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食のコラム&レシピ

【とっておきのヨーロッパだより】愛されるチーズ「コンテCOMTÉ」

12<海外>とっておきのヨーロッパだより

2011.11.25

<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム??>


「フランスのチーズ」というと皆さんは、まずどんなチーズを想像されますか?
白かびタイプのカマンベールやブリー、青かびタイプのロックフォールなどは比較的知名度が高いですが、それ以外のものとなると、なかなか思いつかない…という方も多いかもしれません。

かく言う自分自身もフランス校勤務を経験するまで、チーズというものをあまりよく知りませんでした。チーズと言えば、せいぜいピザなどにかかっている時に気にとめるくらいでした。

 

そんな中、去年のクリスマスの時期に、フランシュ=コンテ地方のジュラ県(フランス東部、スイスとの国境付近)にあるアルボアArboisという町のショコラティエ注1で研修をさせてもらえる機会に恵まれ、その地で約1ヶ月過ごしました。そして、その時に出合った地元産のコンテというチーズが、今まで味わった事のない美味しさだったのです。

まず最初に口に入れた時に感じる、濃縮されたミルクのまろやかさ。そしてその後から来るパッションフルーツを思わせる心地よい酸味や、ローストしたヘーゼルナッツのような香ばしさ。強いクセはなく、栗のようなホクホクした食感とチーズの中にある結晶のシャリシャリした感触。もう、いうことなしです。

 

コンテはフランシュ=コンテ地方にあるジュラ山脈の山々で、沢山の酪農家や生産者の手によって生産されているチーズ。もともとは山岳地帯での保存食として生まれたといわれています。コンテ1つを製造するのに500リットルものミルクを必要とするため、それぞれの農家で搾乳したミルクを持ち寄り、数村で協力してコンテを作り上げる習慣が13世紀ごろから形成されているそうです。
調べてみると、2009年度のフランスのコンテ年間生産量は54.8トン。これはフランス国内でのチーズの総生産量187.4トンの約4分の1にあたり、他のチーズに比べても圧倒的な生産量だそうです。

 

意識的に探してみると、確かにコンテ自体やそれを使った製品は、フランス人の日常的な食の風景にあふれているようではあります。
スーパーマーケットをのぞいてみました。フランスではスーパーマーケットでも、日本では考えられないほどの大きなチーズ売り場が設けられている事が多く、チーズの需要の大きさを物語っています。
コンテももちろん固まりやパックで様々なメーカーのものが売られていますが、コンテを素材として使った加工食品も数多く見受けられます。
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コンテ入りのサンドウィッチ

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フランスの軽食の代名詞クロック・ムッシュにもコンテが

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お湯で溶いたらマッシュポテトが出来る、こんな商品もコンテ入り

とはいえ、これまでコンテがそれほど生産量が多いことも知らず、またそれだけ生産量の多いコンテがフランスでどんな風に食べられているのか、考えたこともありませんでした。生産量が多いという事はごくありふれたチーズという位置づけで、特に好まれているという訳でもないのかな?などとも思ってみたりしましたが、一人で考えていても結論は出ず…。
コンテの美味しさに目覚めたことを機に、「フランスでコンテはどのくらい浸透しているチーズなのか」「どうやって作るのか」など、色々と調べてみることにしました。

 

手始めに、コンテの本場であるジュラ県プルールPleureという町にある、「フルティエール・ド・プルールFruitière de Pleure」という小さなコンテ製造所を訪れ、製造過程を見学させていただきました。
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コンテ製造所

製造所へ向かう道中、コンテの原料乳を出す牛でもあるモンベリアード牛に出会えました。モンベリアード牛は綺麗な毛並みをしていて、大きな鼻と赤茶と白の斑模様が特徴の可愛らしい牛です。
夏の時期には1頭当たり1ヘクタール以上の牧草地で放牧されるとか。なんとも贅沢な飼育方法です。
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モンベリアード牛

毎日午前1時半には周りの各酪農家から牛乳が届き、3時半からコンテチーズ製造がはじまります。中は活気に溢れていて、大量の牛乳がどんどんチーズに変わっていきます。

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牛乳はこんな車で各酪農場から届きます

【発酵】
牛乳から部分的に乳脂肪分を取り除き、大きな銅鍋で30℃に加熱し、30分間放置して醗酵。   

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あたりには牛乳の良い香りが!

