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連載コラム 和のおいしいことば玉手箱
日本には、昔から言い伝えられてきた「おばあちゃんの知恵袋」のような、食に関する言葉がたくさんあります。これらの言葉は、科学的にもきちんとした根拠があり、道理にかなっているということがほとんどです。ここでは、これらの食に関すること わざや格言などからおいしさを再発見してみます。
鬼も十八、番茶も出花
鬼も十八、番茶も出花 鬼も十八、番茶も出花
解説

「鬼も十八、番茶も出花」
醜い鬼も年頃になればそれなりに美しく見え、粗末な番茶も湯をついで出したばかりは香りがよい、という意味から、醜い者も、年頃にはそれ相応に美しく見えることのたとえ。単に「鬼も十八」とも言い、年頃になれば人の世の情けを解するようになるものだという意味もある。現在は女性にいうが、古くは男女どちらにも使われた。他に、「鬼も十七、茨(いばら)も花」(「茨も花」は、とげのある茨も時期がきて花をつければ美しいの意)や「鬼も十七、山茶(やまちゃ)も煮端(にばな)」(「山茶」は山に自生する粗末な茶で番茶として煮出して飲んだりする。「煮端」は「出花」と同意で出したての意味)という言い方もある。どれも、見方を変えれば、タイミングや時期が大切であると考えることも出来そうである。
 我が校も今年で創立46年になる。今年も、卒業して十年以上経ち、現在は料理店のオーナーや料理長となった卒業生たちが、在校生のために授業をしに来てくれたのだが、彼らは口をそろえて「先生は、今は性格も体も丸くなられたが、昔は『鬼の小谷』と呼ばれて生徒から恐れられていましたね。」と言う。思い起こせば三十代の頃は、先陣を切って生徒指導に全力をつくしていた。しかし、あんなに頑張っていながら鬼と呼ばれるとは、いささか不本意な話ではある。
 私が呼ばれた「鬼」は「鬼のような性格や外見」と言ったところだろうが、日本料理の料理名や調理器具、素材にも「鬼」と名がつくものがある。伊勢海老の鬼殻焼き、魚の鬼おこぜなどだ。こちらのほうは概して、見た目にごつごつしていたり大きな突起があったりするところから、「鬼」とつけられたのではないだろうか(詳しくは後述の豆知識を参照されたい)。

 さて、一方のお茶だが、これは日本料理とは切り離せないものである。特にすし店ではお茶にこだわっている店が多い。急須に入れた茶葉に湯をかけて上澄みを飲む煎茶・玉露などの淹茶(えんちゃ)のための茶ができたのは、江戸時代中期のことだが、この頃に時を同じくして「早すし」系のすしが誕生し、双方ともが庶民に普及していったという歴史もある。
 現在飲まれている茶には、大まかに玉露、煎茶、抹茶、番茶がある。煎茶は、さらに荒茶、仕上げ茶、芽茶、茎茶、粉茶などに区分けされている。(表1参照

 お茶は普通は食事の後に楽しむものだが、すしの場合は食べている時にお茶を必要とする。すしとお茶は相性が良く、お茶を飲むことは、すしを美味しく食べることにもつながる。すしを食べると口の中に魚の臭みや脂っこさが残るが、お茶はそれを洗い流し、次のタネをまた新たに味わうことのできる状態に口中を整えてくれる。一種の口直しの役目を果たしている。だから、すし屋では、最初から熱いたっぷりのお茶を供するのが慣習となっている。

 さて、おおかたのすし屋では粉茶(表1参照)を用いている。味にうるさい店では粉茶を独自にブレンドしていたりする。なぜすし屋では粉茶が使われるようになったというと、一般的な煎茶の半額ですむという経済性、入れ方が簡単で、上手、下手を問われない(コクのないあっさりとしたお茶だから、濃く入れすぎても渋味、苦味をあまり感じない)ことが挙げられる。

  しかし、ただ粉茶が最適とは決めつけずに、色々再考すべきところはある。
  粉茶を入れるには、一般には、茶こしにティースプーンに2〜3杯の粉茶を入れ、湯飲みで受け、上から熱湯を注ぐ方法をとられているが、お茶を美味しく入れる観点に立つと問題がある。理由は、

(1)お茶の旨味が充分でない。

お茶は湯に浸して初めて蒸れ、徐々に湯になじんで潤い、茶葉に含まれる旨味の成分が浸出してくるので、上から湯をかけただけでは粉茶といえども旨味が充分に出ない。

(2)お客に芳醇な香りが届かない。

茶は香りも楽しむものであり、香りが届かないと味が半減してしまう。お茶は熱湯をかけているときと、かけ終わった瞬間に一番香気が立つ。茶こしでお茶を入れると、入れる人は香気を満喫できるが、客に運ばれる頃には香りは散じて、ただの色つきの湯と化する。
解決策としては、急須と言うふたつき茶器で入れる。これならお茶の旨味も充分浸出でき、急須の中に香りを閉じ込められ、すぐに客に運べば香りの良いお茶を味わってもらえる。

