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コミュニケーションツールとしての食の役割[第1回]
2008年09月01日

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お待たせしました。いよいよ<今月の顔>がスタートです。
このコーナーではさまざまなジャンル方々と対談、インタビューなどを通じて、辻調グループ校のもうひとつの側面を見ていただきます。
9月は辻校長と「外交の食卓から国際政治を読み解く」ジャーナリスト西川恵氏が辻調グループ校サテライトキャンパス"AKIBA カフェ"にて行った対談を4回に分けてお届けします。

対談:
西川恵氏(毎日新聞専門編集委員)
辻芳樹氏(辻調理師専門学校 理事長・校長)

第1回 洞爺湖サミット晩餐会メニューを巡って

西川恵氏(以下西川):今月の初めに行われた洞爺湖サミットでのメニューはご覧になりました?
どういう感想をお持ちですか?僕自身はちょっとちがうのではないかという感触を持ったのですが、いかがでした?

辻校長(以下辻):日本でこういった大きな公式の晩餐会を行うとどうしても「和」と「洋」を融合させないといけないというような変な固定観念があると思うのですが、僕はいずれかにしてしまえばいいという考えです。
西川さんご自身はこのメニューを見られてどのように思われたのですか?
今、仰った「ちょっとちがう」というのはどのあたりで感じられたのですか?

西川:全体的にみて、皿数が多いのではないかな、と思ったんですね。魚料理は余計じゃないかって。4品ですよね。最近、日本の公式晩餐会などの場合、皿数がどんどん多くなる傾向にないですか?外国の場合は反対にむしろ減らしていくのが普通になっているような気がするんです。

辻:それは外交上の食卓のことですか?

西川:そうです。

辻:僕はあまり外交上の食卓の傾向というのはあまりよく知らないのですが(笑)、少なくともレストランでは皿数も、分量も少なくなってきていることは確かです。今回のサミットのメニュー内容の評判はどうだったのですか?

西川:評判そのものは北海道の食材を使ったということでけっこうよかったのですが、メインの晩餐会で日本産のワインを1本も使っていないのが残念だ、という声はあったようです。僕もなぜ日本産ワインを使わないのかなっていうのが正直な感想でしたね。

辻:なるほど。サミットの晩餐会の場合"ホスト"は決まっていますよね。でも、招待される会食者たちの味の嗜好がちがいすぎるから、いったい誰の味覚に合わせればいいのかが非常に難しいですよね。

西川:例えば沖縄サミットの場合はどうでした?
シラク氏(当時のフランス大統領)の味覚に合わせたという話は?

辻:内々の話としては、です。料理を通じて外交しよう、と言っても、それを成功させる材料が少なすぎます。テーマは決まっているがそれを本当に料理で表現できるのかという問題があります。特に今回の主要テーマ「環境問題」などは料理で表現しようとするととても難しい。

西川:確かに難しいでしょうね。もし、2000年の沖縄サミットを受け持った辻さんが仮に今回のサミットも受け持たれたとして、どういうコンセプトでなされますか?
例えば2000年のときは「環太平洋(パシフィック・リム)」というコンセプトがありました。あれから8年たち、時代も変わって、今度は南ではなく、北の北海道で、ということになりました。そういった条件の中でどういうコンセプトでプロデュースされますか。

辻:もう二度とやりたくないですが(笑)、ある特定の地域の食材にこだわるという「地産地消」というよりは日本中から有能な料理人を選んで、メニューを組み立てるということもありうるか、と。

西川:それぞれの料理人が一品ずつ作っていく?

辻:そう、その料理人のスペシャリテを作る。

西川:なるほど。

辻:かつてはそれぞれの料理人が自らのスペシャリテというものを持っていましたが、最近はそれが非常に見えにくくなってきています。でも、そんな中でも料理にしっかりとしたアイデンティティを持つ料理人を5人ぐらい選抜して、それぞれに自らの料理を作っていただく。そして、それぞれの料理を上手くメニューとして組み立てると、けっこうストレートに日本の料理技術力の深さを表現できると思います。"ホスト"国が日本である以上、日本の料理の底力、文化的な深さなどを見せ付けることで十分な気がします。でも、こういった公式晩餐会の場合はあまりにもホスト側の船頭が多すぎるかも知れませんね。

西川:そうなると担当する料理人にとっては難しいですね。

辻:はい。命令系統が不明確になりますから。ところで、本来首脳晩餐会は最終日だと思いますので、サミットはサミットで切って、最後に晩餐会で楽しい会話を交わすというのが形だと思うのですが、今は晩餐会の場までもが「サミット」になってしまっていますよね。