【カード(凝乳)の形成】
レンネット(天然の凝乳酵素)とホエイ(乳漿)から作られた発酵成分を加え、牛乳を凝固させます。

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茶碗蒸しのようにフルフルしています

【カードのカット、加熱】
専用のフードカッターでカードを米粒大に撹拌しながら砕き、ホエイと分離させた後、粒の水分を抜くために約55℃まで加熱させます。
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豆腐を切るような感じ

【絞り出し】
カードの粒が充分な固さになったら穴の開いた型に移し、ホエイを絞り出し、カードを取り出します。  
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凝固したばかりのコンテを試食。モッツァレッラチーズみたいですごくフレッシュ感があり、美味しかったです

絞って出てきた絞り汁は圧縮されて生クリームに。
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【圧搾】
チーズの側面に緑色のカゼインプレートを乗せ、型を圧搾機にかけます。
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【前熟成】
カードの粒をしっかりと固まらせるため、10℃から15℃で3週間保管されます。

【熟成】
3週間の前熟成の後、チーズは熟成蔵に移され熟成されます。出荷前には最低4ヶ月の熟成期間を要するそうです。
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コンテは熟成期間や生産者、また製造された季節によっても食感や色、味わいが変わってくるそうです。
プルールから25kmほど離れたポリニーPoligny(コンテ製造の盛んな村の一つ)にあるフロマージュリー(チーズ専門店)にも、熟成期間の異なる商品が多数ありました。
どのくらい風味が異なるのかを食べ比べてみるため、たくさん買い込みました。
熟成期間によっても価格が異なり、熟成が長いものは、短いものの倍ぐらいします。
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6ヶ月熟成・・・さっぱりしていて、チーズのコクや風味は感じられず、なんとなく物足りなさを感じます。チーズそのものを味わうというよりは料理用といったところでしょうか。価格:1kgあたり10ユーロ

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8ヶ月熟成・・・コクがありクルミのような匂いとミルク感に溢れていて、少しですが酸味も感じられました。
価格:1kgあたり10.2ユーロ 

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16ヶ月熟成・・・さっぱりしているが、しっかりミルク感を残しつつ、レモンやグレープフルーツのような清涼感のある
フルーティな味わいを感じました。価格:1kgあたり15ユーロ

 

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21ヶ月熟成・・・酸味が強く感じられ、パイナップルのような香りがします。チーズの中の結晶化も程よく進み、シャリシャリと
口の中で感じる事が出来ます。個人的には、これくらいの熟成したものが好みです。価格:1kgあたり18.5ユーロ

 

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24ヶ月熟成・・・酸味が強く、発酵臭も沢山でてきており、結晶化も21ヶ月熟成より多く感じられます。
価格:1kgあたり18.5ユーロ


熟成期間によって異なる、実に様々な味の広がりを感じることが出来ました。
夏の時期は放牧地で放し飼いにされた牛は新鮮な牧草を食べるため、その原乳にはフレッシュさと果物のような香りが残り、冬は牛舎で夏に刈り取っておいた干草を食べる為、少しいぶされたような、木の実をローストしたような香りのチーズになるとか。自分が試食したチーズに感じられた様々なナッツやフルーツの風味も、熟成期間だけでなく、製造された季節に乳牛が食べていた草の影響によるものもあるかもしれません。今後、その辺りももっと調べて行ければと思います。


そのまま食べてももちろん美味しいコンテですが、それ以外にも料理の素材として様々な形で使われているようです。クセがなく親しみやすいこのチーズは、グラタンや、チーズフォンデュなど素朴な家庭料理にも多く使われてきました。
一般的過ぎてレストランではあまり使われないかと思いきや、コンテの地元であるジュラ県では、コンテを使った料理を出す高級レストランもあるようです。
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ここはジュラ県のサンパンSampansという町にある、ミシュラン一つ星の「シャトー・デュ・モン・ジョリーChâteau du Mont Joly」。近年は多くの美食家達をうならせる料理を出すことでも有名なレストランです。

 

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シェフのロミュアール・ファスネRomuald Fassenet氏。M.O.F.注2の所持者であり、フランスで2年に1度行われる料理の世界大会「ボキューズ・ドールBocuse d’Or」の日本代表チームのコーチも務めています

地元のチーズであるコンテを使った料理は常に提供しているという事で、メニューの中から何品か料理をいただいてみました。
まずは軽い紫芋のムースに、コンテのサブレを添えたもの。
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コンテのサブレが香ばしくサクサクしていて、ムースとの相性も抜群でした

