロッケン(Haferflocken)。
右は、500gのキュルビスケァンブロート。

ヴァイツェンカイム(Weizenkeim:小麦胚芽)やゾーヤ(Soja:大豆)、クライエ(Kleie:食用のフスマ)などの最低使用量は、100kgの穀物粉に対して10kgである。
同様に、ロジーネンブロートと呼ばれるパンには、ロジーネン(Rosinen:干しブドウ)またはズルターニーネン(Sultaninen:淡色で大粒の種なし干しブドウ)、コリンテン(Korinthen:種なしで小粒の干しブドウ)などが、15kg以上使用される。

・乳製品など、動物性の材料を用いたパン
ミルヒブロートには、100kgの粉に対して、50リットル以上のミルヒ(Milch:牛乳)が使用される。
また、ヨーグルト(Joghurt:ヨーグルト)やザウアーミルヒ(Sauermilch:酸味のある発酵乳)、バターを作る際にできる副産物で、軽い酸味がある発酵乳飲料のブッターミルヒ(Buttermilch)を使用する場合には、100kgの粉に対して、15リットル以上と決められている。
ブッターブロートには、100kgの粉に対して、5kg以上のブッター(Butter:バター)が使用される。この場合、バター以外の油脂の使用は認められていない。
クヴァーク(Quark)は、凝乳のままで熟成させないフレッシュチーズである。100kgの穀物粉に対しての使用量は、10kg以上と決められている。

<コラムの担当者>
Kimiko Kochs

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