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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
天国という名のワイン?
   この原稿を書いているのは9月中旬。
4月中旬、ようやくブドウの花芽が確認できるようになりました

4月中旬、ようやくブドウの花芽が
確認できるようになりました

   例年であれば、ワイン用のブドウの収穫はこれから・・・という時期。しかし今年はフランス全土で予想以上にブドウの生育が早く、早いところでは8月下旬から収穫が始まっています。ボジョレーワインの産地であるレクレール校の周辺にあるブドウ畑の収穫は終わったばかり。
   今でもこのボジョレー地区はブドウをひとつひとつ手で摘むのが主流なため、かなりの重労働です。人手を必要とする作業なため、近隣の方や学生、特に農業学校の学生など、収穫を手伝う人たちでこのあたりはいっぱいになり、夜になれば、近所のバールbarやスーパーマーケットでも、その人たちを見かけるほどです。

収穫直前のブドウはこんなに大きくなります   9月上旬、いよいよ収穫が始まりました

収穫直前のブドウは
こんなに大きくなります

 

9月上旬、いよいよ収穫が始まりました


   フランス人もそうなのですが、日本の皆さんは、ボジョレーワインといえばボジョレー・ヌーヴォーを思い浮かべがちですよね。しかし、ボジョレー・ヌーヴォーだけがボジョレーワインではありません。
   ボジョレー地区全域でつくっているボジョレーワインのほかに、優れたブドウをつくると言われている北部にある特定の38の村では、上位銘柄ボジョレー・ヴィラージュBeaujolais Villagesを名乗れるワインを作っており、この38の村の中でもさらに厳選された10の村はディ・クリュ10 crusと呼ばれ、それぞれの村の名前を冠したさらに上位銘柄のワインをつくります、例えばシェナスChénas、モルゴンMorgonなど。
   ワイン産出地域としてはブルゴーニュ地方の南端に位置するボジョレー地区、本来はブルゴーニュワインの一部なのですが、今ではボジョレーワインという名前が定着して独立した地域のように思われるまでになっています。これはボジョレー・ヌーヴォーのお陰・・・というわけだけではなく、ブルゴーニュワインやその他の地域のワインとも違った醸造方法にあるからです。

   このボジョレーワインは、MC(マセラシオン・カルボニック)法という独自の醸造方法でワインが造られています。そしてそのボジョレーワインを醸造する段階で出来るのが、今回紹介するパラディParadisです。

摘み取ったブドウは茎ごとこのタンクの中に堆積されていきます

摘み取ったブドウは茎ごとこのタンクの中に堆積されていきます

   まず、ボジョレーワインの造り方を説明しますと、ガメという品種のブドウからボジョレーワインはつくられます。このブドウを摘み取った後、茎に実が付いた状態のままタンクに入れます。下に積まれたブドウは上に積まれたブドウの重みで、自然に押しつぶされ、ブドウの皮を透してブドウジュースが滴り出てきます。これは茎から実をはずしてしまうと、茎と実の接合部分の穴(ベbéeと呼んでいました)から実が弾け出てしまい、皮を透してジュースをとることができなくなるためです。
   このブドウジュースをボジョレー地区では、ジュ・ドゥ・ティルjus de tireやジュ・ドゥ・グットゥjus de goutteと呼ばれたりしています。
   ブドウについている自然の酵母によって発酵が始まり、同時に炭酸ガスが発生します。最近ではマセラシオン・セミ・カルボニックという方法もあり、これはタンク内にブドウを積んでいく際に、人工的なガスも入れるため、タンク内は炭酸ガスで充満され、酸化を防ぐ役割を果たします。

   この発酵用タンクの中で数日間そのまま発酵させた後、ブドウ(もちろん茎つきのまま)だけを取り出し、これを圧搾機にかけます。
これはタンクの中に積まれて4日が経過した状態   数日間タンクの中に積まれたブドウを取り出し、圧搾機にかけます

これはタンクの中に積まれて
4日が経過した状態

 

数日間タンクの中に積まれたブドウを
取り出し、圧搾機にかけます


   このときのブドウは充分に糖度も含んでおり、ブドウの色素により摘み取ったときの色よりも赤くなっています。ブドウの実も皮を破って取り出してみると白かったものが赤くなっており、口に含むとかなりの甘さを感じます。
ブドウも甘くなり、皮の色も赤みがかった状態に変化しています   ブドウの実を潰してみると、白かった果粒も赤くなっています

ブドウも甘くなり、皮の色も
赤みがかった状態に変化しています

 