コンテのクリーミーなソースの中にはほうれん草のソテー、温泉卵、表面にはトリュフ。
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サンドル(白身の淡水魚)をポワレにし、コンテ入りのニョッキが添えてある料理。
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魚の身への火通し加減は抜群。添えてあったニョッキもコンテがうまく活かされていて、
さすがM.O.F.の称号を持つシェフの料理です

ブレス産の鶏の胸肉を地元ジュラ地方のワイン、ヴァン・ジョーヌ注3とカレー風味で味付けしたものに、コンテを使ったリゾットを添えてありました。
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リゾットはコクがあり、ミルキーな味わいに溢れていて、コンテの良いところが充分に活かされている一品でした

シェフのファスネ氏はコンテについて
「クセがないのでどのような料理とも相性が良く、うちのレストランでは多くの料理で使っている。もちろん、テーブルチーズとしても提供しています」とおっしゃっていました。

 

フランス校のフランス人職員にも、フランス人のコンテに対する考えや、個人的な好みなどを色々と聞いてみました。


パスカル・コアール先生(エスコフィエ校料理教授)
「コンテは凄く味があり、フレッシュ感に満ちていて、数あるチーズの中でも1番好きなチーズです。熟成が進んだもの程好みです。ただ、熟成したものほど価格も高くなるので、いつも食べられるわけではありませんが…。そのままテーブルチーズとして食べることが多いですが、日持ちもよく、料理にも使えるので大変重宝します。家庭の冷蔵庫には必ずコンテが入っていると言っても良いくらい、フランス人にとっては馴染み深いものです。棒状に切れば簡単に持って食べられるので、小さな子供におやつとして与える家庭も多いです。」

ドゥニ・キャメラ先生(エスコフィエ校製菓教授)
「フランス人にとって生まれて初めて口にするチーズはたいていコンテであろうと言うくらい、子供達の“チーズ・デビュー”はコンテから始まります。自分の子供にも初めて与えたチーズはコンテでした。自分も熟成期間の長いコンテが好きで、外側の皮の近くの固い部分が特に好きです。」

ブリジット・ザマニャ先生(エスコフィエ校事務)
「コンテは16ヶ月くらい熟成したものが好きです。誰にでも受け入れられるチーズなので、どこの国の人が家に遊びに来たときも敬遠されることがなく、喜ばれます。
私の母親はイタリア系で、フランスの臭いの強いチーズはあまり好きではないのですが、コンテだけは臭いもクセも少なく、すごく好きだそうです。」

リヨンにあるフロマージュリーのご主人に、コンテがフランスでこんなにも多く生産されている理由を尋ねてみました。
「コンテはA.O.C.注4を取得しており、フランス人にとても信頼されているチーズです。
また、クセがないので老若男女どの世代にも受け入れられ、ほとんどのフランス人が買い求めるチーズでもあります。冷蔵庫で多少古くなったとしてもフォンデュなど様々な料理にも使えるオールマイティなチーズ。また癖がなく食べやすいという理由から、フランスだけではなく世界各国への輸出も多いです。生産量が多いのは、フランスだけでなく世界中で愛されているためでもあると思います。」

 

皆さん共に、コンテを「万人に好まれる味」、「最も好きか、それに近いほど好き」なチーズである事を語っておられたのが印象的でした。

 

フランスで最も生産されているチーズであるコンテは、フランス人にとって日本で言うところの“おふくろの味”とでもいうべきか、小さい頃から食べ慣れた、親しみ深い味という地位を占めているようです。また熟成段階によって様々な風味があり、味わい方も変化に富んでいることも実感できました。
皆さんも機会があれば是非一度、コンテの口どけ、ミルキー感を味わってみてください。


注1 ショコラティエ….チョコレートを製造、販売している専門店。

注2  M.O.F.…国家最優秀職人賞(Meilleur Ouvrier de France)フランス文化の各部門において

                 最高度の技術を持つと認められた職人に授与される、国家認定の称号。
注3 ヴァン・ジョーヌについては、とっておきのヨーロッパだより「Jura地方 黄色いワインの憂鬱」を参照してください。
注4 A.O.C. …(Appellation d'Origine Contrôlée原産地呼称統制) :フランスの農産物(ワインやチーズなど)の製造過程や
                 品質評価において、特定の条件を満たしたものにのみ付与される品質保証のこと。