西川:最近は初日に夫人同伴で晩餐会を行ってしまいます。ですから「明日からよろしく」という意味合いになっていますよね。沖縄サミットのときは確か最終日でしたね。若干首脳晩餐会の位置づけが変わってきています。

辻:本当はホスト国の首脳が晩餐会のメニューの内容とかその意図とかをすべて知っている必要があります。そうしてこそ初めて"ホスト"が務まると思います。いずれにしろ"ホスト"役というのはなかなか大変なものですよ。

西川:今回のサミットを見ていて、福田首相ご自身は料理もお好きだし、ワインにも興味もたれているけれどイニシアチブはとらずに任せました。沖縄サミットのときは故小渕首相が準備段階からけっこうイニシアチブをとられていましたので、今回もそうなればいいな、と思っていたのですが、そうではなくまた以前のような流れに戻ってしまったのが残念。

辻:料理そのものをもっと簡素化し、わかりやすく、もっと親しみやすくすればいいんですよね。

西川:やはり沖縄のときのようにチームを組んで、そのチームをまとめる人がいて、全体をデザインしていくというようなことが必要なんじゃないかなと思いますね。沖縄サミットの時、総合プロデュースを担当された安倍寧さんが仰っていましたが、飛行機で辻さんと出会った際に沖縄サミットではどういう方向性の料理を作るべきかを尋ねたら、辻さんが「今、料理はやはり環太平洋(パシフィック・リム)でしょう」という話をされたので、お願いしたということですが・・

辻:いや、それは安倍先生が仰ったんですよ、て、お互いに言い合っている(笑)。実は浅利慶太先生経由で安倍先生とお話をして、沖縄という地理的な条件から「環太平洋(パシフィック・リム)料理」にしないといけないんじゃないかな、ということになったと思います。ただ、サミット実施が7月の真っ只中なので、沖縄の食材は使えるけれども日本料理は無理でしょうねという話もしましてフランス料理に落ち着いたのですが、小渕首相が急逝され、フランスのシラク大統領が日本料理を所望しているということになって、外務省とのせめぎあいがありました。

西川:沖縄サミットの時も、いろんな要望がいたるところからとんできたと思いますが、でも、沖縄サミットの饗宴というのはメッセージ性もとてもクリアだったと僕は感じました。

辻:まわりのサポートがしっかりしていましたし、ほとんど横槍がなかったですから思うようにさせていただけたおかげだと思っています。

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洞爺湖サミット晩餐会メニュー

晩餐会テーマ:"北海道、大地の恵み""上質な素朴"

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〈メニュー〉

・八寸七夕飾り

・オホーツク産毛ガニのビスク"カプチーノ"

・きんき塩焼 たで酢

・白糠産、乳飲仔羊肉のポワレ香草風と仔羊鞍下肉のロースト、セップと黒トリュフ風味、仔羊のジュと松の実オイルのエマルジョンソース

・熟成チーズ各種とラベンダーの蜂蜜、ナッツのかるいカラメリゼ添え

・ファンタジーデザートG8

・コーヒーと果実と野菜のコンフィ

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〈ワイン&酒〉

・ル・レーヴ グラン・クリュ/ラ スル・グロワ (フランス)

 Le Reve Grand Cru Brut/La Seul Gloire (Champagne・FRANCE)

・磯自慢 純米大吟醸中取り 磯自慢酒造(静岡)

・コルトン・シャルルマーニュ 2005/ルイ・ラトゥール(フランス)
 Corton Cahrlemagne 2005/Louis Latour (Bourgogne FRANCE)

・リッジ カリフォルニア モンテ ベロ/リッジ・ヴィンヤーズ(USA)
 Ridge California Monte Bello 1997/Ridge Vineyards(USA)

・トカイ エッセンシア 1999/キライウドヴァール(ハンガリー)
 Tokai Esszencia 1999/Kiralyudvar Vineyards&Winary (Hungry)
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次回は父、辻静雄から受け継いだもの"ホスト"という役目です。

辻芳樹
1964年大阪生まれ。12歳で渡英。米国でBA(文学士号)を取得。1993年に父である故辻静雄の跡を継ぎ、辻調理師専門学校校長、辻調グループ校校長に就任。欧米の食の最前線を調査研究し、プロの料理人教育に生かす一方で、日本の食文化の海外への発信にも取り組んでいる。共著に『美食進化論』、編著に『料理の仕事がしたい 』、著書に『美食のテクノロジー』 がある。

西川恵
長崎生まれ。71年に毎日新聞社入社。テヘラン、パリ、ローマ各特派員を経て外信部長。現在は専門編集委員。著作に『エリゼ宮の食卓―その饗宴と美食外交』(97年サントリー学芸賞受賞)『ワインと外交 (新潮新書 204)』などがある

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