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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
歴史と異文化の味 − コリウールのアンショワ
   フランスで生活をしているとどうしても肉料理を食べる機会が多くなり、自分でも肉料理を積極的に選んでしまいがちです。「魚は日本のものが1番おいしい。フランスにいるなら肉を食べた方がおいしいだろう」という日本人魂というか偏見があるからなのですが、缶詰の魚はツナやらオイルサーディンやらによくお世話になっている気がします。普通においしいと思えるし、簡単に使えるからでしょうね。そんな「缶詰魚」の1つにアンチョビ(フランス語ではアンショワanchois)があります。食事の味付けにもなるしおいしいですよね。そのアンショワをスペシャリテとする村がスペイン国境に程近いところにあり、中世の雰囲気をそのまま残したステキなところだと聞いて「魚文化にことさら疎いし、そんなにステキなところなら」と足を運んでみました。
   その村の名前はコリウールCollioure。フランスのピレネー・オリヤンタル地方にある、地中海に面した村で人口はおよそ3000人の小さな村です。紀元前6世紀からあるこの村は海と中世の雰囲気が大変美しく、この「心躍るような」風景に魅せられた画家マティスが、この村で主に原色を多用した明るく伸びやかな絵を多数描いたことでも知られています。

コリウール村。カラフルな建物が立ち並ぶ   マジョルカ王の宮殿と呼ばれる城 13世紀の建物

コリウール村。
カラフルな建物が立ち並ぶ

 

マジョルカ王の宮殿と呼ばれる城
13世紀の建物


   私が訪れたのは連休時だったため、観光客が大変多く、いろいろな国の言葉が聞こえてきました。しかし、「いろいろな国の言葉」というのはこのエリアではある意味通常使われている言葉でもあります。スペイン国境であるため、村の文化はどちらかというと「カタルーニャ文化」。この地域、中世にはカタルーニャ(現在のバルセロナ、タラゴナなどがあるところ)に占領されていたりと現在に至るまでにスペイン文化色が残るような歴史もありました。村にある城はカタルーニャのルシヨン伯やアラゴン王などが所有していましたが、現在はそのうちの1人マジョルカ王の名がついています(マジョルカ王の最も大きな城はぺルピ二ャンにあります)。そして今でもフランスでありながらスペインの文化が感じられるのです。
   フランス語とスペイン語は共通点があるとは言われますが、主にスペインではバルセロナなどで使われている「カタルーニャ語」はもっとフランス語に近く、スペイン人よりもフランス人の方が理解できるかも?という言葉です。この村ではこの言語を使っている人が多いようです。スペイン人も在住している村なので、フランス語、スペイン語、カタルーニャ語は普通に話される言葉です(レストランには3ヶ国語対応可な店員さんが多い。すごい)。
   コリウールのアンショワについてですが、こちらの歴史も村同様古いようです。始まりは中世、コリウール村のあるヴェルメイユ海岸ではすでにマグロ、イワシ、そしてアンショワなどの塩漬け食品が特産品でした。この産業が最も盛んだったのが1466年、ルイ11世により「コリウール住民は魚産業をより一層発展させるために間接税を免除する」という命令がなされたころでしょう。それだけ王様のお気に入りだったのですね。現在では残念ながらアンショワ漁はコリウールでは行われておらず、ヴェルメイユ海岸の中ではヴァンドル港で行われています。美しい土地とアンショワというすばらしい食材により、コリウール村は1994年、国の食品保存協会「シット・ルマルカーブル・デュ・グーSite remarquable du goût」に登録されました。
   手作りでアンショワを作っている会社は現在コリウールでは3軒ほどで、そのうち2軒がアトリエを見学できるとのことだったので訪れてみました。作業は通常工場で行われていますが、衛生に関する法律上、一般人は見学ができません。代わりにアトリエでデモンストレーションをしているところを見ることができました。見てきたアトリエのうちの「ロックRoque」という会社で教えてもらったことをこちらではご紹介します。

大勢の女性作業員が手作業でアンショワをさばいている昔の写真   アトリエでデモを見せてくれた方達

大勢の女性作業員が手作業で
アンショワをさばいている昔の写真

 

アトリエでデモを見せてくれた方達


   アンショワ漁の季節は5月から10月まで、その期間以外の漁はありません。漁船は夜出発し、集魚灯を使って魚をおびきよせ、集まってきた魚たちをすかさず網で獲り、翌朝港に帰ります。その場で獲ったばかりのアンショワはすぐに処理を施されます。
   まず私たちがよく知っているいわゆる塩漬けアンショワの作り方をご紹介します。
   アンショワを新鮮な段階で塩にまぶし樽に入れ、1ヶ月間冷暗所で寝かせます。この間に塩と魚本体の水分・血が混ざり合った独特な塩水につかることになりそれがアンショワの旨みを引き立てるのです。
この樽で3ヶ月間発酵させる

