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連載コラム 今日は何飲む?
いろんな出会いがあります。意外な出会い、運命的な出会い。出会いからは何かが生まれます。このコラムはそんな“出会い”の話です。出会いを求めている主人公はワインや日本酒などのアルコール飲料。相手は料理、時としてフレンチ、イタリアンあるいは日本料理かも知れません。どんな巧妙な出会いが料理人の手で演出されるか。ぜひ楽しみにしてください。
オルフェ(前編)
左からキートリッヒャー・ザントグループ・シュペートレーゼ (白・独)、ラ・プティット・キュヴェ・カイユティーヌ(赤・仏)、トリンバック・ゲヴュルツトラミネール(白・仏)今回の出会いの場に選ばれたのは、神戸の中で最もお洒落な地域となった旧居留地にあるレストラン『オルフェ』。常に時代の空気を読み、話題店をオープンさせてきたポトマックグループによる初めてのフランス料理店です。都会的なカジュアルファッション・ショップが1F、2Fを占めるビルの6Fにあります。エレヴェーターを出るとそこはすでにレストランのエントランス。黒を基調にしたシックなインテリアが、大きな窓の外に広がる神戸の夜景にきれいにマッチしています。下手をすれば少し重くなるかも知れない雰囲気を、出迎えてくれたサーヴィス・スタッフの笑顔が見事に和らげてくれます。


主人公

1本のドイツワイン

白:キートリッヒャー・ザントグループ・シュペートレーゼ 1983 (ローベルト・ヴァイル)
強いフレーバーを持つ、素晴らしいワインとして名高い。ローベルト・ヴァイルは最上位の葡萄園を有する栽培業者として高い評価を受けている。

2本のフランスワイン

赤:ラ・プティット・キュヴェ・カイユティーヌ(ポール・ルイ・ウジェーヌ)
いわゆるビオ(有機)ワイン。フランス南西部ラングドック地方の親子3代にわたる小さなワイン製造業者がつくる。生産量が非常に少なく(年間約4000本)、なかなかお目にかかれない。

白:トリンバック・ゲヴュルツトラミネール 1985 (トリンバック)
フランスのアルザス産ワイン。トリンバックはアルザスの卓越した栽培業者兼酒商。ゲヴュルツトラミネールはぶどうの品種。ライチの香りが特徴のとてもフルーティーなワイン。1983年ものは非常に良質と評価が高い。

出会いを演出する人

フランス料理店『オルフェ』(神戸・旧居留地)

シェフ 中塚 寛治(調理23期生 / フランス校調理4期生)
ソムリエ 三木 丸(調理28期生)
右:シェフ  中塚 寛治 左:ソムリエ  三木 丸シェフの中塚氏は、フランス校卒業後、『ホテルオークラ神戸』に就職、その後、『タニズミプランニング』に移るが、阪神淡路大震災で被災。この頃に小学校の同級生の金指氏に出会います。彼の経営する会社ポトマックへ入社し、以後、『トゥース・トゥース』を初めとするさまざまな業態の店舗を展開。そしてポトマックの総料理長となり、この『オルフェ』オープンに伴い当店のシェフとなりました。ポトマックの総料理長も引き続き兼務する、多忙な毎日を送っています。
中塚氏が『ホテルオークラ神戸』の厨房にいる頃、新人として入職してきたのが、辻調理師専門学校を出た三木氏。三木氏は2年後、当時神戸の北野にあった有名なフランス料理店『ジャン・ムーラン』に移り、ここでサーヴィスとソムリエの仕事に目覚めます。『ジャン・ムーラン』が多くの人に惜しまれて閉店した後、『オルフェ』の準備期間からスタッフとなり、かつての先輩である中塚氏とともにコンビを組むことになったのです。

出会った料理

“桃と明石産真鯛のタルタル仕立て、シャンパンビネガー風味”
“仔羊のスペアリブ、フレッシュチーズ添え”
“鮑とあんず茸、肝のソース”