ブドウの実を潰してみると、
白かった果肉も赤くなっています


   このときに搾り出されたジュースを一般的にはジュ・ドゥ・プレスjus de presseと呼び、ここボジョレー地区では「パラディ」と呼んでいます。
圧搾機により絞られたジュースがパラディです   搾られた後のブドウはこんな状態

圧搾機により絞られたジュースが
パラディです

 

搾られた後のブドウはこんな状態


    あとは、パラディとジュ・ドゥ・ティルと混ぜ合わせ、ニ次発酵させ、その後は澱を引いて、熟成させるとボジョレーワインが出来上がります。

   さて、パラディですが、これはボジョレー地区でしか味わえないものです。
   茎から実をはずしていないため、破砕しにくく、ブドウの実内部では甘みとアルコール分を適度に含んだ状態のブドウに変化しており、それを搾っただけのジュースは甘みとアルコール分が適度に調和した飲み物ということになります。これがボルドーやブルゴーニュのワインであれば、茎から実をはずした状態でブドウを発酵させるため、茎と実の接合部分から簡単に果肉は弾けだし、皮の内部で甘みを閉じ込めることがないため、パラディは出来上がらないそうです。

   このパラディ、色は透明感のない赤で、搾ったままの状態であるため白い澱も浮いています。糖分からくるネットリとした舌触り、微発泡のためピリピリとした刺激感も多少あります。アルコール分も含んだブドウを搾っているため、アルコール分も3〜4%ほど含まれ、タンニンの風味も感じます。
一見すると、普通のワインと変わりはないように思うのですが   よく見ると、周辺にはニゴリが見られ、微発泡もしていますね

一見すると、普通のワインと
変わりはないように思うのですが

 

よく見ると、周辺にはニゴリが見られ、
微発泡もしていますね



   こうして出来上がるパラディ、一般の人は購入することができません。
   理由としては、搾り出した当日、遅くても翌日までにしか味わえないからです。時間が経つにつれて、糖分よりもアルコール分がどんどんと強くなっていき、アルコール分と糖分のバランスが保てなくなるためです。
   そしてもうひとつ、このパラディを瓶詰めして放っておけば、そのままワインへと変化していくのですが、ビン詰めの際、フタをしてしまうとパラディから発生するガスでビンが破裂してしまいます。
   パラディはワインの収穫に携わったものだけが味わえる1杯と言えますよね。

   それにしてもパラディは、なぜ「パラディ」と呼ぶのでしょうか?
搾りたてのパラディを試飲させてくれたヴァレリー氏

搾りたてのパラディを試飲させてくれた
ヴァレリー氏

   レクレール校に隣接しているシカレックス社のヴァレリー・ロンプルーValerie LEMPEREUR氏に聞いてみると、「なんでそういうのかなぁ、気にしたことないですね、たぶんジュースのようにガブガブ飲んでいると、そのうち天国(パラディ)に行ってしまうからかしら」と言っていると、隣にいた別の男性は「パラディの赤色が天国の色をイメージさせる」と言っていました。一体何が本当の由来なのでしょうか??

   さて、このパラディ、店頭では販売されていないのですが、収穫が終わった頃からボジョレー地区にあるワイナリーでは地域の人たちに振舞われることがよくあります。ボジョレー・ヌーヴォーを楽しみにしている人がいるように、ボジョレー地区の人たちには、このパラディを楽しみにしている人が多くいます。たまにパラディを持ち帰る人もいますが、その際は先ほども言ったようにフタをして放置していると容器内にガスが溜まり、破裂しますので、フタに穴を開けて持って帰っています。

   個人的にはあまり赤ワインは好きではありませんが、パラディはフルーツジュースのような甘さがあるため、ゴクゴクと飲め、おいしいと感じます。しかし、アルコール分も3〜4%含まれていますので、後に酔いが回ってきますし、搾ったそのままですので、余計な雑味も含まれており、お腹をこわすこともあります。

   最後に、パラディを搾った後に残った搾りカス(ジェーヌgène)を使った料理をひとつ。
パラディを搾った後のブドウを利用してつくるソーシッソン・オ・ジェーヌ

パラディを搾った後のブドウを利用して
つくるソーシッソン・オ・ジェーヌ

   鍋にジェーヌを敷きつめ、その上に輪切りにしたソーセージをのせ、さらにその上にジェーヌをかぶせ、全体が浸る高さにまで赤ワインを注ぎ、香り付けにブランデーを加えて火にかける「ソーシッソン・オ・ジェーヌsaucisson au gène」。リヨン地方、特にこのボジョレー地区の地方料理で、最後のジェーヌさえもムダにしないアイデア料理ですよね。

 

コラム担当

辻調グループ校 フランス校教務部
人物 田中 誠
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