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食のコラム&レシピ

【それゆけ!じゃぱに~ずクッキング♪】さざえつぼ焼き

05<日本>それゆけ!じゃぱに~ずクッキング♪

2016.09.07

<【それゆけ!じゃぱに~ずクッキング♪】ってどんなコラム?>



前回に引き続き、思い出の味をご紹介しましょう。


さざえつぼ焼き
●さざえつぼ焼き●


幼い頃、父親に連れられていく場所といえば、地元、丹後の海でした。
魚介類が多く潜む岩場のスポットを熟知していた父。「箱めがね」を歯形が残るほど噛んで固定し、海中を覗き見ます。物干し竿くらいの長さがある自作の竹ヤスを手に、海面から岩陰の獲物を狙うのです。その姿は幼い僕にとってのあこがれでした。

一方の僕は、父をまねようにも簡単にはいかず、もっぱらシュノーケリングで海遊び。その横で、父は正確に魚を捕らえ、あぶらめ、はぜ、こち、かわはぎ、きす、さざえ、あわびといった魚介類を、次から次へと魚籠に入れていきます。
籠がいっぱいになったら、僕に、海から上がって火をおこすように言い、魚籠と僕の水中めがねを交換して、今度は海に潜っていくのです。

僕は浜辺の流木を素早くかき集めて、新聞紙で火をつけます。流木は湿り気を帯びていて、なかなか火がつけられず、新聞紙を無駄にしてばかりなので、初めの頃は、見かねて父が手伝ってくれました。

焚き火で体を温めながら海を見つめ、「お父さんは、あの辺りかな」と見当をつけていると、父が海面に姿を現します。その筋肉質な太い腕には、たこが巻き付いていて......仕上げの獲物です。

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父は冷えた体を火で温めると、獲った魚を手早く踊り串の要領で竹串に刺していきます。焚き火を囲むように、串を砂浜に刺し、魚の大きさに合わせて、火との距離を近づけたり遠ざけたり調節しながら、香ばしく焼いていきます。さざえは網にのせて焼き、たこは流木をまな板にして刺身包丁でぶつ切りにし、甘めの濃口醤油をかけておろし生姜で食べます。何もない浜辺が、ちょっとしたオープンキッチンに。
焼き上がると、熱々の串を手に取って父が僕に渡してくれました。
これが、僕にとっての父との思い出の味です。

日本料理の授業で学生に「塩焼きは強火の遠火がおいしく焼ける」と教えますが、父が見せてくれていたのは、まさに、その焼き方の実践だったと思います。

さざえは醤油をかけて焼くだけでもおいしいですが、醤油の香ばしさは肝の苦さを際立たせもします。本当のところ、子どものころの僕は肝が苦手で、こっそりと殻の中に残していました。
今回紹介する「さざえつぼ焼き」は、だし汁を使うことで味を柔らげ、誰でも食べやすいように仕上げています。
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担当者情報

このコラムの担当者

料理で笑顔の花を咲かせたい 西垣富雄

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さざえつぼ焼き

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