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【とっておきのヨーロッパだより】ノルマンディーのりんごのお酒
2010年03月10日

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<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

フランスで生産されるお酒といえばワイン、シャンパーニュ、コニャック・・・。これらはぶどうを原料としたお酒でありフランス各地で造られていますが、今回訪れたノルマンディー地方ではりんごを原料としたお酒「シードル」「カルヴァドス」が多く生産されています。
フランスの北西部に位置するノルマンディーの気候や風土はぶどうの栽培には向きません。しかし、その穏やかで湿気のある気候と粘土質の土壌、そして日照条件はりんごの栽培に適しているため、この地では何世紀にもわたってりんごが栽培されているのです。


のどかな牧草地が続くノルマンディー地方

今回私が訪れたのは、バス=ノルマンディー地方のカルヴァドス県。そう、「カルヴァドス」というお酒は、この地名に由来するのです。パリから電車に乗ると、ノルマンディーは酪農が盛んな地方、車窓からの景色はのどかな牧草地が続き、1時間半ほどでリジューLisieuxという街に着きます。このあたりはシードル醸造所(シドルリcidrerie)とカルヴァドス蒸留所(ディスティルリdistillerie)が多く、見学させてくれるところもあります。今回私が訪問したのは、リジューの北9kmほどの所にあるシャトー・デュ・ブルイユChâteau du Breuilと、リジューから西2kmほどの所にあるペール・ジュールPère Julesです。どちらも各工程を説明しながら建物を案内してくれました。

カルヴァドス蒸留所ペール・ジュールの看板。見学ができる

■シードルの醸造
りんごの収穫は9月から11月の間。シードル、カルヴァドス用のりんごは食用のものよりも小ぶりでかたく、酸味のあるものが栽培されます。と、ひとことで言っても、その種類は数百種にもおよび、酸味の強いもの、糖分の高いもの、苦味を含むものなどさまざま。シードル造りにはこれらのりんごをブレンドして使います。

シードル用りんごの木の仕立て方には2つのタイプ
高木作り(オート・ティージュhautes tiges) ノルマンディーに古くからある背の高い木。木の下では牛などが放牧される。1ヘクタールあたり最高250本の木が植えられ、収穫高は最高25トン。
低木作り(バス・ティージュbasses tiges) 主に果物栽培用に果樹園に植えられる背の低い木。草は均一に刈られ、落下したりんごを衝撃から守る。高木作りとは異なり、家畜は入れない。1ヘクタールあたり1000本の木が植えられ、収穫高は最高35トン。


夏のりんごの木。高木作りで、木の下では家畜が放牧されている


整然と並ぶ低木作りのりんごの木

シードル用りんごの4つのタイプ
苦味種(アメールamère)
甘苦味種(ドゥース=アメールdouce-amère)
甘味種(ドゥースdouce)
酸味種(アシデュレacidulée)

苦味の多いりんごはシードルの厚いボディを作り、糖分の多いりんごはアルコール度数の元となり、酸味の強いりんごは搾汁後のジュースにシャープな味わいを作ります。取材に行った時にはりんごは実っていませんでしたが、写真や映像で収穫の様子を見ることができました。


春には白とピンクの花を咲かせます

収穫は手、または機械で行われますが、まずは木を揺すってりんごの実を地面に落とし、それを拾い集めるそうです。収穫したりんごは、乾いて風通しの良い場所で数週間追熟させます。
熟したりんごを使い、まずはシードル造りです。そしてそのシードルを蒸留してカルヴァドスを作ります。ちなみに1リットルのカルヴァドス(アルコール70%)を作るためには13リットルのシードル(アルコール5%)が必要で、そのためには18kgのりんごを使うそうです。


醸造所。手前のレーンで洗浄、右の建物に入り圧搾、奥にあるタンクで絞り汁を発酵


粉砕する機械


圧搾機

工場に運ばれたりんごはまず洗浄され、圧搾機でつぶされます。シャトー・デュ・ブルイユでは、写真にある各レーンの両側から水を出し、りんごを流水で洗いながら建物の中に送る仕組みになっていました。次いで、粉砕、圧搾した絞り汁はタンクに入れます。数日経つと固形分が上部に集まり、その下には澄んで明るい液体が現れます。この澄んだ部分だけを取り出すために別のタンクに移し、自然発酵を進めます。香りを守るため、発酵は低温(10℃前後)で行われ、りんごに自然に存在する酵母により糖分の一部がアルコールや炭酸ガスに変わります。最低6週間は発酵させてから瓶詰めします。
シードルとして商品になるには、瓶詰後も最低6週間はカーヴで熟成させる必要があります。タンク内での発酵が完全に終わる前に瓶詰めすることで瓶の中でも酵母が働き、生産された炭酸ガスが残ることでシードルは微発泡酒になります。ここでのアルコール度数は4~5%ほどです。

