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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
本場のモッツァレッラチーズを食べる
 もともと、モッツァレッラは水牛(ブーファラ)の乳を原料に作る南イタリアのフレッシュチーズです。しかし、近年では水牛が減ったために牛乳で作るものも多く、需要の高まりとともに南イタリアだけでなくイタリア全土(イタリア以外でも)で作られるようになりました。現在でも水牛の乳を使い伝統を守って作っているのはカンパーニャ州とラツィオ州で、モッツァレッラ・ディ・ブーファラ・カンパーナという名前でDOP(原産地管理呼称)に認定されています。同じモッツァレッラでも、牛乳製のものはモッツァレッラ・フィオール・ディ・ラッテ(フィオール・ディ・ラッテは「ミルクの花」の意)、またはモッツァレッラ・ディ・ヴァッカ(牛のモッツァレッラ)と呼んで区別しています。どちらのタイプも日本に輸入されていますが、現在では消費者も増え、何日も冷蔵庫で保存されていたものを買わされることは少なくなったことでしょう。モッツァレッラは熟成させないチーズなので、新鮮さが大切です。

 実は1年ほど前、テレビ番組の仕事で、ナポリ郊外で作られたその日のうちに、番組スタッフが飛行機の機内に持ち込み、できるだけ新鮮な状態を維持したモッツァレッラ・ディ・ブーファラを試食したことがありました。その食感と弾力、クリーミーさは今まで味わったことがないものでした。そんなこともあって、一度は作りたてを試食してみたいという夢が以前から僕の中で膨らんでいたのです。

 さて、ナポリに4時頃着き、昼食の時間にはすでに遅く、夕食にはまだ早い時刻で、どうしょうかと思って歩いていると、開いているレストランがありました。観光客用にあけているのかと聞いてみると、昼から客足が途絶えることなく、店を閉めるに閉められないと言うのです。それではとピッツァ・マルゲリータを注文しました。モッツァレッラとトマトソースとバジリコというシンプルなピッツァだけに、おいしいモッツァレッラを使っていれば、必然的においしいはず。予想どおりにモッツァレッラのジューシーさとトマトソースの酸味に食欲を刺激され、あっという間に1枚を食べつくしてしまい、この旅の収穫を確信しました。

 翌日、ナポリから南に100kmくらい行ったカパッチョ・スカーロという町に車を走らせると、道の両側にモッツァレッラの会社の看板がいくつも見えてきました。その数多い会社の中から、今回はヴァンヌーロという会社を訪れました。
 現在では、モッツァレッラは工場で機械製が圧倒的に多く、水牛の乳で手作りをしているところは数少なくなってきているそうですが、この会社ではモッツァレッラの原料になる水牛の乳も自社で飼育しているもののみを使っています。さらには、この会社では全て有機酪農をしているとのこと。有機酪農の製品であることを謳うには、動物に与える飼料・飲み水にいかなる化学薬品も使用せず、飼い葉を栽培するにも自然の肥料のみしか認められていません。殺虫剤、除草剤など化学薬品は全て使わず、環境面でも動物が心理的に落ち着き、ストレスを感じない環境で育てることが求められています。

