REPORT

代表 辻芳樹 WEBマガジン

<校長×留学生>茶話会模様

Chef’s interview

2015.01.23

1月21日(水)、辻芳樹校長と留学生の初めての茶話会が開かれました。サロンに集まったのは13名の留学生(希望者)。国籍も台湾、韓国、中国、そしてインドネシアと多様。調理師本科・調理技術マネジメント学科、製菓衛生師本科・製菓技術マネジメント学科と、在籍校舎も様々。サロンに座した学生たちはやや緊張の様子。それを見てとった校長が「まずは好きな飲み物をとって、リラックスしてください」と空気を和らげる。

001-s.jpg 013-s.jpg

「みなさんで議論しましょう。まずは何を議論するかを提案してください」との校長先生の呼びかけにまず発言したのは:


・韓国国籍の女性(辻調理師専門学校学校在籍→辻調理技術研究所日本料理研究課程へ進学予定):
アメリカで仕事をしていた時に日本料理の素晴らしさに開眼。どうしても日本料理の技を学びたく入学。食べ歩きに行った京都の2軒の料亭について、料理の相違点(食材にフォアグラをはじめ、本来、日本料理では用いない食材を用いた料亭A。あくまで日本料理の伝統にのっとった食材で構成された料理を提供してくれた料亭B)を写真とともに提示し、(質問1)自国に帰って日本料理を提供する際に伝統的な日本料理で風味的に問題はないか。そして、本物の風味とは何か、という質問が出された。

007-s.jpg

・現在調理技術マネジメント学科2年生の女性(韓国):
調理を選んだのは西洋、日本、中国のすべての技術を学べるから」と言う。とりわけ興味があったのはフランス料理。フランス料理ならフランス本国へというイメージがあるが、自国の料理ではないにも関わらず高いレベルで提供する店が多い日本に興味を持った。果たして(質問2)韓国でフランス料理を出す場合、やはり韓国の客に合わせた風味にアレンジすべきかを考え中。

校長:この二つの質問は同じジャンルだと思いますので、後でまとめて僕の考えを言います。でも、難しいなぁ(笑)

・調理技術マネジメント学科2年生の女性(台湾):
フランス料理を学ぶために来日、入学するが、日本で料亭に行き、日本料理の美しさ、その風味に感動し、日本料理の技を学ぶ方向に転向。現在、卒業生が経営する日本料理店にてアルバイトをしているが、女性の場合はなかなか厨房に入れてもらえないのが残念。将来は台湾で日本料理の店を出したいと考えている。その際に、(質問3)自分が好きな日本酒を出したいのだが、食中酒としてはアルコール度数が弱い日本酒をどのように提供すればいいかを考えている。

校長:これも先ほどとほぼ同じ内容ですね

009-s.jpg 010-s.jpg


・製菓技術マネジメント学科2年生の女性(中国):

来日して日本の洋菓子に接し、その美味しさに感動して製菓学校に入学。ヨーロッパ研修旅行にも参加したが、アジアの味覚には日本の洋菓子が合っていると思う。(質問4)故郷が上海の郊外なので、そのような土地では材料代が高く、販売価格が必然的に高くなるので、なかなか商売としては難しいと思っている。この件に関してのご意見をください。

校長:この問題は日本の地方でも同じことではないでしょうか・・・

・調理師本科の男性(中国):

もともとはフランス料理あるいはイタリア料理を希望していたが、来日して断然日本料理をしたくなった。留学生(外国籍)が日本に残り、仕事ができないことが悔しい。

学校の方から、もう少し留学生のサポートを充実するようお願いできないか。

校長:韓国にはコンピトゥムの支部があります。これは支部を構成するに十分な人数の卒業生がいるということですが、中国の方はまだまだ数が少ない。これからだと思います。様々なネットワークの構築に関しては、あなた自身が積極的に先頭に立って動くという気持ちを持っていただきたい。日本に残って現場で仕事をするということについては学校だけではどうにもならない部分がある。法務省、厚生労働省など政府機関側の問題も関わってきますね。

・製菓技術マネジメント学科卒業→調理師本科在籍の女性(インドネシア):

自国のインドネシアでは洋菓子を食べる習慣も基本的にはないし、味覚のレベルも日本のレベルに達していない。(質問5)自分の作る料理あるいはお菓子のアイデンティティをくずさずに客の味覚の教育というものはできるものなのでしょうか?

011-s.jpg 014-s.jpg

校長:共通項のある質問が多かったので、僕自身の考えを少し述べてみます。学校がどうしてニューヨークで『ブラッシュストローク』の運営に関わっているか?どうして距離的にもっと近く、また富裕層も多く生活している香港ではなかったのか、あるいはどうしてミラノやロンドン、あるいはパリではなかったのか、それは<美味しいもの>に対して強い欲を持つ人々が多く、"ファッション"として日本料理を好むのではなく、たとえ価格が高くても「本物」を食べたい人たちが数多くいる、というような基準から考えるとニューヨークになったということです。パリはどうかというと味覚的にははるかにレベルが高い。しかし、いかんせん絶対数が少ないのです。ミラノやロンドンでは日本食は"ファッション"でしかない。

日本料理をどのように世界へ発信するかということよりも、世界の人たちが日本料理をどのように受け取るかということの分析のほうが大切に思いますね。

日本で、海外の食材などを多用した日本料理を作ると進化しにくいでしょうね。フランス料理を例にするとわかりやすいと思います。フランス料理ほど、これほど世界に広まった料理はないといえます。しかも、今は各国で特有のフランス料理が形成されつつあります。それはもはや、その国の料理として存在しつつあるのではないでしょうか。ではもっとも進化したフランス料理はどこにあるのかというと、僕はフランスにあるフランス料理が最も進化していると思います。フランス料理のフレームをしっかりと守った中でこそ、進化があるのだと考えています。


料理店をしっかりと運営するには少なくとも1000種のレシピが必要です。1つのレシピから少なくとも5種の派生があるとすると、200種のレシピ知っていれば1000種のレシピを手の内にできます。これが"引き出し"です。ひとつの料理から何種類の派生を考えつけるか、そこに"引き出し"の多さが問われます。

料理において「まったく誰も作ったことのない料理」などというものはもう存在しません。絶対に誰かがどこかで(場所及び時間軸の違いはあっても)必ず作っている。

「本物を知る」というのは、例えばポール・ボキューズさんの"スズキのパイ包み焼き"を食べて「これが本物の味か!」というようなものではなく、「なぜパイ包みにするのか?パイで包み込むことでどういった風味が期待できるのか」あるいは「なぜソース・ショロンなのか?なぜスズキなのか?」等々をしっかりと分析することが「本物を知る」ということです。そして、これが先ほど言いました"引き出し"を増やすことにつながります。

それぞれの国で日本料理なり、フランス料理なりを提供する場合は、現地の食材をいかに上手く用いるかを考えるべきです。できるだけ自国の食材を用いたほうが原価を抑えることができます。また、それぞれの国によって料理の果たす役割が異なります。それはそれぞれの国における価値観の相違です。ですから、店が繁盛するのは決して料理だけが要因になっているわけではない。「演出」がとても重要な要因になることもあるということです。

016-s.jpg

校長:一方的に話すだけになってしまいましたね。ぜひ、この続きをやりましょう。皆さんは今日出された議題を自分なりに考えてみてください。そして、次回にはさまざまな意見が行き交うようにしましょう。

ということで3月の上旬に続編が行われることになりました。

続編も掲載します。