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【とっておきのヨーロッパだより】日常生活の中のハラール食
2019年07月31日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>




みなさんは「○○食」といえば、どんなものを思いつくでしょうか。
朝食に昼食、洋食と和食、草食に肉食などたくさん思いつくでしょう。しかしながら「ハラール食」とは、多くの人たちにとってあまりなじみのない言葉ではないではないでしょうか。

この「ハラール食」とはイスラム教徒の食事を指します。イスラム教は多くの国で信仰されており、日本の周りだとマレーシアやインドネシアが主な国です。フランスはヨーロッパなのでキリスト教が主流ですが、アルジェリアやモロッコなど北アフリカからの移民が多いので、イスラム教徒もたくさん住んでいます。


写真1
レクレール校のある町ヴィルフランシュ=シュール=ソーヌ Villefranche-sur-Saoneにあるハラール食品店


朝食は単に朝に食べる食事と狭い意味もあれば、洋食のように広い範囲を示す言葉があります。「ハラール食」は洋食のように意味がたくさんあります。どのような切り口から調べてみるか、なかなか思いつきませんでした。そこで今回は、身近なスーパーマーケットで売られているハラール食品を購入し、そこから何がわかるか探ってみようと考えました。

実際の商品を見ながらフランスにおけるハラール食品についてお話をする前に、「ハラール」という語についてもう少し説明しておきましょう。

イスラム教がもとになっているイスラム法は、人々の行動や考え方を「義務」「推奨」「中立あるいは許容」「忌避」「禁止」と5つに分けています。大まかにいえば「許される」行為なのか、「許されない」行為なのかに区別しています。アラビア語で許可された事柄を「ハラール」と呼び、禁止されている事柄を「ハラム」と言います。

イスラム教徒と言えば、飲酒と豚肉の摂取を禁止が一般的によく知られています。この2つは「ハラム」です。他の肉に関しても、イスラム教の儀式に従い精肉されたものを食べなければいけません。だからいくら豚肉ではないからと言っても、日本のやり方で加工されたものを食べるのは「ハラム」で、イスラム法が定める技術で処理されて初めて鶏肉や牛肉が「ハラール」となります(注1)

スーパーマーケット『ジェオン・カジノ Géant Casino』は、フランスのみならずイギリスやスペインにまで展開している大手チェーンです。フランス・レクレール校の近くにも大きな店舗があり、研究生もよく利用しています。広い体育館を思わせる店内でハラール食を探してみたところ、冷凍食品売り場の一角に売られていました。今回は3つの製品を購入しました。


写真2 写真3 写真4
(左)フランスではファーストフードとして人気のケバブ
(中)日本でもおなじみのハンバーグ
(右)意外なことにクレープにもハラール認証がついている。右下のお茶はイスラム圏でよく飲まれるミントティー


左端の『オリエンタル・ヴィアンド Oriental Viandes』は、1988年に創業したハラール食品を扱う業界第2位の会社で、その隣にあるのは『ワシラ・ハラール Wassila Halal』と言い、こちらの商品を購入した大手スーパー『ジェオン・カジノ』のプライベートブランドです。右端はモロッコの会社『ブラディ BLADI』。残念ながらインターネットでこの企業についてフランス語で説明されたサイトを見つけることができず、今回のテーマを掘り下げるための資料として採用せず、参考までに紹介のみしておきます(注2)

この3つを見比べたとき、最後にクレープがハラール食品であるとは意外な気がしないでしょうか。実はハラールと言っても肉だけを指すのではないのです。

下記のグラフは、2社『オリエンタル・ヴィアンド』と『ワシラ・ハラール』のホームページにのせられている商品をまとめたものです(注3)
前者は全部で20種類の商品を扱っており、後者は103種類もあります。ソーセージとハムと記載されている商品は、当然のことながら豚肉を使用した製品ではありません。これは「カシール」という牛肉や鶏肉を使ったアルジェリアの特産品のことです。

グラフ1 オリエンタル・ヴィアンド
グラフ2


グラフ2 ワシラ・ハラール
グラフ1


こちらのグラフからわかることは、必ずしも肉製品だけがハラール食ではなく、たくさんの食べ物をハラール食として使っているということですね。『オリエンタル・ヴィアンド』では、サラダやデザートがあり、バリエーションが豊かです。『ワシラ・ハラール』では意外なことに、スパイスと乳製品を合わせると全体の四分の一を占めています。


なぜ肉製品でない食品も「ハラール食」扱いにする必要があるのだろう、という疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。
『食のハラール入門 今日からできるムスリム対応』(注4)によると、

非イスラム諸国では、豚はとても有用な動物で、肉のみならずゼラチンやラード・ショートニング・エキス・乳化剤・発酵改良剤・L-システインなどさまざまなかたちで利用されている。そのため、食パン・クッキー・チーズのような、一見何の問題もなさそうな食べ物にも添加物として豚由来成分が含まれている可能性がある。(注5)



と説明されています。イスラム教徒としての食生活を守るためには、材料や製造工程から豚由来成分が含まれる可能性を避ける必要がある訳ですから、豚肉とは一見関係のないような加工食品があることも納得がいきます。

それでは、どうやって「ハラール食」だと見分けることができるのでしょうか。

イスラム教圏に住んでいれば、周りの人々はすべてイスラム法に基づく行動をとっており、ハラムとみなされる食品を手にすることはほぼありません。そこでフランスなどの非イスラム国では、両社とも自社の製品がハラール食である証明としてパッケージに認証のマークをつけています。