「今日は何飲む」野次馬隊
Y:本業は某広告制作会社のコピーライター。日本ペンクラブ協会会員。ワイン関係の著作も多く、クラッシック音楽への造詣も深い。著作に『今日からちょっとワイン通』『武満徹対談集』。
M:才能豊かな女性。辻調グループ校のスタッフのひとり。いろいろな仕掛けを企む人。食べることと飲むこととヴィオラを演奏することをこよなく愛する。とりわけ飲むことは・・・
S:男性。このコラムの担当者。どちらかというと晩熟型(悪く言えば進化が遅い)。趣味はアイロンがけと靴磨き。部隊長に常に叱咤されている。大の猫好き。
F:やはり教養豊かな男性。ワインの知識は豊富だが、アルコールには弱い。酔うことをこよなく愛する。酔って人格が崩壊することに快感を感じる。


“出会い”はアペリティフから

ソムリエの三木氏が選んだのは、ほのかに甘いドイツワイン、キートリッヒャー・ザントグループ・シュペートレーゼ(1983)

Y:ヴァイル(このワインの生産者)はね、最初に会った時は、まじめなだけの何の取り得もないやつみたいな感じがしたんですけれど、だけど病的にまじめだったね。
三木:病的にまじめですか(笑)。
Y:例えば貴腐とアイスヴァインを両方とるということはドイツではふつう考えられないんですよ。と言うのは、アイスヴァインはどちらかというと貴腐菌がつかない年のほうがいいんです。だからできるだけ貴腐菌を避けていかなきゃいけないんですよ。でないと腐ってしまう。逆に乾燥した年は貴腐ができにくいわけです。だからその両方を収穫し続けるというのは、ね。ところが、そのあたりの事情にそれほど詳しくない日本のS社が「やろうや」ってことで、「じゃあ、やってみましょうか」ってことになったんだけど(笑)。ただね、ヴァイルは本当にまじめで、その時、貴腐の収穫をせめて16回以上にしようって言ったんですよ。ま、なんの根拠もないんですけれどね。要はイケム(シャトー・ディケム)が16回に分けてやってるんで、それ以上に分ければ世界一ていねいな収穫になるっていうだけなんですけれどね(笑)。それが彼の場合16回どころか、20回なんてあっと言う間になっちゃうんですよ。一粒一粒見て、「これは明日にしよう」なんてことになるんですよ。だから彼のやり方でやっているとね、グラス1杯分とるのに一人が1日かかっちゃうんです。
三木:実際、人件費とコストでイケムどころの話じゃないんですよね。
Y:そうなんですよ。とんでもない話なんです。しかもイケムの場合は短期間で収穫できますけれど、ヴァイルは2ヶ月、3ヶ月かけてやりますから。そうするとその間中、収穫する人員をずっと雇っておくってことになるわけです。
三木:おそろしいことになりますよね。
Y:お父さんの時はそこまでやらなかったですから。
F:息子の代になってからなんですね。
Y:貴腐の収穫は'88年、'89年から始まったんですけれど、それから連続して昨年にいたるまで貴腐とアイスヴァインの両方を収穫し続けていますね。
F:ま、じゃあ、気候条件としては、つくろうと思えばつくれる、と。
Y:ラインガウでは2年連続という記録はなかったですよ。要はね、日本で貴腐ぶどうがなぜできるかっていったら、すごく簡単なんですよ。傘がけしたんですよ。でないと日本みたいな雨の多い気候だったら腐っちゃうんですよ。だからS社は全部に傘がけすることを単純にやったんです。で、それができるのだったら雨が多い年でも貴腐は収穫できるだろうってことになって、それでヴァイルに提唱したんですね。そしたら向こうでは逆にアイスヴァインをつくるためにビニールをかぶせてしまう技術がすでに始まっていたんです。じゃあ、貴腐もその技術を使えばいいってことになったんですよ。そこから先は貴腐の場合には悪くなったものをすべて除き、アイスヴァインの場合には貴腐化したものを全部除くという形に持っていけば、できないことではなかったんですよね。


