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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
春 シェーブルの季節が来た!
 ロワール川の中・下流域は、果樹園や草原、耕作地が広がり、ロワール川の古城巡りで知られる城館が点在し、「フランスの庭」と呼ばれている。そしてフランスを代表するシェーブルチーズ(注1)の産地で、6つものAOC(注2)チーズがある。
 今回紹介するサントモール・ド・トゥーレーヌはその中のひとつ。地名がそのままチーズの名前になっている。形状は一方が少しすぼまった棒状で長さが15cmくらい、周りには黒い木炭粉がまぶしてあり、中央にワラがさしてあるのが特徴。日本でもとても人気がある。

(1) ルーフさん家の看板 サントモール・ド・トゥーレーヌは、ロワール川沿いにある町トゥールを中心としたトゥーレーヌ地方にあり、リヨンの北西、パリの南東に当たる。リヨンから高速で車を飛ばして約7時間、高速を降りるとあたり一面に農業地帯が広がり、小さな町、サントモール・ド・トゥーレーヌが見えてくる。毎年、 6月の第一土曜日と日曜日には、サントモールのお祭りとコンクールがあり、数十軒から出品されるサントモールチーズがメダルを競う。そのときは、たくさんの人が集まってくるそうだが、私が訪れた4月初旬は特に観光客もなく、静かな町だった。

(2) イメージを破られたヤギとヤギの食事風景 町の中心から車で3分ほど行ったところにあるフェルミエ(注3)のルーフさんのお宅で、チーズ作りを手伝わせてもらうことにした(写真1)。ルーフさんの家では、162匹のヤギを飼育している。ヤギというと白や黒で、小さい感じがしていたが、ルーフさんの家で飼っているのは全て私より大きな茶色いヤギ。
 私の描いていたイメージでは、春には緑の草をいっぱい食べて、草の香りのするおいしいお乳が搾られて、そのお乳で作るチーズは一味違う旬の味・・・だったが、ここの家では、年中外には放さず、同じえさを与えているということだった(写真2)。だから、旬の今はヤギのお乳の量は増えるが、味は年中変わらないとのこと。「もちろん外に放しているところもあるし、そうすれば少し味も変わるだろうね。でもヤギの数が多いので、放つと草を食い尽くし、1ヶ月もすると草が生えなくなるからね。それは無理よ」とメインでチーズ作りをしているお母さんのマドレーヌはいっていた。

 朝9時に訪れたときにはすでにヤギの搾乳が始まっていた。搾乳は朝、晩の2回。機械を使い、ヤギたちも慣れた様子で、合図と同時に搾乳所に移動してきちんと整列し、おとなしくしていた。ヤギが子供を生んだ今の時期は、搾乳量が1頭1日6リットルほどもとれるが、秋、冬となるにつれぐっと減る(写真3)。
 搾乳の後は、待ちに待った食事の時間。餌は乾燥とうもろこしとビタミン剤とホワン(干し草)。マドレーヌが「この子達すごくグルマン(食いしん坊)なの」というとおり、一日中餌を食べ続けるヤギたち。すごく元気がよくて、かわいらしい(写真4)。
(3) 搾乳後⇔搾乳前 搾乳後はしわしわのおばあちゃんのようなおっぱいに(4) 受け口のマズルカちゃん

(5) 凝乳酵素を加える そして、チーズ作り開始。搾乳したお乳は18〜20℃まで温度を下げ、その状態でキープする。朝晩2回分の乳を合わせて、チーズを作る。
 まず凝乳酵素を入れてしっかり混ぜ、それから触らないで2日間放置する(写真5)。凝乳酵素の量はバケツ1杯のミルクに対してキャップ半分。なんともアバウト。出来上がりは固まりの強いものもたまにあり、「これはちょっと固かったわね」なんて、これぞフェルミエ、と少し感激。

