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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
『カマルグ旅行記』フルール・ド・セル(塩の花)をもとめて
この時期、南へ下る人が多く、A7(太陽道路)の渋滞につかまった。そのため、昼ごはんは南仏の入り口、モンテリマールでとることになった。おかげで、車の中には熟れたカバイヨン産メロンの匂いがこもり、旅のお供にヌガー・モンテリマールの封が切られた。メロンとヌガー、この二つはすでにコラムで取り上げられていた、なんて考えながらアルルの町へと向かうのだった。
そもそも、製菓担当の僕が、今回のテーマになぜ塩なのか。
近年、塩味のお菓子、とくに『フルール・ド・セル』を使ったものが増えてきたから、という理由付けは、一つの要因でしかない。塩は命にかかわるもの、生きるために必要で、料理の味付けにもっとも重要なもの。塩のさじ加減を間違えれば、おいしものは生まれない。食べる楽しみは生きる喜び、と僕は考えている。塩のなかでも純粋な塩化ナトリウムに近い「食塩」ではなく「天然海塩」、その中でも、甘み、苦味、こくがあり、海の香りが残っていると言われる『フルール・ド・セル』は、さまざまな料理の最後に加えるひとふりで料理に生気を与える力を持つ。そんな塩を食いしん坊の僕はテーマに選んだ。
アルルに着くと、すばやくチェックインを済ませ、ホテルのマダムに声をかける。
「カマルグを見に来ました。」
三週間前、夕方についたときと同じ台詞。マダムはしばらくして僕のことを思い出してくれた。
5月半ば、僕達はカマルグに行きたいと伝えると、彼女の答えはノンの一言だった。なぜと聞き返した僕達に、彼女は優しく答えてくれた。
カマルグが美しいのは朝と夕暮れ。湿原に行くのはもう遅すぎると。そして、その魅力の数々をおしえてくれた。広大な湿原、トローと呼ばれる黒毛の去勢していない牡牛、白馬、340種以上といわれる野生の鳥達、その中で最も美しいピンクフラミンゴの群れ。そして、カマルグの塩のことを。(アルルには古代ローマ時代につくられた円形闘技場が残っており、牡牛は現在そこで行われている闘牛の牛になる)


カマルグは、ローヌ川の2つの支流と地中海に挟まれたデルタ地帯で、中心部は国立カマルグ環境保全地域に指定され(右写真の赤い線で囲まれた地域)、周辺一帯はカマルグ地方自然公園になっている。
この地域は、肥沃な農耕地、塩田、不毛な平原と砂丘、に分かれる。農耕地は内陸部で、小麦やブドウ、野菜だけでなく、水が豊富なため19世紀から稲作が盛んだ。現在フランスの米の75%を生産している。塩田はグラン・ローヌ川とプチ・ローヌ川両方の西側に広がり、カマルグを東西から挟み込む形だ。不毛な平原と砂丘は南の地中海沿岸に広がり、生産性は低いが、特有の景観がすばらしい。人と自然がうまく融合して、この土地が作られている。

さて、いよいよ塩田へ。少し遠回りして湿原の中心部へと向かうと、道はいよいよ細くなり、高い木も少なくなってきた。その時、カマルグのシンボルともいえる白い馬が、左手にあらわれた。思わず車を止めて近づき、写真を1枚。さらに道を走り続けると景色も変わり、浅瀬の中の細い道へと出た。動物園でしか見る事ができないと思っていたフラミンゴの群れとの出会いは感動だ。別の群れが飛びながら近づいてきて、車を併走させカメラをかまえるが、そこで手を止めた。この美しさは、画像ではきっと伝わらない。一秒でも長く見て心に焼き付けよう、そう思った。再び目的地に向け走り出した。

しばらくして、サラン・ドゥ・ジローの町に着く(サランは塩田の意)。小さな町を抜けると、白い丘が見えてきた。この丘の持ち主、フランス最大の製塩会社サラン・ドゥ・ミディ社は、こことエグモルトの2箇所を開拓している。いうまでもなくこの丘は、塩が山に積み上げられたもので、その横には塩田が広がる。ここでは機械を使って操業し、化学産業、食品産業から、凍結した道路にまく塩などを、送り出している。
塩の山の周りや塩田には水路があり、山には近づけない。塩田の近くまでよって見ると、その水路の中に塩ができている。傾いてきた太陽の光に、水面の結晶が輝いている。

肝心の『フルール・ド・セル』の作り方だが、夏の太陽が塩田の海水を蒸発・濃縮させていく。やがて表面に塩の結晶が浮かぶ。これが塩の花、『フルール・ド・セル』なのだ。塩の結晶は繊細なもので、表面に浮かぶよりも沈殿するほうが多く、風の影響によっても形は変化する。この塩づくりはすべて手作業で行われ、塩をつくる人をソニエという。カマルグ産のフルール・ド・セルには、入れ物それぞれにソニエの名前が記載されている。
フランス産の塩といえば、ブルターニュのゲランド産が有名だが、ゲランドの南、同じ大西洋岸のイル・ド・レ(レ島)、そしてこの『カマルグ』がフランスの『フルール・ド・セル』の三大産地なのだ。

昔から塩は暮らしに欠かせないものだったため、確実に税金を取り立てる手段として塩税をかけられていた時代もある。機械化が進む中、太陽とカマルグの自然の恵みをうけて、ソニエが手作りで作るこの塩は、いまもプラチナ色に輝いている。


コラム担当

フランス校製菓部
人物 宮田 至康
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