この樽で3ヶ月間発酵させる

   その後、頭と内臓を取り除き、樽の中に環状においていきます。アンショワ、塩、アンショワ、塩と交互に重ねていき、重さは1つの樽で40〜50kgになります。樽の中に置く期間は3ヶ月ほどでこの間にアンショワは発酵し、よい香りがつき味も洗練されていきます。オイルサーディンは加熱加工されているのに対してアンショワは生から作られ、加熱されることはありません。3ヶ月後、発酵具合、におい、味などが完璧かどうかは熟練の職人さんの口と鼻で判断されます。「OK」が出たら次のステップへ。このあと製品としては「塩味」のアンショワと「オイル漬け」アンショワの2製品に分かれます。塩味アンショワは作業員(女性)の手でひとつひとつ樽から出されたアンショワをそのままいろいろな形の器(ビンだったりバケツのような大きい入れ物だったり)にきれいに収めていきます。
紙に並べてしばし脱水

紙に並べてしばし脱水

   オイル漬けアンショワは、樽から出されて何度も水洗いされ、これまた作業員の手により吸水紙に貼り付けられます。その際形が崩れたり破れたりした魚はペーストにされたり動物のえさにされる(ペットフード会社に売られる)そうでムダはありません。この作業で1人1日15〜20kgをさばきます。デモンストレーションを見せていただきましたが、さすが熟練の技術、手際よくスピードよく進められていきました。昔の写真や絵を見ると、女性の作業員が大勢手作業でアンショワをさばいていますが、現在この会社の工場の作業員は15名ほどだそうです。「この紙に貼る作業、やらせてもらえませんか?」と、見学者も少なかったのできいてみると「そうね、まず健康診断に行ってもらわないとね」と言われました。それほど衛生面に気を使っているということですね。ということで結局断られたのですが。紙に貼られたアンショワは正午頃から午後2時ごろまで置かれ、そのあと塩味アンショワと同じように瓶詰めされます。水をしっかり切らないと瓶の中でアンショワにカビが生える可能性があるそうです。長期保存できるようにこちらでは脱水をしっかりとしているとのことでした。瓶には主にひまわり油を入れます。このロックという会社ではワインビネガーとワインのアルコールのブレンドに漬けたアンショワというオリジナル製品もあります。
   アンショワ・フレanchois fraisというものもこちらでは作っています。フレ、とはフレッシュ、の意味なので、私は生魚を想像していたのですが、獲ったアンショワをすぐに酢漬けしたものが「アンショワ・フレ」なのだそうです。食べ方としてはオリーブオイルをかけて食べるのが一般的で、販売用のアンショワ・フレはひまわり油につけられて売られていました。塩味のものよりも白っぽい色をしています。レストランに「アンショワ・フレ・ア・ラ・メゾン」というメニューがあったので注文してみましたが、こちらもアンショワのマリネ、という感じのものでした。アトリエでは塩味のものとアンショワ・フレ、両方試食できましたが、訪れたのが朝9時だったので「朝食にアンショワもねえ・・・」とアトリエの人は苦笑していました。個人的には「アンショワ・フレ」が好みですが、コリウールの人達は圧倒的に「塩味アンショワ」が好きだそうです。

試食させてもらった塩漬けアンショワ   取れ立てアンショワの酢漬け   レストランで注文したアンショワ・フレ・ア・ラ・メゾン

試食させてもらった
塩漬けアンショワ

 

取れ立てアンショワの酢漬け

 

レストランで注文した
アンショワ・フレ・ア・
ラ・メゾン


アトリエ1階は直売所

アトリエ1階は直売所

   アンショワの加工技術が発達したきっかけは、たくさん獲れるが鮮度がすぐに落ちてしまうアンショワを長いこと食べられるように保存するためで、貧しい人たちによる食料をストックするための「生活の知恵」だそうです。現在はアンショワの漁を行っているところも減り、今回訪れたところのように手作りのところなど稀になってしまいました。「現在では高級食材になりつつありますねえ」とアトリエの方もおっしゃっていましたが、確かに値段もさほど安くはありません(小ぶりなビンに入ったもの4.10ユーロ)。
コリウールA.O.Cのワインは赤でも魚に合います

コリウールA.O.Cのワインは
赤でも魚に合います

   今日ではオードブル的な扱いで出されることが多く、甘いトマト、ナスやパプリカなどの夏野菜と一緒食べるとおいしいですね。ワインはラングドック辛口の白が飲まれることが多いようです。コリウールA.O.C.の赤ワインは焼き魚などと合わせるとおいしく地元では主にそういう飲まれ方をしていますが、こちらにはやはり白かなあ、という感じがしました。レストランで食べた「アンショワ・フレ」はマリネでしたが浅漬けで新鮮味も感じられました。酸味がおいしく口に入れたとたん唾液が!

   今回はまだ風強く寒い日でしたが、夏の暑い日にアンショワと冷たい白ワインを美しい海辺で、と考えるとなんとも幸せな光景です。


 

コラム担当

辻調グループ校 フランス・レクレール校勤務
人物 松本 美希
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