 次にムーラージュ(型詰め、写真6)。絹ごし豆腐のようにやっとすくえる程度に固まったカードをすくい、型に入れていく。型いっぱいまで詰め、丸2日間エグタージュ(水切り、写真7)。2日後には、型の3/4くらいの高さまでかさが減る。だいたい1個の型で2〜2.5リットルのお乳がいる(季節や乳の濃さなどによって、必要量は変わってくる)。
(6) できるだけ大きな塊を壊さないように入れる(チーズの中に隙間ができにくいから)7() 水分がどんどん抜け、型の高さの3/4くらいまでかさが減る

(8) 型の一方がすぼまっているので簡単に抜ける 次にデムレ(型から出す、写真8)。水分が抜け、木綿豆腐くらいの固さになったチーズを割らないように型から出し、きれいに並べ、長さをそろえてカットする(17cm)。

 次にワラをさす。ワラは強く押さえるとバリバリに崩れてしまうくらいの固さともろさで、ワラ1本ずつにサントモール・ド・トゥーレーヌと農家の名前が刻印されている(写真9)。
 6時間ほどそのまま放置し、表面が少し乾いたら黒い木炭の粉をまぶす(写真10)。「原料は何の木?」とたずねたが「薬局で購入するので、何かは知らないわ。それに塩を配合して使うのよ」と教えてくれた。
(9) チーズに刺すワラにチーズ名と生産者名の刻印がある(10) これだけで塩加減が決まる。簡単なようでプロの技あり!

(11) 日付別に保存 そしてアフィナージュ(熟成、写真11)。湿度80%、12〜15℃で保存。産地内で10日以上熟成させたもののみAOCサントモール・ド・トゥーレーヌと名乗るころができる。
 チーズ作りはこれで終了。10日熟成のものは、表面は黒く、カビがまだ生えていない。最初の状態と見た目はあまり変わらない。食べると本当にフレッシュで、水分含量が多くやわらかく、今まで味わったころのない味。2週間、3週間と熟成させるにつれて、表面は黒から灰色に変わっていく(カビが出てくる)。3週間を超えると、紙に包んで冷蔵庫に移し、熟成をストップさせる。後は少しずつセック(水分が抜けて、固くなる)の状態になっていく(写真12 13)。
(12) 奥から熟成10日、2週間、3週間(13) 右から熟成10日、2週間、3週間

 一番人気は3週間熟成のもの。確かに、酸味は少なくなり、身がしまり、味も濃厚で甘みも感じる。産地での直接購入価格は1本3ユーロだが、熟成3週間を超えるとだんだんと価格は下がっていく。
 産地で食べたチーズは本当においしかった。味わえば味わうほど、凝縮されたうまみがたまらない。今まで食べたものとはまったく違っていて、特に10日熟成のものは絶対に市場に出回っているものでは味わえないおいしさだ。それを味わえたのも非常に貴重な経験だった。
 チーズづくりは非常に重労働ではあるが、それでも「お客さんがおいしいといってくれたり、賞をとったりしたときがたまらない。ずっと続けていきたいわ」とマドレーヌはいっていた。ヤギやチーズに対する愛情が、ますます彼女の作るチーズをおいしく、皆をひきつけるものにしているのだと感じた。

注1: 雌ヤギのことをフランス語でシェーブルといい、その乳から作るチーズをシェーブルチーズという。

注2:原産地管理呼称;酪農製品や農産物、ワインなど地域性のある食品を対象に、その製品がその地方で正しく作られた高品質なものであることを保証する制度。2005年現在、AOCを認められたシェーブルチーズは9種類。

注3:フェルミエは農民、農場主の意味のフランス語だが、チーズの場合、搾乳する動物(ここではヤギ)の飼育から、チーズ作り、熟成までを全て自分のところでしている酪農家製のチーズを「フェルミエ」という。


コラム担当

辻調グループ校 フランス校 調理部
人物 徳井 友紀子
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