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連載コラム 今日は何飲む?
いろんな出会いがあります。意外な出会い、運命的な出会い。出会いからは何かが生まれます。このコラムはそんな“出会い”の話です。出会いを求めている主人公はワインや日本酒などのアルコール飲料。相手は料理、時としてフレンチ、イタリアンあるいは日本料理かも知れません。どんな巧妙な出会いが料理人の手で演出されるか。ぜひ楽しみにしてください。
トマ(後編)
レストラン『トマ』前編では、銘柄は同じ、でも、生産者が異なる白ワインが2本登場しました。この白ワインは2本とも2001年という素晴らしい年のもので、4年目にもかかわらず力があり、1時間ほどのデカンタージュをした後ワインクーラーで冷やしてサーヴィスされました。1品目の料理に合わされた白ワインは一口大のフォワグラには絶妙。しかし、海の幸に合わせるには少し酸味が不足していたようです。後編は肉料理とチーズ、そしてデザートです。合わせるワインはコルナスの赤とエルミタージュの甘口のヴァン・ド・パイユ。わくわくする時間が待っています。


主人公
アペリティフ
サン=ペレ 2001(ジャン・リヨネ)コルナス
St-Pray 2001 (Jean Lionnet)Cornas
白ワイン
サン=ペレ 2001(アラン・ヴォージュ)コルナス
St-Pray 2001 (Alain Voge)Cornas
赤ワイン
コルナス  キュヴェ・ヴィエイユ・ヴィーニュ 2002(アラン・ヴォージュ)コルナス
Cornas Cuve Vieilles Vignes 2002 (Alain Voge)Cornas
デザートワイン
エルミタージュ  ヴァン・ド・パイユ 1996(カーヴ・ド・タン・レルミタージュ)
Hermitage Vin de Paille 1996 (Cave de Tain
l’Hermitage)


● 料理2品目:
シャロレー牛 三種の調理法で:パルロン(かた肉)の赤ワイン煮、アントルコートのグリエ、すね肉のポトフ

 コルナスの赤ワインには牛肉を合わせてきた。コルナスはシャトーヌフ=デュ=パップやコート・ロティのように個性の強い赤でもないので、肉は牛肉にしたという。コルナスの2002年は2001年より質的にやや劣る年で、デカンタージュはしてあったが、もう飲み頃である。セパージュは100%シラー種Syrah。生産者は先ほどの白ワインと同様アラン・ヴォージュの“キュヴェ・ヴィエイユ・ヴィーニュCuve Vieilles Vignes”である。“vieilles vignes(古い葡萄畑)”産のワインは30年以上たった葡萄の木を使用しているので、生産量が少なく、色も濃くなる性格を持つとのこと。しかし、ワインを産するための葡萄の木としては最も力があり、熟したバランスの取れた性格を形作れる年代と言えよう。濃いブラックチェリーのような色、香りもグリヨットやキルシュ系統である。あと5年間は美味しく楽しめるであろう。やや劣る年と評される2002年ものだが、上手に醸造した結果が出ている。質的に悪いとされる年ほど優れた技術を持った生産者がわかるというものだ。タンニンはビロードのようなきめ細かな粉のような感じを与えてくれる。だが若いワインにはない種類のアグレッシヴィテ(agressivit攻撃性)がある。
 料理は1皿に3品の盛り合わせだ。シェフは「どの調理法がこのワインと合うか、試してみてください」という。
 牛肉は若い雌牛のもの。さすがに柔らかく繊細である。食べる順番はポトフ、グリエ、煮込みの順番で3人が一致した。まず腿肉のポトフは肉も柔らかく、風味が良く出ており、上品で繊細な仕上がり。煮汁に牛乳と生クリームを少し加え、泡立てている。グリエはしっかりした味で、中はちょうどいい状態で火が通っており、3品の中では牛肉本来の味が一番出ている。かた肉はこってりした赤ワインソースが絡まるようにかかっており、いわゆるブフ・ブルギニョン(牛肉の煮込み、ブルゴーニュ風)を照り焼きにしたよう。
 さて相性であるが、ここで3人の意見が分かれた。ベアル氏はポトフ、キュドネック氏と私(中野)は赤ワイン煮。私たちはやはりこってりと仕上がった赤ワインソースと一緒に口に入れたときのとろけるような牛肉が、ビロードのような穏やかなタンニンを持ったワインとこの上なく合ったように感じたが、ベアル氏は軽いポトフ仕立てのかた肉の上品さ、繊細さがこのワインとよく合っているという。シェフは牛肉にはタンニンのあまり強い赤ワインは避けているという。肉質が上品でそれほど個性の強い香りなどを出さないからだそうだ。確かに羊などから見れば個性は弱い。だから今回この赤ワインに合わせて上品な牛肉、とりわけ若い雌牛のものを選んだと言う。



