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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
愛され続けるりんごのお菓子 〜タルト・タタン〜(1)
〜タルト・タタンの故郷〜
   タルト・タタン発祥の地であるソローニュ地方は、ロワール川とシェール川にはさまれた豊かな森林地帯であり、その深い森の中には小さな湖がいくつもあり、昔から狩猟が盛んな地域としても知られています。このフランス中央部は豊かな平野を川が潤し、野菜、果物、花、穀物の栽培が盛んで、「フランスの庭」、「フランスの穀倉」とも言われています。

〜到着!ホテル・タタン〜
ホテル・タタン

ホテル・タタン

   シャトー・ド・レクレールからタルト・タタンが生まれたラモット=ブヴロン町までは約400km。人口わずか4000人のこの町は車で走れば15分で一回りできてしまうくらいの規模です。ここで世界中の人々を魅了してやまない、タルト・タタンが生まれたのか・・・と、感慨にふけるのも束の間、ホテルは程なく見つかり、早速部屋へ向かいます。机上にタルト・タタンにまつわる資料が置いてあります。そこには以下のようなことが書かれていました。

〜タルト・タタンの誕生〜
   その昔、19世紀の終わり、ラモット=ブヴロン駅の前に客足の絶えないホテルを経営している姉のステファニーStéphanie Tatin(1838〜1917)と妹のカロリーヌCaroline Tatin(1847〜1911)というタタン姉妹がいた。そのホテルには猟師、気難しい人や食道楽達がたくさん集まり、タタン姉妹の作り出す無尽蔵の料理を高く評価していた。
   ある狩猟解禁日の日曜日、猟を終えた客でにぎわう食堂で、とりわけおしゃべりなお客にステファニーは長い時間対応していた。その後、急いで忙しい厨房へ戻るとステファニーは大層取り乱した。なんとデセールを作り忘れていたのである。
   剥いてあったりんごに気付いたステファニーは、バターと砂糖を型にすばやく入れ、りんごを詰めてオーブンに放り込んだ。

タタン姉妹が使っていたストーブ

タタン姉妹が使っていたストーブ

   ひとしきり落ち着いた彼女はこの後どうしようか考えた。今自分が作ったものは、もはやタルトでもなければ焼きりんごでもない。りんごには火が入り始め、辺りにはキャラメルのにおいが立ち込めている。猟師たちにデセールを提供する時間はもうすぐである。作り直すには遅すぎる。そこで彼女は少量の生地を伸ばし、りんごの上にのせ、再びオーブンに入れたのである。
   提供する時、どうすればこれは美味しそうに見えるのだろう、とステファニーはためらった。しかしその時、ある考えが突然彼女に浮かんだ。彼女は一枚の大皿を取り出し、型の上にかぶせ、丸ごとひっくり返したのだ。そこで目にしたものは…とても見事な、芳香のある、美味しそうなものであったのだ。彼女はオーブンから出したての温かい状態で猟師に提供した。彼らはそれを存分に味わい、感嘆の声を上げた。こうしてタルト・タタンは誕生したのである。
   タタン姉妹は天才的にミスから完璧な料理法を生み出し、美食の世界に至福をもたらした。このタルトはホテル・タタンの看板菓子となり、ソローニュ地方一帯に広まった。そして後に美食家で有名なキュルノンスキーがこれを食べて感銘を受け、1926年にはパリで『タルト・デ・ドゥモワゼル・タタンtarte des demoiselles Tatin(タタン姉妹のタルト)』と紹介し、世界的に一躍有名になったのである。

〜いざレストランへ〜
   さて、夕食の時間を迎え、念願のレストランで食事を取ります。はやる気持ちを抑えながら注文したコースの一皿ずつを美味しく楽しく進めて・・・ふと気付くともう夜中の12時前ではありませんか! 食べ始めた時にはデセールのタルト・タタンのことしか頭になかったはずなのに、皿を進めていくうちにこの空間の心地よさに魅せられてしまったのです。

ホテル・タタンのタルト・タタン

ホテル・タタンのタルト・タタン

   そして運ばれてきた皿の上のタルト・タタンは日本で見たものよりも優しい色合いで、表面のキャラメルが控えめな、意外な印象でした。もっと黒くてゴツゴツしたものが出てくると思っていたのに。
   早速切り分けて口に入れると、りんごの甘味と酸味の味わいが深く、敷いてあるブリゼ生地はキャラメルをたっぷりと含んでおり、さくさくした食感はありませんが、りんごとの一体感があります。キャラメルの味がもっと濃かったら食べにくいことでしょう。コースの締めくくりにこの優しい味わいは抜群のバランス。かなり大きいポーションで運ばれてきたにもかかわらずあっさり完食してしまい、今から100年以上も前にこんなに美味しいものを作っていたタタン姉妹は素晴らしい!!と感動しました。

〜読みかけの資料にはこんなことまで!!〜
   お腹いっぱいになって部屋に戻ると先程の資料には続きがあり、作り方から提供の仕方までたった一枚のこの紙にすべてが書かれていたのです。