■カルヴァドスの蒸留
次に蒸留所の見学です。蒸留所に近づくにつれ、いい香りが漂ってきました。そして建物の中に入るとさらにりんごの優しい香りでいっぱいです!なんて幸せな空間!
カルヴァドスの蒸留を行うのは12月から翌8月。できあがったシードルは蒸留所に送られ、まず1回目の蒸留が行われます。

蒸留器

「アランビック」という蒸留器の仕組みを説明してもらいました。
まず写真中央の容器(予熱器)に入れられたシードルは写真左の窯に移り、下から加熱されて沸騰します。そして蒸発したアルコールは管を通って右のタンクへ。このタンクの中で冷やされた蒸気は内部のらせん状の管を通って液体に変わり、下の受器に集まります。この1回目の蒸留で溜まった液体のアルコール度数は約30%。これはブルイイBrouillis(粗留ブランデー)と呼ぶそうです。


冷やされたアルコールが管を通って下の受器にたまる

そして2回目の蒸留を繰り返し、蒸留の最初と最後を除いた部分を使います。これをクールcoeurと呼び、アルコール度数は70%にものぼります。写真が冷やされて液体になったアルコールが下の受器に流れて行くところ。透明なので見えにくいですが、左から2番目の管を流れ落ちています。この透明の液体を樽で熟成させることにより、たくさんの香り成分が生まれ琥珀色に変わっていきます。

「シェ」と呼ぶ熟成所

熟成させる部屋は「シェ(chai)」といいます。これは、地下にあるワインの熟成室を「カーヴ(cave)」と呼ぶのに対し、地上(1階)にある酒蔵を指すそうです。蒸留したカルヴァドスは、最初に新しい樽に入れます。そして木樽の色を吸い取って液体は琥珀色になります。次の段階では古い樽に入れ、ここで熟成を続けます。この熟成中、カルヴァドスは樽を通して外気と触れ合うことで滑らかな味わいと香りが与えられ、アルコールは少しずつ抜けていきます。ちなみに年間で1.5~2%のアルコールが樽の外に出ていき、これを「天使の分け前(La part des anges)」と言うそうです。

樽にはいくつかの情報が書かれている

ところで、この樽に書かれている数字が一体何を表わしているのかわかりますか? 「N405」は樽の番号、そして「C610」は樽の容量(610リットル)、「H93」は樽のサイズ(直径93cm)、「C XXII」は熟成年数(22年)、「PA」はペイ・ドージュの略、「R374」は樽の中に残っている液体量(374リットル)、そして「D52」はアルコールの度数(52度)を表わしているそうです。
A.O.C.製品は、規格により最低2年は樽で熟成させることになっています。古いものでは40年、50年と熟成させたものもあります。こうして樽の中のカルヴァドスには、りんごの種類や収穫年による品質の違い、抜けていくアルコール量の違いなどにより個性が生まれます。そのため、経験を積んだセラーマスターが異なる樽のカルヴァドスをブレンドしてバランスをとり、品質の安定を図ります。


A.O.C.カルヴァドスを産出する地区
橙:A.O.C.カルヴァドス・ペイ・ドージュ
黄:A.O.C.カルヴァドス・ドンフロンテ
橙+黄+緑:A.O.C.カルヴァドス


A.O.C.ポモー・ド・ノルマンディーを産出する地区

ノルマンディー地方にはりんごを使ったお酒に4種類のA.O.C.製品があります。A.O.C.とは原産地統制呼称のこと。フランスの農業製品、ワイン、チーズ、バターなどに対して与えられる認証で、製造過程及び最終的な品質評価において特定の条件を満たしたものにのみ付与される品質保証のことです。これを見ても、ノルマンディーが質の高いりんごのお酒の生産地であることがわかりますね。