● チーズ4種:
サン=マルスラン、シェーヴル・サンドレ、ロカマドゥール、パルメザン

 ここまでグラスに残してきた2種類の白ワインと1種類の赤ワインに加えて、デザート用の甘いエルミタージュのヴァン・ド・パイユVin de Paille(直訳すると、藁のワイン。摘んだ葡萄の房を藁の上で干して水分を蒸発させ糖分を凝縮した後、絞って作るワイン)を注いでもらう。さて結果だが、サン=マルスランには2本目の白ワイン、サン=ペレが一番。チーズの熟成状態が良く、中はクリーミーな仕上がりだったので、このワインのこってりした風味がベストマッチであった。シェーヴル・サンドレ(灰かぶりの山羊のチーズ)はパサつくような食感が、さっぱりと酸味の利いた1本目のサン=ペレとよく合った。パルメザンは少々難しい。3年ものなので香りも強く、塩味も最も強い。赤ワインは合いにくく、1本目の白も軽すぎ、2本目の白がやや合格かというところ。ところが甘いヴァン・ド・パイユが絶妙に合った。強い塩味にも負けない甘み、力加減のバランスが良い。ちょうど、青カビの風味と強い塩味をもつ羊のチーズやロックフォールなどに、甘口のソーテルヌ、バルサックなどの白ワインを合わせるのに似ている。まずは塩味にも負けない力を持ったワインを選ぶべきなのかもしれない。イタリアではどんなワインと合わせるのだろうか。イタリア人はこんな甘いワインとの合わせ方をやっているのだろうか。御存知の方がいらっしゃったら、ぜひ御教授願いたい。


● デザート:
キャラメリゼしたパン・ペルデュ、赤いフルーツのポワレ、キャラメル・サレ、キャラ メルのアイスクリーム

 さて、デザートに合わせるワインは先ほどのヴァン・ド・パイユ甘口ワインはフランスだけでなく各国にあるが、要はワインの中の糖分をどれだけ獲得するかということだ。太陽が燦燦と輝き、糖分をいやでも作ってくれる南フランスなどにはミュスカという種類の甘口ワインがある。原木に房がついているうちに、糖分を蓄えてくれるわけだ。天候が影響を与え、房についた貴腐菌が水分の蒸発を促し糖分が凝縮するもの。ドイツやオーストリアなどでは葡萄の粒の中の水分が零下10数度の外気によって凍りついた時に採り入れ、絞ると甘い糖分がたくさん入った葡萄汁が取れるという方法で作るワインがある。このヴァン・ドゥ・パイユは収穫した葡萄を藁の上で半年間腐らせないように干して水分を飛ばし、その後、絞って作られるワインである。特にフランスのジュラ地方のヴァン・ド・パイユが有名で、セパージュはプルサール、トゥルソー、サヴァニャン、シャルドネなどを用いる。ここローヌ川沿いのヴァン・ド・パイユのセパージュはマルサーヌ、ルサーヌを使用している。
 今回のエルミタージュ ヴァン・ド・パイユ生産者はカーヴ・ド・タン・レルミタージュで、1996年ものである。デザートは、この店のスぺシャリテのパン・ペルデュ(いわゆるフレンチトーストで、この店では通常は前日に残った硬くなったバゲットパンをそれほど長く牛乳に漬け込まず、からっとした感じで仕上げているが、今回はかなりしっかり汁に漬け、表面をしっかりキャラメル化していた)とキャラメル・サレ(塩バターのキャラメル)、キャラメルのアイスクリームに、フランボワーズ、カシス、サクランボなどの赤いフルーツを甘く煮詰めたものが添えてある。
 ヴァン・ドゥ・パイユは、パルメザンチーズの塩味とよく合ったように、不思議と塩バターキャラメルとの相性が良かった。このワイン特有の軽く酸化した風味とクルミ、プラリネなどの香りがキャラメルとよくマッチして心地よい。パン・ペルデュとフルーツは赤のコルナスとの相性も良かった。



<今回の出会いを振り返って>
総評すると、シェフは出身地のコルナスのワインを熟知しており、良い生産者とも知己の仲で、そこからこれらのメニューを立ててくださったわけだが、本当に近来稀に見る相性を目の当たりにし、3人とも感服した次第である。ぜひ皆さんもリヨンにおいでになった折には、この店を訪ね、コルナスのワインに舌鼓を打っていただきたい。

レストラン「トマ」出会いの舞台

レストラン「トマ」
Restaurant『Thomas』

6 rue Marie-Laurencin, 69002 Lyon
Tel.&Fax 04.72.56.04.76
E-Mail:info@restaurant-thomas.com


コラム担当

野次馬隊
人物 須山 泰秀
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