タルト・タタンの作り方

◎準備するもの
・高さの十分にある型、マンケ型
・良質のバター
・砂糖
・薄く伸ばしたパート・ブリゼ
・りんご:作りやすい品種はゴールデン、レネット種、またはクロシャール種。皮を剥き、種を取り、大きな角切りにしておく。
◎作り方
・型の側面と底にたっぷりとバターを塗る。
・砂糖を全体に一層振り入れる。
・その上にりんごをきっちりと詰めて並べる。
・型の内側内径いっぱいに伸ばした生地で蓋をする。
・熱いオーブンに入れて25〜40分焼成する。この時間はオーブン、りんごの種類、生地の厚さによって変わる。しっかりキャラメリゼしたい場合は、生地をのせる前に高温のオーブンでりんごをキャラメリゼし、その後生地をのせる。
◎タルト・タタンの提供の仕方
・オーブンから出したら、粗熱を取り、型から抜きやすくするために包丁を周りに1周入れる。
・提供する皿を型にかぶせ、勢いよくひっくり返す。
・タルト・タタンが熱い、もしくは温かい状態で提供しなければならない。
・追加するものとして、生クリーム、コンフィチュール(ジャム)、提供時にフランベ用アルコールなどが挙げられるが、これらはタルト・タタンの持つ独特の味わいを変化させてしまうため、禁止している。なお、前もって作っておいたタルト・タタンは柔らかい火のオーブンで温め直してから提供する。
・レストランのメニューにタルト・タタンとあって、もしもジャムがかかっていたり、アルコールでフランベされていれば、それは名称の乱用であるので注意しなければならない。
・タルト・タタンはバターと上等なりんごの価値を証明する贅沢なデザートである。作り方はいくぶん変わり得るが、パティシエや料理人、主婦は、りんごとバターと砂糖と生地だけできちんと作って、タルト・タタンの本来の味わいをこれからも大事にしてほしい。
   最近の傾向ではタルト・タタンにバニラアイスクリームや生クリームを添えたものを見かけますが、ホテル・タタンでは添え物をせずに、りんご、バター、砂糖、生地だけの味を味わって欲しいということです。また、タルトを焼いている時に誤ってひっくり返してしまったと言われていますが、このように普通と逆に焼くタルトはソローニュからオルレアネ地方一帯に昔から伝わるものらしく、桃・洋ナシ・アプリコット・パイナップル・トマト・タマネギなどの野菜や果物で作られることもあるそうです。

〜町を歩く〜
   ホテル・タタンがもたらしたこの功績は町の至る所に浸透しています。町の入り口に位置する看板には堂々としたタルト・タタンが!そして製菓店はもちろんのこと、パン屋にもタルト・タタンはありました。さらにタバコ屋(新聞、雑貨などあらゆるものが売っている店。店によってはお酒を飲めるので、小さい町だとたまり場になっていることが多い)にはタルト・タタンの絵葉書がありました。


ラモント=ブヴロンの看板   パン屋の店頭。タルト・タタンの絵が描かれたウインドーがユニーク   絵葉書

ラモント=ブヴロン
の看板

 

パン屋の店頭。タルト・タタンの絵が描かれたウインドーがユニーク

 

絵葉書


ビストロのタルト・タタン

ビストロのタルト・タタン

   1軒のビストロの前でメニューにタルト・タタンを発見!早速中に入ります。ボリュームたっぷりの食事(この日のメニューはイノシシの煮込みとじゃがいものグラタンでした。狩猟が有名なこの地方ならではの1品)の後に一皿いただきました。どんなりんごを使っているのか興味を持ったので店員にりんごの種類を尋ねると、ゴールデンを使っているとのことでした。酸味はあまりなく、キャラメルがしっかり内側まで染み込んでいて香ばしい味でした。
   その後訪れたパン屋のマダムにもりんごの種類を聞いたところ、「今の時期、りんごはガラ種を使用するけれど、このりんごの旬が短いので、ガラの後にはゴールデンを使うわ」と話してくれました。また、こちらのお店は過去のタルト・タタンコンクール(毎年9月の不特定日曜日に行われる定期市の中の一環としてコンクールがある。2008年で12回目を迎える) で過去2回優勝しているお店でした。キャラメリゼしたりんごを型に並べて焼き、あとから別に焼いておいたサブレ生地をのせたものです。ビストロで食べたものと同様、内側までキャラメルが染み込んでおり、りんごの酸味よりもキャラメルの甘さと苦さが印象的でした。
   また、製菓店のマダムは1年中ゴールデンを使用すると教えてくれました。こちらは生のりんごと砂糖、バターを型に入れ、生地もかぶせて焼成したような仕上がりでりんごと生地の一体感があり、美しいピンク色をしていました。味はキャラメルの味をほとんど感じず、りんご本来の酸っぱさを感じました。砂糖の甘さはかなり控えめでした。酸味のあるりんごが向いていると思い込んでいた私は「レネット種(酸味が強い品種)は使わないの?」と尋ねたのですが、マダムは「あれも悪くはないけれど、ちょっと酸っぱすぎるのよ。それにゴールデンは通年市場にあるものだから手に入りやすいし、とにかくこれでやるのが美味しいのよ」と答えてくれました。美味しいのよと言われたら理論やうんちくを並べる理由がなくなります。