(3)お茶の濃さがまちまちになってしまう。

粉茶の場合は、二煎を限度とするが、一煎目は濃くて美味しくても、二煎目は香り、味が希薄になってしまう。
解決策としては、急須を2つ用意し、1つに粉茶を人数分(1人当たりテーブルスプーン1杯強。強というのは旨味を出すためで、1人分の時は2杯)入れ、熱湯を注いでそのまま少しおく。湯の中に舞い散った粉茶が落ち着いた頃を見計らい、もう1つの空の急須に注ぎ替える。この時必ず茶こしで受けること。客が多いときは、これに二煎目を足していく。こうすれば茶の湯の濃さが平均化され、公平に美味しいお茶が味わえる。もちろん旨味も充分出るし、香りもお客に楽しんでいただける。

 
 さらに、お茶を入れるには水にも配慮が必要である。美味しいお茶を入れるには浄水器を通した水を使いたい。塩素(カルキ)臭の強い水道水ではいくら上等な茶葉を使っても美味しいお茶は入れられない。塩素はお茶に含まれる豊富なビタミンC(レモンの4倍)を破壊してしまう。浄水器のない場合は、必ず3〜4分間煮沸させたものを使うようにする。こうすればとりあえず塩素臭は取り除くことができる。しかし、ガス湯沸かし器では湯が沸騰点に達しないため、塩素臭が残る。
 絶対にしてはならないのは、魔法瓶に入れおきしたお茶を出すことである。色が悪くなるだけでなく、お茶が発酵して飲めたものではない。いくら忙しくても、お茶はそのつど入れるものである。

 すし店はたくさんあるが、すしとお茶のハーモニーを考えて、お茶の入れ方と茶葉の吟味をしている店は少ないと見受けられる。その店でしか飲めないお茶、そんな工夫があればお客を呼び寄せる一つの手段となるだろう。前記のように急須を2つ使ってお茶を入れる方法は、戦場のような職場では悠長にやっていられないと思うが、誰もやらない方法にチャレンジするところに意味がある。少しでも美味しいと言われる方法があれば、多少手間がかかってもこだわりを持ってやってほしい。

 一般にすし屋のお茶はくせのないものがよいとされている。その観点からみれば、甘味のある上等な玉露などよりは、渋味のある煎茶や香りの良いほうじ茶、番茶のほうが合うといえる。また、すしを食べるときのお茶は熱いほうが良いことは確かで、ぬるいと口中がさっぱりせず、生臭みが残る。その意味でも玉露は不向きであるが、玉露も時として熱湯で出すこともあるので、一概にそうとも決めつけられない。おいしい上等なお茶を入れるに越したことはないが、その場合でもあっさり入れることである。従来お茶に関して言われてきたことにとらわれず、自分の舌で試してみて、自分の店に合うお茶を見つけて、美味しい入れ方を工夫するのが一番良い。

 たとえば、ワインを肉料理、魚料理で赤、白と使い分けるように、すしでもタネによってお茶を使い分けてはどうだろうか。
  白身・貝類 → あまり濃いお茶でなく、さっと入れた小碗の高級緑茶
  赤身・背の青い魚 → 濃いめのお茶
  煮物、焼物 → 薄目に出した焙じ茶
 もっとも、すしはあれこれ種類を食べるので、そのつどお茶を入れ替えるのはお客にとってもせわしなく、非現実的である。だが、おなじみさんに一定の好みがある場合は、こうした考慮があっても良いと思う。

 また、すしを美味しく食べてもらうには、熱いお茶が不可欠である。そのために大きく厚手の湯飲みを使うのは理解できるが、もう少し配慮があってもよいのではないか。あの湯飲みの大きさは、すしを食べてほしいのかお茶でお腹をふくらましてほしいのかどっちなんだといいたくなる。たっぷり注がれたお茶は時間がたつにつれ、色が次第に劣化して茶色くなり、香りも鮮度も消えて美味しさも半減してしまう。もう少し小ぶりのものに替え、途中で差し替えたほうが親切である。また、湯飲みの内側の色についても配慮したい。器の内側が白いほうが、お茶の褐色が見えて美味しく味わうことができる。

 すし屋に限らずどこの料理店でも、最初に出されるお茶の質と香味で、その料理店の質や店格が想像できるものである。すし屋で最初に出されるお茶を「出花」、終わりに出すお茶を「上がり」と言うが、これらへの配慮はもっとなされて良いと思う。夏の暑いときの「出花」には、蒸しの深い緑色で清涼感のある煎茶か玉露をティー・オン・ザ・ロックにしてグラスで一煎出したりすれば喜ばれる。冷茶は食欲をそそることにもつながる。最後の「上がり」は口中の生臭みを消す意味で、濃い焙じ茶か玄米茶、あるいは客の好みで上質のウーロン茶などを出せば店の株も上がることになる。