4つのA.O.C.製品(りんごのお酒)
シードル・ペイ・ドージュ(Cidre Pays d’Auge)
ペイ・ドージュというのはカルヴァドス県、オルヌ県、ウール県が隣接した地域で、シードル・ペイ・ドージュはその地域で作られるシードルを指します。シードル・ペイ・ドージュを名乗るためには、ペイ・ドージュ地域で作られたりんごを使用すること、ブレンドするりんごの70%が苦味種と甘苦味種のりんごであることが条件です。
カルヴァドス・ペイ・ドージュ (Calvados Pays d’Auge)
ペイ・ドージュ地域で造られたカルヴァドス。ブレンドするりんごは最低70%は苦味種と甘苦味種のりんご、最高15%までは酸味種のりんごを使用します。蒸留はアランビックで、2度行うことと決められています。オーク樽で最低2年は熟成させなければいけません。
カルヴァドス (Calvados)
バス=ノルマンディー地方のカルヴァドス県、マンシュ県、オルヌ県の大部分と、オート=ノルマンディー地方のウール県、ペイ・ド・ラ・ロワール地方のマイエンヌ県とサルト県、サントル地方のウール・エ・ロワール県の一部を含む地区で作られたりんごの蒸留酒を指します。ブレンドするりんごはカルヴァドス・ペイ・ドージュと同じ規定がありますが、蒸留方法に特別義務はありません。主に円柱形の蒸留器を使うそうです。オーク樽で最低2年は熟成させなければいけません。
ポモー・ド・ノルマンディー (Pommeau de Normandie)
シードル用のりんごの絞り汁とカルヴァドスを合わせ、樽で熟成させたリキュール。絞ったりんごの汁にカルヴァドスを加えることでジュースの発酵を止めます。割合はだいたい絞り汁3に対しカルヴァドスが1。樽での熟成期間は最低でも14ヶ月。アルコール度数は16~18%。

そして、今回の取材で知ったのが、ノルマンディーでは洋なしを使ったお酒も有名であること。次の2つのお酒も、A.O.C.製品です。
ポワレ・ドンフロン (Poiré Domfront)
ポワレはシードルと同様に洋なしの絞り汁を自然発酵させて造る発泡酒。ドンフロンはオルヌ県の南西部の町の名前で、ポワレ用の洋なしの栽培で有名です。シードルと違い、収穫の72時間後にはすり潰し、すぐに発酵の段階に入り、タンクでの最初の発酵は6週間以内。
カルヴァドス・ドンフロンテ(Calvados Domfrontais)
蒸留するシードルに、ポワレを30%以上加えて作るカルヴァドス。蒸留は1回。オーク樽で最低3年は熟成させます。

右:シードル、左:ポワレ


左:シードル、右:ポワレ

写真のようにシードルはオレンジがかった茶色。ほんの少し渋みがあり、独特の香りです。ポワレは爽やかな黄金色ですね。シードルよりも軽く、甘みがあります。そのまま飲むときは、しっかり冷やしていただきます。これらは日常の飲み物として飲むほか、魚のクリーム煮込みや肉のローストなど、ワインを料理に使う感覚と同様に日常の料理に取り入れています。


カルヴァドス(左:15年物、右:20年物)

カルヴァドスは食後酒として飲まれたり、カクテルや料理、お菓子に取り入れられたりとさまざまです。ノルマンディー地方で昔から飲まれている「ノルマンディーの穴(Le trou normand)」と呼ばれる飲み物、これは食事の途中に小さなグラスで飲むカルヴァドスのことで、胃を刺激することで再び食欲が増すという原理です!伝統的にはそのままで、近年ではりんごか洋なしのシャーベットに注いで飲むこともあるそうです。カルヴァドスは20~30度とやや高めの温度で飲むと香りが引き立ってよいと言われています。食後のコーヒーを飲んだ後に、そのカップにカルヴァドスを入れて飲むという習慣も、理にかなっているのですね。
ポモーは、カルヴァドスよりジュースのほうが割合が多く、アルコール度数が高くないため、ほんのり甘くてまろやかで飲みやすいです。そのまま食前酒として飲まれたり、食事中からデザートまで幅広く合わせることができます。飲む時の温度は8℃~10℃がよいそうです。


タルト・ノルマンドといえばりんごを使ったタルト

「ノルマンド(ノルマンディー風)」と名前がつくと、りんごやカルヴァドス、シードル、または同じくノルマンディーの特産である生クリーム、バターなどを使ったお菓子や料理を指します。私が研修していたノルマンディーのお店では、焼きあがったタルト・ノルマンドにカルヴァドスをたっぷりかけていました!


この地方の名物、ガレットと共に


家庭料理(白身魚のノルマンディー風)にもシードルが使われている

今回、昔研修していたノルマンディー地方を訪ね、取材を通してその土地の良さを再発見しました。シードル、カルヴァドス以外にもおいしいものはたくさんあります!
次はりんごの実る季節にまた訪れたいと思いつつ、ノルマンディーの地を後にしました。

<コラムの担当者>
野口 恵

<バックナンバーはこちら(~2009/8)>

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