キートリッヒャー・ザントグループ・シュペートレーゼがサーヴィスされる

Y:いい色ですね。香りもいい。

F:あっ、おいしい。ま、あまり神経質なワインじゃないですよね、これは。

Y:うん、あの息子のヴァイルも収穫等には神経質なんだけれど、酒自体にはそれほどでもないですよね。ただ、'89年から3、4年間ほどはちょっと神経質でしたね。神経質というか学生がつくったみたいな生真面目な感じがあったんですけれど、その後は急に土の感じが出てきて、割合伸びやかな感じになりましたね。


アミューズ“桃と明石産真鯛のタルタル仕立て”を食べて

桃と明石産真鯛のタルタル仕立てY:すごく合いますね。

三木:もう少し温度が上がってからのほうがさらに合うかも知れませんね。

Y:実はリースリングって本当は桃の香りがあるんですよ。熟してくると隠れちゃうんですけれど、若い時ってすごく桃の香りがするんですね、その香りがこの料理を食べるとフワッーて出てくる。

F:これって反則ですよね。だって美味しいに決まっているじゃないですか。絶妙のスタートって感じは間違いないですね。

Y:きゅうりの青さとも意外と合うんですよね。

S:アミューズに関しては完璧って感じですね。

今日の赤ワイン、ラ・プティット・キュヴェ・カイユティーヌについて

ラ・プティット・キュヴェ・カイユティーヌS:次は赤ワインですか。楽しみですね。これはテーブル・ワインのカテゴリーなんですね。

Y:「ふつうの食卓で飲んで欲しい」ってこの製造者は言ってます。

F:日本の農業の方でも、売れるかどうかには関係なく手間隙かけておいしい野菜を作りたいという人もいると思うんです。きっとこのワイン製造者もそういう人なんでしょうね。高いもので贅沢するだけが能じゃないですからね。

Y:これは何年ものでした?若いんですよね。

三木:では、少しだけ説明させていただいてよろしいでしょうか。まず、品種からなんですがサンソーが8割、ピノ・ノワールが2割です。

Y:ピノっていうのがおもしろいですね。

三木:そうですね。でもさらにおもしろいのはサンソーが入っている分、もっと土着的というか力強いとか、そういうイメージなんですが、ピノの性格が強く出ているんですね。もちろんビオ独自の香りっていうのはありますが。

赤ワインがつがれる

ラ・プティット・キュヴェ・カイユティーヌY:なかなかきれいな色ですね。そんなに濃い色じゃないですね。先程おっしゃっていたようにサンソーというより、ピノのイメージですね。

F:サンソーってどんなぶどうなんですかね?実物のぶどうのイメージがないんですけれど。

Y:いや、僕もね、実物は見たことがないんですよ。あるのかも知れないんだけれど…。ラングドック辺りへ行って「このぶどうはなんだ?」って聞くと「さあ、オレが植えたんじゃないから知らない」なんていうのがあるじゃないですか(笑)。混植しているんで、そんな中で見たことがあるかも知れないんですけれどね。

F:う〜ん、確かに都会のワインぽくないですね。

Y:うん、やはり南のワインですね。これは古樽ですよね。新樽は使っていない。

S:すごくコショウの香りがするんですが。

F:ふつうに美味しいワイン。

Y:非常に素直なお酒ですね。

S:香りが変わっていくのが早い。

三木:すごく土着っぽい香りがすると思うんですよ。僕は今まで2回しか飲んだことがないんですけれど、時間とともに土着っぽい香りがだんだんピュアなきれいな香りに変わっていくんですよね。風味も最初は決してモード系ではない苦味のようなものがあるんですけれど、それが色のイメージに近い果実風味に少しずつ変わっていくような感じが僕はするのですが…。

Y:やさしいお酒ですよね。心温まるというか、ね。もし、三木氏のおっしゃったような変化を起こすのだったら、これは強い酒なんですよね。

F:黙って出されたら、南フランスのワインっていうより、ブルゴーニュのちょっと強いワインかなと思うかも知れませんね。色のニュアンスといい、ベリーっぽい香りといい、あまり南フランスのワインって感じじゃないんですけれど。