 昨年、タイ人料理人の巡回指導でミャンマーに行ったとき、大使公邸で美味しいほうじ茶をご馳走になった。大使夫人にお伺いすると、「現地産の緑茶を公邸で焙じてほうじ茶に加工して、お出ししている」とのことである。そこで、このほうじ茶を利用して作った「ほうじ茶アイスクリーム」を設宴のデザートとしてお出ししたところ、大使夫人から「現地の方々にも大好評で、是非、料理人に指導してください。」とお褒めいただいた。なんでもないことながら、他のどこでもやっていない「こだわり」、さりげない工夫と発想、そんなことがお客を顧客にする最後の武器になることを忘れないでほしい。
 仕事に疲れた時や、精神的に疲れた時には、一服の熱いお茶をいただくことで、心身ともにリラックスできる。昨今はさまざまな嗜好飲料が手に入るが、我々日本人にとっては、お茶こそ疲れたときの特効薬ともいえるのではないであろうか。

【豆知識】

鬼のつく料理名

・鬼殻焼き・・・伊勢海老、車海老などを殻つきのまま照焼きにした料理。その姿と焼き上げた色からいう。
・鬼そぼろ・・・「そぼろ」とは魚、海老、鶏肉などを細かくたたき切りして、炒りあげたもので、粗めにたたき切りして、炒りあげたものを「鬼そぼろ」という。「そぼろ」の「そ」は「粗・そ」(粗め)という意味。ごく細かくたたき切りしたものは「おぼろ」と呼ぶ。

鬼のつく調理器具

・鬼おろし・・・おろし器の一種で、竹製の目の粗いおろし器。おろすと言うより削る感じに仕上がる。素材の繊維をきらずにおろすことが出来るので繊維質たっぷりの粗めのおろしができる。
・鬼すだれ・・・巻きすの一種で、竹を三角形に削って、厚焼き卵などに波紋の模様をつけるもの。
・鬼お玉・・・先割れスプーンのお玉版ともいうもので、昔は荒物屋や金物屋の定番で、たいていの家庭の台所でよく見かけたお玉。うどんなどを一度に大鍋で煮た後、うどんを器によそう時に、うどんをお玉のとげの部分で引っ掛けて入れ、汁もお玉の反対側の水分をすくう部分で、器に入れることができるという優れもの。

鬼のつく素材

・鬼おこぜ・・・カサゴ科の海魚。体長約20センチメートル。奇妙な形で鬼を思わせるところからの名称。口の先は上方を向く。背びれにあるとげは堅く、毒腺があるので刺されると激痛をおぼえる。
・鬼くるみ・・・くるみの一種。果実は径約3センチメートルの球形で密に毛におおわれ、殻には深いしわがあり非常に堅い。材は家具・器具材とされる。

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<表1 茶の種類>

玉露 緑茶の高級品。茶の新芽が二葉くらい出た頃に茶畑全体をおおい、20日ほど日光を遮って柔らかく育てた葉を摘んでもみ、製茶したもの。独特の鮮緑色と優れた香りが有る。玉露の旨味は60℃前後の湯でいちばん生きるのでこの温度を守る。夏には冷茶にしても美味で、一度沸騰させた湯冷まし水を用いる。
煎茶




荒茶
仕上げ茶
芽茶

茎茶
粉茶
日常用いられる緑茶。玉露と違って、茶畑をおおわないで育て、製茶したもの。つみ取り時期で一番茶(八十八夜前後)、二番茶(一番茶から45日後)、三番茶(さらに40〜45日後)ニ区別される。産地、何番茶、摘み方(手摘み・機械摘み)、選別によって様々な品質、格付けがある。
農家が作った原料茶。俗に山出し茶ともいう
Aランク:一般に手に入る煎茶
Bランク:茶の若い芽があまりに細かすぎて、丸く仁丹状になったもの、関西では真粉(じんこ)と言う
Cランク:葉茎・白い茎だけからなる茶
Dランク:製造過程で出るお茶の粉を集めたもの。産地や質を選び芽茶をブレンドしたりするとこくが加わり、仕上げ茶とは違った美味しいお茶が味わえる)にわける。上質なものほど甘味があり、逆に安いものほどタンニンによる渋みが強い傾向にある。入れるときの適温は90℃。煮立ったお湯をちょっとひと休みさせるとこの温度になる。煎茶の場合、だいたい二、三煎まで入れることができる。
抹茶 玉露同様、日光を遮断して柔らかく育てた茶葉を摘んで蒸し、もまずに乾燥し、細かく砕いて石臼で粉末にしたもの。
番茶 本来は晩茶と書き、遅く摘んだ茶という意味。一番茶を摘んだ残り芽が大きくなった固い葉から作る。葉を蒸して軽くもんだのち、強火で充分乾燥して製茶するため茶褐色を帯びている。この番茶を焙じたものがほうじ茶である。玉露や煎茶と違って、いれるときには熱湯を用いる。

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人物 小谷 良孝
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