写真5
ハラール認証マーク。どちらもモスケ(イスラム教寺院)が描かれている。ちなみに右の写真にあるトリコロール模様は「フランス産の肉を使用」のマーク



フランス内務省の2014年の統計によると、フランス国内には「モスケ Mosquée」と呼ばれるイスラム教の寺院が、2052もあります。
その内訳をみると大都市には三つから四つも寺院があり、中規模の都市にも必ずひとつは建設されているなど、フランスにイスラム教徒が多いことがうかがえます。

最も大きい寺院はパリ近郊にある『モスケ・デヴリー=クールクロンヌ Mosquée d'Evry -Courcouronnes』です。『オリエンタル・ヴィアンド』社はこのフランスで一番大きなイスラム団体から認証を受けており、『ワシラ・ハラール』社は、こちらともうひとつ『アソシアシオン・リチュエル・ドゥ・ラ・グランド・モスケ・ドゥ・リヨン Association Rituelle de la Grande Mosquée de Lyon 』の両方から認証を受けています。こちらは1995年に建設されたモスケで、20年以上の歴史があります。


今回取り上げた2社の商品リストをみて、サラダなど意外な商品にもハラール認証が必要であることは先ほど見ました。
前掲書『食のハラール入門 今日からできるムスリム対応』によると、ハラール認証は宗教的な観点からだけでなくハサップ(HACCP :アメリカで作られた衛生管理)や、食品製造に関する専門知識が求められると言っています(注6)
さきの2つのモスケ(イスラム教寺院)のサイトを見ると、確かにハラール認証を担っているという説明があります(注7)

イスラム教のモスケとは、イスラム教徒にとって祈りの場であり、宗教的指導者を中心として信者たちが信仰について話し合う場なのですが、食品衛生などの科学的な責任まで追わなくてはいけないのも意外なことでした。実際にどのようなステップを踏んで認証をするのか気になるところですが、こちらの調査はまたの機会にしたいと思います。


最後に、気になる味についても触れておきましょう。
さっそく購入した商品を食べてみました。結論から言うと、ハラール認証でないものと同じような味で、どこにでもある普通のハンバーグ、ケバブにクレープです。

それではどうしてハラールであるハンバーグとそうでないハンバーグが売られているのでしょうか。
人が料理に求めるものでまず思い浮かぶのが、おいしさでしょう。次に値段の安さ、すぐに手に入れられる利便性もまた大切な要素です。近頃では、食の安全性も求められているし、地球温暖化などの問題から持続可能な社会にふさわしい食品を求める動きもあります。
そんな風にいろいろと考えていくと、ハラール食品に求められるのは「食べる人のアイデンティティと食の一致」ではないでしょうか。

宗教は大きく二つに分けて「オーソドクシー」と「オーソプラクシー」に分けられます。
オーソドクシーとは、宗教が示す考えを正しく理解することが求められ、キリスト教がこれに当たります。オーソプラクシーとは、宗教が決める行動様式に従い、ふさわしい振る舞いをしなくてはなりません。イスラム教はこちらに当たり、イスラム法の定める規律を守り行動することで、イスラム教徒としてのアイデンティティを確立することが重要です。

イスラム教圏にとどまっていれば、周りの人々もイスラム法に従ってふるまい、違反する行為に身をさらすこともないし、自然と「私はイスラム教徒である」と考えることは難しくありません。そこに「私は本当にイスラム教徒なのか?」とアイデンティティの危機はほぼないでしょう。しかしその空間から出てしまったとき、ここでは非イスラム国であるフランスでイスラム教徒として生きるとき、これまで守ってきた自分のアイデンティティをどうやって守り抜くかが問題になってきます。フランスで見られるハラール食品は、こういった消費者の希望にこたえるためにあるのでしょう。

近年、先にあげたインドネシアやマレーシアのイスラム教圏から多くの旅行者が来日し、日本の飲食業界でもハラール認証を取得しようという動きがあります。提供する料理がハラールかハラムかという表面的な問題だけにとどまらず、相手がどのような思いで食卓についているかと一歩踏み込んで考えることで、さらによりよいサービスを行うことができるのではないでしょうか。





注1:
八木久美子 『慈悲深き神の食卓 イスラムを「食」からみる』 東京外国語大学出版会、2015年、46~101ページ。
今回の記事では、主に肉について取り上げた。しかしながらイスラム圏の食文化はそれだけでなく、パンやジュースに料理、食事法など多岐にわたる。それに加え、こちらの書著ではイスラム圏の食文化や食にまつわる社会問題を取り上げて興味深い。また「ハラム」「ハラール」の問題も、ここで説明しているような単純なものではない。そこには人々の生活という現実と宗教の間を取り持つバランスが働いている点を知るのも同書は一読に値する。

注2:
イスラム教徒が多いマレーシアから輸入されたもの。

注3:
Wassila halal : http://www.wassila.fr/     
Oriental Viandes : http://www.orientalviandes.com/les-produits.html

注4: 阿良田麻里子 『食のハラール入門 今日からできるムスリム対応』 講談社、2018年
注5: 同掲書、43ページ。
注6: 同掲書、41-42ページ。

注7:
『Association Rituelle de la Grande Mosquée de Lyon』
http://mosquee-lyon.org/

『Mosquée d'Evry Courcouronnes』
http://www.mosquee-evry.fr/modules/pages/index.php?pagenum=32

このコラムの担当者

谷口智美 TANIGUCHI Tomomi


■現職(肩書き)

辻調グループ フランス・レクレール校 教務部

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