Y:ただ酸がやわらかいですからね。ブルゴーニュはもう少し筋が通った酸がありますから、そういう意味ではやはり南フランスのワインかなと。

S:南のワインのほうが酸が弱いっていうのはぶどうの品種ですか、それとも気候条件ですか

F:要は樹の呼吸が激しい。酸って呼吸の代謝過程でどんどん消費されちゃうんですよ。暑いと樹の呼吸が激しいから酸が少なくなっちゃうんですよ。

Y:フランス人って2つ以上の要素は受け入れないみたいで(笑)、以前は酸と糖のバランスがって言っていたのが、最近はタンニンと糖のバランスだということになって、酸が抜け落ちるんですよね。

F:糖とタンニンのバランスだっていうのは、何を目指したいんですかね?

Y:非常に熟した状態でタンニン、いわゆるポリフェノール系がしっかりあるほうがいいのだけれど、渋さとかはあって欲しくないって感じでしょうね。本当はより長く寝かせるためにはそれが大切な気がするのですけれどね。でも、このワイン、ただこうやって振っているだけで酸味に伸びやかさが出てくるからやっぱり力があるんですね。

F:南フランスのワインだって思い込んで飲んでいるせいかも知れないけれど、ハーブの香りもするような気がして。

S:今まで感じたことのない香りがある。

Y:古樽に寝かせているという独特な、ちょっと厩臭のようななつかしい香りがありますね。

“仔羊のスペアリブ、フレッシュチーズ添え”が運ばれる

仔羊のスペアリブ、フレッシュチーズ添え三木:このワインに合わせるということで考えまして。うちのメニュー外の料理なんですけれど、仔羊のスペアリブをボイルしまして、イエローピーマンとハーブで風味をつけたフレッシュチーズを添えた、かなりシンプルなものなんです。

Y:これはチーズも一緒に食べればいいんですよね。

(全員、舌鼓)

Y:合いますね。あっそうか。そういうことなのかも知れない。このフレッシュチーズのハーブの香りを合わせることでワインのハーブ的な香りが沈んで、より果実の香りがひきたってくるのかも知れない。これはとてもいい相性ですよ。

三木:シェフの中塚が相当考えていましたから。

S:中塚氏もこのワインは飲まれているんでしょ?

三木:飲んでいます。

Y:これはよく考えた料理ですね。本当にワインの果実風味が急に伸びますね。田舎くささが急になくなってしまう。すごくいい相性。このワインにとっては田舎くささも多少欲しいところかも知れないですけれど(笑)。熟したアメリカン・チェリーの香りがしますよね。いずれにせよこの相性は完璧ですね。

F:では、このワインの簡単なレジュメをお願いします。

Y:基本的には黒コショウとか、ベリーとか南っぽい、それこそ「お百姓さん」が作ったっていうようなとても温かみのあるワインです。すごく高級なお酒ではないけれど、作り手が「日常のちょっといい日に飲んで欲しい」って言っているのが非常によくわかるお酒ですね。そしてこの料理は、このお酒の少し田舎くさいかなっていう部分をていねいに捉えています。ハーブや、肉の脂、それとチーズととても合いますね。チーズの上にふられている粗塩とか黒コショウの風味によって、内側からなめらかな酸味と果実風味が表れてくる、そういった意味では非常に工夫してくれている料理ですね。変にこねくりまわさずシンプルなだけに、この素朴なワインにぴったりと合って。

F:おいしいけれど、複雑なワインじゃないですものね。

Y:そうそう。決して偉大とかいうわけじゃないんだけれど、とても楽しませてくれるワイン。

と、前編はここまで。赤ワインとの出会いは実に素敵でした。料理が素朴なワインを洗練されたワインに変えてしまう相性。実に理想的なマリアージュでした。後編ではいよいよメイン料理に合わせた白ワインの登場です。本日、3組目の素敵な出会いになるのでしょうか。

レストラン『オルフェ』出会いの舞台

レストラン『オルフェ』

〒650-0036
神戸市中央区播磨町45番地The45th 10F
Tel:078-334-7622
Fax:078-334-7623
定休日:不定休
営業時間:11:30〜14:30 / 17:30〜22:00


コラム担当

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人物 須山 泰秀
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