パン屋で買ったガラを使ったタルト・タタン。この大きさで4人前(13.80ユーロ)   パン屋の店頭。直径よりも人数で表記されることが多いのもフランスならではの特徴。日本の製菓店では号数や直径で表記されることが多い   菓子屋で買ったゴールデンを使ったタルト・タタン(12.40ユーロ)

パン屋で買ったガラを使った
タルト・タタン。
この大きさで4人前(13.80ユーロ)

 

パン屋の店頭。直径よりも人数で表記されることが多いのもフランスならではの特徴。日本の製菓店では号数や直径で表記されることが多い

 

菓子屋で買ったゴールデンを使ったタルト・タタン(12.40ユーロ)


   最後に食べるときの温度ですが、両店のマダムは『必ず温かい状態で提供してね』と、私に念押ししました。製菓店のマダムにはさらに「タルト・タタンだけで食べてね。ほかのものを添えるとタルト・タタンの味が壊れるから」と付け加えました。タタン姉妹の教えに忠実だ!姉妹の想いはこうして継承されているのだ、と感動しました。

〜作ってみました〜
   感動がさめないうちに! 早速マルシェに行って季節のりんごでタルト・タタンを作り比べてみました。フランスでも日本と同様、通年市場にありますが、種類が豊富になるのは秋を過ぎた頃からでしょう。
   皮・種を除いた状態に対して1割の砂糖とバターを加え、同じ時間、同じ温度、同じ型で焼成しました。出来上がりの色の違いは判断しにくかったのですが、味の違いははっきり出ました。

市場のりんご   りんごの品種別味比べをしました。左からエルスター、アカネ、アリアンヌ。上がレーヌ・デ・レネット、下がガラ

市場のりんご

 

りんごの品種別味比べをしました。左からエルスター、アカネ、アリアンヌ。
上がレーヌ・デ・レネット、下がガラ


アリアンヌ
Ariane

価格

1.10ユーロ/kg

甘さ(生食)

甘い。酸味は少ない

果汁(生食)

少ない

硬さ(生食)

柔らかい。サクッと切れ、
少し乾いた感じ

果肉の色

黄色

タルト・タタン

生食の味とほとんど変わらない。繊維が残り、ざらついた食感

アカネ
Akane

価格

1.40ユーロ/kg

甘さ(生食)

甘酸っぱい

果汁(生食)

少ない

硬さ(生食)

硬い。歯ごたえがある

果肉の色

真っ白

タルト・タタン

りんごの味が抜けてバター臭い。生で食べた方が美味しかった

レーヌ・デ・レネット
Reine des reinette

価格

1.40ユーロ/kg

甘さ(生食)

酸っぱい

果汁(生食)

少ない

硬さ(生食)

硬い。実が締まっており、パキッと割れる

果肉の色

タルト・タタン

酸味がかなり強い。5種類の中で一番酸っぱい。コンポートに近い

エルスター
Elstar

価格

1.40ユーロ/kg

甘さ(生食)

甘酸っぱい

果汁(生食)

程よくある

硬さ(生食)

程よく硬い。かむとシャリッとする

果肉の色

黄色味がかった白

タルト・タタン

甘みと酸味のバランスが非常によく、りんごのうまみを感じる。きれいなピンク色

ガラ
Gala

価格

1.40ユーロ/kg

甘さ(生食)

甘い。酸味は少ない

果汁(生食)

程よくある

硬さ(生食)

柔らかめ。アリアンヌより歯ごたえはある

果肉の色

黄色

タルト・タタン

5種類の中で一番甘い。キャラメルの味を強く感じる


   カロリーヌは1911年に64歳で、ステファニーは1917年に79歳で亡くなりましたが、失敗から生まれたタルト・タタンは、今でもラモット=ブヴロンの名物として、ホテル・タタンのレストランでタタン姉妹のレシピに忠実に焼かれています。
   しかし人生では何が幸いするかわかりません。料理または菓子作りで失敗をすることも多いでしょうが、あきらめないで色々工夫をしてみましょう。そこから世間をあっと言わせるような、まったく新しい一品が生まれるかもしれません。タルト・タタンのように。

   今回の取材でぺろりと食べたタルト・タタンは18個! 実験で作った5種類とそれぞれのりんご5個! 作りはしなかったけれど市場で買って食べてみたりんごがこのほかに数種類・・・食べ飽きた? そんなことはありません。改めてりんごの美味しさを再確認しました。来週の日曜日もマルシェに行こう! そして新しいりんごに出会えたらぱくり!と味わってみよう。
   みなさんも機会があれば、ぜひ本物の味を味わってみてはいかがでしょうか。もちろん家でも手軽に作れるお菓子のうちのひとつなので、ぜひ!挑戦してみてください^^タタン姉妹もきっと喜ぶはず!



 

コラム担当

辻調グループ校 製菓部
人物 長谷川 陽
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