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食のコラム&レシピ

【日本料理一年生】 53時間目 きつねうどん

04<日本>日本料理一年生

2015.03.06

<【日本料理一年生】ってどんなコラム?>

●きつねうどん●

 「大阪産(おおさかもん)グルメ」最終回は、大阪が生んだ麺類界のビッグパパ「けつねうろん」です。変な発音ですが、私が幼少の頃は、周りのおっちゃんたちが普通にしゃべっていました。今でも私より年長で、特に大和川より南の山寄りの大阪府民は「ざ」行、「だ」行が「ら」行に変換され、「か」や「き」が、「け」に変換されるという現象が普通に起こります。たとえば「そこのかど(角)のうどんや(屋)で、きつねうどんをた(食)べていきませんか?」は、「そこのかろのうろんやで、けつねうろん、くうていけへんけ?」となるのてす。

 きつねうどんは、明治時代に大阪・船場の「松葉家」の主人が、稲荷寿司に使う甘辛く煮た揚げを、サービスとして別皿で出したことに始まるとか。主人はかつて寿司屋で働いていたために思いつきました。あるお客がうどんの上に揚げをのせて食べておいしいといい、それを見た他のお客も次々と揚げをうどんにのせて食べたのです。


 油揚げときつねについては【日本料理一年生】 41時間目 稲荷寿司をご覧ください。さて、大阪では、「きつねうどん」のうどんをそばに変えると、うどんが化けて黒いそばになったと捉え、「たぬき」といいます。「きつねうどん」も「きつね」で通じます。基本的に大阪には「きつねそば」、「たぬきうどん」と呼ぶ麺類は存在しません。


●大阪きつね......甘く煮た油揚げがのったうどん、「きつねそば」は存在しない。


●大阪たぬき......甘く煮た油揚げがのったそば。「たぬきうどん」は存在しない。

 ところが、東京に行って「たぬき」と注文すると、「そばですか、うどんですか」と返されます。東京には、「たぬきうどん」や「たぬきそば」があるのです。大阪では、「ご自由にどうぞ」とおいてある揚げ玉(天かす)がのっているのが、東京の「たぬき」です。

 「たぬき」が生まれたのは、江戸時代後半の江戸の町だとか。東京のたぬきは、最初はいかの掻き揚げを、そばやうどんにのせていたようです。江戸の町ではごま油で天麩羅を揚げていたため、黒っぽく揚がるので「たぬき」と名づけられたという説があります。文明開化以降は、揚げ玉をのせるようになりました。
 

 ほかには、こんな説も。一般に「天麩羅そば」といえば、海老の天麩羅がのっています。海老の天麩羅の主材料は海老ですが、これを天種(てんだね)や種(たね)といいます。海老の天麩羅から海老を除くと、衣だけになってしまいますね。つまり揚げ玉のようなもの。天麩羅から種を抜く「種抜き(たねぬき)」が「たぬき」になったというのです。



 ただ、そば屋で「ぬき」といえば、そばを抜くことが常です。たとえば「天ざるのぬき」は、酒の肴として天麩羅をそばだしで食べることなので、個人的には、前者の説の方が信憑性があるような気がします。 もちろん、東京の「きつね」にも、うどんとそばがあり、ともに甘辛く煮た油揚げがのっています。

 さらにややこしいのが、京都の麺類の「きつね」と「たぬき」です。きつねは、刻んだ油揚げと笹打ちにした(斜めに切った)九条葱をのせたうどんのこと。たぬきは、のっているものは同じですが、かけだしにとろみがついたうどんのことです。京都の場合、きつねもたぬきも、うどんが細麺になることがあります。そして、京都で、甘辛い油揚げをのせたものは「甘きつね」、「甘たぬき」と呼んでいます。


●京都きつね......短冊切りした油揚げと九条葱がのっている。細いうどんを使うことも。


●京都たぬき......短冊切りした油揚げと九条葱がのっている。細いうどんを使うことも。かけだしに、とろみがついている。

 ちなみに関西では、揚げ玉入りのうどんやそばを「はいからうどん」や「はいからそば」といいます。この「はいから」とは、「ハイ・カラー」つまり襟の高い洋服服のこと。明治の文明開化の頃、貴族たちがこぞって、学生服の詰襟のような洋服を着ていたため、「新しい」という意味で、「はいから」といったようです。


●はいからうどん......揚げ玉入りのうどん。関西では「はいからうどん」だが、東京では「たぬきうどん」という。

 私が幼少の頃は、風邪をひくと、いつも母から、斜め向かいのうどん屋できつねうどんを食べ、「うどんや風一夜薬」を飲んでくるようにいわれました。当時は、普通のうどん屋が風邪薬をおいていて、消化の良いうどんを食べて身体を温めてから、粉末の風邪薬を飲んでいました。この薬は、生姜をベースにした解熱剤を配合した漢方薬で、壺井栄の『二十四の瞳』の中にも登場しています。大阪を中心に広まった薬ですが、関東では、そば屋が多いことから「そばや風一夜薬」とパッケージを変えて売っていたようです。今でもこの薬、漢方薬局で見かけることがあります。これも大阪産(おおさかもん)の一つといえるでしょう。

 うどんやそばの関西と関東の違いでは、かけだしの色の違いがよく話題となります。関西は薄口醤油を、関東では濃口醤油を使うからなのですが、詳しくは、またの機会に......。


担当者情報

このコラムの担当者

タイ語の話せる日本料理のおとうちゃん
小谷良孝

辻調の御言持(みことも)ち
重松麻希

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