 ヴァンヌーロでは全体で400頭の水牛を飼育しており、その内、乳の搾れる雌牛は8割前後、およそ毎日1800リットルの乳を搾り、乳製品を作っています。モッツァレッラは1日に400〜450kgくらい生産しています。自社の水牛の乳のみで生産しているため、生産量は少ないそうですが、質のよい製品をつくると評判で、周りの町の人々がひっきりなしに買いに来ていました。
 水牛は、古代エジプトの時代にアフリカから運ばれて広くイタリア全土で飼育されていましたが、もともと沼地を好み、沼地の多いカンパーニャ地方に根づきました。というのも、水牛は普通の牛のように体温の調節を自分でできないため、泥沼の水をかぶり、水と泥が体温を下げ、直射日光から身を守ります。現在では、地中海産の水牛を改良したブーファラ・メディテッラーネアと呼ばれる水牛が約7万2000頭います。この会社では、囲いをした飼育場で飼っているため、別に水場があり、この水には泥が混じっていて、時間を決めて交代で水の中に入れています。
 この飼育場は5つの囲いで区切られ、1つは子供の水牛の飼育。マイクロチップが1頭ごとに付けられており、健康状態や1日に必要な乳の量などを管理できるようになっています。ここでは母乳ではなく、搾ってある乳やモッツァレッラを作った後の乳清を与えています。
2つ目は妊娠していない雌牛に数頭の雄を入れて自然繁殖させます。
3つ目は妊娠中の牛です。
4つ目はお産をして乳を搾れる水牛です。
最後の囲いは乳を搾る場所です。水牛の体温を下げるのと搾乳前に体をきれいにするため、スプリンクラーで牛の体に水をかけます。ここでは1頭ごとの仕切りがあり、自動で糞を掃除し、快適な環境を作っています。
 水牛は非常にデリケートな動物で、昔から1頭ごとに名前をつけ、その名前を呼んでからでなくては乳が出なかったり、自分の子供が死んでしまうと乳を出さなくなってしまうので、昔は死んだ子供の皮をはぎ、その皮を人間がまとって近付き、安心させてから乳を搾っていたそうです。現在では子供に初めから乳を与えることがなくなり、また搾乳機で搾るため、このような心配はなくなったようです。

 実際にモッツァレッラチーズを作る工程を見せてもらいました。衛生管理のため普段は関係者以外は入れないところにも特別に入れてもらうことができました。
 初めの工程はタンクに100リットルの乳を入れ、36℃に温め、レンネットを加えて4時間置き、凝乳(カード)に凝固させます。凝固しない乳清は総重量の7割前後となり、リコッタチーズを作るのに利用したり、子牛に飲ませたりします。

 凝固すると台に載せて水切りをします。ちょうど豆腐のような塊ができます。1つの塊は30kgほどで、これを4等分して台の上におきます(写真1)。水分の取れた塊(写真2)を、次に細かく刻む機械に入れます(写真3)。これをタンクに移し、90℃の湯をかけて(写真4)、軽く練って柔らかくします(写真5)。これをザルですくい、塩水の入った水槽に入れ、作業しやすい大きさにちぎってから、2人もしくは3人で手でちぎって仕上げていきます(写真6)。この手で引きちぎる動作のことをモッツァーレといい、このチーズの語源になっています。ここの会社では普通の球形のもののほかに、小さな球形のボッコンチーニ(一口大という意味)や、クロスに編みこんだトレッチェを作っています。これを15%の塩水につけて味を付けます。その後、約1パーセントの塩水を入れた容器や袋に入れて販売しています。

 

 製造現場で、待ちに待った試食をさせていただきました。ボッコンチーニを試食しましたが、まさに出来たてで、口に入れたときに出てくるジュースとちょうどいい固さ、水牛乳独特の酸味と甘みがあり、至福の時を過ごせました。製造工程は非常にシンプルなだけに、品質のよい乳と職人技がものをいうようです。
 この会社ではモッツァレッラチーズ以外にも水牛乳でバター、ヨーグルト、ジェラートなども作っています。ヨーグルトを買って食べたところ、もともと水牛の乳は牛乳に比べて糖分が多く含まれているそうですが、砂糖なしでも十分な甘さがありました。

 ところで水牛の雄はどのように利用されているのでしょう? この会社にも5頭の雄しかいないそうです。残りは別の牧場で飼育されてから肉として出荷されます。案内をしてくれた人に聞いてみると、肉としての評価は低く、町の特産にはならないそうです。とはいっても料理人として一度は食べないと気がすまないため、食べられるレストランを紹介してもらい昼食をとりました。肉質は思っていたよりも白っぽく、淡白で強いくせもありませんでしたが、脂肪には少し野生味を感じました。

 こうしておいしい本物のモッツァレッラチーズに出会ってしまった今、他のモッツァレッラチーズが食べられるかが心配になってしまいました。


コラム担当

エスコフィエ校勤務・フランス料理担当
人物 山崎 和彦
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