魚の王様といわれる鯛。この魚は、料理店や料理人にとっては大変ありがたい食材で、身の部分はもちろんのこと、肝臓・卵巣・精巣などの内臓類、頭の部分や中骨まで、商品価値の高い料理になります。特に頭部では、今回お話する「あら煮」をはじめ「骨蒸し」、「潮汁」、「かぶと焼き」といった、一般的には高級とされる料理が作れます。
料理店では、材料に人件費・設備費・光熱費といった諸々の経費を加え、料理の価格を設定します。たいていのお店では、原価の3倍ぐらいが売値といわれます。だから、上身以外が料理できない魚は原価率が高くなります。しかし、鯛は少々原価が高くても、頭だけでも充分商品になり、原価率を下げてくれる優れものです。
例えば、みなさんはお寿司屋さんに行って、何を頼めば得できると思いますか?「卵焼き」や「蛸」「胡瓜巻き」などの比較的安いものの原価は、売値の1/3以下と考えてよいでしょう。ところが、高級品と呼ばれる「大トロ」のにぎりは1かんの原価が\1,000とすると、それの3倍の1かん\3,000という売値になりますが、これでは高くてお客さんは食べてくれません。そこで、お寿司屋さんは泣く泣く原価の\1,000+\500の\1,500くらいに設定するといった状態なのです。
だから、お寿司屋さんは値段が高いといわれる「大トロ」などは、売れれば売れるほど、心の中で泣いていることでしょう。我々お客にとっては原価率的には得をしている訳です。
話を今回の料理の「鯛あら煮」に戻します。「あら煮」は「あら炊き」とも言いますが、12時間目にお話した「煮付け」とは異なります。いくら高級な鯛といえども頭の部分はクセも多いので、少し濃い目の味付けでじっくりと煮て、仕上げにクセを消すために絞り生姜をたらします。
「鯛あら煮」で一番おいしいとされるのが、目玉の部分です。もし、料理屋で「鯛あら煮」が大皿で出てきたら、サービスの人が取り分けて、一番上位の人にお持ちするのがここです。目玉の部分は、ゼラチン質のトロッとした食感がたまりません。
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| これが鯛の鯛です。 |
次においしいとされるのは、頬の部分です。鯛の頬には、胴の部分の2倍ぐらいの脂が含まれている上に、しかも、えらの周りで筋肉がよく動いているため、いっそう深い味わいがあるといわれます。
そして、私がお薦めするのは、かまの部分です。この部分も、頬に劣らず脂がよくのっていて身の部分が多く、身離れがよい部分です。かまの胸びれの付け根には、鯛の形をした「鯛の鯛」と呼ばれる骨があります。他の魚でもこの骨はあって、例えば鯖にもこの骨がありますが、この場合も「鯖の鯖」とはいわず「鯛の鯛」といいます。
俗説では、この「鯛の鯛」を財布に入れておくとお守りになり、お金の出が少なく、入りが多くなるなどといわれる縁起物です。
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| これが銭屋さんのマークです。 |
料理屋さんによっては、この「鯛の鯛」を図案化して店のマークにしたり、暖簾に染め抜いたりしているところもあります。金沢に銭屋というお店がありますが、このお店は鯛の鯛をお店の印として使われています。
ご主人の高木さんからお伺いしたお話では、ある時、鯛のあら煮を召し上がっていたお客さんが、鯛の鯛を見つけられ、「これをお店のマークにしたら?」と提案されたようです。金沢美大の先生にお願いし、デザインして頂いたのが写真のマークだとか。現在、お店の意匠として登録されているようです。なかなか粋なデザインですね。
「鯛の鯛」は、取り出してそのままおいておくと鼈甲色に変わっていきます。もし、保存する時はニスを塗るとよいのですが、簡単には100円ショップで売っているような安い透明マニキュアを塗っておくとよいでしょう。
最後に、絶対に食べてもらいたいのが、鍋底に敷いた牛蒡です。牛蒡には、鯛の頭から出たうま味が充分に染み込んでいます。くれぐれも食べ残しのないように。
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