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連載コラム 和のおいしいことば玉手箱
日本には、昔から言い伝えられてきた「おばあちゃんの知恵袋」のような、食に関する言葉がたくさんあります。これらの言葉は、科学的にもきちんとした根拠があり、道理にかなっているということがほとんどです。ここでは、これらの食に関すること わざや格言などからおいしさを再発見してみます。
山葵(わさび)と浄瑠璃は泣いてほめる
山葵(わさび)と浄瑠璃は泣いてほめる 山葵(わさび)と浄瑠璃は泣いてほめる
解説

「山葵(わさび)と浄瑠璃は泣いてほめる」
ワサビのよいものは辛く涙が出る。浄瑠璃にも人情の機微を扱ったものが多く、泣かされることが多いのでこのようにいう。(『暮らしのことわざ辞典』創元社)
 3年前の2002年に、リュック・ベッソンが製作し、ジャン・レノと広末涼子が共演した『WASABI』という映画が日本で公開され、評判になった。映画の中で、ジャン・レノがかなりの量のわさびを頬張った小粋な演出が印象に残る作品であった。この映画がパリっ子に評判になり、「ジャン・レノの食べたあれは何だ?」、「寿司に使われている日本の香辛料だ。」ということで、パリでは「寿司バー」に大勢の人が押し寄せたそうだ。当時色々な事業所から「パリに寿司をにぎりに行ってくれる卒業生はいませんか?」といった求人の連絡をいただいた事が思い出される。

 ジャン・レノはモロッコ出身のスペイン系フランス人である。私は昨年たまたま、在モロッコ日本大使公邸に出張することがあり、首都ラバトの市場を一通り見て回ったが、残念ながらわさびは出回っていなかった。しかし、その当時ラバトにはフランス資本の回転寿司の店ができており、結構値段が高く設定されているにもかかわらず、モロッコの若者たちで賑わっていた。モロッコ人はどこで習ったのか、器用に寿司を握ったり巻いたりしていた。わさびは、フランスから輸入した日本産の粉わさびを練って使っている。この寿司をモロッコの若者たちが美味しそうに頬張っていたのである。

 また、以前バンコックの日本大使公邸に出向していた時の話だか、着任当初にタイ人のお客様の設宴でお造りをお出ししたところ、「わさびが足りない。」というクレームがきた。あわてて追加のわさびを小皿でお出ししたが、「まだ足りない。」と追加の要求である。タイ人は唐辛子を大量に使うタイ料理に慣れているためか、辛味に強い。しかし、唐辛子や山椒などの辛味は、火のような熱さと痛さが複合された持続的な辛味で、一方のわさびやなどの辛味はツーンと鼻に抜ける辛味なので、この2つは別の辛味だと思うのだが、タイ人はまるでからし酢味噌のようにわさびを醤油にドロドロに溶き、それに造り身をつけて食べている。 その辛味がツーンと鼻に抜けるのが快感のようで、頭を手で押さえながら「サバイ(気持ちいい)!」と言っている。それ以後、タイ人のお客様には、小皿にわさびをたっぷり盛って別に添えるようにしている。

 わさびは、谷あいで冷たい清流が流れる場所で栽培される。日本では北海道から九州までの各地で栽培されており、主な産地は静岡県(特に伊豆天城地方)や長野県である。右の写真は三重県の名張の山中に自生しているわさびであるが、丁度菜の花のような白い花が咲いている。ところがこの可憐な白い花も、葉も、茎も、全て辛いのである。これらの部分は、葉わさび、花わさびとして料理に使われる。今回はこの葉と茎を使って料理した。この自生のわさびを掘り起こしたところ、小さな根がついているだけで、市販の物と比べるとかなり小さい。 これについて、先日、テレビで次のような話をしていた。普通多くの植物は、根から土中の栄養分や水を集める菌を持っているが、わさびにはこの菌が無く、周りに他の植物が生えていると栄養分を取られてしまう。そこで、わさびは周りに他の植物が生えないようにアリルイソチオシアネートという物質を土中に放出し、他の植物が生えないようなバリヤを張る。ところが、このアリルイソチオシアネートのために、わさび自体も大きくなれない(これを自家中毒という)。そこで、わさびを栽培するわさび田は清流が流れるようにしてアリルイソチオシアネートを洗い流し、さらにわさび田を階段状にすることにより、水が落ちる時に空気を含ませ、わさびが生育するのに必要な酸素を充分に与えるようにしている。 こうして大きなわさびを栽培する事が出来る、ということだった。自生するわさびの根茎が小さいのは、わさびが自家中毒を起こしているからということらしい。なかなか面白い話である。

 わさびは、葉の付いていた上端から使う。上の方が香りが強いので、新鮮なうちに使いたいからである。また、上端の方が辛味も強い。わさびの辛味の元になる成分はシニグリンという物質だが、これには辛味はない。わさびの細胞が壊れ、中に含まれる酵素の働きでこの物質が分解されて初めて、アリルイソチオシアネートという辛味の成分が生成される。つまり、わさびは卸して初めて辛味が出てくるのだ。シニグリンの含有量は、わさびの中央、上端(葉付きのほう)、下端の順に多いので、辛みを出すためにも、上から卸していった方がよいことになる。
 わさびは、繊維を出来るだけ壊して粘りを出すほど辛味が出る。だから、粗い目の卸し金より細かい目の卸し金を使うほうがよく、それも古い卸し金で刃が鋭く尖っていないものがよい。目が細かく、鋭くない卸し金でゆっくり卸すと、組織がつぶれ、細胞が破れて酵素の作用が進み、辛味が出やすくなる。プロの料理人は、より細かく卸すために、鮫の皮を板に貼り付けた「鮫皮卸し」を使う。

 わさびの香りや辛味が少ない時は、卸したわさびをまな板において包丁の峰でたたくと、繊維が細かくなって香りと辛味が増す。さらにこの時に、砂糖を少量加えてたたくと、酵素の働きがいっそう盛んになり、同時に組織から引き出された香りも高まる。

 こういうわけなので、わさびはせん切りにしてもあまり辛くない。私がよく食事に出かけるお寿司屋さんに「わさび巻き」という裏メニューがある。これは、焼き海苔に寿司飯を細巻きのように敷き、わさびのせん切りを芯にして巻いたもので、口の中にわさびの香りと辛味がじんわり広がり、日本酒によく合う巻物である。また、卸したわさびに少量の醤油をたらし、熱いご飯にのせて、パリッと焼いた上質の焼き海苔で包んで食べるのもおすすめである。これらは、お土産などで生のわさびが手に入った時に是非お試しいただきたい。

※浄瑠璃(ジョウルリ)
江戸時代に流行した三味線伴奏による語り物。室町末期に、無伴奏や琵琶に合わせて牛若丸と浄瑠璃姫との恋物語を語る『浄瑠璃姫物語(十二段草子)』が流行し、この種の語り物を浄瑠璃と呼ぶようになった。のちに三味線を用いるようになり、江戸初期には人形あやつりと結びついて人形浄瑠璃として発展した。


このコラムのレシピ

コラム担当

レシピ 葉わさびのしょうゆ漬け

タイ語の話せる日本料理のおとうちゃん
人物 小谷 良孝
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