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【それゆけ!じゃぱに~ずクッキング♪】 鱚の昆布じめ

05<日本>それゆけ!じゃぱに~ずクッキング♪

2017.06.21

<【それゆけ!じゃぱに~ずクッキング♪】ってどんなコラム?>


今回紹介する思い出の料理は、「鱚(きす)の昆布じめ」です。
普段の食卓にはなかなか出てこないですよね。僕の家の晩ご飯というわけでもありません。
この料理は、僕が辻調を卒業して初めて就職した先で、毎日毎日作り続けた料理の一つなのです。

鱚昆布じめ
●鱚昆布じめ●

僕は辻調を卒業したあと、「吉兆」で働くことになりましたが、配属されたのは大阪のリーガロイヤルホテル店でした。辻調からの同期入社もいましたが、配属先は全員別々に。本当の意味での、新しい環境でのトライでした。

就職した当時はバブル絶頂期で、日本全体がお金をたくさん使っていた時代です。連日、企業パーティーが催され、派手で大盤振る舞いなお客さんであふれていました。

特に凄まじかったのは、結納と結婚式の数です。収容数が大きく、格式の高いホテルが関西に少なかったのもありますが、吉日に限らずいつも予約で満杯でした。結婚式の客が1組100人とすると、10組あれば1000食の料理を用意するわけです。もちろん結婚式の料理だけではなく、吉兆の店もあります。店は席数がおよそ100あり、17時以降でも3回転するほど繁盛していました。

鯛アイコン

結納や結婚式といった祝い事では、献立に「鱚」を使った料理がよく作られます。鱚は、魚へんに「喜」の字が入っていること、また色が白く、見た目も上品なので、鯛や車海老と並んで吉事に欠かせない魚として扱われています。

吉兆では、一日400尾の鱚をさばいていました。造りにするなら普通は皮を引きますが、とにかく現場には時間がありません。そこで、鱚を"すのこ"にズラッと並べ、皮に湯をかけて、皮ごと食べられるようにしていました。それを昆布じめにして、最後に細く切って、積み重ねるようにして盛り付けます。この、皮を引かない鱚の昆布じめは、多忙さからくる現場の合理性が、形となって料理に反映された一例と言えます。僕にとっても、この頃の目が回るような忙しさを象徴する料理として、今でもとても印象に残っています。

実は、僕は今でこそ、人と話をするのが大好きですが、当時は、できるだけ人と話さなくてもいい職場はないかと考えて、就職先に料亭を選んだのです。実際リーガロイヤルの吉兆でも、厨房で黙々と料理を作る日々を過ごしていました。ただ、ときどきお客さんの反応を直に感じられることがありました。結納や結婚式場のバックヤードで、提供するタイミングに合わせて、料理を盛り付けていく仕事を任されたときです。どんどんと運ばれていく料理を背に、会場から漏れ聞こえてくる両家の幸せそうな笑い声を耳にすると、どんなに忙しくても努力が報われるような気がしました。

鱚昆布じめは、作り方自体はとても簡単な料理です。今回はいちから煎り酒作って、それを上からかける仕上がりにしましたが、例えば梅肉をレモン汁で溶いて、それに鱚昆布じめをちょっとつけるだけでも充分おいしいです。ぜひ上品な鱚のうまみを味わってみてください。

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このコラムの担当者

料理で笑顔の花を咲かせたい 西垣富雄

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